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*眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2  古来より、蛇は時に信仰され、時に嫌悪されて来た。  不死の象徴として世界各地で崇拝された一方、神と同格視されるほど強大な蛇が、無力な大勢の人間を己が贄にし、時には神さえもその牙と毒で殺すという伝説も、決して珍しいものではない。  太古の神話から、現在に至るまでの芸術品などでも、蛇とは恐怖の象徴として描かれている。  人間にはそうした蛇に対する恐怖が、本能レベルで記憶されているとする学説も存在するほどだ。  ――それならこの暴虐に飢えた蛇が、星の内包した『恐怖』の記憶を呑みこんだのは、ある意味では必然のことだったのかも知れない…… ◆  現実ではなく、鏡の中の世界――ミラーワールドで力なく歩く、傷ついた獣の姿があった。  その名はデストワイルダー。既にこのバトルロワイヤルにおいて脱落した、東條悟の契約モンスターだった虎型の怪人である。  東條とデストワイルダーの間で結ばれた契約は、彼が落命する前に既に破棄されている――それでもデストワイルダーは、東條が死に際戦った橘朔也を、彼の死の一因となった小野寺ユウスケを、まるで仇討ちのように襲撃していた。  だが相棒のライダーもおらず、消耗したところを狙ってもどちらも邪魔が入った。二度の戦いでデストワイルダーが身に受けたダメージは重く、本来強力なモンスターである彼ももはやまともに仮面ライダーや怪人と戦う力は残されていなかった。  消耗した相手を狙おうにも、空間自体に掛けられた制限によって、ミラーモンスターは二時間に一度、最大で一分間しか現実世界に出現できない。それで仕留め切るのは難しい物があった。  いや、デストワイルダーを苦しめる問題はそこではない。  その身に蓄積されたダメージを癒すために、今のデストワイルダーでも簡単に手に入れられる餌を求めて、獣はミラーワールドをアテもなく流離っていた。  今、小野寺ユウスケや周辺の参加者を狙うのは無理がある。彼らを管理下に置いた、強靭な捕食者――奴に睨みを効かされている。奴が他のライダーのカードデッキを手に入れ、契約モンスターに常に警戒させているからなおさらだ。  負傷者の集まる病院を狙うと言うのも……昼時のように、そう上手く行くとはデストワイルダーには思えなかった。    デストワイルダーは北上していた。街にいる参加者は集合し、また周囲を警戒している。牙王と一度距離を取って街から離れたついでに、いきなり飛び込むのではなく、単純に一度様子を見ようと言った程度の考えだっただろうが。  消耗から動きが鈍り、停滞していたその時――デストワイルダーは背筋に冷たいものを感じた。  市街地の反対側をバッと振り向いた彼は、直後、どうして振り返ってしまったのかと激しく後悔することになる。  デストワイルダーは、彼を呑み込めるほどに巨大な蛇の身体が描いた円の中に囲まれていた――  ――突如として沸き上がった恐怖からそんな光景を幻視し、獣は恐怖のまま一歩後退する。  その脚に感じたのは、ただ長く伸びた草が掠っただけだと言うのに。  無数の蛇がその全身に絡み付き、足が地面から抜け出せなくなったかのように感じる。  夜の草原で闇に包まれ、輪郭しか見えない無数の雑草が鎌首をもたげた蛇の群れに見えてしまう。  このデストワイルダーを乱した原因は、北東から迫って来ている。その気配を確かに感じる。  その方角から、巨大な蛇が、その顎を開いて自身を丸呑みにしようと迫って来る――  ――そんな非現実的な光景を脳裏に描いてしまったデストワイルダーは、身体に溜まった疲れも無視して、足元のただの草を本当に蛇の群れであるかのように爪で切り裂いて血路を開き、脱兎の如く逃げ出した。  確かに彼に恐怖を植え付けたその力は強大――しかし、さすがにここまで取り乱さすほどの効力はないのだが、知性なきモンスターとはいえ、重傷の身であったことが、生存本能と繋がったその恐れをより増大させたのだろう。