フリオニール×wol
生真面目に俺の顔を見上げる彼の目は凪いだ湖水のように艶やかに澄んでいる。
神に愛されているとしか思えない光の化身はこんな人間臭い行為スレスレの状況にも関わらず鮮やかな程に清浄で、フリオニールは自らが暴いた裸身を前にただただ喉を鳴らして次の行為に移れずにいた。
「フリオニール?」
一糸も纏わずに横たわったウォーリアオブライトが、顔の両側に置かれた義士の腕に優しく触れて首を傾げる。
言葉を発する為に滑らかに動く唇にさえやましい程に劣情を感じさせられて、フリオニールは泣き笑いのように頬を歪めた。
「君がやはり気が変わったというのならば、明日も早い……もう休もう」
私はそれで構わないから、と言いかけたその唇にやっとの思いでキスを落として封じる。
「そうじゃない。誘った……どころか、あんたが欲しいと請い願ったのは俺だろう」
たまたま2人きりで同じテントになったからだけではなく。
密やかに溜め込んでいた欲望がついに行きどころを失ったからだけでもなく。
ただ確かなのは、広くもないこの空間で手が触れ合った瞬間に、彼がめったに見せない微笑みをくれた事。
黙っていようと勝手に誓っていた思いの丈は「あんたが好きだ」と口をついた一言で決壊し、人生で初めての告白と口付けは殆ど時間差で行われ。
必死の形相のフリオニールに、ウォーリアオブライトは先程よりは鮮やかに見て取れる笑みを向けてくれたのだ。
「……好きだ」
「私も君を想っていた」
破れかぶれとは弓の弦一筋程しか変わらないような滅茶苦茶なタイミングでの告白に返してくれた言葉をもう一度口にして、真面目な顔の彼は伸ばした手のひらでフリオニールの頬をなぞる。
「だから、君に応えたい」
思わず強く目を閉じて、フリオニールはウォーリアオブライトの首の後ろに手を回すと強く抱きしめた。
互いの素肌が密着して、抱き起こされた光の戦士の頬が義士の耳に触れる。
「だけど……あんたを汚してしまいそうだ」
白い肌に落ちる自分の影さえ許されざるものに見える程、人間らしい欲望を知らない彼にこれ以上自分の思いをぶつけていいのかフリオニールは今更迷っていた。
その迷いを全て見抜いているかのように、静かな瞳が胸を打つ。
「君が私をそのように遠く感じているのならば、汚してくれても構わない」
私を君に近づけてくれ。
迷いない彼の言葉が、余計に重く……愛おしい。
腰に溜まる熱にもう止められない火が完全につき、それでも最後に確認せずにはいられなかった。
「あんたは俺がどんな事をしようとしてるのか、解ってるのか?」
「……男女の交わりであれば、知識としては持っているようだ。だがこの場合は……どうだろうか」
知らないことさえ覚悟していたが、幸いなんとなくでも状況は理解してくれているようだ。
あくまでも真面目に答える彼の髪に唇を寄せて、フリオニールは苦笑した。
今の言葉からすればどうやら互いに初めてで、同性で、おまけに日が暮れてから告白したのにその日の灯火が落ちる頃にはこの状況。
他人ごとなら絶対に止めている。
……けれども自分達は、いつまで共に居られるか解らないから。
深く口付けて、フリオニールはウォーリアオブライトの柔らかな舌をそっと吸った。
「無理だと思ったら、そこでやめる。我慢は、しないでくれ」
「解った」
まるで戦いの前に促した注意を聞くように、勇者は凛々しく頷く。
それがあまりに愛おしくて、フリオニールは胸が苦しくなった。
喉を軽く噛んで肌を吸い、無数の傷跡が散る皮膚に赤い内出血を点々と刻む。
暗いテントの中でもくっきりと白い肌に刻まれた痕は、無残にも美しくも見えてフリオニールを興奮させた。
「ん……」
