【Wol】光の戦士にハァハァするスレ3…オールキャラ


コン コン コン

軽いノックの音。
鳴らす少年のその手には大きな籠。
「はい」
やがて扉の向こうから青年の声が返ってくる。
よく澄んだ、落ち着いた声色。この声を二人の子供はよく知っている。
カチャリ。次いで静かに開くその扉。
「トリック オア トリート」
子供達は小さな声でそう言いながら、扉を開けた青年に籠を差し出した。
青年は一瞬固まって。そしてそれから静かに笑った。
「ティナ、ルーネル よく来たな」
「もう遅い時間だから押しかけたりして迷惑かなぁって、思ったり……」
「あの、ごめんなさい……私が、……」
「いいや、構わない。本当によく来たな」
青年は――ウォーリアオブライトは腰を二人の視線あたりの高さまで屈めると、その小さな頭を二つ、順番に撫でてやった。
照れくさそうに微笑む少年がルーネス
嬉しそうに笑うのがティナだ。
「寒いだろう。早く入りなさい」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔します」
主に手招きされると二人は元気よく部屋の中へと上がりこんだ。
当たり前のようにソファに座り茶を待つ二人の姿を見て、ウォーリアオブライトはまた一つ小さく笑った



コン コン コン

ウォーリアオブライトから手渡されたクッキーを頬張ったまま、ルーネスは鳴らされた扉の方へと顔を向ける。
ティナは不思議そうにそれを見ていたが、やがて紅茶に口を付けて嬉しそうに微笑んだ。
纏っている力の流れで扉の向こうの人物が誰か解ったようだ。
「誰か来たな」
ウォーリアオブライトは椅子から腰を上げ、そこへ向かう。
やがて扉の前でそっと歩を止めた。そしてまた小さく尋ねる。ただ、「はい」と。
そう尋ねれば扉の向こうの人物は「寒いっすよ~リーダ~」と震えた声で答えてくるのだ。
思わず部屋の中の二人は笑ってしまった。ウォーリアオブライトはすぐに扉に手をかけると、開けた先の震える人物に微笑みかけた。
「早く入りなさい」
「サンキュー!……って、あっ!ト、トリット オア トリート?」
「今噛んだでしょ」
「うっさいっすよ!」
「ティーダ、早く来ないとライトさんの作ってくれたクッキーが無くなるわ」
「あー!食べる食べる!トリートトリート!」

ウォーリアオブライトの隣を通り過ぎるのはひまわり色の髪の少年。
黒のタンクトップにノースリーブ。その格好で城内をうろつくには寒かっただろうに。
腕を両手で擦りながら彼は空いたテーブルの座席にそっと腰を降ろした。
両手の平を擦り合わせ、はぁーっと息を吐いている。ルーネスに「そんな格好で来て、バッカじゃないの!」と言われれば
「そっちは短パンじゃないっすか!」と言い返す。元気はあるようだ。
「ティーダ、何か温かい飲み物を淹れるが、何がいい?」
「ティナと一緒のでいいっすよ」
「それなら紅茶だわ」
「あ、そうなんっすか?ライトの淹れてくれたお茶って美味いよなー?ティナ。」
ティーダは生意気を言われた仕返しにとティナにだけ笑顔で話しかけた。
ルーネスは「仲間はずれにしないでよ!」とティーダ目掛けて丸型のクッションを投げつける。
ウォーリアオブライトの後ろで思い切りぼふん!とバウンドした音。それと、ティーダの短い悲鳴が。
賑やかな夜だと、ウォーリアオブライトは皆に背を向けたまま、また小さく笑った。




コン コン コン

「お。誰か来たっすね」
「誰がいくの?」
「ライトさんよ、大人だもの」
「私だな」
テーブルに散乱しているカード。
スコールの私物だが、別段気にすることじゃない。
以前は閑散としていたウォーリアオブライトの部屋は、今では誰かが持ち込んだ物で溢れ返っている。
揃えられた二枚のカードを真ん中に集めて。ルーネスがドアの方を向いている間にこっそりティーダは彼の手札を拝見していた。
「はい」
「トリック オア トリート~」「トリック オア トリート!」
「………」
「ほら、スコールも」
「ガラじゃない……」
「よく来たな」
ティナとウォーリアオブライトが出迎えた三人は、見慣れた服装にケープを一枚羽織っていた。
中に入るとすぐに脱ぎだす。自室に帰る際に冷えてしまうからだろう。
はちみつ色の髪の少年、ジタンはウォーリアオブライトにすっと手の平を向けた。
どこか照れているようだ。
ウォーリアオブライトは眦を下げて、その手の平にラッピングされた袋をそっと一つ乗せた。

