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亜樹子オン・ザ・ライ - (2011/03/24 (木) 22:06:02) の1つ前との変更点

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*亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2 D-5エリア、平原。 今ここに二人の女性と一人の男性がいる。 「じゃあ、あなたはずっとバイクで走ってたってこと?」 二十歳という年齢の割には幼い顔つきで、少女と形容してもいい外見の女性、鳴海亜樹子。 「にもかかわらず、この何時間も誰一人会うことがなかったと」 すらっとした高身長に整った顔立ちの女性、霧島美穂。 「ああ。このやけに大掛かりな戦いが始まってから、やっと会えたのが君達というわけだ」 そして、黒いコートを羽織る長髪の男、乃木怜治。 風都『だけ』を守る決意を胸に良太郎たちから離反した亜樹子は、しばらく経って美穂と合流することとなった。 おそらく来るであろう追っ手を撒くためにどこかへ隠れる。 ついでに『馬鹿な参加者達』を意のままに扱うための術を教授する。こう切り出したのは美穂だ。 亜樹子からすれば利点の多い提案だ。すぐに受け入れ、話は目的地の選択へと移った。 とはいえ、近くにある建造物といえば限られてくる。 地図を見る必要も無しに存在が把握できる巨大な赤い塔、東京タワー。 または、その近くに陰になるようにそびえるビル。 「東京タワーの方にしましょう。展望台ってのがあるはずだから」 美穂曰く、地上100メートル以上のフロアに設置された望遠鏡を覗けば、周辺の参加者の位置が把握できるということだ。 追っ手も含めた他の参加者の様子を眺めて、誰と接触するか、誰と距離を置くかを考えたいらしい。 「うん、わかった」 と、ひとまずの行動方針をお互いで決め、歩き始めた。 そんな時だった。 「そこの女性諸君! このつまらないゲームを打破するために、少し話でもしないかね?」 高慢な台詞と共に、銀色に輝くバイクに跨った乃木怜治が現れたのは。 □ 「羨ましいわねあなた、そんな便利な移動手段貰っちゃって。支給品としては大当たりじゃない」 「まあな。けど、使える物といえばこのくらいで、後は外れだ」 そう言って乃木はディバッグから何かを取り出した。 「えっと…札?」 「みたいだな。正真正銘、ただの木の板だ」 片手で持てるほどの二枚の小さな木製プレート。それが彼の支給品だった。 材料と工具さえ揃えば子供でも数十分あれば作れそうな玩具にしか見えず、有効な使い道があるとは思えない。 貴重な枠の一部が役立たずとくれば、乃木も溜息を零さずにいられない。 「こんなものを何に使えというんだろうな」 「…メモリ?」 「何?」 板を見た亜樹子がぽつりと呟く。それを乃木は聞き逃さなかった。 「おい、まさかこれに心当たりでもあるのか」 「えっ、…」 亜樹子が反応を示すのも無理はない。板に書かれた二つの熟語の組み合わせが、言い方さえ変えれば何度も聞き慣れたものだからだ。 意識しない内にこちらの知る知識の片鱗を明かしてしまい、「しまった」と思うがもう遅い。 「丁度いい、これが何なのか早速教えてもらおうか。もしや当たりなのか、これは? …できれば、下手に嘘はつかないでほしいものだが?」 「あ、あの…」 乃木に問い詰められ、亜樹子は口籠ってってしまう。 嘘をつくことで勝ち残ると決めた矢先の失敗で、脳は焦りに囚われる。 嘘をつくことに慣れていないから当然で、追求されることにも慣れていないのから当然だ。 いや、そうでなくとも解説に困る代物なのだ。 ただ『疾風』『切札』と書かれただけの、名前が同じだけでどう見てもガイアメモリでない板など、どこからどう説明していいものなのか。 「あの、そういうの後にしてくれない?」 亜樹子の回答が得られず場の空気が悪くなろうというところで、美穂が口を挟んだ。 「実は私達、早いところ東京タワーに行きたいの。お互いの話をするにも落ち着ける場所がいいし」 「ああそうかい。だが、そういうことは早く言ってくれないかな?」 乃木が美穂を睨みつけてきた。少し険悪なことには変わりないが、とりあえず亜樹子への追求が逸れて一安心といったところだろう。 展望台を利用するつもりだと説明し終わったとき、亜樹子からすれば信じられない意見が持ちかけられた。 「折角だし、あなたも来る? 聞きたいことだって、絶対急ぎってわけでもないでしょう?」 「…ふむ、俺も丁度考えていたところだ。一度合流といこうじゃないか」 一安心でもなかった。美穂の言葉に亜樹子は思わず目を見開く。頭の中で「何それ、あたし聞いてない!」とも叫ぶ。 数分前に決定した行動の中には、二人以外に誰もいないことが前提となるものがある。 にも関わらず全くの赤の他人を引き入れたら、嘘の付き方を教えてもらう約束が無碍にされてしまう。 「それと、一つ頼みがあるの」 だが、そんな不安交じりの亜樹子に一瞬だけ目配せして、美穂はもう一つの提案をした。 「折角バイクに乗ってるんだし、ちょっとこの辺りを見回りして?」 「…俺を使い走りにしようというのか?」 乃木の眉が険しくなった。亜樹子の肝が冷えるが、美穂は涼しい顔で続ける。 「違うわよ。あなただからお願いできること。 もし近くに人がいたら、東京タワーに来てもらうように言ってほしいのよ。 『このゲームに反抗する人同士、手を組んで行動しよう』ってね」 「…成程な。つまりお前達は、正義のヒーローの一大チームを結成して、主催打倒のための力を蓄えよう、というわけか」 乃木は感心したように頷く。しかし美穂は頷かない。 「一部正解、だけど惜しい。  確かにある程度味方が居た方が心強いけど、ただあそこでずっと待ってようってわけでもないの。