無論、デストワイルダーが見たものはただの幻覚だが、それを彼に視させた根源は、確かに北東からデストワイルダーの……市街地の方に迫りつつあった。  あるいは何度か直接戦い、ついこの間、二度に渡ってその猛威を見せつけられ――この恐怖の源のことをよく知っていたから、蛇などと言う具体的な恐怖のイメージが人間でもない獣にも現れたのかもしれない。  デストワイルダーが走り去った、その背後――草原に、一台のバイクが現れつつあった。  ――時間は少し巻き戻る。  B-3エリアの草原で、浅倉威は目を覚ました。 「あぁー……」  上体を起こした浅倉は王蛇に変身した時のように首を捻ると、そう息を漏らした。  体調は万全とはいかないが、戦う分にはそこまで問題は出ない程度に回復している。何より疲れやダメージのことを忘れさせるほどの力が自身の内を駆け巡っていることが感じられる。わざわざ昼寝たばかりなのにまた眠りに就いた甲斐はあったと言えるだろう。 「……はっ、ちょうど良い時間じゃねぇか」  時刻を確認すれば、気絶する直前――最後に使った変身手段であるテラー・ドーパントの変身を解いてから、およそ二時間が過ぎていた。  緑色の怪人へと変貌した白いスーツの男との戦いでテラー・ドーパントへと変身を果たした時も、東京タワーへ向かう寸前、E-5エリアで最初にテラー・ドーパントと化してから、およそ二時間が経過していた。霧島美穂との戦いを通じて、変身に制限が掛けられており同じ姿への変身は連続では行えないことは既に把握していた。その待機時間も、最前の変身で割り出すことができた。  既に力は戻っている。眠りに着く前よりさらに溢れ出ている力、そして内に感じるこの衝動は、浅倉がいつでもテラー・ドーパントに変身できることを示している。つまり、それ以前に使用した全ての変身能力も、問題なくその本来の力を発揮できるということだ。  浅倉とは別人の変身したファムと戦った後、大して時間を置かずに浅倉自身がファムに変身したことから、変身道具ではなく、人物が同一の姿に変身することに制限を架していることもわかる。つまり、他の参加者から変身道具を奪えば仮に自身の変身が全て制限されていてもライダーバトルを楽しむことはできると言うことだ。  制限など、大ショッカーも余計な真似をしてくれたものだとイライラするが、変身できないならその時は最初に殺した男のように別に素手で戦っても良い。要は暴力の渦中に身を置いてイライラさえ晴らせれば浅倉にとっては何だって良いのだ。  そしてそれを叶えるためにはいくらでも思考を回す。より多くの戦いを楽しむためには時に撤退も選ぶし、神崎士郎――そして大ショッカーの開いたこのライダーバトルが終われば、報酬として終わらない戦いを願うという極めて単純ながら解決策も考えてある。狂えるモンスターと称される浅倉だが、その彼なりの価値観を基準にすれば論理的に策を巡らせる能力はある。始末したい相手を連れて来させるために人情を煽る演技もこなすし、馬鹿な人権派気取りとはいえ仮にも弁護士を騙して脱獄するという芸当もする。ただ、彼が常に戦いを求めるから忘れる者が多いだけなのだ。  浅倉威は――蛇とは、ある神話において人類の祖を唆したように狡猾な一面を持ち合わせている、ただの獣以上に危険な存在であるということを。  誇りを尊ぶ戦士ではなく、自らに見合う獲物を求める狩人でもなく、己を脅かす敵対者を欲する絶対者でもない。ましてやそれぞれの願いや護るモノのために闇に堕ちた暗殺者でも、人類の自由と平和を護る正義の味方でもない。  狂える蛇は、殺し合いと言う名の餌場で、ただ感情の赴くままに目に付く全ての贄を呑み込んで行く――そういう生き物なのだ。  自分達に用意された制限についての解明も、その時になってイライラしないためには必要なことだろう。  テラードラゴンは身体中を駆け巡る記憶にあるものと違い、一分程度しか召喚できなかった。先の戦闘で緑色の怪人が召喚したマグナギガもいつの間にか消えたことから、ミラーモンスターにも同様の制限が施されていると考えた方が良いだろう。