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カンタータ・オルビス - (2011/01/05 (水) 21:29:15) の最新版との変更点

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*カンタータ・オルビス◆LQDxlRz1mQ  戦いの神──その異名を持つ戦士が、相刀を構えたまま二人の戦士を見つめる。  自分の世界を守るために他人の命を消し去る覚悟を背負った二人の戦士。  彼らの重い戦いを、彼は知らない。  仮面ライダーが二人。怪人が一人。  だが、これはダブルライダーが怪人と対峙する、という王道展開にはなり得ない。  彼らは互いに敵なのだから。  重力の赴くままに地を蹴ってエンジンブレードを振り下ろしたのは、仮面ライダーキバであった。  その狙い目は、タブー・ドーパントである。  が、その重力というものを無視するように、タブーは浮遊して後退する。振り下ろす間に、長い隙が出来るのは当然のことともいえる。  小さな竜巻が、振り下ろした地面に一瞬だけ吹き乱れる。風の形を見えなくしたのは、地を焼いた火花だ。  焦げの臭いすらもすき飛ばすように、紅の光がエンジンブレードを包み込んだ。  それが、熱いと感じるまでにキバの脳はエンジンブレードを置いて後退するという手を考えさせなかった。  その手は、自然と力を入れることを拒む。エンジンブレードの全てが、地面に落ちていた。  手ぶらになったキバを、タブーの次の一撃が待つ。 「食らいなさい」  キバの体の軋みはその命令に従順であった。意思がそうしているわけではないが、キバの体を赤いエネルギーが吹き飛ばす。  宙を歩く目の前の敵に、強い重力の攻撃は効果が薄い。  キバは立ち上がると、エンジンブレードを拾おうともせずにタブーを睨んだ。  ──どうすべきか  目の前の敵に適切な力は、ヒットが短く、刀身の重いエンジンブレードではない。  飛び道具であるバッシャーマグナムだ。  キバはそんな思考と共に、バッシャーのフエッスルを握る。 「バッシャーマグナム!」  フエッスルを噛んだキバットは武器を喚ぶ。  本来ならばキャッスルドランから排出されるはずのバッシャーの武器は、意外な場所から現われた。  加賀美のデイパックである。デイパックから飛び出てきた胸像を、躊躇いながらもキバは握る。  それはキバの能力を変える武器であった。  バッシャーフォーム。緑を帯びたキバは、タブーの体に照準を合わせる。  だが、それが銃の形をした以上、タブーがそう簡単にそれに当たるはずがなかった。  銃口が向いていれば、弾丸を避けるのも難しいことではない。  引き金を引く瞬間に、弾丸の軌道から体を反らせばいいだけなのだから。タイミングに問題さえなければ、当たらない。  一発、二発、三発、四発。  その全ての弾丸が虚空に消えていく。  だが、飛び道具を使うのは彼だけではなかった。  真横から受ける、五発、六発、七発、八発目の弾丸。それは、ガタックの肩に装備された、ガタックバルカンの雨である。  まるで鴨が撃ち落されたかのように、タブーはふらふらと抵抗を続けながら重力に流されていく。  それを、キバは見逃しはしなかった。  彼の手は既に、先ほど地面に捨てたはずのエンジンブレードを握り、タブーの落下予測地点を捉えて走っていた。  エンジンブレードの刃を天に向けたキバが、果たして何をしようというのか──ガタックは、加賀美は恐ろしい想像をする。  ──串刺し。 「渡君っ……!!」  ガタックはそんなキバの行動に「狂気」を感じていた。  彼がそれを望んで、楽しんでやっているわけではないというのは理解できる。──が、いくら敵が怪人といえど、そんな殺人に抵抗を見せない紅渡の行動を、肯定しようとは思わなかった。  咄嗟に、そう、咄嗟に──  ──CAST OFF──  そんなキバを、止める。蛹から脱皮するように、そこから青いクワガタが姿を見せた。  脱皮した「ぬけがら」はあと一秒で鴨を突き刺そうというキバを吹き飛ばす。  それとほぼ同時に、キバの手から重量が離される。  青い幻影が、キバの手から刃を奪っていた。抗う間もなく──それもまた、ガタックであった。 「ちょ、超加速……?」  倒れ付すタブーは、その一瞬の出来事に戸惑いを覚える。  知覚も難しいほどのスピードで地面を走った青い風。  まるで、どこかのゴキブリのような力である。  そんな戸惑いのタブーとは逆に、キバは立ち上がり、バッシャーマグナムをガタックに向ける。  それは、あと一歩で敵を仕留めることができたキバの、怒りと嫉妬が込められていた。 「やめろ、渡君……っ!!」  引き金を引いたキバも、それを当てた感触がないことに気づく。  やはり、その──加速というシステムが厄介であった。  一秒前のガタックを貫いたはずの弾丸は、今のガタックのいる場所を、ずっと前に過ぎ去っているのだから。 「渡、お前のやっていることは間違っちゃいない。だが……」  ガタックに代わり、ベルトのバックルがキバに語りかけた。 「──お前らしくねえじゃねえか、こんなの」  キバットは寂しそうに渡を諭す。  キバの力を与える根源は、渡が残酷無比なやり方で敵を倒すことに、流石に抵抗を感じていたのだろう。  黙っていたとしても、それは確かに彼の心の中に矛盾を生み出していた。  敵を倒すことに、手段を選ぶ必要はない。相手が冷酷ならば尚更だ。  ──だが、それは紅渡らしくはない。