私達も探したい人がいるから」  探したい人。美穂がはっきりと名前を口にしなくても、乃木には何を指すのか解釈できた。 「同じ世界出身の人間、か」 「…ま、一番確実な味方が望ましいからね」 ここまで話し終えてから乃木の様子を見る。 「素晴らしいよ! あのふざけた組織を潰すための正義に燃える者同士、力を合わせれば未来は掴めるはずだ!」…とはなってくれない。 まだ何かを考え込んでるようだ。そしてこちらを見つめる目は未だ信用していない感じがする。 このままでは、疑念をもたれたままこの男に付きまとわれることになるかもしれない。 「それとも、私にそのバイク貸す?」 突然のもう一つの申し出に、流石に乃木も驚きを露わにした。 「貴様、俺からこいつを奪おうというのか? バイクに乗っても逃げないと保障できるのか?」 「だって、人を集めるのにバイクは必要でしょう?」 少なくとも集合地点まで折り返すには歩く参加者に合わせなければならないが、その前はバイクでの移動で構わない。片道だけでも時間短縮にはもってこいだ。 また、万が一危険人物に出くわしたとしても逃走手段としても使える。 この二つの利点の説明をした上で、美穂は付け加えた。 「で、あなたが捜索を嫌がるなら、私が乗るほかに道はないの」 「…このまま俺と同行しながら手駒を探す、というのでは駄目なのか?」 「それだとあなたが私達に合わせなきゃ駄目じゃない。あなたがバイクでも私達は歩くのよ? 三人乗りなんてできないし」 対主催勢力の結集と迅速なメンバー探しの両立には、少なくとも誰かがバイクに乗って移動しなければならない。 東京タワーへ行くことを譲れない以上、二つの両立には誰かがバイクに乗るべきだ。 「どう? …もしかして、やっぱり信用できない?」 ほんの僅かに寂しそうな声を発する。 伝わるか伝わらないかくらいの辛さを目の辺りにした乃木が続けたのは。 「…まあ、いいだろう」 受諾の言葉。とりあえずは交渉成立ということだ。 「良かった…ありがとう」 ここで美穂は微笑みかける。大体の男は照れて目を逸らすものだが、あいにく乃木は仏頂面のままだった。 「できれば早く来てね。長居したいわけでもないし。  …そうね、一回目の放送が始まる前にはタワーを出たいから、それまで待つわ。いいよね?」 「え? あ、うん」 「6時までだな? わかった」 そう言い残し、乃木は二人のもとから走り去っていった。 □ 「…あれで良かったの?」 再び二人きりになり、亜樹子が尋ねた。 「ごめんね、勝手に予定変えちゃって。でもあのウザい奴を引き離すのに手っ取り早いと思って」 「うん、そこは上手くいったけど。でも、人を集めるにしても、なんであの条件をつけたの?」 味方を集めようという点に疑問はない。いずれ殺すとはいっても、暫くは身を守るための戦力になってくれる。 亜樹子にとっての疑問は、美穂の提示した約束の時間が午後6時前、今から約3時間後だという部分だ。 乃木がバイクで移動できるとはいっても、人数を集めるには時間が短いのではないか。 この亜樹子の問いに対して、美穂は特に悩むこともなく返答した。 「正直言うと、あんまりいっぱい来られても困るのよね。変な奴…私みたいに人を騙すのが得意な奴が混じってくるかもしれないのに」 バイクで二人を轢き殺そうとはせず、積極的に情報交換を持ちかけてきた乃木は『乗っていない』可能性が高い。 だが、彼が集める人間も同じく安全だとは限らない。彼が手当たり次第に協力を持ちかけたりしたら、品定めを一度に行う手間が出てくる。 「男なんてね、取っ換え引っ換えが一番楽なのよ。どうせその場限りの関係だし」 それともう一つ、合流を呼びかけることに良い効果がある。 「もしあなたを追いかけてきた奴が現れても信用してもらえるかもしれないじゃない」 忘れていた顔を思い出した。もしかしたら良太郎達の内の誰かが亜樹子を追ってくるかもしれないのだ。 しかし美穂はその誰かに追いつかれてもいいと言う。 「『殺し合いに乗るかと思われた鳴海亜樹子は、霧島美穂の説得を受けてもう一度大ショッカーに立ち向かう決意を固めた』ってことにしちゃいましょう。  そのための行動も取ったわけだし」 そもそも他人を信用できない状況だし、ちょっとでも綺麗な姿に見せかけないとね。長く続いた解説を締めくくり、美穂は悪戯っぽく笑った。 「でも、一回酷いこと言ったのに大丈夫かな…?」 「…亜樹子ちゃん、まだ誰も殺してないでしょう? だったら可能性はあるんじゃない?」 まだ罪を犯していない。フォローの言葉が亜樹子の心に冷たく響く。 現時点では言う通りだ。手は血に染まらず、真っ白だ。 だがこの清らかさが、罪を犯し、楽しいだけの日々を崩すための踏み台になるのだ。 「…ごめん。ちょっと励まし方間違えた」 辛さが表情に出ていたのだろうか。美穂がまた謝罪を口にする。 沈んだ気分が立ち直るよりも先に、亜樹子には一つの謎が生まれた。 「ねえ美穂さん」 「なに?」 「なんで、私に手を貸してくれるの? 私達も最後には敵なんだよ?」 美穂は何かと力になると言ってくれた。それは素直に嬉しい。 だが、全ての世界を救うヒーローだとは名乗らなかった。亜樹子と同じく、彼女には彼女の守りたい世界があるのだ。 だからこそ、ここまで亜樹子の世話を焼いてくれるのが気がかりだ。 なんだか優しいお姉さん(年下だけど)と呼びたくなるような彼女の態度が理解できない 無視できない矛盾への問いに対して、美穂の答えはあっさりとしていた。 「確かにバカがどうなるかなんてどうでもいいけど、あのお爺さんが嘘をついてる可能性もあるでしょ?  もしもそうだった時、良い思いを共有する相手がいてもいいかなって。…ま、女の共感ってやつ?」 ───嘘だ。 今更あの老人の言葉を信じない理由なんてどこにもない。 だから殺し合いに乗ることを決めたんだ。 仮に理由があったとしても、とっくに恐怖が希望に勝っているから考えたくない。 