【Wol】光の戦士にハァハァするスレ3…セフィロス×wol
ガタリと、剣と盾と共に、彼は地面に手を付いた。相手のレベルが上だろうと、バトルエスケープはしない。リトラ イあるのみ。しばしの間を待つ彼に、しかし、「私の勝ちだ」と、近寄って来たのはセフィロスだった。
「?」ここで終わりのはずだ。ゲームオーバー後に近寄る敵はいないはずで・・・ 彼は訳が分からずに、声の主を見上げようとした。その対戦相手は彼の剣の柄から籠手の手首を引き離してひねり上げた。口元に浮かべた笑みが視界に入り、彼に問いかけた。
「君達PC(プレイヤーキャラクター)には、勝利の報酬があるのだから、私にも戦利品があっても良かろう?」
そう聞かれても、何と言っていいのか分からない。第一、HPが0の、戦闘不能の彼には何もできない。口を利くことも。ただその明るい青色の目だけを向けた彼の顎に手を伸ばし、セフィロスは冑の止め具を外した。
__冑を戦利品に取るというのか?__
しかし、彼の頭から外された冑は、斜め後ろでカツーンと硬い音を立てた。冑の下だった銀色の髪が少し明るく光って現れた。
「冑でよく見えなかったが、」セフィロスは彼の顎を指で持ち上げて、顔をのぞき込んだ。
「間近で見ると、美しい顔立ちだ。それに、いいやられっぷりだな、お前は。」いつもこんな笑いを貼りつかせているのだろうか。「壁を壊しながらぶち当たるところなど、見物だ。堪らんな。」
__勝ち誇っているのか・・・?・・・ と彼は半分ぼんやりと思った。鎧を纏っているから、切り傷は少なく血はそんなに流れ出てはいない。だが、あの長い刀でさんざん打ちのめされ、岩などに激突したので全身打撲だ。骨も折れていそうだが、どこだか分からない程全身が痛い。打った頭の中で音が響いてガンガンする。口の中が切れていて血の味がする。
細かいことなど考えられなかった。セフィロスの顔も焦点がぼけかけていた。リトライになれば、・・・・
けれどもリトライにはならず、セフィロスの声の続きを聞く他なかった。
「そんなお前が、もっとやられたら、どうなるのか見てみたい。」
__エ?__と、彼が意味を考えるより早く、セフィロスは掴んでいた手を引いて彼を地面に倒した。伸ばして倒れた手から籠手が外され、鎧も順に外される。
__武装解除?__もっと私を痛めつけようと思っているようだが__生身を斬り刻もうとでも?__これ以上、手や足や、例え首を切り落とされたとて、何も変わりはしない・・・・
鎧を全部剥がすとセフィロスは、分からない顔のまま伏せている彼にもうひとつ微笑みかけた。
「私の戦利品__光の戦士よ、お前は私のものだ。」
彼の髪がぐいと引かれ、上体が引き起こされた。目の前にセフィロスの顔が来て、彼の口角から一筋流れ出ていた血を舌で嘗め取った。血が移って赤くなった口は吸血鬼などを思わせる。と見ていたら、口が塞がれた。塞いでいるのはセフィロスの唇のようだった。
__エ?何を?__?!__
起こっていることが分からずに彼は目を見開いた。__だめだ、目はそれでも、体は全然動かない。
明るい緑がかった両目がやや細くなり、彼をそこに映してまた笑みを見せた。
「さあ、お前の光を全て奪い去ろう。闇に抱いてやる。__堕ちて苦しむ姿を見せもらおう。」
まさかセフィロスが与えたい苦痛というのは__ 彼はようやく察した。 __だが、私は男だ__何で一体、セフィ
ロス、そんな?__が、どうしたらいいのだ?__
__でも、どうしたらいいか分かったとしても、__何も出来ない。
セフィロスは自分の唇を嘗めて、
「血の味だな。」と言った。
__楽しそうだ。__人を苦しめて喜ぶ奴のことをサディストと言うのだったな__
そのサディストの笑みがまた寄って来る。
__イヤだ__ 彼は目を閉じた。
セフィロスの腕が背中に回り、力が加わる。どこを触られても痛かった。