生き物を殺すことに抵抗を感じず、まして残酷にそれを殺めようというのは、人間の血を受け継いでいるものとして、間違っている気がするからだ。 「でも、僕はファンガイアを倒すんだ……大切な人の音楽を護るために──」 「それなら、それでやり方ってもんがあるだろうが……お前の、お前らしいやり方が」  キバットの言葉に、一瞬だけ鼓音が高まる。  もちろん、キバットは渡がどうやって世界を守ろうとしているかをまだ知らない。  だが、そんな渡のスタンスをわかったうえで否定しているかのようなキバットの言葉。 「──それでも」  バッシャーマグナムの銃口がタブーを狙う。  今のタブーは、身動きが苦手であった。立ち上がろうと、這い上がろうと、生き残ろうと、地面を押して足に力を込め、必死で戦おうとする彼女の姿に、何かが揺らぎかけた。  が、渡の思いは変わらない。 「守りたい世界があるんだ!!」  バッシャーマグナムの口が、次々と光を放つ。  何発も、何発も。手加減などしない。死体になっていたとしても、撃ちつづける。  そうでもないと、渡の精神が敵の攻撃を恐れ続けるのだ。  世界を背負った彼を、プレッシャーが襲っている。  渡の命は渡のものだけではないのだという、重さ。  だから、敵の攻撃を食らってはいけないという精神的圧迫に見舞われる。  もはや、何も見えてはいなかった。  ただ、目の前で数え切れないほどの光が連射し続けられているというのは認識できた。  それを止めたのは、ほかならぬキバ自身であった。  渡ではない。キバットの羽がバッシャーマグナムを吹き飛ばしたのだ。 「なあ、もういいだろ、渡」  キバの視界に、ようやく眼前の光景が見え始めていた。  やはり、と渡もキバットも思っていた。  ガタックがそこにいる。エンジンブレードを盾に、そこで弾丸を受け続けていたのだ。  彼はただ、ひたすらにタブー・ドーパントという自分を襲った怪人を庇い続けていた。  園咲冴子のためではなく、紅渡のために──。 「渡君……誰かの為に戦うことは、素晴らしいことだと思う。  ……でも! そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!」  ガタックは、そう言い切る。  仮面ライダーガタックは、その言葉と共にエンジンブレードを地面に突き刺した。  いや、杖にしていたのだ。  流石に、何発かの攻撃を彼は受けていたのだから。 「──隙あり、よ」  タブー・ドーパントの声と、バッシャーのものではない乱射音。  彼女の支給品は、GX-05 ケルベロスというガトリングガンであった。  人間の手に開発されたとは思えないほどに、その威力は凄まじい。  ガタックの背中を、幾度とない弾丸の嵐が突き刺した。  クロックアップする間もない、怒涛の攻撃。  タブーの持つ、強力な支給品とはこのケルベロスのことだったのだ。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」  止まない悲鳴。  仮面ライダーから発される、人間の声。  わずか数秒で、そのガトリングガンは音を止む。しかし、その余韻としてガタックの背中に残った痛みは強かった。  ガタックの力が消え、──加賀美新のうつ伏せがその場に残った。  硝煙の臭い。背中を焦がすような熱。  ガタックの力から解放された彼にも、その激痛が身を焦がす。  一方、ケルベロスを構えているのもドーパントではなく、人間であった。  それは園咲冴子に間違いない。  息を切らした彼女もまた、硝煙の臭いを厄介に思っていた。  ──それは、女として生理的に厭というだけだったが。  そこにいる異形は、ただひとり。仮面ライダーキバ。  好機といえる状況である。当然、人は仮面ライダーに勝てない。  人の頭を潰すにかかる時間は、一秒もかからないだろう。  キバは加賀美に近づき、エンジンブレードを拾い上げた。  重い。やはり、ずっしりとくる。 「おい、何をする気だ!? 渡ッ!!」  キバットの声を、渡は聞こうともしない。  ただ、それを高く振り上げるのみ。  ──そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!  彼はそう言った。  それが仮面ライダーなら、 「──僕は、仮面ライダーじゃない」  そんなキバの前を、加賀美を庇うようにガタックゼクターが飛び回る。  自らの選んだ相手を失いたくないと、キバの邪魔をするガタックゼクター──その心情は渡の殺し合いに乗った理由にも似ている。  だが、加賀美を倒すうえでの障害となるのが確かであったそれを、キバは拳で叩き落とす。  ガタックゼクターは羽音を鈍らせ、地面に落ちた。 「ガタックゼクター!!」  そんな自分の相棒を見ると、加賀美も決して振り上げられようというエンジンブレードにこのまま殺されようとはしなかった。  殺されてもいい。ただ、それが彼を止めることの手助けとなるのなら。  だが、ここで殺しを覚えた彼はきっと、このまま止まることはない──  加賀美は気合を振り絞り、震える足を立ち上がらせると、己の体ひとつでキバにタックルする。 (天道……お前なら、もっとマシなやり方ができたかもな……)  無論、人の力は仮面ライダーを超えられはしない。キバは微動だにしなかった。  だが、力が駄目なら、何か言葉をかけようと、加賀美は口を開く。 「お前はまだ、誰も殺してない! それなら──」  その時──  渡の体から、キバットが弾き出され、屈強な戦士・仮面ライダーキバは姿を消す。  代わりにあったのは、非力な青年・紅渡である。  変身制限。