最早これは可能性ではなく覚悟の問題だ。 同じ道を選んだ美穂だってもうわかっているはずである。 けれど、優しさという仮面を顔に着けて、こうして割り切った関係を続けている。 虚構だとわかっているのに甘えたくなる愛情を与えながら。 素顔の美穂は冷酷であるはずなのに、憧れさえ感じてしまう。 たった少しの触れ合いで迷いが生じ、苦悩を抱えている自分とは大違いだ。 「…すごいね」 「そう?」 押し黙った亜樹子を見て、これで話は一段落と判断したらしい美穂は顔を前へ向き直した。 (あたし駄目だな。親しくなるのが厭だから良太郎くんたちから逃げたのに) 決意を鈍らせると感じたから人との関わりを捨てたのに、美穂に会ってまた暖かい感情が生まれそうになっている。 最後には壊れる関係とわかっているのに、綺麗な想いを抱いてしまう。 けどこれじゃ駄目だ。風都のためにも甘さはいらない。 必要なのは、美穂のようなクールさ。良太郎やあきらの優しさを踏みにじられるような非情さだ。 それがもし翔太郎やフィリップ達に蔑まれるやり方だとしても、もう決めたのだから。 (ごめんね…みんな) 心の中で、誰にでもなく謝った。これが最後の弱音だと自分自身に言い聞かせながら。 ようやく東京タワーの真下まで辿り着いたとき、すぐに空に映える赤い三角を見上げた。 こうでもしないと、目から涙が零れそうだったから。 □ 女に言いくるめられ、体よく利用された。 第三者から見れば、乃木怜治の行動は滑稽に見えるかもしれない。 しかし当の乃木本人の心中に不満は無い。実際の所、美穂の言葉に従っても乃木の考えていた行動方針は大して変わらないからだ。 「さて、この辺りの生存者はあと二人。どちらに会うべきかな?」 乃木は周辺にいる参加者の人数を断定した上での悩みを口にした。 周囲に目を向けたところで、小さな人影さえ見えない。だが、乃木にはわかる。 すでに高みから周辺を見渡して、情報を得た乃木にはわかるのだ。 先に言っておくと、乃木はこのゲームが始まってから数時間後、一度だけ東京タワーに立ち寄っていた。 そこで取った行動は美穂の持ちかけた案とほとんど同じ。周辺の参加者の配置を把握した上で、接触に値する人物を見定めていた。 市街地の方に目を向けてみた。人影がちらほらと見えたが、建造物に阻まれてなかなか様子を伺えなかった。 やはり近場からの方が手っ取り早いだろうとタワー周辺の平原に目を向けた。その結果見つけた参加者は五人。 いや、正確に言えば四人だろうか。 一人目と二人目は霧島美穂と鳴海亜樹子。 三人目は、革ジャケットの男。その男は何かを探そうとしているように見えた。走りながら周囲へ忙しく視線を動かしていたからだ。 四人目は、白いスーツを着た男。彼は真っ直ぐ東京タワーのある方角へと歩いている最中だった。 もっとも遠くから見ただけでは、目当ての場所が何処なのか確信できなかったが。 五人目、とカウントしていいのかわからない男が一人いた。その黒いスーツの男は赤い血溜りの中に横たわっていて、もう既に事切れてることが明らかだ。 候補の中で真っ先に切り捨てたのは死体だ。 彼を殺害した何者かによって所持品が残らず持ち去られたことは容易に想像できる。 おまけに命まで失っているのだから『擬態』もできない。 ワームの特性である『擬態』は、対象となる人間の姿形や才能はもちろん、記憶までもワームのものにしてしまう。 そして人間に求められる最低限の条件は、どんな有様になっても生存していることだ。 天才だろうと凡人だろうと、死んでしまえば等しくただのモノでしかない。 彼が誰と会い誰に殺されたか、亡き者になった今では知る由もない。 顔くらい覚えていこうかとも考えたが、頭が潰されているのが見えたため不可能だ。 よって、わざわざただの亡骸を見に行ったところで大した収穫は無いと判断し、タワーから最も近くにいた美穂と亜樹子への接触を優先した。 美穂達と別れた現在の乃木が抱える問題はまず一つ。 二人の男のどちらに会いに行くべきかの選択だ。 高くから見ただけでは、どちらも『乗っている』か『乗っていない』か判別できない。 強いて言うなら白いスーツの男が死体の方向から歩いていったように見えたので、彼が殺人犯の可能性もあるが、断定するには証拠が無い。 どちらにしても確実なメリットもデメリットも見出せない以上、あまり悩むべきでないかもしれない。 「あと、あの女をどう扱うかも決めないとな」 加えて、美穂と亜樹子への対応も見極めなければならない。 両方とも『乗っていない』ような素振りを見せたが、気を許すことはできない。 鳴海亜樹子の方はただ平和ボケしただけの一般人のようにも見える。 あの動揺の仕方は命のやり取りに晒されることのない日々を甘受した人間そのものだ。 しかし、霧島美穂は用心するべきだろう。冷静さを備え機転も利き、何より戦闘が可能だ。 その彼女が万が一敵となったら。 「だからこそ、まだ迂闊に信用できない」 彼女たちにはいくつか隠し事をした。 一つは東京タワーに行ったことを口にしなかったこと。 もう一つは腰掛けている銀のバイク、名はオートバジン。 割り振られた支給品として紹介したが、嘘だ。 東京タワーに立ち寄った際、駐車スペースにひっそりと隠すように置かれていたのを発見したのであって、いわば現地調達の品物だ。 だが彼女達の前では支給品扱いし、本来の支給品の中で最も価値のある一つを秘匿して、結局明らかにしなかった。 「仮面ライダーファム…敵になってほしくないものだがな」 参加者の解説が付いたルールブック。これが乃木の隠した支給品の正体である。 他とは異なるこのルールブックは、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、そして変身するライダーもしくは怪人の名前が記載されている。 