ファイナルベントへの影響はわからないが、もしもアドベントとファイナルベントによる召喚が共通の制限だった場合を考え注意すべきか。  そのファイナルベントのことを考えると、仮に共通だった場合、余計なことをしなければ最低限変身するごとに一度使えるよう、同程度の待機時間が必要になる制限が掛かっている可能性が高い。つまり、モンスター達の召喚も一度行えば待機時間に二時間ほどを要すると考えられる。  となると、王蛇のデッキは複数のミラーモンスターと契約しているアドバンテージを活かすべく、ユナイトベントばかりでなく一体ずつ使用して行くべき場面もあるだろう。 「……どうした?」  そうミラーモンスターについて思考を巡らせていた浅倉が呼び掛けたのは、サイドバッシャーのミラーに映っている巨大な白鳥――ブランウイング。  本来の契約者である霧島美穂の因縁の敵であり、彼女を殺した浅倉威を憎みながらも、デッキと共に奪われた契約のカードによって縛られているミラーモンスター。  それでも絶えず浅倉への敵意を燃やしていたはずが……浅倉が目を覚ましたことに怯えるように縮こまり、カタカタと震えていた。  エビルダイバーやメタルゲラスも同様――変わりがないのは、別に心を許しているわけではないが、浅倉にとって一番の相棒と言えるベノスネーカーのみ。  理由はこの身を巡る記憶が教えてくれる――今の浅倉は、全ての他者に恐怖という名の毒を撒き散らしているのだと。  恐怖による支配とは古典的だが、有効な手段だ。前と違って他の人間を餌にしても今のこいつらなら拒否はしないだろう、面倒が一つ減ったと浅倉は認識する。  しかし、寝る前はここまで怯えていただろうか。そんな疑問があったので、一言だけ告げておく。 「ビビんのは勝手だが、戦いの時に動けないとかはやめろよ? ……なぁ」  浅倉が鼻で笑うようにそう告げれば、さらに怯えたのか三匹のミラーモンスターはそれぞれ一歩ずつ下がった。  その光景を見てもう一度鼻を鳴らしつつ、浅倉はデイパックを身に付けサイドバッシャーに跨る。  緑の怪人との戦いでは、バトルモードの性能もある程度試すことができた。二足歩行型重戦車の格闘能力や機動性は未知数だが、ゾルダのファイナルベントにも匹敵するようなその圧倒的な火力については把握できた。ただの移動手段としてだけではなく、戦力としても十分に使って行ける。じゃじゃ馬だったハードボイルダーと比べて随分得な物を拾ったと浅倉は頬を歪める。 「行くか……次の祭りの場所に」  殺し合いを、悦楽を得るための祭りと呼び――目覚めた蛇は、再びこの地での活動を開始した。  ――浅倉威は気づいていなかった。  いや――何となく勘付いてはいるが、本人にとっては別段重要なことではないため、特別に考えなかったという方が正しいか。  自身に宿るテラーの力――それをより強く引き出せるようになっていることに。  ――人の記憶に関するここ近年の研究では、睡眠中の方が覚えたばかりの近時記憶を改変したり混乱させたりする出来事に対して、起床時よりも強い抵抗力を持つことが明らかになったという。  近時記憶は脳の海馬に蓄えられ、すぐには定着しないということは有名な話である。また、記憶直後にその記憶を再活性化することで、記憶が脳内のハードディスクドライブである新皮質に移り、長期的に保管されることも従来の研究で知られていることだ。  だが生体が起床時に記憶を再活性化しようとすると、記憶の想起が不安定な状態に置かれることになる。例えば、ある詩を暗記した後で次の詩を暗記し始めてから、一つめの詩の記憶を再活性化しても長期記憶に保管され難くなる。  これに対して研究者が脳の画像分析をしたところ、睡眠後わずか数分で海馬から新皮質への新情報の移動が始まっていた。40分の睡眠後には、新たな記憶に妨害されない長期保管の領域に、十分な量の記憶が保管されたのだという。  これは単純な暗記などについての研究ではあるが、人間にとって『記憶』の定着を、睡眠が補助することがある一例として挙げることができるだろう。  