__だがなぜ?__な・・・ぜ・・・?・・・
何故という疑問がリフレインする。激痛のせいで彼が意識不明になるのに時間はかからなかった。
ふっと体の重さが少し軽くなって、痛みがやや引いていた。回りの薄明るさを感じながら、彼はまぶたを開いた。
__う?__
仰向けの額から、砕けた鳥の羽根が、かすかな身動きで起きた風にふわりと散ったようだった。空中のその細かい色合いが焦点の合いつつある目に映る。
__知っているのと同じなら、これはフェニックスの尾__戦闘不能を回復させる__
__戦闘不能__私は戦闘不能だった・・・そして、回復したのか・・・
彼は感じた。これはHP1ケタ位だ。
彼の目に、すぐ側に腰を下ろしている人の黒い姿が映り、意識を失う前のことが一度に思い出された。
「セフィロス!!」 彼の喉からはやっと聞こえる位の小さな声が出た。
「気が付いたか。」彼の表情を見ながら、セフィロスの口元にはやはり、何も気に懸けていないような笑みがある。
「声も上げずに気絶されてはな。人形や死体が相手では面白くもない。」
「それで__私を蘇らせたのか?__そこまでして?」見たいのか?私が苦しむ姿を?__それも__
胸の芯がぞっとして、蘇ったたばかりの青白い顔から血の気が引く気がした。
「口は利けるようになったな。」
横たわっていた彼は身を起こしかけた。HPが1あればそれ位は出来る。いいや、残ったHP1で戦闘に勝つことも出来る。
ただし、衰弱していなければ。
その時セフィロスは空色の壜を取り出した。
__ポーション。__ 一口、飲んだかと見えたがセフィロスは壜を置き、片腕で彼を抱き寄せた。もう片方の手が彼の頬を包んで、そむけようとする彼に口付けした。唇の間に液体が流れ込んで来る。体力と気力を回復させる力を持った液体が__
何ということだ、こんなふうに飲まされるにはあまりに甘美な魔法のしずくは、もれて流れる首筋からも、その効き目が広がるのが分かる。体の痛みが消えていく。
「ほらお前、抗ってみろ。__それ位の力は戻っただろう?」
腕の中で身を引こうとよじる彼に、セフィロスはさらに楽しそうに言った。
「お前がこういうのが好きなら、話は別だが、そんなはずはないな。お前、初めてだろう?__私も知っているふりをするつもりはない。初めてだ。」
胸の中で何かが弾けて、彼はセフィロスをはっと見返した。衰弱していて思うように力が入らない手でセフィロスから逃れようとするのは止め、じっと見つめずにはいられなかった。
__なぜだ?って、それが引っかかっていたのだが__セフィロス、なぜこんなやり方で私を苦しめて見たい?(斬り刻まれるよりこの方がいやなのは確かだが、)
__初めて?!__ ならばなぜこんな気を起こした?__男なのに__私のどこが__(「いいやられっぷり」だと?!)
__ただサディストの気まぐれと説明はつくかもしれない。しかし__普通は愛する心が伴うはずの__「愛」という言葉は、この世界__この戦いだけの世界ではまるで無視されていて、今ここでも、ちっとも関係ないが__
けれどこの世界でも、仲間たちのいたわりや励ましに形を変えて確かにある__
だがお前、セフィロス、誰かに愛されたことはあるのか?__
実験材料に手放し、いることさえ知らせなかった両親も、ソルジャーにする為だけに育てた組織も、愛情を注いだとは思えない。__愛されたことのない人は愛することを知らないという・・・・・・
__今まで誰一人、お前を愛してくれた人はいないのか?
__私は・・・思い出せないが・・・・・・いたはずだ__
そう、今だって仲間がいる。
セフィロスを見つめたほんの刹那、彼の中でそんな思いが次々と湧いた。
ひょっとしたら、まだ頭に血が回りきっていなかったせいだったかもしれない。思いの入り混じった中から、不意に答えがひとつ見つかった。自分がどうすればいいのかが、分かった気がした。