どうしたら良いのか迷いつつも本能が赴くままに散々胸に舌を這わせると、頬を上気させて僅かに横を向く仕草が官能的で、綺麗だ。
「……ここ、触ってもいいか?」
下腹部に指を伸ばして髪と同じ色の柔らかな茂みに絡めながら聞くと、頭の中だけにあった知識と現実の差に戸惑うように微妙に眉を寄せて、それでも彼は頷いた。
「君が……嫌でないのなら」
正直に言ってフリオニールには、この後……の行為では彼に快楽を感じさせる自信が全くない。
だからこそまずは自分と同じ器官に、フリオニール自身も想像しやすい快楽を与えたいとそう思った。
熱を持ち始めている性器をやんわりと握り、反射的にびくりとした背を撫でて宥めながら唇を吸う。
「好きだ」
絡めていた舌をほどきながらそう囁けば、目元を染めて密やかな喘ぎに飲み込まれながらも同じ言葉が返ってきて。
硬さを増し、指を次第にぬるつかせて行くその感触が嬉しかった。
「フリオニール……っ」
しばらくそうしているとウォーリアオブライトの内腿と下腹に不自然に力が入るのを感じ、フリオニールは手の動きを早めていく。
「大丈夫。感じて欲しいんだ。我慢しないでくれ」
「だ、が……っ」
「余裕、無くなりそうだから。今は感じてるあんたの顔を、見ていたい」
知らず微笑みかけると、小さく息を吐いた彼の体が震える。
「……、っ、」
熱いものが飛び散って2人の腹を濡らし、茎を伝って指を濡らしたその一部を迷うことなく口に含んでいた。
「そんなものを……」
達したばかりの甘さを含んだ眼差しをして力なく呟いた青年の頬に口付け、あまりの興奮で痛いほど張りつめている自身を何とか誤魔化す。
「つまらない独占欲だと笑ってくれ」
腹の上に散る精を指で掬い、ねっとりと指の股へと伝うそれを舌で絡めて飲み込んで。
たまらず目を逸らした白い顔に、これは支配欲だったと知った。
「もっと、あんたが欲しい」
頷きも待たず自ら潤う事のない乾いた蕾に中指を滑らせてみながら、フリオニールは思案した。
固く閉じたそこはそのままでは押し入る事はできそうにない。
となれば。そばに置いてあった荷物の中から、オイルを取り出して手のひらに溜める。それは無害なオイルだが優しく甘い香りが心地いい。
「……それは?」
「すべすべオイル。実は肌にも優しいって、ジタンが言ってたから」
彼の使い方とは大幅に違うのだが、問題は無いだろう。
脚の間の閉じた場所にオイルを垂らし、指の腹で孔をくすぐってやるとウォーリアオブライトは身じろいだ。
「そこは……っ」
「ここで、繋がりたいんだ」
顔を寄せて瞳を合わせ、無理か?と問えば迷うように瞼が落ちる。
「痛いと思うし、気持ち良くなるかどうかは……俺も解らないから。だから、もし……」
「いや」
目をあけたウォーリアオブライトが、首を横に振る。
「すまない。想像の域を出ない事に驚いただけだ。私は君を全て受け入れるつもりでいる」
……ああ、もう、この人は。
たまらない思いに駆られて、フリオニールは自分の表情を隠すために口付けをまた落とす。
「嬉しいよ。でもそんなに、煽らないでくれ……」
勢いで突っ走って、入れる前に果ててしまいそうな気がして、フリオニールは自分の髪をぐしゃぐしゃとかき回した。
挿入は酷い痛みに満ちたもので、甘やかさなど欠片もない苦痛を押し殺した声を互いに聞かせてしまった。
長い時間次の行為に移る事に迷って指を使いつづけた為にか、傷つけずに一つになれたことは不幸中の幸い程度の幸運だったのだと思う。
「……フリオニー、ル」
苦痛の中でも青ざめた顔で力を抜いて耐えている、優しい声に名前を呼ばれ。
「ごめん……痛い、だろ」
「私だけではないはずだ。君が望むままに、してくれ。耐えて……みせよう」
「耐えて欲しいわけじゃ、無いんだけど」