十分と定められていた時間を越えたキバは、渡へとその身を返した。  加賀美も、渡もそれには驚きを隠せなかった。  二人の口が自然と開く。目も見開く。  渡の頭上。力加減を変えなければ持ち上げることのできないエンジンブレードの刀身が、バランスを崩す。  止めようとしても止められない速度で、エンジンブレードはまっすぐ前に落ちていく。  そう、エンジンブレードは加賀美新の頭めがけて、落ちていたのだ。  それは、必然のように加賀美の頭を砕き、その中身を掘り出した。  血飛沫だけではなく、何か嫌な固体までも、渡の体を触っていく。  それが、人の死という事象だと渡は認識する。 「……うわ……うっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」  エンジンブレードは渡の手から滑り落ち、地面を撥ねた。  血まみれの渡は、頭を抱えて座り込む。  見たくない現実。そして、考えたくない未来。  ファンガイアではない。  人を、殺めた。  それがどういうことなのか、この鉄の味がわからせようとしていた。  キバットが何か、自分に向かって語らいかけているのが聞こえる。  当然だが、それは叱咤の声。そんなもの、聞きたくは無い。  ──心の底から加賀美をこんな風に殺めたかったわけではない。変身が急に解けてしまって、バランスを崩してしまったからこうなってしまった。  湧き上がる言い訳。それが、恐ろしいほどに自分を責める。 「……たるっ!! 渡っ!!!!」  キバットの怒号。  それを聞きたくない、と渡はふさぎ込む。 「危ねえぞ、渡っ!!!!」 (────え?)  キバットの声の真の意図をようやく悟った渡は顔を上げ、キバットの方に振り向いた。  そこにあるのは、キバットだけの姿ではない。  その後ろに見えるのは、ナイフを持った女性の姿であった。冴子である。 「戦え!! 渡!!」  冴子の突き出してきたナイフを、渡はよろけながらも回避する。  それを避けてもよろけたまま、渡は思うように動けない。  喪失感。失望感。絶望感。嫌悪感。罪悪感。  そして、強い恐怖感。  あらゆるものが、渡の体をうまく動かさせてくれなかった。  冴子が両手に持ち替えたナイフが振り上げられる。  あの時──あの瞬間と同じ。  こうして振り上げられた武器を、まっすぐに受けて加賀美は死んだ。  その瞬間に見えた光景が、渡の脳裏をよぎる。  ただ、何が起こったのかもわからずに刃先を見つめて驚愕の表情を浮かべた加賀美。  死ぬ恐怖が、彼の思考を一瞬止めていたに違いない。  そして今、渡は彼と同じ状況に陥っている。  そのとき、渡は咄嗟にあの時の加賀美の行動を実行していた。  効果的だと思ったからではない。この状況に加賀美の行動を連想させてしまったのだ。  タックル。武器を持った相手に、生身でぶつかるという無謀なワザ。  二人が、バランスを崩して地面に体をぶつけた。  ナイフはどこか。  渡は真っ先に、気になったものを探す。  だが、そんな思考は不意の悲鳴にかき消された。 「いったああぁっ!!!」 立ち上がると、冴子の左の太ももを血が汚しているのが見えた。見たところあまり深くはないが、ナイフが刺さったのだ。それでも充分、血が被服を染め上げていくのは早い。  和らぐ恐怖感。だが、罪悪感だけは膨れ上がっていく。  破裂してしまいそうなほどに、大きく膨れる。  それはきっと、萎むことを知らない。  悶える冴子。  彼女の目には何も映っていない。  渡の姿など、脇目にも映らず、ただその激痛と戦っている。  それを見ると、恐ろしさが募っていく。  他人にこれだけの痛みを与えないと誰かを守ることはできないというのだろうか……。 「僕は……それでも……」  恐る恐る冴子の体に近づいていく渡。  冴子はその姿をようやく認識する。自分が何度も殺そうとした相手であり、自分を殺そうとした相手。    ──また、相手の番が回ってきた。  そう、認識する。  渡はそのナイフを抜き取ろうと、冴子の太ももをめがけて走り出す。  一番手近な武器は間違いなく、それだった。  加賀美のグロテスクな死体の傍らに落ちる重量の重すぎるエンジンブレード。  弾丸の切れたケルベロス。  胸像の姿になったバッシャーマグナム。  それらより、今必要なのは抜き取って相手を仕留められるナイフ。  それを目がけ、渡は飛び掛った。  が、そんな渡の指先に痛みが走った。  キバットの牙が、渡を静止するように渡の指を強く噛んでいる。  力を与えるためではなく、失わせるために。 「いい加減にしろよ、渡!」 「うるさいっ!」  渡はそんなキバットを振り払う。  半泣きである。  その表情が、純粋な痛みのものではないというのは、その場にいる誰もが気づいていた。 「なんだか知らねえが、お前がやってるのは、『人の音楽を奪う』ってことじゃないのか……!?  あの兄ちゃんもお前の手で殺しちまって、これ以上罪を重ねるのか!? 渡!!」 「うるさいっ! うるさいよ、キバット!!  これが僕の世界を守るためにやらなきゃいけないことで、名護さんや深央さん、太牙さん……みんなを護るためのことなんだ。  だから──────」  言いかけた、その渡の口を塞ぐように一言、誰かが割り込む言葉をかけた。 「──一時休戦、でどう?」  冴子である。冴子は左足を軽く曲げたまま、辛苦を噛む表情で立ち上がり、渡とキバットを睨むように見つめていた。  彼女の形相は、終戦協定とは思えないほど──般若のように歪んでいる。 「私も私で、帰るべき世界がある。あなたにはあなたで、別の世界がある。  