[[【Wol】光の戦士にハァハァするスレ1…ガーランド×wol]],
この表情を知っている、と思った。
動く事もできずに仰向けに倒れ、目を閉じて。白い額には微かに汗のしっとりとした潤いを帯び、
苦悶の余韻に歪んだ眉もまだそのままだ。
ずっと噛み締めていたせいで赤く染まった唇を薄く開いて僅かに歯列を覗かせ、はあはあと乱れた呼吸で
しなやかな線を描く胸を上下させて。
それは繰り返される輪廻の中、幾度となく目にした彼に酷く似ていた。息絶える寸前の、彼に。
美しく整ったその顔と、如何なる苦痛を与えようとも憎しみや悲しみではなく、鮮やかなまでの
戦意を返してくるその気性は、死に瀕して尚無機物では決して創り出せない美しさをみせる。
最も、今ウォーリアオブライトは死に瀕しているわけではなかった。
本人にとってはその方が余程マシであるのかも知れないが、それはガーランドの知ったところではない。
一糸纏わぬきめ細かな肌を腹から喉に掛けて指でなぞってやると、乱れた呼吸が一瞬詰まった。
「ゃ……っ」
数分前まで必死に喘ぎを堪えて喉を震わせていたウォーリアオブライトは瞼に力を込めたようだったが、
それでも隠せなかった息が僅かに開いた唇から漏れる。
「まだ足りぬなら、続けてやろう。どうする?」
笑ってやると、眉をひそめて身体を起こそうとした青年の腹に散っていた精液が動きに連れて脇腹を伝い、
それさえも甘い刺激になったように呼吸を揺らがせた。
手を伸ばしても彼の手が届く所に武器はない。
にも拘らず自分を犯していた男を顎を上げて睨みつけ、視線が刃であればと願うように唇を真横に結んだ姿は挟持だけは犯されないと示すようだった。
「知っているか」
圧倒的に不利な状況をものともせずに鋭い視線を向けてくる青年を見下ろし、ガーランドは低く笑った。
「貴様の情欲に喘ぐ顔は、死に瀕したその時と似ているのだ」
肩に青銀の髪を散らし、それ以外に素肌を隠すすべを持たないウォーリアブライトが初めて訝しげに眉根を寄せる。
「……何が言いたい」
ガーランドは輪廻を繰り返す中で、幾度もウォーリアオブライトの死に様を目にして来たが、記憶を残さない
青年はそのような事など知る由もないだろう。
「……言葉通りの意味だ」
伸ばした右手で光の戦士の首を掴み、そのまま石床に押し付ける。
無理矢理に幾度も極めさせられて気力も体力も限界に近い勇者は、猛者に容易く命を預ける事しかできなかった。
「お前に殺される気は、な、い……」
「わしは数えきれぬ程貴様を殺した。どれほど犯し抜こうと自害せぬ事さえも、知っている」
喉を押さえつけたまま噛み付くように口づける。
「んっ」
溢れた唾液がウォーリアオブライトの頬を伝い、横に振ろうとした顎は容易く押さえつけられた。
「何故気づかぬ。何故死す度記憶を失う!」
唇が触れ合う程顔を寄せたまま、ガーランドは叫ぶ。
曇り1つない青い瞳が驚いたようにその顔を見返した。
「どうせ忘れてしまうなら、死ぬ前に秩序の女神にでも伝えるように言って聞かせておくがいい……彼奴は自分に都合の悪い事など、伝えはしないだろうがな」
顎を掴んで自分の方を向かせたまま、暗く暗くガーランドは嗤う。
「……わしは……貴様を愛しておるのだ」
「何を言って……」
「世迷い言と思うか。それならそれで構わぬ」
喉を鳴らすようにしてガーランドは呻くように言葉を続け、それからウォーリアオブライトの上から身体を離し薄く瞼を閉ざした。
「……ガーランド」
身体を起こす事も忘れたように、ただ猛者の名を呼んだ勇者は見開いた目に崩れかけた天井を映して。
陰りのないその目が、真実だと理解させてしまったのだろう。押さえつけられた喉に鮮やかに赤い痕を残したまま静かな呼吸を響かせて横たわる彼は、今までに知らなかった衝撃を受けたようだった。
構わずに淡々と鎧を身に着け、ようやく身を起こした青年に目を向ける事も無く告げる。
「忘れてしまうが良い。どうせ我らに殺し合う以外の宿命は許されぬ」
無言のまま目を閉じたウォーリアオブライトの瞼が微かに震えたのを見て、ガーランドは凍るような声で言葉をかけた。
行き着く先の想像もつかない憤りに近い感情のままに告げた愛さえ、この輪廻の終わりには再び失われるのだと理解している。この異界の誰よりも、深く。
「すまない」
「謝った所で何になる。精々、殺し合いに備えて剣でも磨いておくのだな」
見えるのは俯いた青年が額に手を当てている姿だ。
「そうではない。お前は……私に真実を告げたのだろう」
「それが、どうした」
クッと喉を歪ませて嗤う。何もかもが茶番だ、そう思いだすと止まらなかった。
だがそのまま背を向けて去りかけたガーランドの足を止めたのは、密やかなまでのウォーリアオブライトの声だった。
「ガーランド、私はこの事を忘れたくないのだ」
肩越しに振り返る。一点の嘘偽りも持たない両眼が、ただ真っ直ぐにガーランドを見ていた。
例えようも無く深い悲しみをその青の中に湛えて。
初めて見る彼の鮮やかな悲しみに、ガーランドは皮肉に思うよりも先に息を飲んだ。そしてそれでも失われるしか
ないのだろうウォーリアオブライトの記憶を思い、もう一度暗い笑みを浮かべた。
「ならば、この輪廻の終わりを楽しみにしておるぞ」
ばさりとマントを肩に掛け、後はもうウォーリアオブライトの声さえも耳に入れずに歩き去る。
輪廻の終わり、死顔を相手の前に晒すは己か……彼か。
それさえもまた果てなき繰り返しの1つでしかない事を、ガーランドだけが知っていた。
最終更新:2009年09月06日 00:15