使用するアイテムや変身のプロセスまで知ることができないが、やはり能力を先に把握できるのは有利だ。 現に霧島美穂───仮面ライダーファムを警戒する理由がひとつ得られたのだから。 鳴海亜樹子───変身能力の無い一般人がか弱き存在であることも既に知っていたのだ。 「…許せないものだよ。ここまで人間に気を遣わなければならないなど」 今この場には厄介な存在で溢れている。 因縁のマスクドライダー諸君、映像で見せられた異世界の異形達、そして霧島美穂のような知恵の回る女。 全員とまではいかずとも、いつか何らかの手段で牙を剥くかもしれない相手が何十人もいるのだ。 故に見極めは用心深く行わなければならない。 手駒として立派に働いてくれるか、有害な外敵となるかは会ってみないとわからないから。 「忘れるなよ? 俺に手間をかけさせた愚か者には、相応の報いがあることを」 これから出会うであろう者達に向けて、乃木は忌々しげに警告の言葉を呟いた。 その響きは、すぐにエンジン音にかき消された。 【1日目 午後】 【D-5 東京タワーの真下】 【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】映画死亡後 【状態】健康、仮面ライダーファムに1時間変身不可 【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実 【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×0~3(確認済み) 【思考・状況】 1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。 2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。 3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。 4:城戸真司とは会いたいけれど… 5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。 6:亜樹子と話しながら乃木を待つ。 【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】 【時間軸】番組後半 【状態】わき腹を打撲 精神に深い迷い 【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW 【道具】支給品一式、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、不明支給品(0~1) 【思考・状況】 1:風都を護るため、殺し合いに乗る。 2:情を移さないため、あまり人と接触しない。 3:美穂と行動する。人を騙す術を教えてくれるらしいが… 4:良太郎やあきらとはなるべく会いたくない。 5:知り合いと合流し、そのスタンスを知りたい。 6:美穂と話しながら乃木を待つ。 【備考】 ※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。 【D-5 平原】 【乃木怜司@仮面ライダーカブト】 【時間軸】44話 エリアZ進撃直前 【状態】健康 【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555 【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実 【思考・状況】 1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。 2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。 3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。 4:C-5エリアで二人の男(葦原、アポロガイスト)のどちらかと接触する。 5:東京タワーに行き、美穂・亜樹子と合流する。 6:美穂には注意する。 【備考】 ※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。 ※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。 ※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。 ※葦原とアポロガイストのどちらに接触するかは後続の書き手さんにお任せします。 【共通行動方針】 1:対主催勢力を東京タワーに結集し、チームを作る。 2:美穂と亜樹子は東京タワーで先に待機。乃木が参加者を集める。 3:第1回放送の前には東京タワーを離れる。乃木が帰ってこない場合も同様。 【支給品の解説】 ●木製ガイアメモリ@仮面ライダーW 本編第29話にて、翔太郎の夢の中で使用された木製のガイアメモリ。 夢の舞台が翔太郎の鑑賞していた時代劇「風の左平次 パニックリベンジャー」の世界観に近かったため、この影響を受けて和風の形状になったと思われる。 このロワでガイアメモリとしての効果は全く無い。正真正銘ただの木の板である。 ●参加者の解説付きルールブック@現実 通常のルールブックとは異なり、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身するライダーまたは怪人の名前が記載されている。 ただし具体的な変身方法については書かれておらず、またこのロワで初めて他人の変身道具を支給された例は記述対象外となる。 仮面ライダーと怪人の二通りの姿を持つ場合は、仮面ライダーの名前のみが記載されている。 変身手段を持たない一般人については、「能力:なし」と記載される。 ・記載例 名前:乾巧 性別:男 年齢:18歳 能力:仮面ライダーファイズに変身できる ※ウルフオルフェノクの記述は無い |044:[[Rの定義/心に響く声]]|投下順|046:[[Kの名を胸に刻め/闇に消える光]]| |044:[[Rの定義/心に響く声]]|時系列順|046:[[Kの名を胸に刻め/闇に消える光]]| |033:[[そして、Xする思考]]|[[霧島美穂]]|| |033:[[そして、Xする思考]]|[[鳴海亜樹子]]|| |025:[[魔王 が 動き出す 日]]|[[乃木怜治]]|| ----