そして浅倉は、テラーメモリを食し、その記憶を取り込んだ後――強烈な睡魔に襲われ、眠りに就いていた。  だがこれまで幾度となくライダーバトルを繰り広げて来た――事実としてその後、常人には満足に扱えないようなハードボイルダーの馬力を無理矢理ねじ伏せ消耗した上で霧島美穂と二度戦い、左翔太郎及びに紅音也と激突し、さらにはアポロガイストを追撃し、ほとんど休む間もなく合計で四連戦を果たせるような浅倉が、たった一度の戦闘でそこまで疲弊するなど本来はあり得ない。  それも全ては、呑み込んだ記憶の力をその身に定着させるため――本人の意識さえ越えて、身体が判断した行為だったのかもしれない。  もちろん、これはただの暴論かもしれないが――地球の記憶を直接取り込んだ人間など過去に例がないため、事実そうなっている以上、他に説明のしようがないのだ。  そしてまた、アポロガイストとの戦いで身体に根付いた記憶の力を強く呼び覚ましたドーパント状態となった、その直後に眠りに就いたことで――  蛇の身に宿る、恐怖という毒を振り撒く記憶は、その力をより強く彼に定着させていたのだ。  無論、今更テラー・ドーパントの力が増したわけではない。  だがドーパントへと変身せずとも、常時浅倉が身体から発するその呪いが、より変身後のそれに近い強さへと、引き上げられていたのだ。  故に、他の要因も存在したが、人の身のままでもデストワイルダーに幻覚を見せるほどの恐怖を植え付け――  直接力を呑み込んだ蛇は、首輪による制限を受けてもなお、テラーメモリの本来の所有者である園咲琉兵衛と同等にまで、その呪いの効力を強くしていた。  それこそ、究極の闇を齎す者という、絶対の魔王をも退けたほどの毒を得た蛇は―― 「待っていろ、仮面ライダー……」  ――新たな獲物を求め、夜の市街地へと侵入しようとしていた。 【1日目 夜中】 【C-2  道路】 【浅倉威@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 死亡後 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、興奮状態、サイドバッシャーに搭乗中 【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、サイドバッシャー@仮面ライダー555 【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実 【思考・状況】 1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。 2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。 3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。 4:とりあえず南方の街を目指す。 【備考】 ※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。 ※ヘラクスゼクターに認められました。 ※エビルダイバー、メタルゲラスが王蛇と契約しました。これによりユナイトベントが使用可能になりました。 ※変身制限、及びモンスター召喚制限についてほぼ詳細に気づきました。 ※ドーパント化した直後に睡眠したことによってさらにテラーの力を定着させ、強化しました(強化されたのはドーパント状態ではなく、変身していない状態での周囲に対するテラーの影響具合です)。今後も強化が続くかどうか、また首輪による制限の具合は後続の書き手さんにお任せします。 【全体事項】 ※デストワイルダーに浅倉に対する強い恐怖が植え付けられました。デストワイルダーは後1時間現実世界に出現できません。またデストワイルダーも市街地の方に向かいましたが、今後どう行動するのかは後続の書き手さんにお任せします。 |096:[[Tを継いで♭再戦(後篇)]]|投下順|098:[[新たなる思い]]| |096:[[Tを継いで♭再戦(後篇)]]|時系列順|098:[[新たなる思い]]| |076:[[橋上の戦い]]|[[浅倉威]]|:[]]| ----
