「ぐ……っ!?」

ある種奇妙な、現実感のない光景であった。
露出の高い衣装を纏い、空を飛ぶ少女。その胸の真ん中から、細い腕が突き出している。
人間の体を易々と突き破ったその腕の持ち主も、また少女。
金髪に魔法少女のような装束を纏い、天使のような翼を生やした一目見るだけで魅了されるような可憐な容姿。
しかしその外見から繰り出される暴虐は、彼女に抱いた第一印象を無惨に破壊するだろう。
露出度の高い少女――纏流子の胸を貫いたその細腕の先には、キラキラと輝く心臓が掴み出されていた。

「あなたのプシュケー、宝石みたいだね。私に頂戴!」
「馬鹿言ってんじゃねぇ……それはあたしのだ、返せッ!」

耳元で艶やかに囁く少女――相田マナを振り払おうと、流子は手に握った片太刀ハサミを振るう。
反射的にマナは握っていた心臓を手放し、後ろに上体を反らして回避。
流子は自由になった心臓を自らの胸の中に押し込み、腹に蹴りを入れ反動で遠ざかる。

胸を突き破られ、心臓を抉り出される――即死しても可笑しくはない致命傷。しかしそのような傷を受けてなお、流子の目は死ぬことはない。
生命戦維に適合した人間である流子の生命力は、人間のそれを超えている――心臓を抉り出されても、命を永らえることができる程度には。

だがそれは、全く痛痒を感じない――と、いうことでもない。
胸を貫かれ、肉を抉られる痛みはある。流れ出る血は体力を奪う。
致命傷ではない、というだけで――決定的なダメージ。

(流子、このまま戦うのは危険だ!)
「だったらどうしろってんだ! 背中向けて逃げろってのかよ!」

相手の姿を睨みながら、忠告して来る“鮮血”に流子は毒づく。
喧嘩を売って来た相手に背を向けるのは流儀じゃない――などという生易しい話ではない。
背を向けるような隙を晒せば、確実にこの相手は命を奪って来ると確信できる。

(だとしてもこの相手とその傷で戦うのは自殺行為! せめて他の参加者を探し、協力して立ち向かうんだ!)
「それができる相手なら苦労はしないんだよ……!」
片太刀ハサミを構え直して、マナへと流子は向き直った。
ああは言ったが、今の自分が勝てる相手ではないと理解はしている――しかし、他の事を考えながら戦える相手でもないのも確かなのだ。

「ちくしょう、どうすりゃいい……!」



コンクリートの屋上で、四人と一匹はその光景を目撃した。

「なんだありゃ……」
自分達から見て南東の空。
二人の少女が、空中での戦いを繰り広げていた。
露出度の高い少女と、背中から天使のような羽を生やした少女。
戦いの様子は一方的だった。露出度の高い少女が、翼の生えた少女に一方的に嬲られている。
露出少女も手に握った刃物で応戦しているが、明らかに反撃の手が追いついていない。

「どっちが悪いか……ってのは考えるまでもねぇな」
翼の生えた少女の攻撃は執拗過ぎる。
例え露出少女が先制攻撃したのだとしても、こうまで反撃するのは明らかに過剰だ。

『このままだとあの子、やられちゃうにゃ!』
「クマ、お前の砲で狙えねぇのか!?」
「二人の距離が近すぎる! このまま撃っても爆風で両方を巻き込じゃうクマ!」
トランシーバーから聞こえる凛の声に、焦ったようにジャンが球磨に詰め寄った。――が、返って来た言葉はジャンの期待を裏切る。
次いで浮かんだ、メーヴェで助けに行くという考えを、しかしジャンは直ぐに頭の中で否定する。
乗っているのが戦闘力の無い凛であることを差し引いても、メーヴェを操縦する両手の塞がった態勢で戦闘に突入するのは難しいだろう。

「むう……おい球磨川、碇、どうにかならんのか!?」
『流石にどうにもならないな……あれだけ離れていたんじゃ 僕の射程からは外れてしまっている』
「エヴァ初号機じゃ、流石に空中戦はできないよ……」
切羽詰った状況に、デビルが球磨川とシンジに問いかける。
だが、二人の返答も芳しくはない。

(せめてあの『オシリスの天空竜』があれば……!)
武藤遊戯から奪い、そして託された神のカード。
そのカードを具現化できれば、あの戦いに介入することは難しくないだろう。
――しかし、オシリスはカーズとの遭遇でデビルの命を救いその力を失ってしまった。
何時か復活を迎えることもあるかもしれない。が、それは今ではないし、それでは遅すぎるのだ。

「ぐあ、ぁ……ッ!」
露出度の高い少女の苦痛の声が聞こえる。
翼の少女の蹴りが、胴にモロに入ったらしい――。

(く、どうすることもできんのか……!?)
歯噛み――いや、牙噛みし、デビルは空中の戦いを睨む。

「……あの、デビルさん」
そんな彼の耳に、シンジの声が聞こえた。

「……どうした?」
シンジはしゃがみこみ、ディパックを開いた姿勢のままデビルを見つめている。

(ディパック……? そういえばシンジや球磨川の支給品を全て確認したわけではなかったが……)
そう考えつつ、開いたディパックの口から覗いているモノを目にした瞬間――デビルは言葉を失った。

