鎌倉へ向かう電車に乗った。昼前の空は雲に覆われて空気はただただ寒いのみ。隣に座る長門は茶色いコートを着ている。スカートは膝まで届かない。靴下にもスカートにも隠れない奇妙なほどに白い膝に青白い血管が浮かぶ。乗り口に近い二つの席は駅に着くごとに寒い空気が襲う。
 俺は考え事をする。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 長門が何を考えているか。全てを話す人間ではないのだろう。寂しくは無いにせよ暇ではあろう。
 ―先日暇なので妹に本を借りて読んだ。おもしろい本だった。子どもにも大人にも面白いような本で、寡黙な少女にまつわるお話であった。主人公は男の子。最後のページまで何を考えているかはわからない不思議な少女が、最後の1行で主人公と笑った。寂しかったらしい。
 その少女が寡黙になった理由は家庭環境のことである。
 長門は寡黙だ。とりあえずそこは同じである。
 その本の主人公ほどでは無いにしても、少しの暇を紛らわせたいと思った。
その本は、最後に寡黙が笑う。まあそれは無いだろうが。
まあ速い話。ただどうもその少女と長門が深いところで重なり合っている気がした。
もっと速い話、長門を知りたいと思った。
結局あれだ。海に連れて行こうと思った。1月の土曜に海へ行こうと。寒いけど。道中も大して話さずつまらないかもしれないけど。それを怖がっているのは、大きな間違いだと。
その本が気づかせてくれた。陳腐な理由だが。
俺は本を読んでインスピレイションした。本気で長門と海に行きたいと思った。
そうそう。本がきっかけになっただけだ。本が長門に対する気持ちを浮き彫りにさせたわけだ。
しつこいが、海に行こうと思った。
 
 
 
人が何を考えているからない。自分の言葉が、他人には嫌だと思われているのかもしれない。それを恐れてはいられない。長門は真剣に聞かないかもしれないが。俺の話を聞いてもらおう。
 寡黙なのは俺だったのかもしれない。もしかすると似たもの同士なのか。このなんともぴったりはまったような気持ちは仲間意識なのか。
 いや。それだけではない。好いているのだ。
 だからこそ、俺は自分を深くまで見てもらおうとする。長門を深くまで見ようとする。
 
 海にいこうと言ったら、二つ返事でOKしてくれた。
 
 長門よ、お前は海に行くこの電車を何だと思っているのかな。俺が誘った意味を考えていてくれているのかな。
 俺の頭のなかはお前でいっぱいになっている。お前もそうか?
 窓からは曇り空。どんどん動く景色。電車の音。右肩に長門の体温。
 無理にもりあげようとはしない。これでいいのだ。俺はこの雰囲気も好きなんだ。お前はどうかな。
 
 何も話さないのに、大事なところでつながっていると思っているのは俺だけか?
 
 なんつって、独りよがりだな。
 
 長門はみかんを剥いてくれた。指がみかんの中心をつきやぶる。下を向いてみかんを剥いてそれぞれを離して俺に渡してくれた。
 そのとき触れた指が冷たかった。
 海が少し見えた気がした。そろそろ着くのかもしれない。
「海さあ。海みたいにさあ。地球の丸さで見えなくなるくらいにさ。草が生えていたら綺麗だと思わないか?」
 頷いたかな?
「寒くないか?俺のコートのポケットに手を入れてもいいぞ。」
 両手がちょこんと俺の右ポケットに入った。
「長門。深い話をしないか?」
 疑問の目で俺をみた。
「俺の話を聞いて。」
 頷いた。
「長門が感じていることと俺の考えていることは違うと思うんだ。だから、、俺にお前が何を感じているかを、具体的に、そう、具体的に。お前なりの表現で、恥ずかしがらずに教えてくれないか?」
 電車の外はかわり映えしない。民家が現われて消えて、踏み切りの音がして、相変わらずの寒い雲。
 海が見えた。地平線までに数々の波がやってくるのが見えた。
「今、私は、いろいろな景色をあなたと見たいと思っている。」
 長門がいつもの口調で話す。
「俺もだ。この空気を、できるだけ長く感じていたいと思っている。あと、砂浜と地平線までの間の波が、なんだか切なく見える。」
 長門が頷いた。
 そろそろ着く。と、アナウンスが聞こえる。
「あまり降りたくないな?」
 長門が頷いた。俺は笑ったが、長門は笑わない。
 でも、大好きなこの空気。長門がいる空気が好きだ。
「俺は長門がいる空気が好きだ。」
 驚いてこちらを見る長門。目が少し大きく開いた。
「ていうか長門が好きだ。」
 口が少し動いて閉じたように見えた。
 やっぱりいいな。長門が好きだ。
 
 電車を降りて、海まで一直線で進む。
 まっすぐな道を気持ちゆっくり進む。海がだんだん見えてきた。地面がコンクリートから砂浜に変わる。風が二人の髪を揺らす。
 寒いというのに、風を受けて動く帆を張って海に乗るスポーツをしている人達がたくさん見える。
 浜の真ん中に座る。
 夜でもないし、ワインもありゃしないし、風は寒いし、ムードは無い。
 それでも結構好きな冬の海。
「長門、好きだ。」
 冬の海風がびゅんびゅん吹き付けた。
「お前はどうだ?」
 
「すき」
「風が寒いな。」
「そう。」
 普通のとは違うけど、間違いなく俺らは好きあっていた。
 
 
 
OWARI
 
 
 
 
 
 
 
 
テーマオブクレイジーラヴのあとのmikuruとkyonの名前のはじめが小文字でした。しくったなと思いました。
 テーマは平和かな。
 起承転結というよりは、なんかこんなシーンあったらよさげだなと思いました。鎌倉って海あるよな?
 
 January 14, 2008

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最終更新:2008年01月14日 11:55