古泉パート
「長門さん、朝比奈さん、お二人とも今の状況を分かっておられますか?」
「えっ…ななななんで、何がなんですかぁ?」
「古泉一樹、あなたの発言の意図が不明。説明を。」
「……」
流石に頭を抱えたくなってきました。
僕が間違っているのかと勘違いすら起こす程です。
今はお二人に説明するのは置いておいて、状況の確認をしましょう。
今日は日曜日です。
昨日は土曜日でした。当然ですが。
さてその昨日ですが、いつものお決まり、土曜の市内探索で涼宮さんと、鍵である彼がくじ引きで同じ組になったんです。
――午前も午後も。
午前、くじをひいた時の涼宮さんの驚く様子から、その時神は力を使わなかった――偶然であったと考えられますが、午後は果たしてどうだったのでしょうか。
あの期待していたものが手に入り、満足するような――月並みな例えですが、クリスマスの朝の子どものような表情は。
さて、昨日から今日の今現在――午後1時54分ですね――までの間に何があったか。
何故僕を含め三人だけで集まり、しかもこうして協力して事を収束に向かわせようとしようとしているのにも関わらず役に立たないどころかむしろ邪魔を…邪魔しないで下さいよ、もーーっ!
……取り乱してしまった。
何故そんな異常事態が起きているのか。
理由はシンプルですね。
涼宮さんと彼が喧嘩しました。
ちなみに状況を彼に訊いても
「何故か怒りだして、半狂乱になって、俺を殴って帰りやがった。もう今日はいいだろう。俺も帰る。」
って冗談はもみあげだけにしろーーーっ!!
………また取り乱してしまった。
まぁそんな事があって今現在――午後1時56分ですね――涼宮さんと彼をそれぞれ駅前に呼び出し、とにかく一緒に行動してもらって、かつ同時に僕ら三人で集まって、喧嘩の再発を防ぎ、かつ早急に、無理なく仲直りしていただく対策を練りながらそれを実行する事になりました。
きちんと話し合いの結果そう決まったんですよ?
仲直りのきっかけを作る対策を練りつつ、同時に実行です、はい。
なのに、何でこの二人足手まといにしかならないんだーーーーっ!!!ものすごく邪魔してるよ?!もれなくお邪魔キャンペーン鋭意実行中~2時間拡大スペシャル~だよ。
…もうヤダ。
「やはり宇宙人と未来人には、現代地球人の仲直りの支援なんて荷が重いのでしょうか。」
あぁ。早くいつものように穏やかな空気の中、お茶を飲みたい。
あ。いつもの喫茶店…。
長門パート
「長門さん、朝比奈さん、お二人とも今の状況を分かっておられますか?」
「えっ…ななななんで、何がなんですかぁ?」
「古泉一樹、あなたの発言の意図が不明。説明を。」
「……」
古泉一樹の発言停止。
同固体の様子を確認。
しゃがみ込み、通常時より約12~19度の範囲まで俯き、2分14秒間複数の表情を浮かべたと認識できる。表情の解析・分類は後ほど自宅にて行うことにする。
通常時より7度頭蓋を持ち上げ、下顎を4mm下げる。
「…はり宇宙人…未来人には、……人の……り………んて荷が重い………うか。」
パーソナルネーム:長門有希の聴覚受信レベルを、一時的に37レベルからバックアップシステム推奨レベル85に切替。
バックアップシステムデータ保存ボックス9のデータのLOOK―UP…再生。
「やはり宇宙人と未来人には、現代地球人の仲直りの支援なんて荷が重いのでしょうか。」
何故。
私の役割においても、「私」という固体の望むことにおいても涼宮ハルヒと彼の和解、ひいては社会的観点にとらわれない癒着的な高次的コミュニケートの実行を望んでいる。
それは古泉一樹の例える現代地球人のいう「彼氏・彼女」という立場にこだわらないが、親密な、親子のような、友達のような、手を繋いで歩けるような仲になってほしいということ。
ならば何故。
ある現代地球人はいう。
「自分の嫌な事は、人にもしないこと」
それは裏を返せば、自分が望む事を、人にすると良いという事。
ある現代地球人はいう。
「人には優しくしなさい」
それは穏やかなコミュニケーション関係を築き、継続するには、人が精神的な喜びを感じられる言動を心掛けるべきということ。
ならば何故。
私は、何か、私の好きな書籍をあげたいと考えた。
それにより、涼宮ハルヒと彼に喜んでもらえば「仲直り」もスムーズに進行するはず。
そして更に、彼らの精神的デメリットを最小限に収えるよう心掛けた。
直接手渡しする事による「気後れ」など精神的不都合もなく、学生が持つにも無理のない金額「図書カード3000円券」が、的確に、彼らの手に入るよう、空中に放る。
その行為を何故古泉一樹は制止するの。
状況解析。
可能性が高いのはこれ。
「2枚用意しなかった為に、喧嘩の再発の原因になる」
やはりこれしかない。
「もう僕が頑張るしか…二人は頼りにならないもんなぁ」
人間とは難しいもの。
みくるパート
「長門さん、朝比奈さん、お二人とも今の状況を分かっておられますか?」
「えっ…ななななんで、何がなんですかぁ?」
「古泉一樹、あなたの発言の意図が不明。説明を。」
「……」
どうしてなんでしょうか。
古泉君はちょっとイラ立っちゃってるみたいです。
かと思えば落ち込んで独り言を言ってます。
長門さんも。
私、また何かおかしな事してるんでしょうか。
はぁ~どうも過去の人たちってちょっと怒りのツボが違って…ううん。こんな事考えてちゃ、きっと失礼ですよね。
今の一番の問題は、せっかく古泉君がきっかけを作って、長門さんが後押ししている、最高にいい機会の仲直りデートなのに、二人が無言でただすたすた歩いてるだけって事ですね、きっと。
う~んと。う~んと。つまりは静かなのがいけないんだから…やっぱり近場のカラオケとか、ゲー…ムセン……カー?とかに誘導しちゃって、どうしても声を掛け合わなければいけなくしちゃうしかないですね。
ちょっと強引ですけど、きっと「いやよいやよと好きの口」ですよ。
声を掛け合っている間に、いつも通りの会話に戻って、仲直りの印に王子様は白雪姫にキ……き、禁則事項ですっ!