*眠りが覚めて ◆/kFsAq0Yi2  古来より、蛇は時に信仰され、時に嫌悪されて来た。  不死の象徴として世界各地で崇拝された一方、神と同格視されるほど強大な蛇が、無力な大勢の人間を己が贄にし、時には神さえもその牙と毒で殺すという伝説も、決して珍しいものではない。  太古の神話から、現在に至るまでの芸術品などでも、蛇とは恐怖の象徴として描かれている。  人間にはそうした蛇に対する恐怖が、本能レベルで記憶されているとする学説も存在するほどだ。  ――それならこの暴虐に飢えた蛇が、星の内包した『恐怖』の記憶を呑みこんだのは、ある意味では必然のことだったのかも知れない…… ◆  現実ではなく、鏡の中の世界――ミラーワールドで力なく歩く、傷ついた獣の姿があった。  その名はデストワイルダー。既にこのバトルロワイヤルにおいて脱落した、東條悟の契約モンスターだった虎型の怪人である。  東條とデストワイルダーの間で結ばれた契約は、彼が落命する前に既に破棄されている――それでもデストワイルダーは、東條が死に際戦った橘朔也を、彼の死の一因となった小野寺ユウスケを、まるで仇討ちのように襲撃していた。  だが相棒のライダーもおらず、消耗したところを狙ってもどちらも邪魔が入った。二度の戦いでデストワイルダーが身に受けたダメージは重く、本来強力なモンスターである彼ももはやまともに仮面ライダーや怪人と戦う力は残されていなかった。  消耗した相手を狙おうにも、空間自体に掛けられた制限によって、ミラーモンスターは二時間に一度、最大で一分間しか現実世界に出現できない。それで仕留め切るのは難しい物があった。  いや、デストワイルダーを苦しめる問題はそこではない。  その身に蓄積されたダメージを癒すために、今のデストワイルダーでも簡単に手に入れられる餌を求めて、獣はミラーワールドをアテもなく流離っていた。  今、小野寺ユウスケや周辺の参加者を狙うのは無理がある。彼らを管理下に置いた、強靭な捕食者――奴に睨みを効かされている。奴が他のライダーのカードデッキを手に入れ、契約モンスターに常に警戒させているからなおさらだ。  負傷者の集まる病院を狙うと言うのも……昼時のように、そう上手く行くとはデストワイルダーには思えなかった。    デストワイルダーは北上していた。街にいる参加者は集合し、また周囲を警戒している。牙王と一度距離を取って街から離れたついでに、いきなり飛び込むのではなく、単純に一度様子を見ようと言った程度の考えだっただろうが。  消耗から動きが鈍り、停滞していたその時――デストワイルダーは背筋に冷たいものを感じた。  市街地の反対側をバッと振り向いた彼は、直後、どうして振り返ってしまったのかと激しく後悔することになる。  デストワイルダーは、彼を呑み込めるほどに巨大な蛇の身体が描いた円の中に囲まれていた――  ――突如として沸き上がった恐怖からそんな光景を幻視し、獣は恐怖のまま一歩後退する。  その脚に感じたのは、ただ長く伸びた草が掠っただけだと言うのに。  無数の蛇がその全身に絡み付き、足が地面から抜け出せなくなったかのように感じる。  夜の草原で闇に包まれ、輪郭しか見えない無数の雑草が鎌首をもたげた蛇の群れに見えてしまう。  このデストワイルダーを乱した原因は、北東から迫って来ている。その気配を確かに感じる。  その方角から、巨大な蛇が、その顎を開いて自身を丸呑みにしようと迫って来る――  ――そんな非現実的な光景を脳裏に描いてしまったデストワイルダーは、身体に溜まった疲れも無視して、足元のただの草を本当に蛇の群れであるかのように爪で切り裂いて血路を開き、脱兎の如く逃げ出した。  確かに彼に恐怖を植え付けたその力は強大――しかし、さすがにここまで取り乱さすほどの効力はないのだが、知性なきモンスターとはいえ、重傷の身であったことが、生存本能と繋がったその恐れをより増大させたのだろう。