【Wol】光の戦士にハァハァするスレ3…セフィロス×wol
今夜の宿はこの公園の並木道の向こうにある。秋だから日暮れは早いけれど、
何も急ぐことはない。ジタンは風が吹くたび降りかかる落ち葉を見ながらゆるりと足を運んでいた。すると少し先の木の陰から、背の高い男が立ち現れた。
黒い長コートに、同じくらい長い銀のストレートヘア。見忘れる訳が無い。
何でここに?と思ったジタンに、向こうから声をかけて来た。
「お前、ジタンと言ったな。」
「・・・ああ。何の用だ。」
「光の戦士がどこにいるか・・・知っていたら教えてほしい。」
ジタンは真顔になった。
「・・・この世界にはいないぜ。だけどあんた、あの人に会って、どうするつもりだ。」
返事次第では腰の短剣を抜くぞと身構えた。
ジタンの目の奥にはあの時の光景が焼き付いている。誰よりも真っ先に駆け寄ったジタンの前で、ポーションをかぶる彼の姿。
___なんて傷だ__ 息を呑む間に、消えて行った。あの傷をつけたのはこいつだ。
そのことについて「大丈夫だ。」と彼がほほ笑むので、皆はあえて何も聞かなかったし、彼は光も意志も信念も、何も失ったりはしていなくて揺るがなかったから、力付けたりするために何かを言ってあげなくても良かった。戦いの終わりを共に目指す、彼にはそれが何よりの力付けだった。
何があったにせよ、・・・強い人だぜ、とジタンは思っていた。
ところが、こいつが今もあの人に執心なら、同じ目に会わせる訳にはいかない。
「あの人を苦しめるのは許さないぜ。」
セフィロスはあいまいな笑みを浮かべて首を振った。
「苦しめるつもりは無い。・・・・・・ただ会いたいだけだ。」
本当だろうか、とジタンはじっと見上げた。
はらはらと落ち葉を誘う風が灰銀色の髪を吹き流す。やがてジタンは表情をゆるめた。
「まるで恋焦がれているって顔だね。・・・ずっと捜しているのかい?」
お察しの通り、とセフィロスは軽く肩をすくめた。
ジタンは考えた。こいつには世界間を「旅」する能力があるらしい。今何も教えなくても、やがてあの人のいる世界にたどり着くこともある。その時に・・・
よしっ。その時のために。
「・・・想っている人には、たとえレディでなくっても、やさしくするのは当たり前だろう?本人の嫌がることはしないとかも、な。
あの人にやさしくする、苦しめるようなことはしないって、約束するなら教えてやってもいいぜ。」「・・・約束しよう。」
「じゃ、右手の手袋を脱いで、手を出しな。」
セフィロスは言われた通りに手を差し出した。ジタンはその手の小指に自分の小指をからめ、その少し上に左手を覆うようにかざして、口の中でぶつぶつと詠唱した。
「さ、あんたの左手をここへ。・・・よし、約束して。」
「私は光の戦士に優しくする。苦しめるような事はしない。」かわいいおまじないだ、と思ってセフィロスはくすりと笑った。けれどジタンと何かの繋がりが出来た感じもした。
「よし。これでもし約束を破ったら・・・おっと、破らないでくれよ。」
セフィロスはうなずいた。
「じゃ一度、目、つぶって。」
セフィロスが目を閉じると、ちょっとからめた小指からジタンの送ったヴィジョンが見えた。晴れた空と、緑の木々と、花と、水と__。
ジタンは指を離した。
「俺があの人と別れたのはそこだ。今はどうだろう?