*亜樹子オン・ザ・ライ ◆Wy4qMnIQy2 D-5エリア、平原。 今ここに二人の女性と一人の男性がいる。 「じゃあ、あなたはずっとバイクで走ってたってこと?」 二十歳という年齢の割には幼い顔つきで、少女と形容してもいい外見の女性、鳴海亜樹子。 「にもかかわらず、この何時間も誰一人会うことがなかったと」 すらっとした高身長に整った顔立ちの女性、霧島美穂。 「ああ。このやけに大掛かりな戦いが始まってから、やっと会えたのが君達というわけだ」 そして、黒いコートを羽織る長髪の男、乃木怜治。 風都『だけ』を守る決意を胸に良太郎たちから離反した亜樹子は、しばらく経って美穂と合流することとなった。 おそらく来るであろう追っ手を撒くためにどこかへ隠れる。 ついでに『馬鹿な参加者達』を意のままに扱うための術を教授する。こう切り出したのは美穂だ。 亜樹子からすれば利点の多い提案だ。すぐに受け入れ、話は目的地の選択へと移った。 とはいえ、近くにある建造物といえば限られてくる。 地図を見る必要も無しに存在が把握できる巨大な赤い塔、東京タワー。 または、その近くに陰になるようにそびえるビル。 「東京タワーの方にしましょう。展望台ってのがあるはずだから」 美穂曰く、地上100メートル以上のフロアに設置された望遠鏡を覗けば、周辺の参加者の位置が把握できるということだ。 追っ手も含めた他の参加者の様子を眺めて、誰と接触するか、誰と距離を置くかを考えたいらしい。 「うん、わかった」 と、ひとまずの行動方針をお互いで決め、歩き始めた。 そんな時だった。 「そこの女性諸君! このつまらないゲームを打破するために、少し話でもしないかね?」 高慢な台詞と共に、銀色に輝くバイクに跨った乃木怜治が現れたのは。 □ 「羨ましいわねあなた、そんな便利な移動手段貰っちゃって。支給品としては大当たりじゃない」 「まあな。けど、使える物といえばこのくらいで、後は外れだ」 そう言って乃木はディバッグから何かを取り出した。 「えっと…札?」 「みたいだな。正真正銘、ただの木の板だ」 片手で持てるほどの二枚の小さな木製プレート。それが彼の支給品だった。 材料と工具さえ揃えば子供でも数十分あれば作れそうな玩具にしか見えず、有効な使い道があるとは思えない。 貴重な枠の一部が役立たずとくれば、乃木も溜息を零さずにいられない。 「こんなものを何に使えというんだろうな」 「…メモリ?」 「何?」 板を見た亜樹子がぽつりと呟く。それを乃木は聞き逃さなかった。 「おい、まさかこれに心当たりでもあるのか」 「えっ、…」 亜樹子が反応を示すのも無理はない。板に書かれた二つの熟語の組み合わせが、言い方さえ変えれば何度も聞き慣れたものだからだ。 意識しない内にこちらの知る知識の片鱗を明かしてしまい、「しまった」と思うがもう遅い。 「丁度いい、これが何なのか早速教えてもらおうか。もしや当たりなのか、これは? …できれば、下手に嘘はつかないでほしいものだが?」 「あ、あの…」 乃木に問い詰められ、亜樹子は口籠ってってしまう。 嘘をつくことで勝ち残ると決めた矢先の失敗で、脳は焦りに囚われる。 嘘をつくことに慣れていないから当然で、追求されることにも慣れていないのから当然だ。 いや、そうでなくとも解説に困る代物なのだ。 ただ『疾風』『切札』と書かれただけの、名前が同じだけでどう見てもガイアメモリでない板など、どこからどう説明していいものなのか。 「あの、そういうの後にしてくれない?」 亜樹子の回答が得られず場の空気が悪くなろうというところで、美穂が口を挟んだ。 「実は私達、早いところ東京タワーに行きたいの。お互いの話をするにも落ち着ける場所がいいし」 「ああそうかい。だが、そういうことは早く言ってくれないかな?」 乃木が美穂を睨みつけてきた。少し険悪なことには変わりないが、とりあえず亜樹子への追求が逸れて一安心といったところだろう。 展望台を利用するつもりだと説明し終わったとき、亜樹子からすれば信じられない意見が持ちかけられた。 「折角だし、あなたも来る? 聞きたいことだって、絶対急ぎってわけでもないでしょう?」 「…ふむ、俺も丁度考えていたところだ。一度合流といこうじゃないか」 一安心でもなかった。美穂の言葉に亜樹子は思わず目を見開く。頭の中で「何それ、あたし聞いてない!」とも叫ぶ。 数分前に決定した行動の中には、二人以外に誰もいないことが前提となるものがある。 にも関わらず全くの赤の他人を引き入れたら、嘘の付き方を教えてもらう約束が無碍にされてしまう。 「それと、一つ頼みがあるの」 だが、そんな不安交じりの亜樹子に一瞬だけ目配せして、美穂はもう一つの提案をした。 「折角バイクに乗ってるんだし、ちょっとこの辺りを見回りして?」 「…俺を使い走りにしようというのか?」 乃木の眉が険しくなった。亜樹子の肝が冷えるが、美穂は涼しい顔で続ける。 「違うわよ。あなただからお願いできること。 もし近くに人がいたら、東京タワーに来てもらうように言ってほしいのよ。 『このゲームに反抗する人同士、手を組んで行動しよう』ってね」 「…成程な。つまりお前達は、正義のヒーローの一大チームを結成して、主催打倒のための力を蓄えよう、というわけか」 乃木は感心したように頷く。