「――ひとつ、教えてほしいことがあるんです」



「ち、く、しょう……」
血塗れになりながら、纏流子は呻く。
完膚なきまでに負け戦、だった。
本来纏流子と相田マナの能力の差は、そこまで絶望的に離れているものではない。
必殺技まで含めたポテンシャルならば、無論相田マナに分売が上がるだろうが――単純な格闘戦ならば、流子にも分は、実のところあった。
それがこうも一方的になったのは、ひとえにある一つの要素に他ならない。

そう、ニンジャソウルだ!
平安時代の日本をカラテによって支配した半神的存在――ニンジャが今のマナには憑依しているのだ!
おお、ゴウランガ!
遭遇時の流子へのアンブッシュ、そしてカラテによる格闘戦。
今のマナはあからさまにニンジャ――いや、それだけではない!
古代トランプ王国を支配した伝説の戦士、プリキュアと合わさることによりニンジャ身体能力はさらに強化!
その力はまさにブッダにも匹敵するのだ!

(流子、大丈夫か!?)
「このくらいでへたばるかよ……!」
鮮血に強い言葉を返す流子だが、その声にはやはりどこか力がない。
そんな流子へと、貫手の形に腕を構えたマナが迫る! このまま流子はツキジめいた死体へと変貌を遂げてしまうのか!?
おお、ブッダよ。まだ寝ているのですか!

「大丈夫だよ――あなたを私が食べて、そしてみんなも食べちゃえば、みんなみんな愛の中で生きられるからね……!」
サイコパスめいた台詞を吐きながらマナが突進!
そして――

「モンスターを召喚! 《砦を守る翼竜》を守備表示!」

青の翼竜が光と共に突然出現! 二人の間に割り込む!

「「なっ……!?」」
流子を庇う形でマナの貫手は翼竜に直撃!
哀れ翼竜は爆発四散!

「な、なんだぁ……?」
(流子! 味方だ!)
鮮血の声に振り向けば、眼下には5人の人間と……ヒグマ!

「ひ、ヒグマぁ!? あれが味方なのか!?」
(少なくとも、彼らが君を助けたのは事実だ! 今は彼等と協力するしかない!)
ヒグマに危うくヒグマ・リアリティ・ショックを起こしかけた流子だが、鮮血の声に正気を取り戻し鮮血疾風のジェット噴射の向きを変え彼等目指して突き進む!
当然マナもその後を追おうとし――その動きを急に止めた!

「リバースカードオープン! 罠(トラップ)カード、《六芒星の呪縛》!」
おお、見よ! 突如空中に浮き出した六芒星の魔法陣がマナを捕らえ、動きを阻害している!
これぞ時の決闘王、武藤遊戯の使ったトラップカード「六芒星の呪縛」!
その罠に捕まったモンスターは、攻撃と表示形式の変更を封じられる!
相田マナは最早一歩をも動けぬ――その筈であった!

「ハァーッ……ハァーッ……!」
なんたることか!
相田マナはその膂力だけで六芒星の呪縛を打ち破り、粉々に砕け散らせてしまった!

「アハー……新しい愛を教えられる人がいっぱい……それにヒグマさんまで……」
眼下に写る面々を眺めるマナの瞳には、狂気が爛々と湛えられていた!
コワイ!



商店の屋上。
凛が着陸させたメーヴェの前に、ジャン達は陣形を組んで立っていた。
先頭に立っているのは碇シンジと、その従者――あるいは保護者であるエヴァ初号機。
碇シンジの腕には、彼のもう一つの支給品が嵌まっている――そう、「デュエルディスクと武藤遊戯のデッキ」が。

「大丈夫か、シンジ。デッキだけならば、俺が扱ってもいいが――」
「――いえ。これが今、僕のやるべきことだと思いますから」
後ろで心配するデビルに、シンジは覚悟の言葉を返す。

「マミさんが真っ二つにされた時に、僕は何もできなかった。
 このままじゃいけない……今こそ戦うべきだと思うんです。
 本当は戦いたくなんてないけど。たとえ相手が使徒でも……ヒグマでも人間であっても、大切なものを守るなら戦わなくちゃいけない」
元の世界では、シンジは父に巻き込まれて使徒との戦いに投げ込まれた。
この島でもそれは同じで、有冨に巻き込まれて殺し合いに投げ込まれた。
だったら、戦うべきなのだとシンジは思う。
勝つためではなく、守るために。そのための力は、今も、そして第三新東京市でも持っている。
ATフィールドは、拒絶する壁であると同時に、誰かを守る盾にもなれるのだから。

「ただの腰抜けかと思ったが、割といい事言うじゃねぇか」
その後方。地上に下りた星空凛を庇える位置に陣取るジャンが、様子を見ながら呟く。

「クマ、リン。半ばなし崩しに共闘することになっちまったが、問題はねえか?」
「問題なしなしクマ。乗りかかった船……いや、球磨は軽巡だから乗りかかった軽巡ってやつクマ」
「大丈夫……にゃ。ジャン君の決めたことだし……あの人達も悪い人には見えないにゃ」
ジャンの問いに、海上に位置する球磨、最後列の凛も迷わず答える。