「ウォルー、スコールと俺のはー?」
「用意している。今君たちの分の茶を煎れるから、座って待っていて欲しい」
「俺も手伝う」
「いや、君も席に着いていなさい」
「……いい……別に」
「客人だろう、君も」
「いいって」
「スコール」
「いいって言ってるだろ」
ウォーリアオブライトもスコールも、言いながらその手は止めない。
スコールが湯を沸かしている間、ウォーリアオブライトはポットに茶葉を入れている。




コン コン コン

「っあ!!ティーダ!僕のカード見たでしょ!そんなに早く上がれるわけないじゃないか!」
「み、見てないっすよ!」
「いやいや、こわいろが明らかにおかしいだろ」
「ジタンもやる?皆でもう1回やり直せばいいわ」
「おい、誰かノックしてるぞ」

カチャリ。ウォーリアオブライトが扉を開けると、青年が二人。
「すぐに開けちゃダメじゃない。脅かし甲斐がないなぁ」
セシルは、少し口を尖らせてウォーリアオブライトを見つめた。
横に居るクラウドはそれを見てくすりと笑う。馬鹿にしているわけではない、微笑むような笑みだった。
「俺達は菓子を貰える歳じゃないが、邪魔していいだろうか?」
「僕はまだギリギリいけると思うんだけどな」
「無理ムリ、歳には勝てないって。なぁ、それよりこっちの席空いてるぞ」
「バッツに言われちゃった」
「そうだな」
また賑やかになる。
もう皆自分の部屋のように空いた席に腰をかけて、ソファに座って、ござをかいて、テーブルの上の様々な菓子を口に運んでいた。
勿論ウォーリアオブライトは全員分の菓子を用意していた。
そろそろ茶の葉がなくなりそうだ。




カチ カチ カチ

夜が更ける。日付が変わろうとしている。

だがこの日は最年少のルーネスでさえ一向に横になろうとしない。
カフェインの効果もあるだろうが、皆が皆、本当に昼間と変わらぬくらいにはしゃいで、笑って、怒って、また笑って。
もう今夜は眠らないのだろうか。そう思い、ウォーリアオブライトは眠気覚ましにもう一度紅茶を作る事にした。
途中またスコールが手伝いに来てくれたが、やんわりとそれを断った。
テーブルでは今度は違うカードゲームが流行っているらしい。
どうやら先に上がったらしいセシルはティナの援護につき、こっそりアドバイス等を吹き込んでいる。

「なぁウォル、ウォルも俺の味方してくれよ」
「構わないが……それより」
「一人では勝てないと宣言したようなものだな」
「いいじゃん、細かいこと言うなって」

テーブルではバッツが片手で頭を抱えてあーだこーだと文句を言う。
クラウドは手の中の残り少ないカードを見比べてテーブルに投げ出すのだった。

「……それより、風がきつくなってきたな」
「そうだな」
「食料庫の方は大丈夫だろうか」
「そんなに心配することじゃない」

ウォーリアオブライトの瞳はどこか心配そうに窓の外へと向けられている。
暗い夜空。唸る風。外にある小屋が吹き飛ばされる事は無いと思うが。
それでも何か心配事が頭に浮かんでくるばかりで、ウォーリアオブライトは皆が囲うテーブルを通り過ぎると、
先ほどから何度も客人を出迎えたその扉に指をかけた。


「どうしたっすか?」
「少し外を見てくる」
「止めておけ、わざわざ行くほどでもない」
「外は風が強いですよライトさん。また明日にしませんか?」
「そうだぜ、レディに心配かけさせるもんじゃない」
「確かに今外に出るのは危険だよ」
「ウォル、こっち来て参戦してって」
「気になるなら僕とクラウドで見てくるよ」
「そうだな。あんた、ずっと立ちっぱしだし、俺とここを代わればいい」

ウォーリアオブライトはゆっくりと振り返り一度瞬きをする。
視界に映る光景。いつもの広いテーブルを囲む、楽しそうな仲間の姿。

微笑んでいるのはティナ
真っ直ぐに見つめてくるのはティーダ
手招きをするのはバッツ
菓子に手を伸ばすのはルーネス
その後ろからこちらを覗くのはジタン
カードを切るのはクラウド
眉を寄せながら紅茶に口をつけているのはスコール
ゆったりと頬杖をついているのはセシル




何か、足りない、
菓子包みはひとつ余った。

「……?」

違和感が押し寄せてくる。
何故か八人ととても距離が出来てしまったかのような違和感が。

どうして。
彼らは何も変わってなどいないはずなのに。

「ライトさん……」

ウォーリアオブライトは声の方へと視線を上げた。
テーブルに両腕をついて立ち上がるティナ。

「ティ、ナ……」

「君は、」

「いつのまに、そんなに髪を切ってしまったんだ?」

ガタン

ウォーリアオブライトは一歩後ずさる。
扉に背を打った。呼吸が一瞬小さく止まる。
最近、セシルから借りた櫛のおかげで通りが良くなったと笑って、髪を大切に、大切にしていた少女。
少女の瞳が悲しげなものに変わる。
どうした。どうしてそんな瞳で私を見る?
扉にかけた手が小刻みに震えを打つ。