困った果てに笑みを作ると、内臓に突き刺さる異物感と痛みに蒼白なままで彼も微笑んだ。
「君を受け入れる事ができて嬉しい」
言われて、愛する者が耐える痛みを見て萎えかけていたフリオニールの性器が熱く震えた。
その反応はたちまち受け入れている青年の体を浸食し、フリオニールの腕を掴んでいた指に力が入って白く血の気を逃がす。
「……ふ、……う……っ」
「ごめん!」
思わず謝ると、また彼は首を振る。
「構わない。君の、思うように……」
その真剣な言葉がフリオニールに力を与えた。これ以上迷えば、ウォーリアオブライトに気を使わせるばかりでしかない。
「ゆっくり動いてみる。無理なら教えてくれると、約束を」
「……誓おう」
銀の睫毛を揺らして、ウォーリアオブライトはフリオニールの背中に手を回す。
こわばった体を少しでも緩める為に静かに呼吸が整えられ、暖かい内壁がじわりとフリオニールを包み込んで
ひそやかにだが形を馴染ませ始めていた。
こうして抱き合っていても仲間達のテントとの距離を考えれば、どのような声も抑えるしかない。
それでも呼吸だけは思うようにならず、眉を寄せたウォーリアオブライトの吐息は徐々にコツを掴み始めた
フリオニールの動きと同じペースで乱れていった。
「っ、は……っ」
耐えているのは痛みか快楽か、目を閉じて微かに唇を開いて揺さぶられる姿だけでは判別がつけがたく。
しかしフリオニールの雄を次第に柔らかく受け止めて、奥を突く度に全体がひくりと蠢いて絡みつくその場所が、言葉よりも確かに苦痛だけではないと教えてくれているように思われた。
ウォーリアオブライトの中が心地いいのと、ずっと望んでいた思いが通じた幸福と。
生まれて初めての経験は互いに巧拙の区別もつかないまま、気持ちを何よりも増幅させて高みへと浚っていく。
時に喉から溢れる微かな声と次第に増して行く水音だけが、行為の終焉が近い事を示した。
「ウォ、ルっ……!」
想像したように長く繋がるなど、最初から無理な話だったに違いない。
囁くように彼を呼んで、抱きしめたまま中に全てを放つ。生まれついて体が知っていたかのように、大量の精が小刻みに吐き出される度に腰がより深く突き入れられてウォーリアオブライトの最奥を濡らすのを感じた。
「あ……っ?」
驚いたようにのけぞって、息を吐きながら声を殺して唇を噛む。
そして彼は不意に瞼を揺らして、内側からの熱に潤んだ眼差しが溶けるように……涙を零した。
「わ、あっ、すまない……!」
「違う」
痛かったのかと慌てて性器を抜き去ると涙を拭うために手を延ばしたが、ウォーリアオブライトはその手を捉えて
指の背に唇をそっと触れさせてきた。
「君が私を求めた意味が今、解った。フリオニール……私の中に、君の魂が焼き付けられたのを感じる」
辛うじて微笑んでいると解る濡れた目で見上げられて、慌ててフリオニールは頭を思い切り振った。
「もう本当に誘惑しないでくれ……頼む、から」
あまり誘惑されると、どこからともなく白鳥の湖が聞こえてきそうだ。
「顔が、赤いな」
「それは解ってても指摘しないで欲しい……」
思わず横を向くと、また名を呼ばれた。
「フリオニール」
顔を見ると同時に引きずり倒されて、互いの胸をつけた状態で至近距離の蒼い瞳に縛られる。
「……ウォル、あんたが好きだ。戦いが全部終わっても、ずっと」
愛しさに引きずり出されるように、言葉にできる思いを全部ぶつけて。
まだ余韻に微かに震えているような長い腕に抱かれ、フリオニールはウォーリアオブライトの声を耳で感じる。
「……ありがとう」
自分のものと彼のもの。
いつかは無限の距離に分かたれる2つの心臓が、今は限りなく近くで鼓動している音が聞こえる気がした。
最終更新:2009年09月06日 00:30