しかし美穂は頷かない。 「一部正解、だけど惜しい。  確かにある程度味方が居た方が心強いけど、ただあそこでずっと待ってようってわけでもないの。私達も探したい人がいるから」  探したい人。美穂がはっきりと名前を口にしなくても、乃木には何を指すのか解釈できた。 「同じ世界出身の人間、か」 「…ま、一番確実な味方が望ましいからね」 ここまで話し終えてから乃木の様子を見る。 「素晴らしいよ! あのふざけた組織を潰すための正義に燃える者同士、力を合わせれば未来は掴めるはずだ!」…とはなってくれない。 まだ何かを考え込んでるようだ。そしてこちらを見つめる目は未だ信用していない感じがする。 このままでは、疑念をもたれたままこの男に付きまとわれることになるかもしれない。 「それとも、私にそのバイク貸す?」 突然のもう一つの申し出に、流石に乃木も驚きを露わにした。 「貴様、俺からこいつを奪おうというのか? バイクに乗っても逃げないと保障できるのか?」 「だって、人を集めるのにバイクは必要でしょう?」 少なくとも集合地点まで折り返すには歩く参加者に合わせなければならないが、その前はバイクでの移動で構わない。片道だけでも時間短縮にはもってこいだ。 また、万が一危険人物に出くわしたとしても逃走手段としても使える。 この二つの利点の説明をした上で、美穂は付け加えた。 「で、あなたが捜索を嫌がるなら、私が乗るほかに道はないの」 「…このまま俺と同行しながら手駒を探す、というのでは駄目なのか?」 「それだとあなたが私達に合わせなきゃ駄目じゃない。あなたがバイクでも私達は歩くのよ? 三人乗りなんてできないし」 対主催勢力の結集と迅速なメンバー探しの両立には、少なくとも誰かがバイクに乗って移動しなければならない。 東京タワーへ行くことを譲れない以上、二つの両立には誰かがバイクに乗るべきだ。 「どう? …もしかして、やっぱり信用できない?」 ほんの僅かに寂しそうな声を発する。 伝わるか伝わらないかくらいの辛さを目の辺りにした乃木が続けたのは。 「…まあ、いいだろう」 受諾の言葉。とりあえずは交渉成立ということだ。 「良かった…ありがとう」 ここで美穂は微笑みかける。大体の男は照れて目を逸らすものだが、あいにく乃木は仏頂面のままだった。 「できれば早く来てね。長居したいわけでもないし。  …そうね、一回目の放送が始まる前にはタワーを出たいから、それまで待つわ。いいよね?」 「え? あ、うん」 「6時までだな? わかった」 そう言い残し、乃木は二人のもとから走り去っていった。 □ 「…あれで良かったの?」 再び二人きりになり、亜樹子が尋ねた。 「ごめんね、勝手に予定変えちゃって。でもあのウザい奴を引き離すのに手っ取り早いと思って」 「うん、そこは上手くいったけど。でも、人を集めるにしても、なんであの条件をつけたの?」 味方を集めようという点に疑問はない。いずれ殺すとはいっても、暫くは身を守るための戦力になってくれる。 亜樹子にとっての疑問は、美穂の提示した約束の時間が午後6時前、今から約3時間後だという部分だ。 乃木がバイクで移動できるとはいっても、人数を集めるには時間が短いのではないか。 この亜樹子の問いに対して、美穂は特に悩むこともなく返答した。 「正直言うと、あんまりいっぱい来られても困るのよね。変な奴…私みたいに人を騙すのが得意な奴が混じってくるかもしれないのに」 バイクで二人を轢き殺そうとはせず、積極的に情報交換を持ちかけてきた乃木は『乗っていない』可能性が高い。 だが、彼が集める人間も同じく安全だとは限らない。彼が手当たり次第に協力を持ちかけたりしたら、品定めを一度に行う手間が出てくる。 「男なんてね、取っ換え引っ換えが一番楽なのよ。どうせその場限りの関係だし」 それともう一つ、合流を呼びかけることに良い効果がある。 「もしあなたを追いかけてきた奴が現れても信用してもらえるかもしれないじゃない」 忘れていた顔を思い出した。もしかしたら良太郎達の内の誰かが亜樹子を追ってくるかもしれないのだ。 しかし美穂はその誰かに追いつかれてもいいと言う。 「『殺し合いに乗るかと思われた鳴海亜樹子は、霧島美穂の説得を受けてもう一度大ショッカーに立ち向かう決意を固めた』ってことにしちゃいましょう。  そのための行動も取ったわけだし」 そもそも他人を信用できない状況だし、ちょっとでも綺麗な姿に見せかけないとね。長く続いた解説を締めくくり、美穂は悪戯っぽく笑った。 「でも、一回酷いこと言ったのに大丈夫かな…?」 「…亜樹子ちゃん、まだ誰も殺してないでしょう? だったら可能性はあるんじゃない?」 まだ罪を犯していない。フォローの言葉が亜樹子の心に冷たく響く。 現時点では言う通りだ。手は血に染まらず、真っ白だ。 だがこの清らかさが、罪を犯し、楽しいだけの日々を崩すための踏み台になるのだ。 「…ごめん。ちょっと励まし方間違えた」 辛さが表情に出ていたのだろうか。美穂がまた謝罪を口にする。 沈んだ気分が立ち直るよりも先に、亜樹子には一つの謎が生まれた。 「ねえ美穂さん」 「なに?」 「なんで、私に手を貸してくれるの? 私達も最後には敵なんだよ?」 美穂は何かと力になると言ってくれた。それは素直に嬉しい。 だが、全ての世界を救うヒーローだとは名乗らなかった。亜樹子と同じく、彼女には彼女の守りたい世界があるのだ。 だからこそ、ここまで亜樹子の世話を焼いてくれるのが気がかりだ。 なんだか優しいお姉さん(年下だけど)と呼びたくなるような彼女の態度が理解できない 無視できない矛盾への問いに対して、美穂の答えはあっさりとしていた。 「確かにバカがどうなるかなんてどうでもいいけど、あのお爺さんが嘘をついてる可能性もあるでしょ?  もしもそうだった時、良い思いを共有する相手がいてもいいかなって。…ま、女の共感ってやつ?」 ───嘘だ。 今更あの老人の言葉を信じない理由なんてどこにもない。 だから殺し合いに乗ることを決めたんだ。 仮に理由があったとしても、とっくに恐怖が希望に勝っているから考えたくない。 最早これは可能性ではなく覚悟の問題だ。 同じ道を選んだ美穂だってもうわかっているはずである。 けれど、優しさという仮面を顔に着けて、こうして割り切った関係を続けている。 虚構だとわかっているのに甘えたくなる愛情を与えながら。 素顔の美穂は冷酷であるはずなのに、憧れさえ感じてしまう。 たった少しの触れ合いで迷いが生じ、苦悩を抱えている自分とは大違いだ。 「…すごいね」 「そう?」 押し黙った亜樹子を見て、これで話は一段落と判断したらしい美穂は顔を前へ向き直した。 (あたし駄目だな。親しくなるのが厭だから良太郎くんたちから逃げたのに) 決意を鈍らせると感じたから人との関わりを捨てたのに、美穂に会ってまた暖かい感情が生まれそうになっている。 最後には壊れる関係とわかっているのに、綺麗な想いを抱いてしまう。 けどこれじゃ駄目だ。風都のためにも甘さはいらない。 必要なのは、美穂のようなクールさ。良太郎やあきらの優しさを踏みにじられるような非情さだ。 それがもし翔太郎やフィリップ達に蔑まれるやり方だとしても、もう決めたのだから。 (ごめんね…みんな) 心の中で、誰にでもなく謝った。これが最後の弱音だと自分自身に言い聞かせながら。 ようやく東京タワーの真下まで辿り着いたとき、すぐに空に映える赤い三角を見上げた。 こうでもしないと、目から涙が零れそうだったから。 □ 女に言いくるめられ、体よく利用された。 第三者から見れば、乃木怜治の行動は滑稽に見えるかもしれない。 しかし当の乃木本人の心中に不満は無い。実際の所、美穂の言葉に従っても乃木の考えていた行動方針は大して変わらないからだ。 「さて、この辺りの生存者はあと二人。どちらに会うべきかな?」 乃木は周辺にいる参加者の人数を断定した上での悩みを口にした。 周囲に目を向けたところで、小さな人影さえ見えない。だが、乃木にはわかる。 すでに高みから周辺を見渡して、情報を得た乃木にはわかるのだ。 先に言っておくと、乃木はこのゲームが始まってから数時間後、一度だけ東京タワーに立ち寄っていた。 そこで取った行動は美穂の持ちかけた案とほとんど同じ。周辺の参加者の配置を把握した上で、接触に値する人物を見定めていた。 市街地の方に目を向けてみた。人影がちらほらと見えたが、建造物に阻まれてなかなか様子を伺えなかった。 やはり近場からの方が手っ取り早いだろうとタワー周辺の平原に目を向けた。その結果見つけた参加者は五人。 いや、正確に言えば四人だろうか。 一人目と二人目は霧島美穂と鳴海亜樹子。 三人目は、革ジャケットの男。その男は何かを探そうとしているように見えた。走りながら周囲へ忙しく視線を動かしていたからだ。 四人目は、白いスーツを着た男。彼は真っ直ぐ東京タワーのある方角へと歩いている最中だった。 もっとも遠くから見ただけでは、目当ての場所が何処なのか確信できなかったが。 五人目、とカウントしていいのかわからない男が一人いた。その黒いスーツの男は赤い血溜りの中に横たわっていて、もう既に事切れてることが明らかだ。 候補の中で真っ先に切り捨てたのは死体だ。 彼を殺害した何者かによって所持品が残らず持ち去られたことは容易に想像できる。 おまけに命まで失っているのだから『擬態』もできない。 ワームの特性である『擬態』は、対象となる人間の姿形や才能はもちろん、記憶までもワームのものにしてしまう。 そして人間に求められる最低限の条件は、どんな有様になっても生存していることだ。 天才だろうと凡人だろうと、死んでしまえば等しくただのモノでしかない。 彼が誰と会い誰に殺されたか、亡き者になった今では知る由もない。 顔くらい覚えていこうかとも考えたが、頭が潰されているのが見えたため不可能だ。 よって、わざわざただの亡骸を見に行ったところで大した収穫は無いと判断し、タワーから最も近くにいた美穂と亜樹子への接触を優先した。 美穂達と別れた現在の乃木が抱える問題はまず一つ。 二人の男のどちらに会いに行くべきかの選択だ。 高くから見ただけでは、どちらも『乗っている』か『乗っていない』か判別できない。 強いて言うなら白いスーツの男が死体の方向から歩いていったように見えたので、彼が殺人犯の可能性もあるが、断定するには証拠が無い。 どちらにしても確実なメリットもデメリットも見出せない以上、あまり悩むべきでないかもしれない。 「あと、あの女をどう扱うかも決めないとな」 加えて、美穂と亜樹子への対応も見極めなければならない。 両方とも『乗っていない』ような素振りを見せたが、気を許すことはできない。 鳴海亜樹子の方はただ平和ボケしただけの一般人のようにも見える。 あの動揺の仕方は命のやり取りに晒されることのない日々を甘受した人間そのものだ。 しかし、霧島美穂は用心するべきだろう。冷静さを備え機転も利き、何より戦闘が可能だ。 その彼女が万が一敵となったら。 「だからこそ、まだ迂闊に信用できない」 彼女たちにはいくつか隠し事をした。 一つは東京タワーに行ったことを口にしなかったこと。 もう一つは腰掛けている銀のバイク、名はオートバジン。 割り振られた支給品として紹介したが、嘘だ。 東京タワーに立ち寄った際、駐車スペースにひっそりと隠すように置かれていたのを発見したのであって、いわば現地調達の品物だ。 だが彼女達の前では支給品扱いし、本来の支給品の中で最も価値のある一つを秘匿して、結局明らかにしなかった。 「仮面ライダーファム…敵になってほしくないものだがな」 参加者の解説が付いたルールブック。これが乃木の隠した支給品の正体である。 