【Wol】光の戦士にハァハァするスレ1…スコール→wol


 かぁ、かぁ、と鴉が鳴いてオレンジの中に墨を落とす。そのはためく翼が少し怖くてスコールは
ウォルの手をぎゅっと握った。鴉は不吉だ。するとウォルはちょっと不思議そうにスコールの顔を
覗いて来て、しぱしぱと円らな目を瞬かせた。不安なスコールは探るようにウォルを見る。すると
ウォルは何も言わずふっくらとしたスコールの手の平を握り返し、まだ理由が分からずに首を傾げた。

「 …きっと、 このへんだよな?」

ウォルの手は暖かくて気持ちがいい。擽ったい気分と誇らしい気分が綯い交ぜになったものでスコ
ールの小さな胸はいっぱいになる。ウォルはとびっきり格好いいのにちょっとだけ抜けたところが
ある。スコールは彼のそんなところが大好きだ。活発で、いつもきらきらとしているウォル。その
ウォルが時々見せるとんちんかんな振る舞いがスコールは何だか嬉しかった。例えば駆けっこなら
誰にも負けないくらい早いのに、ウォルは階段上り競争ではいつもビリになってしまう。何故なら
必ずと言っていいほど途中で靴がすっぽ抜けて転んでしまうからで、良く見ると穿き慣れた感じの
する運動靴はかぱかぱしている。おっきく見せたいだけなんだと思う。ウォルなりのちょっとした
見栄だ。そんな事しなくたってウォルはセシルやクラウドより背が高いんだから普通にすればいい
のに。それに髪だって銀の糸をたばにしたみたいにきれいなのに、前髪が目に入るくらい伸びてく
ると自分ではさみを横に入れてぱっさり切ってしまう。顔の前にはさみを向けるなんて危ないよ、
スコールは言うけれど、ウォルのそんなところが好きだ。完璧じゃないところがちょっとだけ嬉しい。
それにウォルは相当にぶい。バッツがする暗に含めた告白が、あんまり理解出来ないらしい。それ
で焦れたバッツが何時も結局「ウォルのばかっ!」と怒ってしまうのだ。皆で紙ひこうきを作って
る最中なのに不揃いな小石でお山を作るのに夢中になって、ジタンの話を全然聞いてないまま結婚
の約束をさせられた事もある。スコールはウォルと手を繋いでなら、きっと何処までも行けるよう
な気がしていた。足が速くて、木登りが上手で、格好いいのにどこか抜けてるウォルはスコールに
ないものをいっぱい持っている。そんなウォルが星座の話を熱心に聴いてくれるのがスコールはと
ても嬉しかった。わたしの知らないことをいっぱい教えてくれるのだな。感心したように真面目に
言ったウォルの声を今もスコールは覚えている。
おれたち、特別な友達になれるよな。恐る恐る言ったスコールにウォルは頷いた。
強く、強く、けれどとても自然にだ。

「 う、 んー…  」

ウォルがかぱかぱの運動靴の中で足を伸ばし、うんといっぱい背伸びをする。それでも電柱に貼り
付けられた住所表示の位置には届かない。


「 ウォル、見ても かんじ、 読めるのか…?」
「 ……… 」

はっとした顔をして居住まいを直すウォルがおかしくて、スコールは笑ってしまった。繋いだ手が
宝物のように思えた。こんな風に夕焼けの中を歩くのは、本当はあんまり好きじゃない。夕焼けは、
鴉の鳴き声は、いつだって「ばいばい」を連れて来る。「ばいばい」「またね」「またあした」
スコールはいつもひとりぼっちだ。おうちに帰っても誰も居ない。誰か居てもスコールを抱っこして
くれない。だから夕焼けになるとスコールはいつも一人ぼっちだ。
でも今日はウォルがいる。
仲良しの中でも特別仲良しなウォルがいれば、夕焼けだって怖くはない。

「 しかし、おにいちゃんが、 言っていた。 神社をでて、みぎにまがって、コンビニのところを
ひだりにいってスーパーの信号をわたったところだと。」

ぽつぽつと語るウォルは少し焦れているようだった。教えてもらったことを…おにぃちゃんが言った
ことは合っていたんだと早く証明したいと思っているのだろう。スコールはポケットから小さな紙切
れを出して、それを見た。たどたどしい自分の字が踊っている紙は、少し草臥れて皺が寄っていた。

