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二人の船出」を以下のとおり復元します。
*二人の船出 ◆VbYNTlLnDE 



橋の手すりに寄りかかり眼前に広がる海を眺める者がいた。 
黒い革のコートに身を包んだ、がっしりとした体格の男だ。 

「うーみーはひろいーなおおきぃーなー……」 

思うところがあったのか、男は童謡を歌い始める。静かな歌声が海風にのまれていく―― 

この場がどういう場所か男は理解をしている、今この瞬間にも危険が迫っているかもしれない。 
しかしどのような時、場所であろうと常に平常心とマイペースを保つ。 
それが鬼として長年戦い続けてきた男、ヒビキの強さの一つだった。 

「つーきーはのぼるーし、ひものーぼーるー……」 

穏やかな童謡とは裏腹にヒビキの頭は状況の整理をフル回転で行う。 
既にデイバッグの中身は確認し、周りの環境と地図を照らし合わせ自分がG2エリアにいる事も把握済みだ。 
そして名簿の内容も―― 

(イブキもトドロキも参加していない、良い事なのか悪い事なのか……) 

ヒビキの知り合いは3人参戦していた、既に鬼の道を退いたあきら、まだまだ不安が残る京介、そしてベテランのザンキ。 
仮にそれぞれの世界で対立をしたならばヒビキ達が生き残る可能性は限りなく低いだろう。 
だからといって『はいそうですか』と諦めるほどヒビキは落ちぶれてはいない。必ず全員で生きて帰る決意を固めている。 
もっとも、それはこの戦いに乗るという事ではない。大ショッカーを倒すという方針だ。 

(それでお終い、ってわけにはいかないんだよなぁ……) 

口ずさんでいた童謡をため息が途切れさせる。 
大ショッカーの老人が言っていた全てを戯言と流す事もできるだろう、しかしそれらが現実だったら? 
少なくとも60人もの人間を僅かな抵抗も許さず集めのけた大ショッカーだ。 
それだけの事をやってのける組織の言葉全てを嘘と決め付けられるだろうか。鵜呑みもできないのは勿論だが―― 

(戦う意思は無さそうだな) 
「……厄介な事に巻き込まれたもんだよなぁ、お互い」 

ヒビキが橋下に声を掛ける、すると 

「いやー……ほんと、そうですよね」 

若そうな青年の返答が返って来た。 
橋下を覗くと真っ白なコックコートと赤いスカーフを巻いた青年が人のよさそうな笑顔を浮かべていた。 


  ◆  ◆  ◆ 


ヒビキが橋下に降り、お互いに自己紹介を済ませる。 

「俺はヒビキ、本名日高仁志。ヨロシク」 
「俺は津上翔一って言います。本名は沢木哲也ですけど。ヨロシク!」 

握手を交わし、河川敷にデイバッグを置きその上にお互い座り込む。 

「本名じゃない方が名簿に載ってるのか……俺もヒビキって載せてもらったほうがわかりやすかったろうに」 
「違いはなんなんでしょうね?まぁ、どうでもいいか。それよりヒビキさんはいつから俺に気づいてたんですか?」 
「んー、ここに飛ばされてデイバッグの中身確認してる頃には、な。物音っていうか気配みたいなものは感じたよ」 
「すごいですね!俺はヒビキさんの歌声で初めて人がいるって気づきましたよ。ほら、うーみーはひろいーなって。 
 そういえばなんで『ひはしずむ』じゃなくて『ひはのぼる』って変えたんですか?」 
「日が沈むってなんかネガティブな感じがしてちょっと嫌だったんだよね、それだけ」 
「わかる!わかりますよ、お日様っていいですよね!こう、何でも照らすぞ!ってところが!」 

笑顔で語り合う二人の男。和やかな雰囲気だが軽く笑いあった後真剣な面持ちになり、和やかな空気は消えた。 

「津上はどう思う。世界崩壊とか大ショッカーの事、さ」 
「……ただいらないなんてわけのわからない理由で簡単に人一人の命を消す大ショッカーに従うつもり俺はありません。 
 仮に複雑な、まともな理由があったとしても俺の大ショッカーへの思いは変わりません。 
 世界崩壊とかは正直わけわかりませんし、信じたくもないですけど――大体『仮面ライダー』って何なんでしょう?」 
「俺にもわからない。ただ、『特別な力』の持ち主達を総称して『仮面ライダー』と呼んだんじゃないかと俺は思う。 
 そういう『特別な力』が俺にはあるからな」 
「『特別な力』っていうと、物が透けて見えるとか離れた物を動かせるとか、超能力みたいなもんですか?」 
「いや、俺は鬼になれる」 
「鬼っていうと――」 

