「ちょっと!何よ今の音!」
ハルヒが叫ぶや否や何かが真横を通り過ぎた。
…風?にしては違和感が…
振り向くと店の入り口の扉が派手に割られており、店の外でぼけーっと突っ立ってる1人の少女がいた。
気がつけば他の客も何事かとこっちを見ている。
…うん、状況が理解できない。
ハルヒにバレないように古泉を手招きで引き寄せる。
(おい!一体何なんだこれは!)
(…報復してくるって)
(報復?)
(長門さんがそう言ってドアをぶち破って行きました…)
反射的に長門が座っていた所をみる。
…いねぇ…
「…あれ?そういえば…喜緑さんは?」
「あぁ、えみりんならものっそい勢いで有希っこを追いかけていったよ」
「…ふぇぇ…ガラスの音が怖かったです…長門さんは誰を追いかけて行ったんですか?」
あいつも誰か追いかけて行ったんですか?
「黒い髪の子を追いかけて行きましたよ。知らない子でした…」
…あいつが訳もなく知らないやつを追いかけるとは思わんのだが…
「…食べ物の恨みだそうですよ」
「なんかお前知ってるのか?」
「いえ…」
…何か隠してるなこいつ…
まぁいいか。
「怪我は無かったかしら?」
「え?あ、大丈夫なのです」
ハルヒは入口近くに立っていた少女の安否を確かめていた。
割れたガラスのそばにいたんだ、普通なら怪我があってもおかしくはない…が、長門の普通では無い力で守られたのだろう。
「すみませんでしたなのです…」
「えと…追いかけられてったのは君の知り合いか何かか?」
そう言って初めて少女の顔を見る…あれ?確かこいつは…
「あぁぁぁぁぁぁ!?」
そうだ!思い出したぞ!
こいつは確か朝比奈さんを誘拐した不届きもの!!
「ちょっとキョン!いきなり大きな声出さないでよ!」
「っと…あぁ、すまん」
…しかしこの事実をハルヒに話したら面倒なことになりそうだ…
「あ、もしかして橘さんですか?」
「朝比奈さん!久しぶりなのです!」
えぇぇ!?
何で誘拐したものとされたもの同士でそんな軽快に会話ができるんですか!?
「あ、なんだ。みくるちゃんの友達なの?」
「はい、つい最近知り合ったばかりなんです」
…話について行けない。
古泉、お前は何か知ってるのか?
「まぁ…多少は。機関とは敵対する組織に勤めていますが、あなたの心配しているような人格の人ではありません」
「…何か無駄に身構えて損した気がする」
とりあえず古泉も公認してるみたいだし害はなさそうだ。
「あ、あの…キョンくん?」
「え?何か…?」
「その節はご迷惑をおかけしたのです。すみませんなのです」
しかも丁寧に挨拶までしてきやがった。
ダメだ、怒る気にもなれん。
「とりあえず連れが戻ってくるまで待ってたらどうだ。長門の席も空いてることだし」
「じゃあそうさせてもらうのです」
とりあえず他の客に特に心配は無いと伝えてまたバイト作業に戻ることにした。
数十分後、長門と橘の連れが戻ってきた。
戻ってきたと言うよりは連れ戻されてきたと言うべきか。
猫を吊し上げるかのように喜緑さんが襟首を掴んで2人を引きずってきた。
2人とも喜緑さんからゲンコツでもくらったのか、少し大きめのタンコブを作っていた。
ただ、長門も橘の連れも何故か手にカレーまんを携えていて、どことなく満足そうだった。
というか喜緑さんは何者なんだ?
「九曜さんと言うのです」
九曜、と呼ばれた人物は長門に負けず劣らず小柄であって、特に変わったところは見られないのだが、
その九曜に対して大気が震えてるんじゃないかってくらいに敵対オーラ出しまくりの長門は紛れもなく宇宙人だ。
一般人である喜緑さんが宇宙人である長門を追いかけっこで捕まえたってのか?
…まさか喜緑さんも…
「キョンくん?」
「はい!?」
喜緑さんだ。
変に詮索してんのバレたかな…
「あまり女性について深く知ろうとしないほうが良いですよ?」
ニコッとわらって喜緑さんは仕事に戻る。
その普通の笑顔に少なからず戦慄を覚えたのはいったい何で何だろうね?
