【Wol】光の戦士にハァハァするスレ1…FF1キャラクター×wol


『そしてクリスタルに導かれし四人の戦士達は旅立った…』

耳朶をくすぐるような柔らかな声が語り出すと、酒場に溢れていた喧騒が一瞬にして静まる。
竪琴を爪弾きながら詩人の語る物語に耳を傾ける人々の中、ただひとり、恐らく自分だけが忌々しい思いで耳を塞ごうとしている。
(…何も知らないくせに)
語られる戦士たちは、強く、勇敢で、けれど慈悲深く、常に仲間同士思いやり、結ばれた深い信頼と光の加護であらゆる障害を乗り越え進んでいく。
だが現実は違う。
(俺たちは互いの名前すら知らないのに)
詩人から顔を逸らし、弄んでいた杯を口へと運ぶ。テーブルに飾られた花瓶に活けられた花を見るとはなしに見つめる。
今まさに歌われている四人の戦士のうちの一人がここにいるとは誰も気がついていない。赤い装束は二種の魔法を操る者の印。だが歌にある戦士のように光り輝いているわけではなく、長い髪の隙間から覗く瞳は剣呑、『光』よりも『闇』を連想させる。
(あいつだったら、一目でばれるんだけどな)
脳裏に浮かんだ旅の仲間の姿に思わず舌打ちをする。
四人の戦士たちには、共通するものが少な過ぎた。
互いに面識はなく、ただ、クリスタルなんていうものに選ばれたが故に固く結びつけられた運命。
選ばれた者として神殿で育ったという白魔術士は、神への捧げものであるという理由で名を持っていない。
紅一点のモンクはその流派を極めた者が継ぐ名を得、元の名は捨てたらしい。
赤魔術士である自分は、名前なんて上等なものをつけてくれる人間は周りにいなかった。
そして、あの青い鎧の戦士は。


「…少し酒が過ぎるのではないか?」

頭上から降ってきた響きだけは美しい声音は、まさにいま思い浮かべていた相手のものだった。
「…そんなことねえよ、いつもと一緒だ」
薄暗い酒場の中で、そこだけ光が射しているかのようだ。
無駄なく鍛えあげられた逞しい肉体に清かな印象を与える真っ青な鎧。今は特徴的な兜を外しているので青みがかった銀の髪が流れる様がよく見える。
にべない返答に戦士は小首を傾げ、さらりと銀の髪が揺れた。
「そうだな。いつも飲み過ぎだと心配していた」
「は?」
ごとりと、思わずグラスを落としてしまった。
クリスタルの導きとやらで四人が出会ってから、リーダー的役割を負っていたのは目の前の戦士だった。
名工によって刻まれたような非人間的に整った容貌と逞しい肉体、常に毅然とした揺らがない態度に、自然とそうなっていたのだ。
もっとも赤魔術士としては面倒だから丸投げした、ということだったが。
時折、その冷徹な態度に反発を覚え、どこまでもまっすぐ前だけを見つめる瞳を力づくでもこちらに向けてやりたいと、彼の中の揺らがぬものを突き崩し膝をつかせてやりたいと思わなくもなかったが。
ともかく、彼も、また自分たちも、互いの能力についてだけが重要であり、それさえ損なわれなければ余計な口出しはしない暗黙の了解があったはずだ。
それを。
ともすればひとりだけで進んで行くようなこの戦士が、『心配』などと口にするだなんて!
思わず赤魔術士は高い位置にある戦士の秀麗な顔立ちをまじまじと見やってしまう。
相変わらずの無表情で戦士は見返し、やがて小手につつまれた手が倒れたグラスを戻す。
束の間、戦士の薄青い瞳と、赤魔術士の琥珀の瞳が互いの色を映す。

「なに、を」
すいっと戦士の手が己に伸ばされるのに赤魔術士は反射的に顔を引く。
「濡れている」
一度空を切った指先が再び伸ばされ、赤魔術士の口元に冷たい金属が触れた。
「子供ではないのだから気をつけるがいい」
酒の雫を拭った手が、ぽん、と。
「…いったいお前…どうしたんだ…」
赤魔術士の鍔広の帽子の上に軽く、子供をあやすように落された。
「どうした、とは?」
「だってお前、全然違うって…頭でも打ったか」
わけがわからないと戦士は首を傾げる。
相変わらずの無表情なのに、以前とは違いそこになにか感情のようなものが感じ取れる。まるで、人間のように。
ふと、戦士の目が逸らされる。
それが何か悔しいような心持ちで見つめていれば、赤魔術士に触れた手が、テーブルの上の花をすいと花瓶から抜き取った。
「…のばら」
「知らねえよ花の名前なんか」
まじまじとその小さな花を見つめていた戦士の口元が僅かに緩む。
哀しげに、懐かしげに、慕わしげに、嬉しげに。
恭しい仕草で戦士はのばらを口元に寄せ、やがてそっと、小さな花弁にくちびるを寄せた。
僅かに俯いた額に揺れる癖のある銀の髪、伏せられた睫毛の落とす影。
ひどく息苦しくて、赤魔術士は小さく喘いだ。
戦士を呼ぼうとして、だが彼は呼び掛けるべき名を知らなかった。




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最終更新:2009年05月21日 00:02