カチ カチ カチ カチ

もうすぐ、日付が変わる。

耐え切れず扉を開いた。

走った。誰も追いかけてきてはいないと言うのに。
強い風は銀の髪を荒く撫でては消えていく。
やがて城外に出て、目の前に現れたソレを見てウォーリアオブライトは瞳を大きく揺らした。
目新しく、盛り上がっている土。その前で静かに膝を降ろし、ひざまずく。
ふらふらと、足が震えた。

「……?」

暗闇の中でも解る。
墓標に立てられた、彼の所有していた輝く剣が。



「ウォル」


振り返る。


気配など感じなかった。

「フリオニール……?」

足を震わせながらウォーリアオブライトは静かに腰を上げた。
目が合う。琥珀色の瞳と。
ウォーリアオブライトは何も言わない。何も言わず、静かに彼の方へと歩み寄って。

一歩、二歩。

あと三歩もあれば触れ合えるという距離。
そこで歩を止めた。

強い風はウォーリアオブライトとフリオニールの髪を揺らす。



「これは、どうなっている」

フリオニールは瞳を閉じた。ウォーリアオブライトは唇が震える。
薄くそれを開き、震える声を絞り出して。

「どうして、何も言わない?」

「ウォル」

まだ何も解らない。ウォーリアオブライトは不安げな瞳で見つめるが、
フリオニールが口を開くより先に、皆が、八人がこちらへゆっくり向かってくる気配を背後から感じた。
振り返れば、今にも泣き出しそうな顔ばかり。

「皆、何故、そんな顔をする……誰か答えてくれ」

答えは彼らからは返ってこない。
代わりにフリオニールがウォーリアオブライトへと歩み寄った。草を踏む音が石を踏む音に変わる。

カツ カツ カツ カツ

カツッ

「フリ……」
「あの剣は、俺と、あなたの物だ。解るよな?」
「……?」

フリオニールはそれだけ告げるとウォーリアオブライトの隣を通りすぎ、先程の彼がしたように、墓標の前で片膝をついて座り込んだ。
寄り添うようにしてある、もう一つの墓。
その土の上をそっと撫でる。






「死んだんだ」



「俺とあなたは死んだんだ」



何を言われたのか、理解出来ない。

ただ頭が白くなって、何も考えられなくなって。


「死んだんだよ、俺は」




「 あ、…… あ …… 」



呟く唇は、否定も肯定もしない。


脳に甦る記憶。




足場と頭上ばかり、皇帝の目的が、場を崩しにかかっていたのだと気が付いた時には遅かった。
目の前がぐらりと歪んで見えた時には、切り結んでいた相手のガーランドに背を向け、
ケフカを相手に乱戦していたティナを突き飛ばして、
瞬間、踏み地が崩落した後、地に強か叩きつけられていた。
体を瓦礫に挟まれながら見渡した地面。駆けて来たフリオニールの姿。
離脱しろ。と伝えた直後、
自分の瞳が完全に開く前、皇帝とフリオニールの倒れ伏す姿を焼き付けることになる。

「……………」

手先が、体が震える。

ウォーリアオブライトは静かに振り返った。

泣いている者、うつむいている者、静かに瞳を伏せている者。

「自分勝手だったよ、あなたは」

後ろから、そっと腕を引かれた。
振り返ると涙でむせぶフリオニールの姿。


あぁ、そうか。 そうだったのか。


「……君とて、勝手ではないか」


涙が、溢れた。
どちらからともなく、身を寄せ合って、泣いた。



死者の魂が、この世をさ迷う日。
人々は仮装をしてその迷える魂を追い返すのだという。
だから彼ら八人は姿を変えたりなどしなかった。
さ迷ってしまった青年の魂と、時間を共にするために。
フリオニールの死を理解出来なかった彼は、あの部屋で待っていたから。

「私のせいなのに、どうしてあなたがこんな……!」
「戦えなくたっていいから、僕があなたの分まで戦うから、だから……」
「ライト……大丈夫、この子達は僕が、ちゃんと見てるから」
「俺もいる」
「あ、俺もな!」
「俺も……」
「バッツより俺の方が頼りになるって」
「フリオニールに会えたら、よろしく頼むっすよ」

八人を見渡す。

フリオニールに重ねられた左手が透け始める。
前が霞む。それでも仲間たちの顔は鮮明に映って見えた。

最期に、笑ってくれている。



『また』



風に吹かれた音と、光が消え、八人の前から二人は姿を消した。




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最終更新:2009年11月15日 01:12