※このSSは「I don't choose, but decide.」の後日談的SSです※



「……ではここに、おや?」
「わたしの勝ち」
「参りましたね、ダブルリーチでしたか」
「……そう。ダブルリーチだった」
何をしているかと言うと、えぇとこれは何て言うんだろう?立体五目ならべのようなゲームだ。どこでかと言うと、長門さんのマンション。
カレーパーティーのあとすることがないので僕が持参したこれをやっていたのだけど、長門さんが強すぎる。

……あの一件で僕達はお互いの間に残っていた壁-薄皮と言ってもいいかもしれない-を破り、彼いわく『本当の仲間』になった。
思ったよりすんなり涼宮さんが僕達の告白を信じ、受け入れてくれたのには少し驚いた。数々の証拠と過去の例があったから当然と言えば当然かもしれないけれど。
そう考えると彼の方こそよく信じてくれたなぁ。あんなに唐突だったのに……。北高の木製の丸テーブルが脳裏に蘇る。

「どうしたの」

顔を上げると長門さんが不思議そうな無表情で僕を見つめていた。

「いや、何でもないよ。あっ……何でもないですよ」
「…………」
無言の視線に凄まじいプレッシャーを感じ思わずしどろもどろになる。

「え、えぇと……あのですね、」

長門さんは唇をきゅっと一文字にしてから、
「隠し事はだめ」
「……し、しかし」
「だめ」
「でもですね、」
「…………」
またもや無言のプレッシャー。

……長門さん、長い年月をかけて染み付いてしまった喋り方を今更変えるのには結構勇気が必要なんだよ。
言葉には出せず、僕は苦笑しながら肩をすくめ思った。

やれやれ。なんて。

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かちゃかちゃ。

長門さんが食器を洗う音が聞こえる。手伝いを申し出たのだけど、

『いい』『お客さん』

と一蹴されてしまった。それでも腰を上げようとすると無言で見つめてくるものだから、僕は動けずに腕時計とにらめっこしている他なかった。
朝方5時。そろそろ日が長くなってくる五月の下旬だ。カーテン越しに見える外はもう白み始めている。
もう少しゆっくりしたら出よう。 

今月の頭に届いた招待状にはプリントアウトされた日付や会場などの他に手書きで二つの文章。

『手紙だけじゃなくて会って話したいから、古泉君の都合がつく日を教えて!ここに書くこと!→                 』
『メールで言えば済むことなのにな。面倒かけてすまん。あとたまにはお前がビリになれ』

ちなみに長門さんの招待状には、
『ヒマな日を教えて!→                     こないだ有希に似合いそうなネコミミ見つけたのよ!』
『面倒かけてすまん。多分会った時ハルヒに頭をいじくり回されると思う……』

思い出すだけで苦笑が漏れる。書いている二人の姿が瞼の裏に浮かぶようだ。

「また」

いつの間にか向かいに座っていた長門さんが口を開く。驚いたのと、言葉の意味するところが分からずにいると、
「笑っていた」
いつも僕は笑顔を絶やさずにいると思いますが……
「いつもとはちがう」
……そうでしたか。
「……そう」
長門さんがその黒い目でじっと僕を見つめている。

「……な、何でしょう?」
「敬語」
「……はい?」
「やめて」
「…………え?」
「……わたしはあなたにとって目上の存在ではない」
「そうですが……これはですね、」
「他人でもない」
「う……」
有無を言わさず視線を逸らさずに言った長門さん。それはどういう事なのだろうか。

「友達」

……少しばかりいじけそうになった。

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もう日は出たとはいえ明るいとは言えない空を見上げる。雲は見当たらない。今日は晴れそうだ。
目的地に向かう前に長門さんは僕を公園に導き、

「おにぎり」
と、さっき台所で作ってくれていたらしいおにぎりをくれた。家で食べればよかったのでは……?などとは言えない。
「わたしのお弁当の卵焼きを食べたときあなたはうれしそうだった。……だから、おにぎり」
とまで言われてはね。

「行きましょうか……あ、いや、行こうか」
睨まれ慌てて言い直すと、長門さんはこくりと頷いて僕と並んで歩きだした。長門さんて怒ると怖いんだなぁ。

時々敬語が口をついて出てしまいその度に睨まれながら、僕達の集合場所へ歩く。
それぞれの都合上めっきり減ってしまったSOS団の集まりだったが、最近それが開催される時は高校・大学時代とは違い長門さんのマンションから一緒に行く事が多い。
「僕達がいつもこうして集合時間の二時間前に出発しているのを知ったら、彼はどう思うかな」
「それは彼には言わないでいい」
「おや、隠し事はいけなかったんじゃない?」
「……その方が面白い」

長門さんの口からこんな事を聞く日が来るなんて思ってもみなかったな。嬉しくて可笑しくて笑ってしまう。

「あと」
「はい?」
「わたしとあなたがわたしの家から一緒に来たのも内緒」
何故かと聞こうと思ったけれど、僕を見る長門さんの瞳に逆らえない光が宿っているのが分かりやめておく。
「それと」
まだあるんですか……?
「皆の前では敬語で喋って」
無表情のはずの長門さんが恥ずかしそうに見えたのは僕の心持ちがそうさせたのだろうか。 

やがて待ち合わせ場所が見えてくる。時計の下に着くと、向こうから朝比奈さんが歩いてきた。小さく手を振っている。
招待状は時間を越えて送ることはできない。けれど彼女がこうしてここに来るの事を確信していたのは僕だけじゃないだろう。
今、彼女は僕達と同い年くらいだろうか。歳は『禁則事項』らしく、教えてくれないけれど。
胸元でミリ単位で振りかえしている長門さん。彼女が一番劇的に変わった。『友達』と言い切れる存在を得たのが大きな要因だと自身で言っていた。
僕がその一員であることを嬉しく、そして誇りに思う。

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「あの、えと……お久しぶりですっ。お待たせしましたっ」
「敬語」
「……ひぇっ、え?」
「やめて」
「あ、あの、ごめんなさいっ」
「謝らなくていい」
「……はい?あ、はい」
「……友達」
「へ……?そ、そうですね」
「…………」
「ごごごめんなさい~……」

彼と涼宮さんが連れだってやってくるまであと一時間くらい。
長門さんと朝比奈さんが織り成す普通の女の子の会話を聞きながら微笑んでいるだけで、駅前の排気ガス混じりの空気が爽やかに変わっていくような気がした。

-夜行性の超能力者とインターフェイスの仮面はあの日から段々剥がれていき、今日最後の一欠けらが剥がれ落ちたのだ。


おしまい

最終更新:2020年03月11日 19:46