「…あんたさ」
「ん?どうしたハルヒ?」
「やけに色んな女の人と仲が良いのね」
や、仲が良いとかそういうのではないんだが…
「ふーん…」
「何だよその目は」
「べっつにぃー?あんたが誰と仲良くしようがあたしには関係ないもんね?」
何だ、何が言いたいんだこいつは。
「あ、キョンくん。今日はもう帰るのです。迷惑をかけました」
「─…また─会いましょう」
初めて九曜の声を聞いた気がする。 こっちまで眠くなるような声してやがる。
「心配しなくても近い未来でまた会えるのです!じゃあキョンくん、また今度!」
笑顔で手を振りつつ去っていく橘とその後ろをふらふら着いていく九曜を見送りながら、真後ろから嫌な視線を感じる。
…あの…ハルヒさん?
俺のこと睨んでやいませんか?
視線が痛いんですが…
「また会いましょう、ねぇ…」
駄目だ、何か知らんが間違いなく怒ってやがる。
古泉の携帯がならないところを見ると閉鎖空間を発生させるほどの不機嫌では無いみたいだが…
「あんた、今月のバイト代で欲しいもの買ってもお金余るわよね?」
「…まぁ残るが…」
「じゃあバイトの全日程が終わったらどこかに食事にでも行きましょ!もちろんあんたの奢りでね!!」
…了解しました。
─────────────
今回のようにたまーに知り合いがちょくちょくやってくる中、短期だったバイトもやっと終わり、極寒どころの騒ぎじゃなかった俺の懐も十分に暖まった。
ちょうど一週間後、ハルヒと飯を食いにいくんだが…その前に買わなきゃいけないものがある。
「金…足りるよな…」
いや、大丈夫だ。
十分足りてる筈だ。
目当てのものを買うために桜が咲き始めた小学校の通学路を自転車で駆けていった。
でもって当日。
「遅い!罰金!」
なんてことは、俺の奢りが決まっているから起こることがないわけで。
それでも何故かしらそういう時にだけ俺がハルヒより先に集合場所に着くのは何でなんだろうね?
「あ、キョンいた!」
待つこと数分、ハルヒがやってきた。
「どうしたのキョン?顔赤くして」
へ?顔赤い?俺が?
「あぁー…あれだ、暖かくなってきたからさ」
…あれ?なんで俺こんなに緊張してるんだ?
「そうよねぇ、みくるちゃんのコスプレも春用に何か用意しようかしら」
別にハルヒと2人で行動するのはいつものことだろう。
「たまにはハルヒのコスプレも見てみたいなぁ」
「……え?」
…………………。
うわぁぁぁぁぁぁ!!!
いきなり何を言ってるんだ俺は!?
「えっと…まぁキョンが見てみたいなら…まぁ考えておくわ」
「あー…いや、忘れてもいいです。何かすまん」
そんな会話をしながら目的の店に入る。
何でもハルヒのお気に入りのフレンチレストランらしく、リーズナブルな値段で美味しい料理が食べられるそうな。
「キョンの奢りだしたくさん食べちゃおっと!」
「…少しくらい手加減してくれ」
「バイト代入ったんだから良いじゃない。あ、そうだ、欲しかったもの買えたの?」
「あぁ、ほら」
と言って手のひらサイズの包みをテーブルに置く。
「何?わざわざ持ってきたの?」
「まぁ開けてみ」
いいの?
とハルヒがたずねてくる。
「構わんさ」
「じゃあお言葉に甘えて……あ、綺麗!オルゴール?これ」 「あぁ、オーダーメイドだから値段が高くなる上に時間かかっちまって」
…間に合って良かったよ。
ハルヒがゆっくりとオルゴールのネジを回す。
次第にゆっくりと金属板が弾かれてメロディを奏で始めた。
「あ、これ文化祭の?」
「あぁ、そうだ」
lost my music
ハルヒがENOZボーカルの代打で歌った曲。
「綺麗な音ね」
「高かったんだぞそれ、だから大切にしろよな?」
「え?くれるの?これ」
あぁ。
「そんな、悪いわよ。折角キョンがお金貯めて買ったのに…」
というか…それは元々ハルヒに渡すために買ったものであって…だからしてお前にカンパなんかされたりしたら困ったりしたわけで。
…何て言ったらいいんだろうな。 何の因果か知らんがハルヒが食事の日程を決めたのはカレンダーに印が付いた日であって…
「あぁ、そんな不安そうな顔するな」
「…でも」
…はぁ、自分で気付いてないのかこいつは…
…ハルヒ。
「…何?」
「…誕生日おめでとう」
おわり
尚、原作では誕生日の設定はありません。
なので名前から春あたりにしてみました。
勝手やってすいませんでした。