他とは異なるこのルールブックは、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、そして変身するライダーもしくは怪人の名前が記載されている。 使用するアイテムや変身のプロセスまで知ることができないが、やはり能力を先に把握できるのは有利だ。 現に霧島美穂───仮面ライダーファムを警戒する理由がひとつ得られたのだから。 鳴海亜樹子───変身能力の無い一般人がか弱き存在であることも既に知っていたのだ。 「…許せないものだよ。ここまで人間に気を遣わなければならないなど」 今この場には厄介な存在で溢れている。 因縁のマスクドライダー諸君、映像で見せられた異世界の異形達、そして霧島美穂のような知恵の回る女。 全員とまではいかずとも、いつか何らかの手段で牙を剥くかもしれない相手が何十人もいるのだ。 故に見極めは用心深く行わなければならない。 手駒として立派に働いてくれるか、有害な外敵となるかは会ってみないとわからないから。 「忘れるなよ? 俺に手間をかけさせた愚か者には、相応の報いがあることを」 これから出会うであろう者達に向けて、乃木は忌々しげに警告の言葉を呟いた。 その響きは、すぐにエンジン音にかき消された。 【1日目 午後】 【D-5 東京タワーの真下】 【霧島美穂@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】映画死亡後 【状態】健康、仮面ライダーファムに1時間変身不可 【装備】カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実 【道具】支給品一式×2、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、不明支給品×0~3(確認済み) 【思考・状況】 1:あらゆる手を使い他の世界の参加者を倒す。 2:秋山蓮、北岡秀一、東條悟と接触、協力。 3:浅倉威は許さない、見つけ次第倒す。 4:城戸真司とは会いたいけれど… 5:今は亜樹子を利用して、一緒にステルスとして参加者を減らす。 6:亜樹子と話しながら乃木を待つ。 【鳴海亜樹子@仮面ライダーW】 【時間軸】番組後半 【状態】わき腹を打撲 精神に深い迷い 【装備】ツッコミ用のスリッパ@仮面ライダーW 【道具】支給品一式、装甲声刃@仮面ライダー響鬼、不明支給品(0~1) 【思考・状況】 1:風都を護るため、殺し合いに乗る。 2:情を移さないため、あまり人と接触しない。 3:美穂と行動する。人を騙す術を教えてくれるらしいが… 4:良太郎やあきらとはなるべく会いたくない。 5:知り合いと合流し、そのスタンスを知りたい。 6:美穂と話しながら乃木を待つ。 【備考】 ※ 良太郎について、職業:芸人、憑依は芸と誤認しています。 【D-5 平原】 【乃木怜司@仮面ライダーカブト】 【時間軸】44話 エリアZ進撃直前 【状態】健康 【装備】オートバジン+ファイズエッジ@仮面ライダー555 【道具】支給品一式、木製ガイアメモリ(疾風、切札)@仮面ライダーW、参加者の解説付きルールブック@現実 【思考・状況】 1:大ショッカーを潰すために戦力を集める。使えない奴は、餌にする。 2:状況次第では、ZECTのマスクドライダー資格者も利用する。 3:最終的には大ショッカーの技術を奪い、自分の世界を支配する。 4:C-5エリアで二人の男(葦原、アポロガイスト)のどちらかと接触する。 5:東京タワーに行き、美穂・亜樹子と合流する。 6:美穂には注意する。 【備考】 ※カッシスワーム グラディウスの状態から参戦しました。 ※現在覚えている技は、ライダーキック(ガタック)、ライダースラッシュの二つです。 ※現時点では、解説付きルールブックを他人と共有する気はありません。 ※葦原とアポロガイストのどちらに接触するかは後続の書き手さんにお任せします。 【共通行動方針】 1:対主催勢力を東京タワーに結集し、チームを作る。 2:美穂と亜樹子は東京タワーで先に待機。乃木が参加者を集める。 3:第1回放送の前には東京タワーを離れる。乃木が帰ってこない場合も同様。 【支給品の解説】 ●木製ガイアメモリ@仮面ライダーW 本編第29話にて、翔太郎の夢の中で使用された木製のガイアメモリ。 夢の舞台が翔太郎の鑑賞していた時代劇「風の左平次 パニックリベンジャー」の世界観に近かったため、この影響を受けて和風の形状になったと思われる。 このロワでガイアメモリとしての効果は全く無い。正真正銘ただの木の板である。 ●参加者の解説付きルールブック@現実 通常のルールブックとは異なり、参加者名簿のページの後ろに全参加者の顔写真、性別、年齢、変身するライダーまたは怪人の名前が記載されている。 ただし具体的な変身方法については書かれておらず、またこのロワで初めて他人の変身道具を支給された例は記述対象外となる。 仮面ライダーと怪人の二通りの姿を持つ場合は、仮面ライダーの名前のみが記載されている。 変身手段を持たない一般人については、「能力:なし」と記載される。 ・記載例 名前:乾巧 性別:男 年齢:18歳 能力:仮面ライダーファイズに変身できる ※ウルフオルフェノクの記述は無い |044:[[Rの定義/心に響く声]]|投下順|046:[[Kの名を胸に刻め/闇に消える光]]| |044:[[Rの定義/心に響く声]]|時系列順|046:[[Kの名を胸に刻め/闇に消える光]]| |033:[[そして、Xする思考]]|[[霧島美穂]]|057:[[仕掛けられたB/響き渡る声]]| |033:[[そして、Xする思考]]|[[鳴海亜樹子]]|057:[[仕掛けられたB/響き渡る声]]| |025:[[魔王 が 動き出す 日]]|[[乃木怜治]]|| ----

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