お姫様と結婚しているかも知れないぜ。」これで良し、と心の中で頷くジタン。
だけどふっと、・・・あの人も罪作りなとこがあるのかなぁ?という気がした。
彼に油断は無い。ぼーっとしていては平和は保てない。決して戦争の準備では無かったが、彼は頼まれたので 王城の警備隊で、主に剣の訓練を指導する日々を送っていた。
非番になり帰り支度をしていると、取次ぎがやって来た。
「師範どの、異国の剣士がお会いしたいと」その後ろにいたのは
「セフィロス!!」
セフィロスはにっこりと、記憶に残っている笑いよりも遥かに穏やかにほほ笑んだ。
「久しぶりだな。」
「おお、また会えるとは!!」彼は素早く近寄って抱き合った。__これはこのへんの、普通の挨拶だった。
が、セフィロスの胸に飛び込んだ途端、その肌の感触で彼は思い出した。
この胸をこの前、離れるまでに起きた事全ての記憶を・・・
セフィロスは、彼が小さく震えると、頬がなにやら蒼ざめるのを見た。にっこり笑ったまま、肩を離してやった。
「元気だったようだな。」と普通の挨拶をする。
「お前も元気だったようだな。会いたかった。」と彼は返した。ずっと会いたいと思っていたので、会えて嬉しかった。しかし、こうして会うというのはどうなる事なのか、ちっとも考えていなかったのに気がついた。
そう、あの後、カオスを倒すことばかり、前ばかりを見て、振り返らなかった。
過ぎたことは忘れ去っていたから。セフィロスとの再会の約束も、未来の約束として前の方に見ていた。
でもセフィロスがにっこりほほ笑みかけてくれるので彼も微笑み返し、
「ちょうど非番になって帰るところだ。私の家へ行こう。」と言った。
彼は今は平服になって白い布のシャツに黒っぽいズボン、膝までのブーツ、腰のベルトに剣を帯びた軽装だった。春もたけなわで暖かかった。
二人は城門を出て城下町で食材を買った。
道中彼は聞き手になって、セフィロスにここへ来る前にたどって来た世界の話をしてもらった。
「そこでジタンに会って、とうとうここを教えてもらった。」
「ジタンに?!元気だったか?」
「ああ、元気そうだった。」「そうか。」懐かしさの混じる嬉しい思いがした。
町を外れた森の入り口に彼の家はあった。この地方の民家の素朴な造りで一人で住むには十分広かったし、さっぱりとしていて快適だった。
「私の家だ。どうぞ。」彼はセフィロスを招き入れると、火を起こし始めた。
「おじゃまするぞ・・・ほんとに中世だな・・・。」と中を見回した。
「何だ中世って?」「こういう時代のことを私のいた世界ではそう呼ぶんだ。」
必要な時だけ調理出来たり、すぐ部屋を暖めたり冷やしたりできる装置とは無縁の世界だ。部屋の壁際に甲冑が一式飾ってある。彼があの時着けていた本物だ。
彼は夕食の支度に、野菜のスープを作り始めた。
「一人暮らしか?」「そうだ。だがほとんど城に詰めているし・・・。」
「王女から求婚されたりしないか?」「お断りした。・・・約束した人がいるから、と・・・」彼が野菜を切る手を止めて振り返り、セフィロスを見たのでこれは気まずいと思った。思わず素直に謝った。
「悪い。冗談にしてはつまらなすぎた。何か手伝おう。」
「ありがとう。では、この桶で水汲みを頼む。井戸は出て左側だ。そこのボイラーに入れてくれるか。」
料理が出来上がり、日が暮れて来たのでランプを灯した。
「どうぞ。大したものが無くてすまないが__」
「いいや、美味しそうだ。」
テーブルに向かい合って、彼はようやく落ち着いた。セフィロスをじっと見つめていられるようになったのだ。あまり見つめられるので、
「何だ?」
「いや・・・ずいぶん穏やかになったなと思って。」
「そうか?」セフィロスは小首をかしげてまた微笑みかける。別人のようにあの凶暴な影が無い。
「・・・ずっと、セフィロスはどうなったのだろうと思っていた。でも、何処へ行けば良いか分からなかったから・・・」「いいんだ、行き違いになればもっと会えない。・・・ずっと思ってくれていたとは、嬉しいな。」
彼は言わなければならないと思っていた事を言うため真剣な顔になった。
「セフィロス、あの時、私を戦いに行かせてくれて、感謝している。行かせてくれなければ、私は」「そんなことが出来るか。」セフィロスが遮った。
「あの時、私はお前を手に入れた。そして 失うことが出来なくなった・・・。
