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漆黒の壁に蒼き炎を宿せし時、物語の歯車は回り出す





異なる輪廻と既知世界–1





–カリグラーゼ下水道–



「ここが・・目的地・・?」

「みたいだな」

周囲を見渡すと血なのか赤錆なのかわからない赤黒いものが覆い被さるように付着したボロボロの看板には【Caligrase Sewers】と記されている。


「で、一つ聞きたいのだが・・お前は誰だ?」

「誰って、今まで一緒にいたじゃない・・また記憶喪失にでもなった?」

素で記憶喪失だとは思ってないのか話半分で流されたが今はそれどころではないらしい。

「少なくとも俺が知ってるルーナは人の背後でかつ引き腰で歩かないし、なによりも口数が少なすぎる。」

「だって・・・怖いでしょ!?何!可笑しい!?盗賊退治に意気込んで来たものの全力でびびってる私がおかしいの!?おかしいなら笑えばいいじゃない!」

「ハハハ」

「・・・後で頭を叩き潰してやるわ。」

半泣きで睨みつけてくる彼女。



「それにしても、貴方こそ大丈夫なの?そんな無料配布の剣なんかで・・。お金ないなら少しは貸せたのに。」

「さすがにそれは悪い。それに自分が誰かもわからないのにおいそれと武器を購入する訳にはいかないしな。」

せめてクロークの管理番号と身分を証明するものがあれば何かは入っていたかもしれないが・・以前の俺は冒険者や騎士ではない可能性も否定できない。

「ほんっと!頼りないわね!こんなことなら他の討伐隊の人達と先に入ってればよかったわよ!」

ルーナはぷいっとそっぽを向いた。

「誰かこっちに向かってくるぞ。」

ルーナはビクッとしながらそそくさと俺の後ろに隠れる。

暗がりの下水道の中なので人影はシルエット状ではっきりと確認はできないが、様子がおかしいのは遠くでもわかる。

「ゾ、ゾンビ!?」

ズルズルと足を引きずり、呻き声を響かせる彼らはこちらの会話に反応したようだ。

影は霧の中から続いて多数現れ、その数はどんどん増えていく。

「ルーナ、戦闘の準備は・・無理か。」

「無理無理無理!あの見た目!あの数!やりあったって私達がゾンビになるわよ!?」

本当に盗賊を討伐する気はあるのかと疑問に思ったが、どうやら戦闘要員は一人と考えたほうがいいようだ。


「じゃあちょいと力試しと行きますかー。」



意識を集中させる。

自分の記憶はない、でも恐れも迷いもない。

イメージは地面に散らばる屍の山。

ルーナを下がらせ俺は脆そうな剣を抜き、安っぽい盾を構えた。


「戦術指南その一、小型と多数対峙する時は各々の挙動に警戒し見切り、動きを統一させる。」


一直線にゾンビの群れに駆け出し、その周囲を旋回する。

ゾンビも負けじと彼を捕らえようと試みるが彼の巧みな回避技術により触れることさえ許されなかった。

ゾンビの群れを回る円は徐々に狭まり、屍同士の距離が縮まっていく。

「そして敵の動きが纏まったところで・・攻撃!」

視認することも難しいくらい素早い彼の一閃はゾンビの群れを一網打尽に薙ぎ払い、四散したゾンビ達は立ち上がることはなかった。


「こんなものかーって、この剣見た目通りだなぁ。」

彼の右手にある刃はボロボロになり、先端がなかった。




「貴方・・何者なの?」



「それがわかれば苦労しないんだが。」


腰を抜かしたルーナを余所目に溜息混じりに呟くと、先遣隊らしき者の新しい死体から剣を鞘ごと引き抜いた。


「先に進むぞ。」


汚れた手を服で拭いルーナに手を差し出した。
最終更新:2015年02月24日 18:36