【時のパズル~迷いこんだ少女~】
序章
唇に感じるどこか懐かしくも暖かく、そして柔らかい感触。
それを感じ、あたしは目を開いた。
目の前に顔があった。
…………
その顔を見たとたん絶句してしまった。
すぐに反応に移れなかったのは、困惑の極みにあったからだ。そして、状況を把握した瞬間。
ぱちーん、と素晴らしい音を立て、目の前の顔『キョン』の顔に平手を喰らわせてあたしは飛び離れた。
「キキキキョン! あんたなにしてんのよ!」
あたしは自力でどうにか再起動したものの、どういう状況なのかさっぱり把握できない。完全にパニック状態だ。
そして、目の前の男はというと
「痛ってぇーな……」
などと呟きながら、見事な紅葉が浮かび上がった頬をさすっていた。
「いきなり何すんだ? ハルヒ」
睨み付けるあたしを前にして、キョンは何故あたしが怒ってるのか理解できないといった表情をしていた。
「キョン?」
間違いないあたしのクラスメート、そして我がSOS団の団員その1であるキョンである。
あたしとはもう知り合って随分経つが、誓ってキスをし合うような甘い関係では『まだ』なかったはずだ。
だいたいだ……
「……なんであんたがここにいんのよ?」
「何言ってるんだハルヒ?」
「何言ってんだ……じゃないわよ! だから大体なんであんたがあたしの家にいるのよ!?」
目をすっかり吊り上げたあたしに、キョンはますます訳が分かりませんと言いたげに呟いた。
「あたしの家って……いつから俺の家はお前の家になったんだ?」
「え……?」
そう言われて部屋を見回すと、確かにここはあたしの部屋ではない。
キョンの家だ、間違いない。何度か尋ねた事があるが、机の位置、本棚、ベッド、壁紙の色も記憶の通りだ。
あたしが尚も混乱し続けていると、不意にキョンが「あ」っと何かを思いついたように、
「そうか……そういうことか?」
そう呟いた直後、キョンはあろう事か腹を抱えて笑い出した。