無論、デストワイルダーが見たものはただの幻覚だが、それを彼に視させた根源は、確かに北東からデストワイルダーの……市街地の方に迫りつつあった。  あるいは何度か直接戦い、ついこの間、二度に渡ってその猛威を見せつけられ――この恐怖の源のことをよく知っていたから、蛇などと言う具体的な恐怖のイメージが人間でもない獣にも現れたのかもしれない。  デストワイルダーが走り去った、その背後――草原に、一台のバイクが現れつつあった。  ――時間は少し巻き戻る。  B-3エリアの草原で、浅倉威は目を覚ました。 「あぁー……」  上体を起こした浅倉は王蛇に変身した時のように首を捻ると、そう息を漏らした。  体調は万全とはいかないが、戦う分にはそこまで問題は出ない程度に回復している。何より疲れやダメージのことを忘れさせるほどの力が自身の内を駆け巡っていることが感じられる。わざわざ昼寝たばかりなのにまた眠りに就いた甲斐はあったと言えるだろう。 「……はっ、ちょうど良い時間じゃねぇか」  時刻を確認すれば、気絶する直前――最後に使った変身手段であるテラー・ドーパントの変身を解いてから、およそ二時間が過ぎていた。  緑色の怪人へと変貌した白いスーツの男との戦いでテラー・ドーパントへと変身を果たした時も、東京タワーへ向かう寸前、E-5エリアで最初にテラー・ドーパントと化してから、およそ二時間が経過していた。霧島美穂との戦いを通じて、変身に制限が掛けられており同じ姿への変身は連続では行えないことは既に把握していた。その待機時間も、最前の変身で割り出すことができた。  既に力は戻っている。眠りに着く前よりさらに溢れ出ている力、そして内に感じるこの衝動は、浅倉がいつでもテラー・ドーパントに変身できることを示している。つまり、それ以前に使用した全ての変身能力も、問題なくその本来の力を発揮できるということだ。  浅倉とは別人の変身したファムと戦った後、大して時間を置かずに浅倉自身がファムに変身したことから、変身道具ではなく、人物が同一の姿に変身することに制限を架していることもわかる。つまり、他の参加者から変身道具を奪えば仮に自身の変身が全て制限されていてもライダーバトルを楽しむことはできると言うことだ。  制限など、大ショッカーも余計な真似をしてくれたものだとイライラするが、変身できないならその時は最初に殺した男のように別に素手で戦っても良い。要は暴力の渦中に身を置いてイライラさえ晴らせれば浅倉にとっては何だって良いのだ。  そしてそれを叶えるためにはいくらでも思考を回す。より多くの戦いを楽しむためには時に撤退も選ぶし、神崎士郎――そして大ショッカーの開いたこのライダーバトルが終われば、報酬として終わらない戦いを願うという極めて単純ながら解決策も考えてある。狂えるモンスターと称される浅倉だが、その彼なりの価値観を基準にすれば論理的に策を巡らせる能力はある。始末したい相手を連れて来させるために人情を煽る演技もこなすし、馬鹿な人権派気取りとはいえ仮にも弁護士を騙して脱獄するという芸当もする。ただ、彼が常に戦いを求めるから忘れる者が多いだけなのだ。  浅倉威は――蛇とは、ある神話において人類の祖を唆したように狡猾な一面を持ち合わせている、ただの獣以上に危険な存在であるということを。  誇りを尊ぶ戦士ではなく、自らに見合う獲物を求める狩人でもなく、己を脅かす敵対者を欲する絶対者でもない。ましてやそれぞれの願いや護るモノのために闇に堕ちた暗殺者でも、人類の自由と平和を護る正義の味方でもない。  狂える蛇は、殺し合いと言う名の餌場で、ただ感情の赴くままに目に付く全ての贄を呑み込んで行く――そういう生き物なのだ。  自分達に用意された制限についての解明も、その時になってイライラしないためには必要なことだろう。  テラードラゴンは身体中を駆け巡る記憶にあるものと違い、一分程度しか召喚できなかった。先の戦闘で緑色の怪人が召喚したマグナギガもいつの間にか消えたことから、ミラーモンスターにも同様の制限が施されていると考えた方が良いだろう。