__だがそのためには__
彼はそれらを、「いいのだ」と一瞬ですべて断ち切った。
彼が逃れようとするのを止めて自分を見つめるので、セフィロスは思った。
__その目で私を見るか?
彼の明るい青色の瞳はセフィロスを見ていたが同時にどこか他所を見ているようでもあった。そして彼の胸がはっと一度震えた時、その両の瞳が違う輝きに変わったのだ。真っ直ぐな眼差しに見えるのは、彼が求める道を、見えずとも信じて追い続けていると言って見ていた、あの光と同じ光だった。
__うんと戸惑って、嫌がるかと思えば__その視線はまるで光そのもののようではないか。何故そんな目で見るのだ?
セフィロスは予想しなかったものを見ていた。
その一方で、セフィロスは回りに近寄った気配に気付いていた。
__こいつの仲間たちが来た、か。さて、どうしてくれよう。
セフイロスの注意の何分の一かがそちらに向いた。その一瞬の間のことだった。
見つけた答えを、彼は何と言えばうまく言い表せるのか思いつかなかった。だからつい、いつも言うセリフが口から出た。
「__望むなら、相手をしよう。」
静かな声だったが、その場にいた全員の耳に届いた。
「?!」「?!」
まさに二人の前に飛び出しながら、
「オイ、俺たちの仲間に」「何しやがる!?」と叫ぶところだった口が、開きかけのまま止まった。
セフィロスも、その言葉に横面を打たれたかのように、笑いが消えた。やがて突き刺すように睨み返した。
__いつは何と言った?__ 血が逆流するようだった。
__よし、それならば__ ほんの短い間に、彼にどんな責め苦を与えようかというイメージが次々に浮かんだ。そしてこの後、思い浮かんだ事を、さらにひどい事も、セフィロスは彼に実行することになる。
その残酷な想像を映した笑みを口元に浮かべて、セフィロスは心の中で言った。
__来た仲間たちに、お前のやられる姿を見せつけてやろうかとも思ったが、やめだ__
左手に長刀を取り、もう一方に彼を抱えたままセフィロスは立ち上がった。
「何をする!?」「セフィロス!!」と、仲間たちの声もようやく出た。
この時やっと、彼は仲間たちがそこにいるのだと分かった。しかし、その方を向く前に、セフィロスは長刀を構えて、邪な喜びそのもののような笑みを瞳に滾らせて、彼らを見回した。
「こいつは私のものだ。こいつの苦しむ姿も、すべて、私のものだ!!__お前たちになど、見せてやるものか・・・フフフ・・・」
言葉と共に黒い次元の歪みを呼び出し、それに包まれて消える直前、彼の目に驚いている仲間たちの顔が見えた。
「おいっ!?」「待て!!」
駆け寄ったが一足遅く、バッツとジタンとティーダは青ざめた。
「どこへ行った?__」
「何をするつもりだ__苦しめるって?」
どうしても悪い予感がした。そこに残っているのは彼の装備と、中身がまだたっぷり残っているポーションの壜。
「まずいっスよ。・・・」
みんなは光の戦士の帰りが遅いので捜していたのだが、見つけた時彼は、セフィロスの腕の中で口付けされるところだった。
当然、彼は嫌そうにしていたが__着ているのは鎧の色に合わせた青紫のアンダーウェアーと黒い下衣だけで、はだけかけていた。どう見ても危ない場面だった。
__彼を連れ去ったセフィロスのしようとしている事は__まさか__うう、想像したくない__どうしたらいいんだ__
皆、心配しきった目で見合った。
「あてが無いけれど、捜しに行くか?」
「それしか無いな」
「他のみんなにも言って捜そう。」「ああ。」
「だけど、なぜあんなに静かな声で・・・?」と、ジタンがみんなの胸にあるのと同じ疑問をつぶやいた。
耳の中にまだあの声が残っていた。
__望むなら、相手をしよう__
「何でだよっ!?」とティーダがたまらずに大声で言った。
「でもあれだけ平気そうなら、ひょっとしたら、・・・・・・」 彼は大丈夫かもしれないと、か細い期待をかけることが出来るか
もしれない、静かな中に力のある声だった。
回りの世界が真っ暗に変わり、彼は投げ出されて地面に転がった。
「さあ、相手になってもらおうか。」
セフィロスがこんなに胸の中が煮え返るような怒りを覚えるのも久しぶりだった。
彼は立ち上がって真っ暗な中に手を伸ばしてみた。
「ここへは、仲間の助けも入らんぞ?」
__きっとここは、闇の世界のうちのどこかなのだろう__あるいは、セフィロスの作った闇なのか?__
「だがな」
セフィロスの動きと、何かを切り裂くような音がして、ぽっと彼の上方から薄明かりが差した。見上げるとその裂け目は、別
の少し明りのある世界に通じているらしい。日の光というよりは、何かが燃えている炎の明かりのようだ。足元には硬い地面があるが、少し向こうは無くなっていて、空中になっているらしかった。