とにかく、だから、そう思って、映画撮影で使ったメガホンで
「カラオケ今なら安いよーっ」
とか
「音のゲーム…音楽感覚……あっリズム感覚ゲームとかで対戦するのが今いいですよーっ!ブームでーーすっ!」
とかお二人の仲直りのきっかけを宣伝してみたんです。
そしたら古泉君がついに怒りだしちゃって……。
さっき、長門さんがカードを涼宮さんたちに投げだした辺りから確実にちょっとずつ怒ってます。
それは「危ないから」って事でしょうけど、どうして私は怒られちゃったんだろう。
……もっと大きな声じゃないと意味が無いって事ですかね?
それとも長門さんみたいに私も、例えばカラオケのクーポン…クーコンだったかな?とか渡した方がよかったんでしょうか?
う~ん過去人って奥が深いですねぇ。
「もう確実に僕たちの尾行しながらの仲直り支援はバレてるだろうなぁ。二人とも素直じゃないから正面からいっても……いや、逆にもう面に出ていって仲直りしてほしいと伝えるか……いや、失敗した時のリスクは……いや…」
「人間とは…」
古泉君、長門さん、独り言はやめて相談しましょ~っ!
キョンパート
何だありゃ。
一応あいつら俺らの様子を影から見に来てんだよな?
なのに長門は図書カード投げてくるし。――まぁ、今度変わった本でも買って来いって事だろう。
朝比奈さんはメガホンで何かとアピール。――直接誘っていただければ、カラオケでもゲーセンでも喜んでお連れしますよ。
おい、古泉。お前だけ電信柱や壁から体丸見えだぞ。他の二人は小さいから結構隠れてるのに、それじゃ尾行が台無しだ。
奴らは今、いつもの喫茶店の影から覗いてる。
とにかく昨日の今日だから心配してくれてんだろう。
ありがたいねぇ。
まぁいつもならありがたくて感謝を歌にでも込めてギター引っ掛け屋上に全員ご招待するとこだが、今はやめておこう。
何せさっきからの奴らのアピールで何故かハルヒの不機嫌がMAXに急接近しているからな。
何つーアヒル口だ。
とっとと帰りたいけど、あいつらが見てるからキレて途中で帰るのが恥ずかしくなったからとか、疲れたとか、雑用係がいうことをきかないとか、まぁ色々あるんだろうが。
やれやれ。
もうメンドいから俺から謝っとくか?
癪だな。いくらなんでも。
しかしあいつらの目もあるし。ここはとにかく動くか。
「おい。」
「何よ。」
ハルヒパート
何なのかしら、アレ。
あれでも名誉なるSOS団の副団長、副々団長、万能選手なのかしら。
有希は物で釣ろうとするし、みくるちゃんはとにかくアタシたちがアクションを起こせばいいと思ってるし、古泉君は役に立ってないみたいだし。
まぁね?団長であるアタシに雑用係が刃向かうのが間違ってるんだし、もしおかしな行動でも起こそうものならとんでくるって発想なら、それは至極当然ってものだわ。
団長の顔を立てる為に、「アタシたちだけの話し合いの場」っていう体で雑用係を呼び出してくれたのも嬉しいけど。
そうよ。第一こんな事が起きてるのがおかしいはずよ。
雑用係が気を効かせないから注意したら、アイツったら文句いうのよ?
いくらアタシが先に歩いてたからって、エスカレーターは普通、男が先に乗るものでしょ?
…って昨日の朝読んだ雑誌に書いてあった。
だから、つい、昨日は殴っちゃって、やりすぎたかな、とか思うけど、ううん。やっぱり団長が平に頭を下げるなんて…ううん、でも…う~ん…
「おい。」
ちょっといきなり声かけないでよ!今どうやってキョンと仲直りするか考えてんだから!
「何よ。」
「あいつらはいつもみたいに喫茶店行ったり、本屋行ったり、カラオケやゲーセンに行きたいらしい。」
は?
「だから何?」
「俺も行きたい。」
??
「行けばいいじゃない」
「俺には今、茶飲んでゲーセンに行くくらいの財布の余裕はある。何なら今日は全部俺が出してもいい。図書カードもあるから本屋にもスイスイだ。」
???
「…だから何?」
「しかし、歌に自信がないんだ。ハルヒ、俺の歌唱力アップに協力してくれ。
あと、文芸部員のお眼鏡にかなう本を選ぶのと、ゲーセンで古泉を完膚なきまでに叩きのめす力をつけたい。」
「はっ?え?でもそれって――」
仲直りしてからする事なんじゃ?
そう思ってる内に右手が暖かくなって、見るとキョンの左手が――
「行くぞ!時間がなくなるから走れ!」
「はぁっ?ちょっと何、早いってば!」
後ろを振り返ると、一瞬だけ皆の顔が見えた。
多分今のアタシと同じ表情。
多分キョンも。
アンタ、耳赤いわよ?
→終わり