ファイナルベントへの影響はわからないが、もしもアドベントとファイナルベントによる召喚が共通の制限だった場合を考え注意すべきか。  そのファイナルベントのことを考えると、仮に共通だった場合、余計なことをしなければ最低限変身するごとに一度使えるよう、同程度の待機時間が必要になる制限が掛かっている可能性が高い。つまり、モンスター達の召喚も一度行えば待機時間に二時間ほどを要すると考えられる。  となると、王蛇のデッキは複数のミラーモンスターと契約しているアドバンテージを活かすべく、ユナイトベントばかりでなく一体ずつ使用して行くべき場面もあるだろう。 「……どうした?」  そうミラーモンスターについて思考を巡らせていた浅倉が呼び掛けたのは、サイドバッシャーのミラーに映っている巨大な白鳥――ブランウイング。  本来の契約者である霧島美穂の因縁の敵であり、彼女を殺した浅倉威を憎みながらも、デッキと共に奪われた契約のカードによって縛られているミラーモンスター。  それでも絶えず浅倉への敵意を燃やしていたはずが……浅倉が目を覚ましたことに怯えるように縮こまり、カタカタと震えていた。  エビルダイバーやメタルゲラスも同様――変わりがないのは、別に心を許しているわけではないが、浅倉にとって一番の相棒と言えるベノスネーカーのみ。  理由はこの身を巡る記憶が教えてくれる――今の浅倉は、全ての他者に恐怖という名の毒を撒き散らしているのだと。  恐怖による支配とは古典的だが、有効な手段だ。前と違って他の人間を餌にしても今のこいつらなら拒否はしないだろう、面倒が一つ減ったと浅倉は認識する。  しかし、寝る前はここまで怯えていただろうか。そんな疑問があったので、一言だけ告げておく。 「ビビんのは勝手だが、戦いの時に動けないとかはやめろよ? ……なぁ」  浅倉が鼻で笑うようにそう告げれば、さらに怯えたのか三匹のミラーモンスターはそれぞれ一歩ずつ下がった。  その光景を見てもう一度鼻を鳴らしつつ、浅倉はデイパックを身に付けサイドバッシャーに跨る。  緑の怪人との戦いでは、バトルモードの性能もある程度試すことができた。二足歩行型重戦車の格闘能力や機動性は未知数だが、ゾルダのファイナルベントにも匹敵するようなその圧倒的な火力については把握できた。ただの移動手段としてだけではなく、戦力としても十分に使って行ける。じゃじゃ馬だったハードボイルダーと比べて随分得な物を拾ったと浅倉は頬を歪める。 「行くか……次の祭りの場所に」  殺し合いを、悦楽を得るための祭りと呼び――目覚めた蛇は、再びこの地での活動を開始した。  ――浅倉威は気づいていなかった。  いや――何となく勘付いてはいるが、本人にとっては別段重要なことではないため、特別に考えなかったという方が正しいか。  自身に宿るテラーの力――それをより強く引き出せるようになっていることに。  ――人の記憶に関するここ近年の研究では、睡眠中の方が覚えたばかりの近時記憶を改変したり混乱させたりする出来事に対して、起床時よりも強い抵抗力を持つことが明らかになったという。  近時記憶は脳の海馬に蓄えられ、すぐには定着しないということは有名な話である。また、記憶直後にその記憶を再活性化することで、記憶が脳内のハードディスクドライブである新皮質に移り、長期的に保管されることも従来の研究で知られていることだ。  だが生体が起床時に記憶を再活性化しようとすると、記憶の想起が不安定な状態に置かれることになる。例えば、ある詩を暗記した後で次の詩を暗記し始めてから、一つめの詩の記憶を再活性化しても長期記憶に保管され難くなる。  これに対して研究者が脳の画像分析をしたところ、睡眠後わずか数分で海馬から新皮質への新情報の移動が始まっていた。40分の睡眠後には、新たな記憶に妨害されない長期保管の領域に、十分な量の記憶が保管されたのだという。  これは単純な暗記などについての研究ではあるが、人間にとって『記憶』の定着を、睡眠が補助することがある一例として挙げることができるだろう。  そして浅倉は、テラーメモリを食し、その記憶を取り込んだ後――強烈な睡魔に襲われ、眠りに就いていた。  