【Wol】光の戦士にハァハァするスレ3…589とwol


Trick or Treat
お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ
ハロウィンである。
大地が育んだ作物の実りを祝い、悪霊を祓うためにこの時期に行われる行事である。 五穀豊穣を感謝するこの祭りの日には、一方で子供たちが思い思いの仮装をして訪ね歩くならわしがある。
そして、彼らは必ずこう言うのだ。

「トリック オア トリート~」「トリック オア トリート!」
「…………」
「おい、スコールも!」
「何で俺が……」

ウォーリアオブライトの部屋の扉を派手に開けるなり、三人揃って飛び込んできたのは、バッツとジタンとスコールである。
しかし、応答がない。居ないのかと思えば、そうでもなかった。
ウォーリアオブライトはソファの上に腰を下ろしている。
背を預けながら読書を嗜んでいたのか、ハードカバーの本を手にしたまま訝しげな視線を三人に向ける。
「何だ?」
視線と同等の問いかけに、勢いに乗っていた二人と、乗っていなかった一人は思わず言葉に詰まった。
「えと……トリックオアトリート?」
バッツが自信なさげに繰り返すが、
「それがどうした」
「だから、菓子くれって」
更に怪訝な表情で首を傾げたウォーリアオブライトを見て、一抹の不安が、期せずして少年たち(うち一人は青年)の間を漂う。


「揃いも揃って、その格好は何だ」

化け猫の扮装をしたジタンは頭に大きい耳つきのカチューシャ姿。
スコールは適当そうに頭に包帯を巻いた姿。
バッツは丈の短い女もののワンピースに、とんがり帽子を被った魔女姿。

「似合ってるだろ、俺の魔女っこ仮装」
「そう、これ一応祭りの仮装で……」
「ハロウィン、……知らないのか?」

「そんな祭りは知らない」

余りにも予想外、ある意味ではお約束通りの反応を目の当たりにしてしまった少年たちは、当然ながら動揺を隠せない。

「俺はお前らが先に説明してるものだと……」
「当然知ってるもんだとばっかりなぁ」
「俺も、そう思ってた、何でか」

その場でぼそぼそと言葉を洩らす三人。
せっかく昼間から仮装して来たものを、このままでは菓子を貰えないどころか小言を頂戴してしまいかねない。
すると徐に、本を閉じたウォーリアオブライトが立ち上がった。


「スコール、君に剣の稽古を付けよう」

唐突な申し出に、スコールが露骨に顔をしかめる。

「今日は見逃してほしいなぁ……なんて」
「そうそう、祭りだしさ」
「そんな祭りにかまけている暇があるなら、剣の腕を磨いたらどうなのだ」
「え~~」「う~わ」
そら来た。
案の定、何処までも生真面目なコスモス陣のリーダにスコールが捕まった。
祭りに浮かれる一行を見て思うところでもあったのか、ウォーリアオブライトはすっかりその気になっており、 渋る少年の腕を掴んで連れて行こうとする。
こうなると、残された者たちの判断は一つである。

「まぁ、いつも手合わせを逃げるのはスコールだけだし、いい機会かもな」
「頑張れよ、スコール」
「…………」

そそくさと場を逃れたバッツとジタンを追いかけるように、スコールの溜息が虚しく響いた。



「やぶ蛇もいいとこだ」
木刀を片手に、スコールが愚痴をこぼす。
「大体、思い出す努力をしてみるとか……」
そういうのを少しはしろよ。延々とぼやき続けるスコールを前に、一方、ウォーリアオブライトはいつになく上機嫌である。
表情は何時もと変わらないものに見えるが、スコールは他人の機微を読むのに長けているので、 ウォーリアオブライトの頬のゆるみでそれが分かる。
「どうした、早く打って来い」
秩序の聖域の中心に立って木刀を構え、スコールを誘う。
「私から一本でも取ったら解放しよう」
「分からずやが」
仕方なくスコールも観念して構えを取る。
「行くぞ!」
勢い良く斬りかかった。

カンッ!