薄明かりの照らす中にセフィロスが入って来た。
「真っ暗では、お前が見えないからな。」言い方はいつものように落ち着いていたが、セフイロスの中では破壊したい衝動が突き上げる。
__なぜこいつはこんな目で見る?
薄明かりの中で彼の目が見つめていた。セフィロスの方が彼より少し背が高い。この目で真っ直ぐ見返されるのが無性に腹立たしい。睨みながら、セフィロスは口の両端を釣り上げて笑った。
__この報いは思い知らせてやる。絶望でその瞳の光を塗り潰してやろう。
セフィロスは黒いコートを脱ぎ捨てた。彼の方は脱げかかっていた上衣の袖から腕を引き抜いた。
セフィロスの笑みの下で、そんな衝動がたぎっているとは彼には分からなかった。もう心は決めていた。
しかし未知なことへのおののきが、かすかにその瞳の光の中をよぎったのを、逆上したようなセフィロスには見えただろうか。
(いよいよ ここから!! という場面ですが、つたなく書き表しても大して面白くないでしょう。ここで行われたこと
は二人の秘密・・・ご想像におまかせします。妄想に勝るイヤラシサ無し。?;セフィロスは彼にあらゆることをしたと、
想像して下さいまし。きっとそれ以上にやったのです。 すみません; では続きへ・・・)
闇の中の空中は、重力が弱まっていて、浮いていると、この世界の中心と思われる方へゆっくりと沈んで行く。ただひとつある光源が上の方で鈍い光を差し入れていた。
髪にからんでいたセフィロスの手の力がふっと抜け、体が少し離れた。
__一息つけるのかな?__と彼は思った。HPはまだひとケタ状態なのだから、ここが地面ならばぐったり横たわっているはずだった。だがセフィロスの手は彼の顎を捕らえ、自分の方に向けさせる。
「__お前は、やはり美しいな。」
__誉め言葉のはずのこの言葉だが__彼には分からなかった。
常人が受けたら間違いなく首の骨が折れ砕けるような平手打ちを食らい・・・何度かは忘れた・・・無意識にガードしてしまう手を気がついて止め、それでもダメージは減らそうと出来る限りさりげなくかわした。当たらなければ、セフィロスはもっと打っ来るのだから。だから顔の右半分は腫れ上がっている。こんな状況でそう言われても__
彼はまだ残っている力で、まぶたを開いてセフィロスを見つめ返そうとした。光をたたえたその目には涙がにじんでいる。
泣いたからではなくて、身体の反応で出てきたものだった。
__涙のせいで光が少し滲んだか?__
その変化に見とれるように吸い寄せられながら、
「まだその目で見るか?」セフィロスは言った。
彼からの答えは無い。代わりにその両目で見返して来る。
セフィロスが彼の瞼に唇を寄せ、涙を吸い取ったので彼はかすかにうめいた。そしてしばらく開けられなかったのはセフィロスがそのまま塞いでいたからだった。
__目の奥の、光の心__
セフィロスには分かって来ていた。最初にあんなに血が逆巻くような思いがしたのは、この目で見られたからだ。こいつに絶望を抱かせてやろうと思ったのに、それを阻止する術を持っていることを、あの場で示してしまったのが、この眼差しなのだと。剣で負かしただけでは砕くことの出来ないこいつの心を、こうしてでも、壊してやりたかった。汚れ無き光を、この身を以って闇に落としてやりたかったのに__
この明るい美しい目、いっそのこと潰してやろうかとも思った。が、それは負けというものだ、この瞳の中を全部闇と絶望に変えてこそ__その前に潰したりは__できない__
「望むなら、相手をしよう」と、あの時言った言葉の通り、彼はセフィロスの相手になった。
抵抗らしい抵抗もせず、全てを受け入れたかのように、されるままになっていた。__鈍感な奴なら奴隷を手に入れた気分になったろうが、こいつは相手になっているのであって下僕じゃない。セフィロスを歓ばせようなどとは思っていない。