だがこれまで幾度となくライダーバトルを繰り広げて来た――事実としてその後、常人には満足に扱えないようなハードボイルダーの馬力を無理矢理ねじ伏せ消耗した上で霧島美穂と二度戦い、左翔太郎及びに紅音也と激突し、さらにはアポロガイストを追撃し、ほとんど休む間もなく合計で四連戦を果たせるような浅倉が、たった一度の戦闘でそこまで疲弊するなど本来はあり得ない。  それも全ては、呑み込んだ記憶の力をその身に定着させるため――本人の意識さえ越えて、身体が判断した行為だったのかもしれない。  もちろん、これはただの暴論かもしれないが――地球の記憶を直接取り込んだ人間など過去に例がないため、事実そうなっている以上、他に説明のしようがないのだ。  そしてまた、アポロガイストとの戦いで身体に根付いた記憶の力を強く呼び覚ましたドーパント状態となった、その直後に眠りに就いたことで――  蛇の身に宿る、恐怖という毒を振り撒く記憶は、その力をより強く彼に定着させていたのだ。  無論、今更テラー・ドーパントの力が増したわけではない。  だがドーパントへと変身せずとも、常時浅倉が身体から発するその呪いが、より変身後のそれに近い強さへと、引き上げられていたのだ。  故に、他の要因も存在したが、人の身のままでもデストワイルダーに幻覚を見せるほどの恐怖を植え付け――  直接力を呑み込んだ蛇は、首輪による制限を受けてもなお、テラーメモリの本来の所有者である園咲琉兵衛と同等にまで、その呪いの効力を強くしていた。  それこそ、究極の闇を齎す者という、絶対の魔王をも退けたほどの毒を得た蛇は―― 「待っていろ、仮面ライダー……」  ――新たな獲物を求め、夜の市街地へと侵入しようとしていた。 【1日目 夜中】 【C-2  道路】 【浅倉威@仮面ライダー龍騎】 【時間軸】劇場版 死亡後 【状態】疲労(中)、ダメージ(中)、興奮状態、サイドバッシャーに搭乗中 【装備】カードデッキ(王蛇)@仮面ライダー龍騎、ライダーブレス(ヘラクス)@劇場版仮面ライダーカブト GOD SPEED LOVE、カードデッキ(ファム)@仮面ライダー龍騎、鉄パイプ@現実、ランスバックル@劇場版仮面ライダー剣 MISSING ACE、サイドバッシャー@仮面ライダー555 【道具】支給品一式×3、サバイブ「烈火」@仮面ライダー龍騎、大ショッカー製の拡声器@現実 【思考・状況】 1:イライラを晴らすべく仮面ライダーと戦う。 2:特に黒い龍騎(リュウガ)は自分で倒す。 3:殴るか殴られるかしてないと落ち着かない、故に誰でも良いから戦いたい。 4:とりあえず南方の街を目指す。 【備考】 ※テラーメモリを美味しく食べた事により、テラー・ドーパントに変身出来るようになりました。またそれによる疲労はありません。 ※ヘラクスゼクターに認められました。 ※エビルダイバー、メタルゲラスが王蛇と契約しました。これによりユナイトベントが使用可能になりました。 ※変身制限、及びモンスター召喚制限についてほぼ詳細に気づきました。 ※ドーパント化した直後に睡眠したことによってさらにテラーの力を定着させ、強化しました(強化されたのはドーパント状態ではなく、変身していない状態での周囲に対するテラーの影響具合です)。今後も強化が続くかどうか、また首輪による制限の具合は後続の書き手さんにお任せします。 【全体事項】 ※デストワイルダーに浅倉に対する強い恐怖が植え付けられました。デストワイルダーは後1時間現実世界に出現できません。またデストワイルダーも市街地の方に向かいましたが、今後どう行動するのかは後続の書き手さんにお任せします。 |096:[[Tを継いで♭再戦(後篇)]]|投下順|098:[[新たなる思い]]| |096:[[Tを継いで♭再戦(後篇)]]|時系列順|098:[[それぞれの決意(前篇)]]| |076:[[橋上の戦い]]|[[浅倉威]]|:[]]| ----

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