【Wol】光の戦士にハァハァするスレ1…バッツ×wol
そよそよと柔らかな風が頬を撫でて、銀色の髪を弄んだ。
その感覚に光の戦士――ウォーリアオブライトは、何かに誘われる様に天を仰いだ。
真っ青な空、白く棚引く雲、絶え間なく光を放つ太陽、心地良い微風。
戦いの最中では忘れていた、美しい風景が目の前にあった。
「そうか、空は…こんなに青かったのか」
今初めて知った様なその感覚にウォーリアオブライトは1人小さく零した。
世界が崩壊に向かっているとは思えない程、ゆっくりと流れていく風景。
まるで切り取られた絵画の様に現実味が無く、それでいて心地良いと感じた。
本来なら人々はこの美しい空の下で生きていくものなのだろう。
しかし自分は、どうなのだろう。
戦いに戦いを重ねて、戦いを戦いで塗り重ねて行く毎日。
とてもじゃないが平和な世で生きて行く姿など想像出来ない。
そもそも平和な世で生きて行くと言うのは、何をすれば良いのだろう?
甘んじてその恩恵を受ける方法とは、一体何なのか…
「あのー…もしもーし?」
「…っ…!?」
唐突に耳へ届いた怪訝そうな声で我に帰れば、目の前には驚く程近くに顔を寄せている青年の姿。
柄にも無く驚いてしまい、息を詰めながら背後にあった城壁に身体をぶつける。
こんなに近くまで来られて呼ばれなければならない程、自分は思考の海に溺れていたらしい。
見知った青年の不思議そうな表情で、ようやく胸元に留めていた呼吸を吐き出す。
「バッツか…すまない。少しぼんやりしていた」
「…へぇ?珍しいな。いつも刺々しいまでに気ぃ張ってる光の戦士が」
「そうだな。らしくなかった」
「別にらしくないなんて言ってないだろ?たまには良いんだって」
へらへらと少しだらしない笑みを浮かべながら、青年はウォーリアオブライトの隣へ移動する。
そして太陽の光を受け眩しそうに目を細めながら、ゆっくりと腰を降ろした。
「ちょっと休憩しようぜ。皆も歩き疲れたみたいだし…な?」
明るい声でそう提案されて、なぜか言葉が出なかった。
破滅への時間は刻々と迫っているのに、こんな所で止まってる暇はない…と言いたかった筈なのに。
――皆が疲れているなら、休息も致し方ない。
いつもの様に己も相手も叱咤出来ない理由をすげ替えて、無言のまま腰を降ろした。
隣の青年の顔を横目で見れば、柔らかい風を浴びて心地良さそうに目を閉じている。
バッツは風が好きだと言った。
風を全身に浴びていると元気になれるのだと。
暖かい風も冷たい風も、嵐の様な強い風も…全て好きだと。
キラキラとした笑顔でそう語っていたのはいつだったか。
そこまで好きになれるものがあると言うのは、純粋に羨ましいと思った。
過去の記憶がない自分にはそれに該当するものなど無いし、戦いに身を置く今も見当たらないままである。
無くても構わないと以前は思っていたのに、青年を見ると何故かそれが寂しいと感じるのだ。
"寂しい"なんて感情、自分には存在しないと思っていた筈なのに。
「なぁ、ウォル。さくら、って知ってるか?」
またもや思考の海に浸っていた耳へ、質問が投げかけられた。
慌てて意識を覚醒させて、浮かんだ疑問符を素直に口に出す。
「さくら…?いや、知らないな」
「やっぱ知らないかー…俺も見た事ないもんなぁ」
少し残念そうに呟いたバッツは、閉じていた瞼を開いて身体ごとこちらに向き直った。
「さくらって言うのはな、こんな感じのあったかい所で咲く花なんだ」
「花?」
「そう。木に咲く花なんだ。ピンク色の花でさ、すっげー綺麗で幻想的らしいぜ」
青年の説明を聞きウォーリアオブライトは首を傾げる。
生憎と花に対しては殆ど知識がない上、木に咲く花など見た事がない。
前の世界では世界中を旅していたと言うバッツでさえ見た事がないのだから、当然と言えば当然とも言える。
想像していたさくらの図は、虚ろな色のまま形にはならなかった。
「想像出来ないが…そうか、そんな花があるのか」
「そうなんだよ。見てみたいと思わねぇ?」
「そうだな、そんなに綺麗なら見てみたい気もする」
「じゃあ、見に行こうぜ」
「…………………………は?」
なだらかに進んでいた会話が止まった。
一瞬で理解する事が出来なかった言葉にたっぷり固まった後、思わず間抜けな声が上がる。
今、彼は何と言ったのか?
見に、行く?
何を?誰と?
処理出来ない疑問がぐるぐると頭を駆け巡って、言葉が出ない。
意味が分からない。彼は何と言ったのか?
恐らくポカンと間抜けな顔をしているであろう己に構う事無く、バッツはにこやかな笑顔のまま続けた。
「この戦い終わったら2人で探しに行こうぜ!風のように世界中を巡って、さくらを探す旅に出るんだ。イイ感じだろ?」
「…探す?何故、私と…」
「だって、見たいって言っただろ?」
ますます意味が分からない。
彼はこの世界で戦いが終わっても、一緒にいる事が出来ると思っているのか?
そんな訳がない。そんな事、有り得ない。
自分達は本来なら出会う筈の無い、異なる世界の人間。
それが神々の意志によりたまたま出会えただけで、ずっと一緒にいるなんて叶わないのだ。
神々の闘争の終わり、それはすなわち別れを意味する。
その終わりに向けてひた走っているのに、何故そんな事が言える?
分からない。分からない。どうして。
「私達は…あるべき場所へ帰らねばならないのだぞ?君も例外ではない。私と一緒になんて、無理だ」
なぜか胸が苦しくなって、絞り出す様に現実を告げる。
決まりきった未来に抗う事なんて出来ない。そう自分に言い聞かせながら。
「大丈夫だって。どんな世界にいても俺が必ずウォルを見付け出すから」
しかし彼は直ぐに、眩しいまでの笑顔で否定をして。
「だから、約束な」
お互いの小指を半ば強引に絡ませて、子供同士がする様に上下に軽く振った。
自分が望む未来が必ず来ると、信じて疑わない力強い眼差しで。
「…約、束…?」
「あぁ、約束だ」
絡められた己の小指は、僅かに震えていた。
来る事のない未来を信じる彼の笑顔が、なぜか怖かった。
あぁ、でも
「…分かった」
どうしてだろう。先程青年の夢を否定した口から出て来たのは、了承の言葉だった。
望む未来が来る事を信じている青年を、信じてみたくなった。
分かっている。未来は絶対に変わらない。
それでも見付け出すと、根拠のない自信を掲げる彼に賭けてみたくなったのだ。
「よし!破ったら針千本飲まなきゃならないから、必ず守らないとな!」
「…何だそれは。私も飲まなければならないのか?」
「ウォルは飲まなくて良いんだよ。見付け出すのは俺の役目、ウォルは待っててくれれば良いんだから」
相変わらず自信満々な笑顔を見せる青年が、やけに眩しく映った。
必ず叶うと、自分達なら大丈夫だと、純粋なまでに言い切る…笑顔。
しかし全ては幻想。こんな約束は無意味な事。
叶わぬ約束、果たされぬ夢、決まりきった末路。
全て分かっていながら、それでもこの笑顔に縋るのは…愚かだろうか。
場所は次元城辺りを考えて頂ければ良いかと思います
最終更新:2009年04月30日 04:13