残念ながら結果的に敵になるけど、このままじゃあお互い不完全でしょう?  あなたは心が、私は体が不安定。このままゲームが進めば、二人とも脱落ね」 「……」 「あなたが戦って、私がトドメを刺す。それでどう? あなたは血を見なくていい……」 「やめろ、渡。こんなヤツの言うことを信用するんじゃないい!!」  キバットが渡の顔を見ると、腑抜けになった彼は今にも冴子の話に呑まれてしまいそうな表情になっていた。 「口うるさい蝙蝠は私が預かるわ。互いに変身道具や武器を交換して、戦うときだけ元通りにする。  そうすれば、私が裏切ってあなたを襲うこともないし、あなたが私を襲う心配もなくなる。  どう? このまま私とあなたで争っても埒が明かないと思うけど」 「……ます」 「え?」 「やります。僕、しばらくはあなたと行動することにします」  冴子はこのまま彼に殺されないという安心感で、笑みを浮かべる。 「じゃあ、早速私のガイアメモリとケルベロスをあなたに託すわ」 「僕の武器はエンジンブレードと加賀美さんのバッシャーマグナム、それにキバット……」  二人は互いのデイパックを拾い上げ、武器を互いの手に渡す。  無論、相手に明かされているものだけを渡して、都合の悪いものを渡そうとはしない。 「お、おい!! やめろ!! やめろ、渡!!」  暴れるキバットを、渡はデイパックに放り込んだ。  それを冴子に渡すと、渡は表情を引き締めた。 「契約完了ね。もし裏切ったときは、当然──死んでもらうわ」  加賀美のようになる。──そんな身近な死が、渡の脳裏をよぎった。  動いて、話していた人間が一瞬で脳の中身を撒き散らして死んだ。  今も渡の背には凶器とともにその死体があるのだ。 「今までの事は一時お預けにする。この傷も、当然……ね」  冴子は自らの傷口からナイフを抜き取っていく。  深くなかったとはいえ、その表情は激痛との戦いを強制されていた。 「それから、あれも使わせてもらわないと」  痛みの残留を押し殺しながら、冴子は渡の真横を通り過ぎる。  彼女が手に取ろうとしているのは、エンジンブレードである。  重々しいそれは、怪我人の──しかも女性の力で握ることは難しい。  だが、ドーパントとして戦っていた彼女は苦汁を舐めながらもそれを握った。 「これじゃあ、色男も台無しね」  加賀美の死体を見下ろして、彼女はそう呟いた。 △ ▽  主人を守ろうと身を張って、その結果として機能に一時的な障害を受けたガタックゼクターは、その羽を再び羽ばたかせた。  だが、彼を待っていたのは加賀美新の物言わぬ姿である。  悲しくは無い。  そういう感情ではないが、何か大切なものを失ったようにガタックゼクターは加賀美という男を見つめていた。  ガタックゼクターは、その男の腰を覆っている銀と、僅かな血色のベルトを取り外した。  この男の表情はもう、潰れてしまってわからない。  顔がない。  それでも、その姿を見て、彼には何か未練があるような……そんな感じがしていた。  仮面ライダーガタック。  その最初の資格者はここに死んでしまったが、ガタックは死んではいない。  彼の遣り残したことを果たす《ガタック》を探すために、ガタックゼクターは羽ばたいていった。 &color(red){【加賀美新@仮面ライダーカブト 死亡確認】} &color(red){※ガタックゼクターとライダーベルトは次の資格者を探してどこかへ行きました。} 【1日目 日中】 【D-8 園咲邸の庭】 【紅渡@仮面ライダーキバ】 【時間軸】第43話終了後 【状態】身体的には健康 返り血 加賀美の死にトラウマ 精神が不安定 二時間変身不可(キバ) 【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト 【道具】支給品一式 【思考・状況】 1:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。 2:今は冴子と協力して参加者を減らす。 3:加賀美の死への強いトラウマ。 【備考】 ※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。 【園咲冴子@仮面ライダーW】 【時間軸】第16話終了後 【状態】左の太ももに刺し傷 疲労と小程度のダメージ 二時間変身不可(タブー) 【装備】キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0~1 【思考・状況】 1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する。 2:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。 3:今は渡と協力して参加者を減らす。 【備考】 ※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。 ※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。 |031:[[ただの人間]]|投下順|033:[[そして、Xする思考]]| |026:[[止まらないB/もえるホテル]]|時系列順|021:[[差し伸べる手]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[紅渡]]|047:[[加速度円舞曲♯王と牙の運命]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[園咲冴子]]|047:[[加速度円舞曲♯王と牙の運命]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[加賀美新]]|&color(red){GAME OVER}| ----