・・・・・・またこうして会える望みがある方へ、賭けてみたくなった__。
お前達は やってくれた。良かったよな?こうしてまた会えた。」
彼の表情も和らいで、それにうなずいた。
「おっと忘れる所だった。」と、セフィロスは手荷物から緑色の壜を取り出した。
「みやげと言っては何だが、ワインを持って来た。お前、酒は飲めるか?」
「いや、あまり飲んだことが無い。」彼は言いながら戸棚へ杯を取りに行き、
「たまに来るお客の為にゴブレットはある。」とグラスを2客出した。
「私も普段飲まないが、これならこの世界になじむかなと思って。」
「ありがとう。」
こういうのって、普通の生活をしている人間らしかったから、彼はほっとするような気持ちになった。ワインを開けて飲みながら夕食を食べた。
「しばらくここにいるだろう?この世界に。部屋はあるから、うちに泊まるといい。」
「喜んで。」と、その言葉通りの顔で答えたセフィロスだったが、こんな風に聞くなんて、彼はまだ分かっていないところがあるなと感じた。
あたりはすっかり暮れてランプの照らし出す物たちが浮き出して見えた。
食事が終わって、彼は廊下を案内した。
「ここが風呂場だ。お陰で、お湯は沢山沸かしてある。・・・じゃ、客間の支度をちょっとするから」と去りかける彼の手を、さっと捕らえてセフィロスは引き戻した。
「いや、それは必要ない。」 振り返った彼に、
「久しぶりに会えたんだ__一緒に寝てくれるだろう?」
そのほほ笑みを見て、彼はスタンをかけられたように止まってしまった。
・・・やっぱり、この時が・・・来てしまうのか?・・・もしかしたら、セフィロスも気が変わっていて、・・・このままやり過ごせるかと・・・ごくごく微かにだが・・・期待していなくはなかったのに・・・こんなに穏やかになったのだから・・・
彼がしばらく動きそうにないので、セフィロスはさらに微笑みかけた。
「そう、そういう意味で。」
言葉を返せないでいる彼をそのまま引き寄せて、セフィロスはぎゅむっと抱きしめた。
「どんなに、こうやって抱き締めたいと、どんなに思っていたと思うんだ?」
彼の顔を見ると、いよいよ何と言ったらいいのか分からないらしい。セフィロスは構わずに唇を奪った。白シャツを通して、彼の胸の鼓動は__おやおや早鐘だ。顔は真っ赤で__セフィロスはふと思った。
__こいつはこんなに初心だったのか?あれほどやったというのにちっとも免疫がついていない?
いや、あの時、ああまで平然と受け入れたのは決死の覚悟のなせる業だったのか?混沌から世界を救う戦いから解き放たれたお前は、こんな__純情可憐な奴だったのか?・・・
そう思うと我ながら不思議ないとおしさが込み上げてきて、もう一度ぎゅっと抱きしめて頬ずりしてしまうのだった。その柔らかさに、ひょっとして見た目より年が若いのかもしれない・・・という気がした。
まあ、ジタンと約束したし、無理強いはしないでおこう・・・
「なのに回避を駆使して、私を避け続けるつもりなのか?」セフィロスは、出
来る限りやさしい笑みを彼に見せた。
「怖がらなくていい。今日は優しくする。__この前は__あの時は、すまな
かったな。」
こう優しく、殊勝に謝ったからといって、彼がすぐににっこりうなずける訳が無かった。
__「コ・ワ・イ・っつーの!!」 って、ティーダなら言うんだろうな。
「優しく迫るセフィロスの方がコワイって、」と・・・と、ちらと思い浮かんだ。
・・・だが、私は・・・
やっとセフィロスが離してくれたので、彼は自分の胸に左手を当てながら言おうとした。鼓動を静めようとする為のようでもあり、ティナの決意表明の仕草のようでもあり、・・・ガードの代わりのようでもあった。
「私は、お前のものになると言ったから、覚悟は決めている。・・・ただ・・・」
「覚悟、と言うか?__そんなに真っ赤になって__」
「ワインを飲んだからだ。・・・だから・・・ただ・・・つまり・・・私は男だから、これがええと、たとえば優しくて美しい花嫁だとか・・・いや、・・・」「ワインのせいか。」
そう言えば、飲みなれないはずの酒を、けっこうさらさら飲むので何度も注いでやった。セフィロスは一杯位であとはこいつが__酒に強いのかと思ったが(多分弱くはないと思われる、)加減を知らないせいだったか?どうもろれつがいつものようにキッパリしないのは酔いのせいか?