津上が両手の人差し指を立て、自分の頭の横につけ鬼の角に見立てる。 
その仕草にヒビキは苦笑しながらも頷いた。 

「うーん、なんかよくわからないけど、わかりました。それじゃ俺はアギトになれます」 
「アギト?」 
「はい。覚えてますか?確か3年前だったと思うんですけど、未確認が暴れてた時に話題になった第四号。あんな姿に変われるですよ」 
「ちょ、ちょっと待て未確認とか第四号とかってなんなんだ?」 
「え、覚えてないんですか?やだなぁヒビキさん。未確認と言えば――」 

津上が事件の顛末を語るがヒビキにはその全てが初耳の話だった。続けてアンノウンの起こした事件の事も話したがそれも同様だった。 
ヒビキはお返しとばかりに山間部、特に夏頃毎年事故や行方不明者が出ていないか津上に確認するが目立った事件事故はそう何度もないらしい。 
ここでヒビキは魔化魍と自らの鬼の仕事を簡単に説明し、アンノウンとの戦いの最中で魔化魍が出たか訊ねたが津上は静かに首を横に振った。 
お互いに語り終え、二人は違う世界の人間であると――大ショッカーの言葉が真実である事が理解できてしまった。 

どちらからともなく視線を逸らす。しばらく沈黙が続いた後、津上が口を開いた。 

「……俺、皆の場所を護りたいから強くなりたいと思って、実際強くなってアンノウンとも戦えました。 
 その力が原因で世界そのものが滅ぶかもなんて……信じたくない、というより認めたくないです」 
「俺もだ。多分、参加してる他の『仮面ライダー』も同じ思いだろうな」 

暗い雰囲気にたまらず津上が髪の中に手を入れ唸る。 

「うー、大ショッカーの言葉に従わずに世界崩壊を止める方法とかないもんなのかなぁ」 
「あるだろうな」 

間髪いれずのヒビキの返答に津上は目を丸くし、次の言葉を待った。 

「推測、いや妄想に近いけどさ。大ショッカーは底知れない強さを持っている……そう言っていいだろ? 
 だったらいるはずだ、大ショッカーに敵対できるほどの強さを持つ『仮面ライダー』がさ」 
「おお!」 
「大ショッカーは異なる世界にも干渉できる、敵対する『仮面ライダー』もできるはずだ、でないと相手にならないからな!」 
「なるほど!その人を探せばもしかしたら!」 
「ああ!」 

お互い妙なテンションで笑いあい、すぐに冷めたため息をついた。 

「ま、いたらだけどな……」 
「ですよねー……仮にいたとしてもこの場にいるかどうかすら」 

ヒビキが立ち上がり、伸びをしながら話を切り上げる。津上もそれに倣って立ち上がった。 

「大ショッカーを倒すにしろ、世界崩壊を止めるにしろ俺達が分かる事は一つだ。知識と情報が足りない」 
「俺達以外の世界の人達と接触しない事には始まらない、そういうことですね」 
「そう、そしてこの場は常に危険が付き纏っていると言っていい。知識や情報を持つ人物にも例外なくな」 
「なら俺とヒビキさんにできることは――」 

「「護る事」」 

力強く頷きあい、二人の思いが一致する。どのような場所でも彼らは『仮面ライダー』だった。 


  ◆  ◆  ◆ 


「津上、支給品の確認は済んでるか?」 

ヒビキがデイバッグの中身を取り出しながら問いかける。それに応えるように津上はデイバッグの中から支給品をいくつか取り出していく。 

「変てこな赤い携帯電話、変てこなキャラクターのキーホルダー。ふうと君って言うみたいですね。それ以外は共通の物みたいです。 
 折角だからディバッグにキーホルダーつけよっと♪」 
「どっちも使い道がわからないが、持ってても支障はなさそうだな。俺は着替えが3着、あきら達にも支給されてるといいんだが。 
 津上に一着渡しておくな?それと寝袋。最後に、よくわからないカードが4枚。見覚えあるか?」 

4枚のカードを手渡された津上が一枚一枚確認していく。 

「イン……ビジブル?そんな映画あったなぁ。これはイリュージョン?魔法とか手品とかかな。 
 えーっとこっちはライオトルーパー?なんだか兵隊みたいですね。で、最後が……これは」 
「それな、ギガントだっけ?それだけ他のカードに比べて毛色が違うよなぁ」 
「えぇ、なんていうか見た目どおりの使い方をするんだろうな、と思うと」 
「なんとなく良い気分はしないよな」 

