【Wol】光の戦士にハァハァするスレ1…フリオ×wol


 少しずつ崩れ落ちていく世界の空を見ながら、彼は夜の風に吹かれている。
水の流れのように風に揺らめく髪が、夜闇には白すぎる横顔が、整いすぎて現実感が無い。
「フリオニール……眠れないのか?」
振り返って俺を見て、そう言った彼は悟りきったように静かな目だった。
記憶の無い彼には未来しかない。
その未来さえも、もしかするとあと僅かだというのに。

 俺は微笑めたか良く解らないまま、首を横に振った。
「眠れないんじゃない、眠らないんだ。残された時間は少ないから」
彼と共に居られる時間は、きっともう日が昇って落ちるほどの間もない。
「ああ、後少しだ。必ずやカオスを倒し、全ての世界に光を」
力強く頷いた彼は、本当に解っているのだろうか。
多分これが俺達の最後の夜になる。
「共に戦うよ……最後まで」
負ける気はしなかった。俺達は、彼という光と共に在るのだから。
「君の力が我々には必要だ」
生真面目な顔、表情通りの真っ直ぐな言葉。
女神より揺ぎ無き彼が、ずっと俺の光だった。

「俺の武器に……そうだな、この剣に祝福をくれないか」
2人きりでなければ言えなかったかもしれない。
それは俺の願いで、多分祈りだった。
「私が?……それは、」
珍しく戸惑ったように剣を受け取りかねている彼に、俺の剣を押し付ける。
「明日だけの為じゃない。元居た世界に還る事ができても、あんたが側に
居ると思えるように……祝福が欲しいんだ」
この戦いが終わっても未来があると思えれば、俺はもっと強くなれる。
別離の後の世界にも、彼の祝福があると信じられるのなら、もっと。
「……フリオニール」
一瞬彼は目を伏せた。銀色の睫毛が青い瞳に影を落とした。
「迷惑か?
「いや、そうではない。それならば……」
私などの祝福で構わないのならば、と彼は言う。
しかし、その手は優しく俺の剣を押し戻して、掌が上に向けられた。
「ならば君の武器は、のばらだ」
滅多な事では笑わない彼が、今は微笑んでそう言った。
この気持ちをなんと言えばいいのだろう、俺の心臓はただ激しく鼓動を繰り返す。
のばらをその手に持った彼が、目を閉じて光に祈る。
「君の夢に、光と祝福を」
燐光を纏ったように、一輪の花は仄かに美しく輝きを増したように思えた。

「明日はそんな暇がないかも知れないから言わせてくれ。あんたと共に戦えたこと、
……俺の生涯の誇りにする」
こんな世界でなかったら、愛を……生涯を共にする事を誓ったかも知れない。
だけどきっとそれは無いのだ。それだけは。
彼は微笑んだまま、のばらを俺に差し出した。
「フリオニール。私は……君に出会えた事自体を誇りとしよう」
勝手に、彼は「皆」と言うと思っていた。
俺だけの事をそんな風に言ってくれるとは、少しも想像していなかった。
「あ……」
何か言いたかったのに何も言葉にならない。
ただ手を伸ばすと、微笑んだままの彼の頬が俺の頬に触れた。

 戦いとその果てにある死との間で俺達は生きている。
女神に呼ばれた仮初めの世界での命は、たったそれだけの時間しか俺達には許さない。
だが……俺達はこの世界でしか、出会えなかった。




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最終更新:2009年06月06日 03:15