*カンタータ・オルビス ◆LQDxlRz1mQ  戦いの神──その異名を持つ戦士が、相刀を構えたまま二人の戦士を見つめる。  自分の世界を守るために他人の命を消し去る覚悟を背負った二人の戦士。  彼らの重い戦いを、彼は知らない。  仮面ライダーが二人。怪人が一人。  だが、これはダブルライダーが怪人と対峙する、という王道展開にはなり得ない。  彼らは互いに敵なのだから。  重力の赴くままに地を蹴ってエンジンブレードを振り下ろしたのは、仮面ライダーキバであった。  その狙い目は、タブー・ドーパントである。  が、その重力というものを無視するように、タブーは浮遊して後退する。振り下ろす間に、長い隙が出来るのは当然のことともいえる。  小さな竜巻が、振り下ろした地面に一瞬だけ吹き乱れる。風の形を見えなくしたのは、地を焼いた火花だ。  焦げの臭いすらもすき飛ばすように、紅の光がエンジンブレードを包み込んだ。  それが、熱いと感じるまでにキバの脳はエンジンブレードを置いて後退するという手を考えさせなかった。  その手は、自然と力を入れることを拒む。エンジンブレードの全てが、地面に落ちていた。  手ぶらになったキバを、タブーの次の一撃が待つ。 「食らいなさい」  キバの体の軋みはその命令に従順であった。意思がそうしているわけではないが、キバの体を赤いエネルギーが吹き飛ばす。  宙を歩く目の前の敵に、強い重力の攻撃は効果が薄い。  キバは立ち上がると、エンジンブレードを拾おうともせずにタブーを睨んだ。  ──どうすべきか  目の前の敵に適切な力は、ヒットが短く、刀身の重いエンジンブレードではない。  飛び道具であるバッシャーマグナムだ。  キバはそんな思考と共に、バッシャーのフエッスルを握る。 「バッシャーマグナム!」  フエッスルを噛んだキバットは武器を喚ぶ。  本来ならばキャッスルドランから排出されるはずのバッシャーの武器は、意外な場所から現われた。  加賀美のデイパックである。デイパックから飛び出てきた胸像を、躊躇いながらもキバは握る。  それはキバの能力を変える武器であった。  バッシャーフォーム。緑を帯びたキバは、タブーの体に照準を合わせる。  だが、それが銃の形をした以上、タブーがそう簡単にそれに当たるはずがなかった。  銃口が向いていれば、弾丸を避けるのも難しいことではない。  引き金を引く瞬間に、弾丸の軌道から体を反らせばいいだけなのだから。タイミングに問題さえなければ、当たらない。  一発、二発、三発、四発。  その全ての弾丸が虚空に消えていく。  だが、飛び道具を使うのは彼だけではなかった。  真横から受ける、五発、六発、七発、八発目の弾丸。それは、ガタックの肩に装備された、ガタックバルカンの雨である。  まるで鴨が撃ち落されたかのように、タブーはふらふらと抵抗を続けながら重力に流されていく。  それを、キバは見逃しはしなかった。  彼の手は既に、先ほど地面に捨てたはずのエンジンブレードを握り、タブーの落下予測地点を捉えて走っていた。  エンジンブレードの刃を天に向けたキバが、果たして何をしようというのか──ガタックは、加賀美は恐ろしい想像をする。  ──串刺し。 「渡君っ……!!」  ガタックはそんなキバの行動に「狂気」を感じていた。  彼がそれを望んで、楽しんでやっているわけではないというのは理解できる。──が、いくら敵が怪人といえど、そんな殺人に抵抗を見せない紅渡の行動を、肯定しようとは思わなかった。  咄嗟に、そう、咄嗟に──  ──CAST OFF──  そんなキバを、止める。蛹から脱皮するように、そこから青いクワガタが姿を見せた。  脱皮した「ぬけがら」はあと一秒で鴨を突き刺そうというキバを吹き飛ばす。  それとほぼ同時に、キバの手から重量が離される。  青い幻影が、キバの手から刃を奪っていた。抗う間もなく──それもまた、ガタックであった。 「ちょ、超加速……?」  倒れ付すタブーは、その一瞬の出来事に戸惑いを覚える。  知覚も難しいほどのスピードで地面を走った青い風。  まるで、どこかのゴキブリのような力である。  そんな戸惑いのタブーとは逆に、キバは立ち上がり、バッシャーマグナムをガタックに向ける。  それは、あと一歩で敵を仕留めることができたキバの、怒りと嫉妬が込められていた。 「やめろ、渡君……っ!!」  引き金を引いたキバも、それを当てた感触がないことに気づく。  やはり、その──加速というシステムが厄介であった。  一秒前のガタックを貫いたはずの弾丸は、今のガタックのいる場所を、ずっと前に過ぎ去っているのだから。 「渡、お前のやっていることは間違っちゃいない。だが……」  ガタックに代わり、ベルトのバックルがキバに語りかけた。 「──お前らしくねえじゃねえか、こんなの」  キバットは寂しそうに渡を諭す。  キバの力を与える根源は、渡が残酷無比なやり方で敵を倒すことに、流石に抵抗を感じていたのだろう。  黙っていたとしても、それは確かに彼の心の中に矛盾を生み出していた。  敵を倒すことに、手段を選ぶ必要はない。相手が冷酷ならば尚更だ。  ──だが、それは紅渡らしくはない。生き物を殺すことに抵抗を感じず、まして残酷にそれを殺めようというのは、人間の血を受け継いでいるものとして、間違っている気がするからだ。 