「遅い!」
朝飯を食い、ナツキが来るのを待っていたのだが、なぜか時間になって迎えに来ない。1秒でも早く学校に行って確かめたいってのに、間の悪い奴だ。こんな風に、1年に数回ナツキが寝坊する日がたまにあるんだよな。仕方ない、迎えに行くか。
家の隣にあるナツキの家に行き、チャイムを押したわけだが……、何度押しても反応がない。
「こりゃ、本格的に寝坊しているな」
こんなこともあろうかと、俺達はそれぞれの家の鍵を持っている。この時代に、ここまでの近所付き合いができるなんて、全くたいしたもんだ。
鍵を開けて中に入ったが、なぜかおばさんはいない。というか、どういうことだ?物がほとんどない。殺風景すぎて、人が住んでいる気配がないぞ。どうしたんだろう?
2階に上がってナツキの部屋まで行き、ドアをノックしたが、またまた返事がない。さて、入るべきか入らざるべきか。最近ナツキの部屋に入ってないからな。たしか中学1年以来か?女の子の部屋に入るってのは抵抗あるが、致し方ない非常事態ってやつだ。気合いを入れるか。
「入るぞー」
声をかけ、ドアを開けて中に入ると、想定外のとんでもない光景が目に映った。
「うーん……、キョン……君……」
数秒固まってしまった後、思考が動き始め最初に思ったのは
(キョン羨ましすぎるぜ!)
ってことだ。
そして、あまりの悩ましさと微笑ましさに、思わず頬が緩んでしまう。いかんぞ、気を引き締めろ!
「あ、朝比奈さん、起きてください」
全く理解できないが、ナツキの部屋のベッドに寝ていたのは、どういうわけか我らがエンジェル朝比奈さんだった。
朝比奈さんは、俺の呼びかけを全く無視し、白雪姫のようなかわいらしい寝顔で優しい吐息をたてている。呼び掛けても反応がないので、これまた非常事態だ。少しだけ身体に触らせてくださいよー。一応言っておくが、やましい気持ちなんて全くないぞ。たぶん。
身体を揺すりながら何度も名前を呼ぶと、朝比奈さんはゆっくりと瞼を開けた。
「はにゃ?」
第一声がこれだよ。思わず天を仰いだね。あー、寝ぼけている姿もかわいい。おっと、いかんいかん。このままだと顔が緩みきってしまい、変態と罵られかねない。朝比奈さん、とにかく起きて下さい。