__もっと嫌がったりしてくれた方が、暗い喜びが満たされるというものだが__そうさせないために平気なふりをしているわけでもなさそうだ。逃げられないからと、諦めているのでは、もちろんない。何なのだ、こいつは。
彼の体に激情をぶつけたあげく、セフィロスも大分静まって来ていた。
__思った通り、こいつのやられっぷりは見事だ。だが、こいつにとっては、不本意なことに違いないのに__?
「何故だ?」 彼の瞼から離れて、セフィロスは尋いた。
「・・・何が・・・?」
「何故 相手をすると言った?何故その目で見る?」
何故だと問われても、彼にはまだうまく言えなかった。
ああ言った理由は、とても簡単だった。
__セフィロスは愛されたことが無いのか?誰にも、唯の一人にも?セフィロスは愛されなくったっていいような存在なのか?__いいや、彼も人なのだから、そんなことはあってはならないと思えた。ならば、全世界で一人位、愛を注ぐ人がいたっていいのなら__それが私だっていいではないか。
これがあの時、彼の心に突如浮かんだ思いだった。そして、そうしようと決めたのだ。
だがここで、「愛しているから」と言ったって場違いも甚だしい。空々しくて、セフィロスは受け付けずに笑うことだろう。
それに、愛そうと思ったけれど、まだ愛せているのかもよく分からない。「愛している」という言葉で普通に思い浮かぶ好きだとか、愛おしいとかなどとはかけ離れているこの思いを、言い表す方法は分からない。
まして、__「お前にくれてやる愛がこうする他無いのなら」__ なんて、言えるものか。
けれども、知りたがっているのなら、通じなくても答えてみようと思い、
「それは__」 彼は腕にまだ力が入ったので、そっと両腕を開きながら伸ばして、セフィロスの背中に両手が回ると、じわっと力を込めて、自分の方に__胸に抱き寄せようとした。