「でも、僕はファンガイアを倒すんだ……大切な人の音楽を護るために──」 「それなら、それでやり方ってもんがあるだろうが……お前の、お前らしいやり方が」  キバットの言葉に、一瞬だけ鼓音が高まる。  もちろん、キバットは渡がどうやって世界を守ろうとしているかをまだ知らない。  だが、そんな渡のスタンスをわかったうえで否定しているかのようなキバットの言葉。 「──それでも」  バッシャーマグナムの銃口がタブーを狙う。  今のタブーは、身動きが苦手であった。立ち上がろうと、這い上がろうと、生き残ろうと、地面を押して足に力を込め、必死で戦おうとする彼女の姿に、何かが揺らぎかけた。  が、渡の思いは変わらない。 「守りたい世界があるんだ!!」  バッシャーマグナムの口が、次々と光を放つ。  何発も、何発も。手加減などしない。死体になっていたとしても、撃ちつづける。  そうでもないと、渡の精神が敵の攻撃を恐れ続けるのだ。  世界を背負った彼を、プレッシャーが襲っている。  渡の命は渡のものだけではないのだという、重さ。  だから、敵の攻撃を食らってはいけないという精神的圧迫に見舞われる。  もはや、何も見えてはいなかった。  ただ、目の前で数え切れないほどの光が連射し続けられているというのは認識できた。  それを止めたのは、ほかならぬキバ自身であった。  渡ではない。キバットの羽がバッシャーマグナムを吹き飛ばしたのだ。 「なあ、もういいだろ、渡」  キバの視界に、ようやく眼前の光景が見え始めていた。  やはり、と渡もキバットも思っていた。  ガタックがそこにいる。エンジンブレードを盾に、そこで弾丸を受け続けていたのだ。  彼はただ、ひたすらにタブー・ドーパントという自分を襲った怪人を庇い続けていた。  園咲冴子のためではなく、紅渡のために──。 「渡君……誰かの為に戦うことは、素晴らしいことだと思う。  ……でも! そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!」  ガタックは、そう言い切る。  仮面ライダーガタックは、その言葉と共にエンジンブレードを地面に突き刺した。  いや、杖にしていたのだ。  流石に、何発かの攻撃を彼は受けていたのだから。 「──隙あり、よ」  タブー・ドーパントの声と、バッシャーのものではない乱射音。  彼女の支給品は、GX-05 ケルベロスというガトリングガンであった。  人間の手に開発されたとは思えないほどに、その威力は凄まじい。  ガタックの背中を、幾度とない弾丸の嵐が突き刺した。  クロックアップする間もない、怒涛の攻撃。  タブーの持つ、強力な支給品とはこのケルベロスのことだったのだ。 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」  止まない悲鳴。  仮面ライダーから発される、人間の声。  わずか数秒で、そのガトリングガンは音を止む。しかし、その余韻としてガタックの背中に残った痛みは強かった。  ガタックの力が消え、──加賀美新のうつ伏せがその場に残った。  硝煙の臭い。背中を焦がすような熱。  ガタックの力から解放された彼にも、その激痛が身を焦がす。  一方、ケルベロスを構えているのもドーパントではなく、人間であった。  それは園咲冴子に間違いない。  息を切らした彼女もまた、硝煙の臭いを厄介に思っていた。  ──それは、女として生理的に厭というだけだったが。  そこにいる異形は、ただひとり。仮面ライダーキバ。  好機といえる状況である。当然、人は仮面ライダーに勝てない。  人の頭を潰すにかかる時間は、一秒もかからないだろう。  キバは加賀美に近づき、エンジンブレードを拾い上げた。  重い。やはり、ずっしりとくる。 「おい、何をする気だ!? 渡ッ!!」  キバットの声を、渡は聞こうともしない。  ただ、それを高く振り上げるのみ。  ──そのために誰かを犠牲にするなんて、仮面ライダーのすることじゃない!  彼はそう言った。  それが仮面ライダーなら、 「──僕は、仮面ライダーじゃない」  そんなキバの前を、加賀美を庇うようにガタックゼクターが飛び回る。  自らの選んだ相手を失いたくないと、キバの邪魔をするガタックゼクター──その心情は渡の殺し合いに乗った理由にも似ている。  だが、加賀美を倒すうえでの障害となるのが確かであったそれを、キバは拳で叩き落とす。  ガタックゼクターは羽音を鈍らせ、地面に落ちた。 「ガタックゼクター!!」  そんな自分の相棒を見ると、加賀美も決して振り上げられようというエンジンブレードにこのまま殺されようとはしなかった。  殺されてもいい。ただ、それが彼を止めることの手助けとなるのなら。  だが、ここで殺しを覚えた彼はきっと、このまま止まることはない──  加賀美は気合を振り絞り、震える足を立ち上がらせると、己の体ひとつでキバにタックルする。 (天道……お前なら、もっとマシなやり方ができたかもな……)  無論、人の力は仮面ライダーを超えられはしない。キバは微動だにしなかった。  だが、力が駄目なら、何か言葉をかけようと、加賀美は口を開く。 「お前はまだ、誰も殺してない! それなら──」  その時──  渡の体から、キバットが弾き出され、屈強な戦士・仮面ライダーキバは姿を消す。  代わりにあったのは、非力な青年・紅渡である。  変身制限。十分と定められていた時間を越えたキバは、渡へとその身を返した。  加賀美も、渡もそれには驚きを隠せなかった。  二人の口が自然と開く。目も見開く。  渡の頭上。