「飲ませ過ぎたか。すまん。」「だから、そうだったなら・・・いいや、私は大丈夫だ。」
セフィロスはちらりと風呂場に目をやった。
「・・・酔っているなら、一人で入浴するのは危険だ。私が背中を流してやるから、お前が先に入れ。」「え、でも・・・」
断わる言葉を言い出す前に、セフィロスは早業で彼のシャツを脱がせていた。
「私ひとりで、、だいじょうぶ・・・」と言ってみたものの、頭がなんだかぐるぐるして重くなって来たような・・・
「さあ、無理するな。こっちへ。」と湯舟の方へ手を引くセフィロスを見ると、もうコートや靴は脱ぎ去って洗い易い格好になっている。
こんな面倒見のいいところもあるんだ、とちょっとほっとして、やがて銀の髪をまとめ上げてよけた肩から背中に湯をかけてくれるのにまかせていた。相対するガーランドが太いから目立たないが、彼も体格が良くて背中も筋骨逞しい。洗い流すその背中に、あの時刀の先で刻み付けた傷の跡は少しも残っていなかった。
「客なのに、こんなことさせて」と彼が言っているうちに、セフィロスが片隅の乾いたタオルを見つけて放って寄越した。温かい湯のせいで、酔いは回りきっているみたいだった。
「先に、部屋に行って休んでいてくれ。私も洗ったら行くから。髪が、さすがに土埃だらけだ。」「ありがとう・・・」
彼はそこに掛けてあった部屋着を着て、自分の寝室へ行った。セフィロスは急いで全身洗いながら、もう寝込んでいるオチに違いない、諦めろ、と自分に言い聞かせていた。
バスタオルで髪の水分を取りながら、一応ノックして「入るぞ。」と戸を開けた。ランプがひとつ、寝台の横の小卓の上に灯っていて、その前の椅子に彼は腰掛けていた。が、片肘をそのテーブルについて頭を支えている。
「大丈夫か?」「何ともない・・・ただ眠くて・・・昨日と一昨日、通しで夜番だったんだ・・・今思い出した」
「そこに酒を飲んだから、も、あるな。」
「セフィロス、すまない___どうしよう・・・?」彼は頭を支えたままだった。
待っていてくれて、すまないなんて言い方をして、何てかわいい奴、と思えて来る。
「明日も勤務か?師範が夜番続きとは人手不足のようだが・・・?」
「いや・・・夜番は、家族のいる者はなるべく帰ってもらっているからで・・・明日は休みだ。」
「それなら、お疲れの師範どの、ゆっくり眠るといい。」
「いいのか?」
ああやっぱり健気な奴!と思いながらセフィロスは優しくうなずいた。ランプの光を受けた彼から、ふっと力が抜けるのが分かった。
「ホラ、」とセフィロスは椅子から彼を抱え上げ、わっと少しあわてる彼をほんの三歩、ベッドまで運んでそうっと下ろしてやった。
ランプを消して自分もその横に上がり、
「おやすみのキスぐらいさせておくれ・・・・・・おやすみ。」「おやすみ・・・」
そう答えてつかの間セフィロスを見つめた彼は、瞼を閉じるとすぐに寝入ってしまった。
セフィロスはほとんどため息で一杯になったような気持ちで、窓からの月と星の明かりの中、うっすらと光を帯びたような彼の寝顔を眺めていた。静かで安らかな__セフィロスを信じきっているという寝顔__
捜したんだぞ・・・。
ここまで来ておあずけか、とは思うが、今夜はその顔だけ眺めていようか。・・・
しかしセフィロスはそっと、出来るだけそっと腕を伸ばして、彼に寄って胸に抱いた。(戦士はぐっすり眠っていても、何かあれば、直ぐ跳ね起きるものだから)
・・・眠るといいと言われた時の、あのほっとした顔・・・お前、やはり辛かったのだな・・・。
お前の想像も及ばなかった非道いことを、私はしたに違いない。本気で絶望させようと、痛めつけることだけ考えた。
__だが、そうされると承知で、何故お前は私を抱きに来た?
その計り知れない光の一部を、私に与えようと思ったのは 何故だ?
__私が求めたから、とお前は言った。ただそれだけで、なのか?
しかしお前は 自分のことを知るまい。こうして安らかに眠っている顔さえ
__どんなにそそるかを__
セフィロスは我知らず眉を寄せた。
__なぜお前にだけはこんな気持ちが湧いたのだろう?
その身に纏う見るも眩ゆい光のせいだろうけれど__
だが、お前はただの光ではなくて、生身の体を持った人間なのだから・・・この体があって、私が望む限り、お前の辛さは続くのか?
嫌な顔など決して見せないだろう、その、心の底で・・・?
望んだまま、その辛さを取り去ることなど出来るのだろうか?・・・こんなことを考えているのでなければ、今にもこの手で・・・・・・
セフィロスはとうとうそっとため息をついた。
あの世界では思いも寄らなかったこの成り行き。別の世界で会うというのは
こういうことなのか
__と思いながら。
最終更新:2009年11月29日 20:51