繰り出した者と受けた者、木と木がぶつかり、鋭くも棲んだ音が辺りに響き渡る。
続けて放った一刀をかわされ、逆にカウンターを受けたスコールがバランスを崩してたたらを踏む。
何度となく打ち合うものの、ウォーリアオブライトには掠りもしない。
「守りが甘い」
「減らず口を!」
焦るほど動きが散漫になるスコールとは対照に、ウォーリアオブライトは余裕の笑みを浮かべている。
その態度は少年をからかってもいるようで――初めこそ苛立ちを露にしていたスコールだが、 そういったやり取りを続けるうちやがて不思議な感覚を覚えていた。
こんな風にウォーリアオブライトと手合わせが出来ることが、楽しい、と思った。
思えば、互いの意見の食い違いから剣を交えたことがあったが、
命のやり取りではなく、日常の中で、当然の営みとして腕を見せられることが、純粋に幸せだと感じた。
あるいは、スコールにそういった感情を抱かせたのは、 スコールの打ち込みを真正面から受けとめるウォーリアオブライトの姿勢であったのかも知れない。
彼もまた、楽しそうだった。

『その力、仲間を守るために使うつもりはないのか?』
『忘れるな。我々はひとりではない』

あの時のウォーリアオブライトは――あの時の秩序の勇者とは、まるで別人に見えた。 彼の笑顔を見られることが、スコールには嬉しかった。
(たまには、こういうのも、いいか……)
いつしか焦りは消えて。二人は思う存分、互いの腕を磨くために打ち合った。


結局、ウォーリアオブライトから何とか一本を取った頃には、日も西へと傾いていた。 木陰で倒れ込んでいたスコールは、いつの間にかウォーリアオブライトがいなくなっていることに気付いた。
一人で先に戻ってしまったのか、見れば今し方まで稽古に使っていた木刀もなく、どうやら彼が持って行ってしまったようだ。
「酷いな……」
独白しかけたところで、後ろから声がかかる。スコール、と。
振り返ると、そこにはウォーリアオブライトの姿。
やはり一度は戻ったらしい彼は木刀の代わりに何かの入った袋を両手に抱えている。

「トリック オア トリート」

その袋を少年に差し出した。
言われるがままにそれを受け取ったスコールは。
「あ」
袋を開けると、果たして中には溢れんばかりの菓子が詰められていた。
よく煮詰めたキャンディに、丁寧に包装されたカップケーキ。それに、手のひら一杯に乗るクッキー。
おそらくは焼き上がって間もないのだろう、まだ温もりの残るクッキーの香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。


「本当は多少の時間で良かったのだが、ついつい、心のまま続けてしまった。」

「つきあってくれてありがとう、スコール」

言うまでもなく、その菓子は、初めから皆に渡される筈だったもの。
実は予想していたより、件の三人が早く来てしまった為、 焼き菓子が間に合わずウォーリアオブライトが稽古と称して時間を稼いでいる間に、キッチンで出来上がったものをセシルやクラウドやフリオニールが用意していたのだった。

「ハロウィンなんて知らんとか言ってたくせに」
見事に騙されたスコールが、唇を少し尖らせる。

「悪戯をしてみたくなった。何となく」
「何となくって何だよ……」
「さぁ、何だろうな」
「そもそも悪戯は子供がするんだよ。あんた、もう子供じゃないだろ」

盛大な溜息を吐いたスコールに、ウォーリアオブライトは「ふふ」と笑った。
優しげな眼差しで。
寄せては還す海の色にも似た色――遠い昔もまた、これと同じ瞳に見守られていたような気がする。


「あと二つはバッツとジタンに渡してほしい」
「分かった」
「意気消沈しているだろうから」
「無いな。あいつらゲンキンだから」
菓子袋を持って立ち上がったスコールに、ウォーリアオブライトが、スコール。と、もう一度名前を呼ぶ。

「楽しんできなさい、君も」

しっかりと釘を刺されながら、満更でもない様子で。
仲間であれば至極当たり前の会話が新鮮であると同時に、スコールには何処かくすぐったかった。

「そういうの……ガラじゃない」

そう言って、軽い足取りで駆けて行く少年を、ウォーリアオブライトは穏やかな微笑を湛えて見送った。




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最終更新:2009年11月29日 20:38