力加減を変えなければ持ち上げることのできないエンジンブレードの刀身が、バランスを崩す。  止めようとしても止められない速度で、エンジンブレードはまっすぐ前に落ちていく。  そう、エンジンブレードは加賀美新の頭めがけて、落ちていたのだ。  それは、必然のように加賀美の頭を砕き、その中身を掘り出した。  血飛沫だけではなく、何か嫌な固体までも、渡の体を触っていく。  それが、人の死という事象だと渡は認識する。 「……うわ……うっ……うわああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」  エンジンブレードは渡の手から滑り落ち、地面を撥ねた。  血まみれの渡は、頭を抱えて座り込む。  見たくない現実。そして、考えたくない未来。  ファンガイアではない。  人を、殺めた。  それがどういうことなのか、この鉄の味がわからせようとしていた。  キバットが何か、自分に向かって語らいかけているのが聞こえる。  当然だが、それは叱咤の声。そんなもの、聞きたくは無い。  ──心の底から加賀美をこんな風に殺めたかったわけではない。変身が急に解けてしまって、バランスを崩してしまったからこうなってしまった。  湧き上がる言い訳。それが、恐ろしいほどに自分を責める。 「……たるっ!! 渡っ!!!!」  キバットの怒号。  それを聞きたくない、と渡はふさぎ込む。 「危ねえぞ、渡っ!!!!」 (────え?)  キバットの声の真の意図をようやく悟った渡は顔を上げ、キバットの方に振り向いた。  そこにあるのは、キバットだけの姿ではない。  その後ろに見えるのは、ナイフを持った女性の姿であった。冴子である。 「戦え!! 渡!!」  冴子の突き出してきたナイフを、渡はよろけながらも回避する。  それを避けてもよろけたまま、渡は思うように動けない。  喪失感。失望感。絶望感。嫌悪感。罪悪感。  そして、強い恐怖感。  あらゆるものが、渡の体をうまく動かさせてくれなかった。  冴子が両手に持ち替えたナイフが振り上げられる。  あの時──あの瞬間と同じ。  こうして振り上げられた武器を、まっすぐに受けて加賀美は死んだ。  その瞬間に見えた光景が、渡の脳裏をよぎる。  ただ、何が起こったのかもわからずに刃先を見つめて驚愕の表情を浮かべた加賀美。  死ぬ恐怖が、彼の思考を一瞬止めていたに違いない。  そして今、渡は彼と同じ状況に陥っている。  そのとき、渡は咄嗟にあの時の加賀美の行動を実行していた。  効果的だと思ったからではない。この状況に加賀美の行動を連想させてしまったのだ。  タックル。武器を持った相手に、生身でぶつかるという無謀なワザ。  二人が、バランスを崩して地面に体をぶつけた。  ナイフはどこか。  渡は真っ先に、気になったものを探す。  だが、そんな思考は不意の悲鳴にかき消された。 「いったああぁっ!!!」 立ち上がると、冴子の左の太ももを血が汚しているのが見えた。見たところあまり深くはないが、ナイフが刺さったのだ。それでも充分、血が被服を染め上げていくのは早い。  和らぐ恐怖感。だが、罪悪感だけは膨れ上がっていく。  破裂してしまいそうなほどに、大きく膨れる。  それはきっと、萎むことを知らない。  悶える冴子。  彼女の目には何も映っていない。  渡の姿など、脇目にも映らず、ただその激痛と戦っている。  それを見ると、恐ろしさが募っていく。  他人にこれだけの痛みを与えないと誰かを守ることはできないというのだろうか……。 「僕は……それでも……」  恐る恐る冴子の体に近づいていく渡。  冴子はその姿をようやく認識する。自分が何度も殺そうとした相手であり、自分を殺そうとした相手。    ──また、相手の番が回ってきた。  そう、認識する。  渡はそのナイフを抜き取ろうと、冴子の太ももをめがけて走り出す。  一番手近な武器は間違いなく、それだった。  加賀美のグロテスクな死体の傍らに落ちる重量の重すぎるエンジンブレード。  弾丸の切れたケルベロス。  胸像の姿になったバッシャーマグナム。  それらより、今必要なのは抜き取って相手を仕留められるナイフ。  それを目がけ、渡は飛び掛った。  が、そんな渡の指先に痛みが走った。  キバットの牙が、渡を静止するように渡の指を強く噛んでいる。  力を与えるためではなく、失わせるために。 「いい加減にしろよ、渡!」 「うるさいっ!」  渡はそんなキバットを振り払う。  半泣きである。  その表情が、純粋な痛みのものではないというのは、その場にいる誰もが気づいていた。 「なんだか知らねえが、お前がやってるのは、『人の音楽を奪う』ってことじゃないのか……!?  あの兄ちゃんもお前の手で殺しちまって、これ以上罪を重ねるのか!? 渡!!」 「うるさいっ! うるさいよ、キバット!!  これが僕の世界を守るためにやらなきゃいけないことで、名護さんや深央さん、太牙さん……みんなを護るためのことなんだ。  だから──────」  言いかけた、その渡の口を塞ぐように一言、誰かが割り込む言葉をかけた。 「──一時休戦、でどう?」  冴子である。冴子は左足を軽く曲げたまま、辛苦を噛む表情で立ち上がり、渡とキバットを睨むように見つめていた。  彼女の形相は、終戦協定とは思えないほど──般若のように歪んでいる。 「私も私で、帰るべき世界がある。あなたにはあなたで、別の世界がある。  残念ながら結果的に敵になるけど、このままじゃあお互い不完全でしょう?  あなたは心が、私は体が不安定。このままゲームが進めば、二人とも脱落ね」 「……」 「あなたが戦って、私がトドメを刺す。