【Wol】光の戦士にハァハァするスレ3…スコール+wol


脈々と隆起する滑らかな岩肌。自然に形成された大地のオブジェは、暗雲に光を閉ざされ寒々としていた。
その隙間を風の唸り声が暴れ回っている。
実際、気温はかなり低かった。もう少し雲が厚ければ雪が降ってもおかしくなさそうだ。
つき、と、引き吊るような痛みを覚えスコールは顔をしかめた。額のキズへ手を遣る。
指先に触れる其れはもう大分前のものだ。痕は残ったが決して深くない。
しかしこういった傷は厄介なもので、固まった皮膚が寒さに軋む。小さな苛つきを覚えた処で、背後から金属音がした。
(…光が来たか)
未だ暗雲はそのままだが、鎧の音から誰か判別出来たのでそんな風に思った。
名前すら忘れても、決して我を失わない強さ。それは正に光だった。眩しく、全てを照らすそれは時に煩わしくもあった。
振り返る。予想通りの姿。蒼紫を基調にしたオーソドックスな鎧を着込んだ、秩序側のリーダー的存在。
彼はそのまま、光の戦士と呼ばれていた。
「スコール」
彼は何やら周囲を見回していたが、此方に気付いたらしく通る声で名を呼ばれた。会話に適するくらいまで距離が縮まる。
「クラウドを見なかったか」
「…いや。知らないが」
「そうか…渡すものがあるんだがな。何処に行ったか」
クラウド。彼もスコール程ではないが単独行動を好む。どうやら見つからないらしい。
そんなことを考えていると、また傷が痛んだ。ツキン、と寒さが沁みる。
顔をしかめてしまったことを後悔した。
光は目聡く見つけたらしく、更に距離を縮められる。
「痛むのか」
「………」
「気温が低いと、古傷が吊るからな」
視線を下げたまま早く去ってくれないかと思う、と、傷を抑える手を、彼の指にするりとなぞられる。
驚いた。触れられた事にもだが、その瞬間痛みが消えた。沁み入るような冷たさも消えた。
「…………何をした」
「…何って、ケアルのごく軽いものだが」
「……………………」
「…ああ、私の世界では魔法は魔力にのみ依存する技だった。鉱石や召還獣…君の所ではガーディアンフォース、だったか?
其れらの力を借りるものではない。だから効力を自分で調整出来る」
「………」

元居た世界が違う、ということを改めて認識した。彼の言う通り自分の世界では魔法はG.F.の力だ威力は確かに使い手の力量によるが、効果の調整など出来ない。こんな小さな傷にケアルをかけた日には過剰治癒で皮膚が劣化するだろう。
回復量が100なら100で固定なのだから。
「邪魔をしたな」
額に触れたまま突っ立っているスコールをそのままに立ち去ろうとするウォーリア。
「…今日は、一人でいるのかと聞かないんだな」
その背に、何故か声をかけていた。らしくない自分の行動に、スコール自身少し驚いていた。
彼が振り返る。ふっと笑った顔は常よりも柔らかい印象だった。
「言っただろう、君を誤解していたと。仲間を信じていないから孤立したがるのかと思っていた。だが違う。
君は仲間を思い、信じた上で離れる。単に一人で居るのが好きなのだろう?」
「…他人と居るのは慣れないんだ」
「ああ、ならそれでいい。私は馴れ合いを強制するつもりはないのだ。君は光を知っている。だから好きにすればいい。
私は君を信じる。君の行動も信じよう」
事も無げに言い、ばさりとマントを翻し歩き出した。
彼にいきなり剣を突きつけた時の事を思い出す。自分で言うのもなんだが、邪魔だといわんばかりの態度だった筈だ。
そんな男を、ただ言葉だけで信じるというのか。
「…渓谷」
ぽつりと呟くと彼が歩みを止めた。今度は振り返らなかったが。
「月の渓谷の南」
続けると少しだけ此方を見た。兜の所為で目立たないが、濃い銀髪が風に揺れる。
「…アイツはよくそこに居る。今日も居るかは、解らないがな」
誰のことかは解っただろう。また彼が笑った。
「そうか、ありがとう」
そして今度こそ立ち去っていく。
今日は妙な日だ、と思った。
俺はよく喋ったし、あんたは二度も笑ってくれた。
鎧の金属音も遠く消えた頃、再び痛みの消えた傷をなぞった。先の彼の指先のように。
「…俺も、アンタを誤解していたようだな」
誰一人見捨てない。誰一人蔑ろにしない。孤独を好む自分はそれが苦手で、理解出来なくて。
彼は正に光だった。眩しく、全てを照らすそれは時に煩わしくもあった。
眩しくて、見ようとしていなかった。
突き刺すような閃光ではない。包み込むような陽光でもない。ただ鮮烈な輝き。
自分には眩しすぎると目を閉ざしていた。
光は、暖かい。そんなことも忘れてしまう程。
もう帰ろう。ガンブレードを担ぎ直し、コスモスの宮殿へと向かう。
いつの間にか風が止んでいた。




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最終更新:2009年11月15日 00:48