津上が一瞬顔を曇らせるがカードを返しすぐ笑顔に戻る。 

「こんなカードで何ができるって話ですしね、気にしないようにしましょう」 
「そう、だな。しかしもう少し身を護れそうな物が支給されれば良かったんだが……」 
「それはそれ、これはこれ。支給品の分は俺達自身の力でカバーしましょう!」 
「随分自信があるんだな?」 
「だって俺アギトですから。ヒビキさんこそ大丈夫ですか?」 
「大丈夫大丈夫、鍛えてますから」 


  ◆  ◆  ◆ 


ヒビキに手渡された服に津上が着替え、お互いの荷物の整理を終えて準備を完了する。 

「津上、一緒に行く方がお互い安全だとは思う。だが俺達の今の位置は都合が良い」 

ヒビキはコートの内側にしまった地図を取り出しながら津上に説明を始める。 

「E2エリア近辺の住宅街、G4エリア近辺の住宅街、そのどちらにも俺達は近い。 
 住宅街には参加者が集まったり隠れてたりしてるんじゃないかと俺は思うんだ。そこで――」 
「お互い別々の住宅街を目指して他の世界の参加者達と接触を図るってことですか?」 
「そういうこと。被害が出る前にこの戦いを終わらせたいからな、時間は大切だ」 
「わかりました!」 
「集合場所と時間も決めておくか。連絡手段があれば良いんだがな……よし、E4エリアの病院屋上にしよう。時間は0時頃でいいかな」 
「今から12時間後って所ですか。それだけあれば住宅街もある程度調べられそうですね」 

集合場所と時間を決め、二人は河川敷からT字路に向かう。 

「今回の俺達のように他の参加者達とも上手く接触できるとは限らない、忘れるなよ」 
「はい。ヒビキさんも、あんまり背負わないでくださいね」 
「……俺そんな思いつめたような顔してた?」 
「ちょっぴりですけどね。あと物理的な意味でも」 
「寝袋の事か。置いていってもいいんだけど有っても困るものじゃないしな」 

T字路で立ち止まり、お互い視線を交わす。 

「必ずまた会おう、津上!」 
「えぇ、約束ですよヒビキさん!」 

一時の別れの言葉を告げ、二人は別々の住宅街を目指し歩き始めた―― 


  ◆  ◆  ◆ 

(顔に出てたか……) 

住宅街を目指しながらヒビキは表情を引き締める。 

(シャキッとしなきゃな。俺がしっかりしなきゃ) 

世界を一人で背負った重圧を感じつつヒビキは歩く。 


  ◆  ◆  ◆ 


(言えなかったなぁ、木野さんの事……) 

死んだはずの命の恩人、木野。その名が名簿には確かに載っていた。 
ヒビキにはアンノウンとの戦いの顛末を語りはしたが木野の最期は伏せたままだったのだ。 

(えーい、木野さんに会ったらその時はその時だ!) 

漠然とした不安を感じつつ津上は歩く。 

【1日目 昼】 
【G-2 T字路】 

【津上翔一@仮面ライダーアギト】 
【時間軸】本編終了後 
【状態】健康 
【装備】なし 
【道具】支給品一式、コックコート@仮面ライダーアギト、ケータロス@仮面ライダー電王、ふうと君キーホルダー@仮面ライダーW 
【思考・状況】 
1:打倒大ショッカー 
2:殺し合いはさせない 
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触 
4:木野さんと会ったらどうしよう? 
【備考】 
※ふうと君キーホルダーはデイバッグに取り付けられています。 
※響鬼の世界についての基本的な情報を得ました。 

【日高仁志@仮面ライダー響鬼】 
【時間軸】本編第41話終了後 
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、アタックライドカードセット@仮面ライダーディケイド、着替え(残り2着)、寝袋 
【思考・状況】 
1:打倒大ショッカー 
2:殺し合いはさせない 
3:大ショッカー、世界崩壊についての知識、情報を知る人物との接触 
4:俺がしっかりしないと…… 
【備考】 
※カードセットの中身はカメンライド ライオトルーパー、アタックライド インビジブル、イリュージョン、ギガントです 
※ライオトルーパーとイリュージョンはディエンド用です。 
※インビジブルとギガントはディケイド用のカードですが激情態にならなければ使用できません。 
※アギトの世界についての基本的な情報を得ました。アギト世界での『第四号』関連の情報を得ました。 

【共通備考】 
※1日目0時、E-4エリアの病院屋上で合流する予定です 
※E-2エリア、G-4エリア近辺の住宅街を別行動で探索予定です。津上、日高がそれぞれどちらに向かったかは後の書き手さんにお任せします 




|013:[[運命の適合者]]|投下順|015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|
|013:[[運命の適合者]]|時系列順|015:[[エレジー♪支えてくれるひと]]|
|&color(cyan){GAME START}|[[津上翔一]]||
|&color(cyan){GAME START}|[[日高仁志]]||

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