それでどう? あなたは血を見なくていい……」 「やめろ、渡。こんなヤツの言うことを信用するんじゃないい!!」  キバットが渡の顔を見ると、腑抜けになった彼は今にも冴子の話に呑まれてしまいそうな表情になっていた。 「口うるさい蝙蝠は私が預かるわ。互いに変身道具や武器を交換して、戦うときだけ元通りにする。  そうすれば、私が裏切ってあなたを襲うこともないし、あなたが私を襲う心配もなくなる。  どう? このまま私とあなたで争っても埒が明かないと思うけど」 「……ます」 「え?」 「やります。僕、しばらくはあなたと行動することにします」  冴子はこのまま彼に殺されないという安心感で、笑みを浮かべる。 「じゃあ、早速私のガイアメモリとケルベロスをあなたに託すわ」 「僕の武器はエンジンブレードと加賀美さんのバッシャーマグナム、それにキバット……」  二人は互いのデイパックを拾い上げ、武器を互いの手に渡す。  無論、相手に明かされているものだけを渡して、都合の悪いものを渡そうとはしない。 「お、おい!! やめろ!! やめろ、渡!!」  暴れるキバットを、渡はデイパックに放り込んだ。  それを冴子に渡すと、渡は表情を引き締めた。 「契約完了ね。もし裏切ったときは、当然──死んでもらうわ」  加賀美のようになる。──そんな身近な死が、渡の脳裏をよぎった。  動いて、話していた人間が一瞬で脳の中身を撒き散らして死んだ。  今も渡の背には凶器とともにその死体があるのだ。 「今までの事は一時お預けにする。この傷も、当然……ね」  冴子は自らの傷口からナイフを抜き取っていく。  深くなかったとはいえ、その表情は激痛との戦いを強制されていた。 「それから、あれも使わせてもらわないと」  痛みの残留を押し殺しながら、冴子は渡の真横を通り過ぎる。  彼女が手に取ろうとしているのは、エンジンブレードである。  重々しいそれは、怪我人の──しかも女性の力で握ることは難しい。  だが、ドーパントとして戦っていた彼女は苦汁を舐めながらもそれを握った。 「これじゃあ、色男も台無しね」  加賀美の死体を見下ろして、彼女はそう呟いた。 △ ▽  主人を守ろうと身を張って、その結果として機能に一時的な障害を受けたガタックゼクターは、その羽を再び羽ばたかせた。  だが、彼を待っていたのは加賀美新の物言わぬ姿である。  悲しくは無い。  そういう感情ではないが、何か大切なものを失ったようにガタックゼクターは加賀美という男を見つめていた。  ガタックゼクターは、その男の腰を覆っている銀と、僅かな血色のベルトを取り外した。  この男の表情はもう、潰れてしまってわからない。  顔がない。  それでも、その姿を見て、彼には何か未練があるような……そんな感じがしていた。  仮面ライダーガタック。  その最初の資格者はここに死んでしまったが、ガタックは死んではいない。  彼の遣り残したことを果たす《ガタック》を探すために、ガタックゼクターは羽ばたいていった。 &color(red){【加賀美新@仮面ライダーカブト 死亡確認】} &color(red){※ガタックゼクターとライダーベルトは次の資格者を探してどこかへ行きました。} 【1日目 日中】 【D-8 園咲邸の庭】 【紅渡@仮面ライダーキバ】 【時間軸】第43話終了後 【状態】身体的には健康 返り血 加賀美の死にトラウマ 精神が不安定 二時間変身不可(キバ) 【装備】ガイアメモリ(タブー)+ガイアドライバー@仮面ライダーW、GX-05 ケルベロス(弾丸未装填)@仮面ライダーアギト 【道具】支給品一式 【思考・状況】 1:何を犠牲にしても、大切な人達を守り抜く。 2:今は冴子と協力して参加者を減らす。 3:加賀美の死への強いトラウマ。 【備考】 ※過去へ行く前からの参戦なので、音也と面識がありません。また、キングを知りません。 【園咲冴子@仮面ライダーW】 【時間軸】第16話終了後 【状態】左の太ももに刺し傷 疲労と小程度のダメージ 二時間変身不可(タブー) 【装備】キバットバットⅢ世@仮面ライダーキバ、エンジンブレード+エンジンメモリ@仮面ライダーW、バッシャーマグナム@仮面ライダーキバ、ファンガイアスレイヤー@仮面ライダーキバ 【道具】支給品一式×2、加賀美の支給品0~1 【思考・状況】 1:最後まで生き残り、元の世界に帰還する。 2:同じ世界の参加者に会った場合、価値がある者なら利用する。 3:今は渡と協力して参加者を減らす。 【備考】 ※照井と井坂を知らない時期からの参戦です。 ※ガイアドライバーを使って変身しているため、メモリの副作用がありません。 |031:[[ただの人間]]|投下順|033:[[そして、Xする思考]]| |026:[[止まらないB/もえるホテル]]|時系列順|021:[[差し伸べる手]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[紅渡]]|047:[[加速度円舞曲♯王と牙の運命]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[園咲冴子]]|047:[[加速度円舞曲♯王と牙の運命]]| |015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|[[加賀美新]]|&color(red){GAME OVER}| ----

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