「ハッ!?」セフィロスは軽く笑うように声を上げた。彼を跳ね除け、右腕をねじり上げた。
「この腕で__私を抱こうというのか?何のために?」
ぎりぎりねじられて、彼の顔にまた苦痛の表情が浮かぶ。
「たわごとだな。お前が、抱かれているのだ。私の戦利品__」言いながらセフィロスは、ふと、彼の言う通りなのかもしれないと思った。
「敵にこんなことをされるのは、屈辱だろう?とうとうやられたあげく好きになったか?」
セフィロスは、彼が物を言える位には力を抜いてやった。
彼は首を振った。
「敵__お前が、カオス側だから 敵方なのだな。だが、お前が 私の敵なのではない・・・」
「__ほう?__敵でなければ、こんなことをされても、平気か?__」
「__っ・・・う・・・っっ・・ぅあ・・・あ・・・ああ・・・あっ・・・あああっ・・・」「いい声だ」「・・・っう・・・う・・・あ・・・・・・」
彼の手から力が抜け、意識が飛びかけるのを、セフィロスは髪を乱暴に揺さぶって引き戻した。
「こうなることは、分かっていたのだろう?それなのに何故逃げようともしなかった?」
彼はまたセフィロスを見て、切れかけた息で答えた。
「お前・・・が、・・・わたし・・・を、・・・欲し・・・いと言っ・・・たから・・・」
__こういう言い方でいいのだろうか__?__それにセフィロスは私を欲しいなんて言ったか?__いや、この言葉通りで
言ってはいなくても__このむごいまでの求め方は?__きっとセフィロスにも、誰かを、何かを、慕う心はあった。ただそ
れが、いくら思い描いても追っても手の届かない母親像であったために___
__そうではなくて、求めてその手が届いたなら__?
「欲しいと言われて、私のものになろうと思った、と言うのか?__フッ、全然そうは見えないがな。どっちにせよお前は私
のものだ。__だが、もしや、お前は欲しがられれば、誰のものにでもなるのか?そうなのか?」
「違う・・・ 」と彼は言った。
彼は今、すっかり他のことが考えられなかったのだが、コスモスの招きに応じて戦いにその身を捧げていたことも、それ以
前も頼まれれば苦難を引き受けていたことも、常にして来たことだったのだ。ただそれは彼を、本来の「光の戦士」として求
めたのであって__こんなふうに彼を求めたのは
「__セフィロスだけだ・・・」
彼の命運がこれからどう転がろうとも、彼をこんなふうに求める者は他には有り得なかった。
「私だけ?」
「ああ。__セフィロス、お前、欲しいと思うものに手が届いたら、少しは・・・」言いかけて、彼はなんと続けたらいいのか分からなくなった。
セフィロスは彼の頬に手を触れ、間近で見つめながら言った。
「まさかお前、自分から、私のものになるとでも言うつもりか。」
彼は答える前に、何かを思い出さなければいけない気がした。ほんの一瞬、何かを__
だが、その一瞬が過ぎ去る前に答えていた。
「ああ。この身も、心も、私はお前のもの。」
セフィロスは胸の中が引っくり返ったような気がした。
何でこんな気がするのか分からなかった。
ここで勝ち誇ったら、馬鹿みたいだ。かと言って「お前はもう私のものなのだから、無意味だ」と冷笑を浴びせることも出来ない。そう、こんな思いがする理由は、多分、この光の戦士はセフィロスには理解できないところがあるのだ。
セフィロスはそれでも聞いた。
「何故だ?お前は、諦めたわけではないだろう?」
そう言われて、彼は思い出さなければならないものが何だったのかに気がついた。
彼の瞳は見開かれたまま止まり、顔は凍りついたようにさえ見えた。
「どうした?」セフィロスは聞いた。
彼は答えず、しばらくそのまま動かなかった。
セフィロスに彼の心の中が見えたなら、悔恨と呵責で一杯になっているのが見えただろう。けれど固まったようになっている様子を見ただけで、かなり何かに動揺しているのは明らかだ。
「どうした?」もう一度聞いた。
彼は答えない。しかしやがて唇をキッと引いて彼の視線がセフィロスに戻り、心を決めた目がにらむかのように向けられた。
彼は決めたことをセフィロスに告げ始めた。体力がほとんど無いとは思えないほどしっかりとした声だった。
「セフィロス、そうだ。私は諦められない。__。
時間がもう、あまり無い。
セフィロス、お前の望みは、私の心を絶望させて破壊することか?
そうしたければ、ここにでも、どこにでも、私を捕らえておくがいい。私はお前のものだから。
そうすれば、お前の望みは叶うだろう。
私がクリスタルを見つけないせいで、この世界が混沌に沈む、それより前に、確実に__。」
もっと悲痛に言ってもいいだろうに、彼の口調は抑えてあった。自分を責める思いがあふれてしまわないように押さえつけて静かにしているのだった。
「だが、私は諦められない。この世界を救いたい。」
彼はセフィロスを見つめ直した。自分のことだけでなく、その瞳にセフィロスが映るように。
「この世界を救えたなら、どこか別の世界でお前に会いたい。
だから__ 」
