どうか嘆かないで。
世界があなたを許さなくても、私はあなたを許します。

どうか嘆かないで。
あなたが世界を許さなくても、私はあなたを許します。

だから教えてください。
あなたはどうしたら、私を許してくれますか?

………
……


それは昭和58年の初夏のことだった。

どうせ引き裂かれるのなら、
身を引き裂かれるほうがはるかにマシだ。
信じていた。
………いや、信じている。
今、この瞬間だってな。
でも、薄々は気付いていたさ
信じたいのは、認めたくないからだと。
その自分に言い聞かせるような声が、
たまらなく馬鹿馬鹿しく思える。
機械的に繰り返されていたそれはようやく収まり、
静かなる時がながれた。
ひぐらしの声がいやに騒がしい。
なのに、聞こえるはずのない彼女の声は
俺の中でエンドレスにリピートしている。
………「ごめんなさい、」
泣いているのは俺だけだった。
彼女は泣きもしなかった。
彼女がそれを繰り返し口にしていた時も。
いや、涙どころか表情も感情もなかった。
彼女に俺のために流す涙がないのなら、
俺にだって。
そう思いつつも、涙は頬をつたう。
「もう、十分だろ?」
内なる、もう一人の自分がやさしく語りかける。
俺は、もう十分過ぎるほど程に心を痛め
そして涙を流した。
その痛む心を、何度捨てるべきかと迷ったことか……
だけど俺は…頑なに捨てることを拒んだ。
まだ、信じていたかったから。
捨てれば楽になる…
そう知りつつも、俺は信じ続けた。
なぁ俺?
…もういいだろ?
俺は十分に頑張ったじゃないか。
だから。
もう楽になってもいいだろ?
それに、捨てるんじゃない。
彼女と一緒に置いてくだけだ。
………花を手向けるように。そっと。
さぁ、
………心を落ち着けるんだ、俺。
もう右腕が痺れているだろうが、
頑張って振り上げるんだ。
そして、一つ振るたびに忘れるんだ。
『親切が嬉しかった。』
『あの、笑顔が最高だった。』
『君といる時間が楽しかった。』
そんな君が、好きだった…………
これで最後だからと、
これで忘れるのだからと。
君に贈る…………最初で最後の花束。





この物語はどう考えてもフィクションだろ?

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2007年08月18日 12:22