「 …交番、行ってみるか…?」
「 交番、 どこにあるか、スコールは知ってるのか?」
「 …知らない、けど…」
「 じゃあだめ。迷子になってしまう。」

ウォルも紙切れを覗いている。良く分からない漢字と数字。その下に並んでいる――――と云う四
文字の女の人の名前。ウォルが住んでいる大きな家に遊びに行った時、もう一人の園長先生の机に
あったものを偶々見付けたスコールが、こっそり書き写したものだ。何が書いてあるのか読めなく
ても、その紙にはウォルの写真が張ってあったからスコールは思ったのだ。
彼のお母さんについてのことが書いてあるのだ、と


「 それに、けいさつの人を連れて行ったら、お母さんは怖くて家から出てこられない。わたしに
会ってはくれない。」
「 そうだな。」

スコールは力強いウォルの言葉にくすりと笑って返事をした。
秘密の計画、ウォルにだけ教えてあげる。
二人きりの神社の境内でそう切り出したスコールに、ウォルは目を瞬かせていた。内緒でウォルの
お母さんの家に行くんだ。そしたらきっとお母さん、驚くよ。ウォルのお母さんをびっくりさせよ
うよ。そう言ったスコールに、ウォルは少し嬉しそうに頷いた。あれから三日。内緒の探索は今日
も続いている。
一日目はスーパーまで辿り着いたところで終わり。
二日目はスーパーから真っ直ぐ進んでみたけれど、商店街に出てしまった。
だから今日は真っ直ぐじゃなくて左に曲がった。でもどれだけ進んでも家ばかりで、どれがお母さ
んの家か全く分からない。

「 なぁ、もしかしたら、右に曲がるのかもしれない、スーパーから。」
「 もうちょっと先へ行ったところかも知れない。」
「 ウォルはそう思う?」
「 … …わからないが、」

夕焼けの中を、長い長い影が伸びて行く。二人分の影はウォルの方がちょっと長い。足早に帰路に
着いている制服姿の高校生。夏休みなのにどうして制服なんだ?スコールがそう言うと、おおきく
なると勉強が大変なんだって。とウォルが少し詰まらなさそうに唇を尖らせた。どうしてだ?と聞
くと、知らない。おにいちゃんが言ってたから。とぷいと横を向く。ウォルもさみしいのかな?
だからスコールは、きゅっとウォルの手の平を握り締めた。今度はスコールがウォルの心を励ます番だ。
ウォルはまた驚いた顔をして、けれど今度は少しおずおずとした仕草でスコールの手を握り返した。
ふふ、とどちらからともなく笑顔が零れる。ウォルの笑顔は何だか向日葵みたいで、ちょっとだけ夕
焼けには似合わなかった。


「 ウォル …もし今日見つからなくても…また明日、さぁ…」

確りと繋がり合ったこの手の平が、翼のように思えていた。宝箱の鍵のように思えていた。お月様の
ように思えていた。花束のように思えていた。二人でならば、見つからないものなんてないと思って
いた。優しいものだけでいっぱいなんだと思っていた。少なくともそれは二人の間でだけは真実だった。
ずっと、ずっと喪われる事なんてないのだと思っていた。

「 また明日? 明日も、一緒にさがしてくれるのか? 」

ウォルの言葉は夕焼けが連れて来る怖さなんて、何時も打ち壊してくれる強さを持っていた。首を竦める
みたいにしてこそばゆそうに頷いたスコールは、早くウォルにお母さんを会わせてあげたいな、と強く
思った。会ってこの嬉しい気持ちをいっぱいいっぱい話すのだ。そうしたら今度はウォルとまた、夕焼
けの中を探検しよう。バッツはきっとウォルの左側を譲らないだろうから内緒にしておこう。おれは右
手でウォルの手を繋ぎたいのにジャンケンで決めなくちゃいけないだろうから。そんなことをもごもご
と口に出していたスコールを、ウォルは何だか眩しそうな目で見詰めていた。そう云う時のウォルは嬉
しい気持ちで一杯なんだと知っていたから、一層嬉しくて、楽しくて、スコールはオレンジ色の空を見上げた。

「 ずっと、ずっと一緒だ。」
「 うん 」

今日見つからなくても悲しくない。だってスコールの隣にはウォルがいる。一番好きなお友達の手の平が
ある。こんなにもスコールを暖かくしてくれる手の平を失う事なんて考えていなかった。
夕焼けの中で、ウォルの運動靴が擦れるかぱかぱと云う音と鴉の鳴き声が響いている。



ウォルの大きなお家は孤児院。ぱかぱかの運動靴をはいているのは、子供の成長に合わせて買い換
えられないという大人の事情。ウォルはそれについて何も言わなし子供のスコールは何も気がつかない、そんな大人の事情をウォルはどこか察していて、自分はお母さんに会ってはいけないのだと実は分かって いるのだ、というそんな話。

ちなみにウォルが慕うおにぃちゃんというのはフリオニール


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最終更新:2009年06月06日 03:12