__別の世界で__?__ この言葉はセフィロスの意識にひかかった。セフィロスは知っていた。この世界は閉ざされている。そして、この世界には、セフィロスのやる事は無い。せいぜい、戦いを楽しむ位しか__
ここではない、別の世界へ行けたとしたら__そのためには__
彼の言葉の、光の刃がセフィロスの中の闇に切り込んで、さらに光が入るようにと切り開いた。しかしこの刃は痛みを与えない。
言った彼もセフィロスも気が付かなかった。
「__だから、戦いに行きたい__か?」
いつの間にかセフィロスの顔から消えていた笑みがまた戻って来た。
セフィロスは両手を彼の首にかけた。銀の髪の下でいつもは見えないが、彼の首は太くてて頑丈だ。
「お前、光の戦士、もう限界だろう?私がこの手に少し力を入れれば、あっけなく戦闘不能だな?」
彼は身動きもせずセフィロスを見返した。
「カオス側の私としては、ここでお前を倒すべき立場だな。戦利品と遊んでばかりもいられまい。
__どうだ?ここで終わりにするか?クリスタルを見つけて戦いを長引かせるより、この方が早く戦いは終わるぞ?」
セフィロスは彼が答えるのを待った。
彼は黙っていた。言葉の代わりに、青白く燃え上がった彼の目は言っていた。
「私は諦められない。だが、私を倒したいなら倒せ!」
セフィロスはふっと彼から視線をそらして、軽く頭を振った。
そして、首を絞める代わりに、彼を抱え込んでその引き結んだ唇に口付けした。それが余りに激しくて深くて、彼を抱いた腕が
余りにきつく締め付けるので、意識がまた遠のき始めた。彼の瞳が驚きを残したまま閉じかけるのを知っても、セフィロスは力を緩めなかった。
セフィロスは思った。
__私の知りたかった答えが、これか__思い通りになったと、いう訳か__
気がつくと、セフィロスが彼を地面の上に降ろしたところだった。
__今度は叩き落されなかったか__と彼は思った。倒れたままでいる訳にはいかない気がして、彼は気丈に起き上がろうとした。
するとセフィロスがその腕を引き上げて、上半身を起こすのに手を貸した。不思議な気がして見上げると、セフィロスも彼の顔をのぞき込んでいた。
「お前は本当に、忌ま忌ましいほどに美しいな。自分では分かっていないのか?あまりに美しいから、その光を消してやりたいと思ったのだ。」セフィロスはひとつ皮肉っぽく笑って、ちょっと肩をすくめた。
__だがそれは、出来ないことだと、ようく分かったさ__
「お前が相手をすると言ったのは__私を魅了する為か? 失うのが惜しいと、思わせるためか?」
彼は首を振った。そんなつもりではなかったのだから。
セフィロスはそんな彼にふっと笑いかけ、少し離れて装備を身につけ始めた。戻ってくると、彼の腕の中に鎧の下衣を落とした。期待を持っていいのかと、彼が見上げると、
「私がたわむれに、かりそめのつもりで蘇らせたのは__やはり、光の戦士。__私は魂ごと、お前を手に入れたのだ。
__どこにいようと、お前は私のもの__だな?」それは凄みのある笑みだった。彼はしかし、迷わずうなづいた。
「別の世界で私に会ったとき、ここで滅びていた方が良かったと、後悔するかもしれないぞ?」
「そんなことにはならない。」
「やれるつもりか。」
「やって見せる。」
「フッ、そうだな、光の君よ。」
セフィロスは彼の手を引き上げて立たせた。
「今は仲間の所へ帰してやろう。」
彼はずいぶん長くセフィロスといた気がしたのだが、有難いことに、連れ去られてからそれほど時間は経っていなかった。
彼を捜しあぐねて、もしやここにまた、と思う仲間が戻って来ていて、
「おおうっ!」「いた!」
現れた彼を見て、心配と安堵がごっちゃになった表情で駆け寄って来た。
「大丈夫か?!」「ひとりか?あいつはいないのか?!」
「ああ、大丈夫だ。」と答えたが、彼は膝をつきそうになった。
その時、ポーションの壜を見つけたので、すぐに頭から振りかけた。たちまち全身の傷の痛みが消え、体力が回復して行く。
駆け寄ったみんなは、銀の髪にしたたるポーションのしずくに光が散り、その下の頬の傷の消えかけた彼の貌が凄絶なのに美しいのでゾクリとした。一瞬、セフィロスが彼を連れ去りたくなった気持ちを垣間見たような気がした。
「__大丈夫か?」みんなはもう一度聞いた。彼らに、セフィロスと何があったと聞く勇気は__今のところ無い。
「ああ、大丈夫だ。」彼ももう一度言ってほほ笑んだ。みんなは心の中でとても驚いた。
なぜって、彼がほほ笑むのを初めて見たから。
いつもきりっと張りつめている__それが彼だったから。
__俺達を安心させようとしてだろうか?それとも本当に、心配無いのかな。
その笑みは、大変なことを乗り越えて帰って来たのだと確信させてくれた。
「良かった__帰って来てくれて。」
「心配させて、すまなかった。」
彼は再び甲冑をまとった。
「さあ、行こう。」「おう!」「おうよ、行くぜ!」彼らはまた進み始めた。彼は行く手に目をやりながらも、転移のゆら
ぎの向こうに消えたセフィロスの姿を思い返した。
「ありがとう」とだけようやく言うと、
「礼を言われる事はしていない」という声。それらを胸に収めながら、
__必ず__。と、彼は誓うのだった。
最終更新:2009年11月15日 01:03