『お喋りはそこまでにしようか』
『――来るよ』
両手に螺子を出した球磨川が、周囲に注意を促す。
よろめきながらもやって来る半裸の少女の後ろに、呪縛を砕き飛んでくる抹殺者の姿が見えた。


――空気を震わせる爆音と共に、空に赤い花が咲く。
球磨の14cm単装砲が、抹殺者――相田マナに直撃したのだ。

「この距離で、巻き込む心配がないなら外さないクマッ!」
派手な開幕の一撃を食らわせた球磨が気焔を吐き、爆炎の向こうを睨みつける。
直撃弾だ。もしゲームならカットインとか出るくらいの一撃だった。
だが、球磨が油断することはない。その油断が、ほむらを失わせることになったのだから。
爆炎が晴れる。果たして、相田マナはまだ生きていた。
砲撃が直撃しながらも、その瞳から狂気の色が消えることはない――。

「クマ! せめてあの女がこっちに着くまで砲撃頼む!」
『シンジちゃん デビルちゃん こっちも援護だ!』

「わかってるけど、弾数少ないから無駄撃ちはできないクマ!」
「モンスターを召喚! 《カース・オブ・ドラゴン》を攻撃表示!」
「《ヴェルズ・サンダーバード》を攻撃表示で召喚!」
ジャンと球磨川の声に促されるように、球磨の砲撃、そしてシンジとデビルの召喚したモンスターによる攻撃がマナを迎撃する。
砲弾とブレス、そしてを受けた抹殺者の体は確かに怯み、その動きを一瞬止める。
その隙を衝くように、纏流子は商店の屋上へと辿り着いた。

『――大嘘憑き』
『彼女の傷を なかったことにした』
すかさず球磨川が“大嘘憑き”を用い、その体に刻まれた痛ましい傷をなかったことにする。

「なっ……傷が消えた!?」
『へたばってたところ申し訳ないけれど 戦える元気があるなら手伝ってくれないかな』
(……流子!)
「当然だろ! やられた分はきっちりやり返すっ!」



抹殺者――相田マナの戦いぶりは異常であった。
球磨川の投擲した螺子をあっさりとかわし、次いで突っ込んで来た流子の片太刀ハサミを白羽取りする。
動きが止まったところに突撃するシンジのモンスターを体を回しながらの蹴りで粉砕。
商店の屋上に陣取るジャン達へと突っ込み、庇うように前に出たデビルと組み合う。

「ぬ、う……なんだ、この膂力は……!?」
「愛をなくした悲しいヒグマさん……このキュアハートが、あなたのドキドキ食べてあげるからね!」
「キュアハート……お前が名に聞く『プリキュア』の一人か……!
 だが、この狂乱はどうした!? お前達は誇り高い戦士と聞いたぞ!」
ニンジャとプリキュアの融合である今のキュアハートの前には、ヒグマと言えども力で組み合うことは非常に難しい。
デビルは体格で劣る筈の少女にジリジリと押し込まれ、地面へと押し倒されて心臓を――

『おいおい 情熱的なとこ悪いけどいいのかい?』
『敵は一人じゃ――っ、が、ぁ!?』
その隙を衝こうとキュアハートの背後から飛びかかった球磨川は、急速に立ち上がった彼女に裏拳を叩き込まれてコンクリートの屋上に激突。
更にバウンドして吹き飛んだ。

「……禊さん!?」
『うーん どうにも隙がないな……』
『めだかちゃんみたいな子だ』
シンジの悲鳴を受けながら不気味な動作で立ち上がった球磨川は、エヴァのATフィールドに拳を阻まれるキュアハートを困った目で見つめる。
負完全な過負荷(マイナス)である彼には『他人の弱点や隙がわかる』という特技があるが、キュアハートには、隙や穴というものは存在しなかった――要するに、完璧で完全無欠な敵だった。
これ自体は、別に驚くべきことではない。
彼の仇敵である黒神めだかには、この戦法は通用しないし――初恋の相手である安心院なじみだってそうだろう。
ならばこの二人に使った過負荷、『却本作り(ブックメーカー)』の出番なのだが――

『……駄目だな この様子じゃ当てられない』
戦場をめまぐるしく動き回るキュアハートに、予備動作が必要な上に追尾能力がある訳でもない『却本作り(ブックメーカー)』を命中させるのは至難の業だろう。
黒神めだかや安心院なじみならばむしろ自分から当たりに行ってくれるのだが、野生の勘を手に入れた今のキュアハートにはそれは通用しない。

『となると これしかないかな――』


キュアハート対デビル組・ジャン組・流子の共同戦線。
デビルやジャン、エヴァ初号機の攻撃はキュアハートに有効打を与えられないが、キュアハートが放つ致命打もデビルやシンジの防御カード、あるいは球磨川の『大嘘憑き』が防ぐ。
これだけ見れば、戦況は互角である――という風にも見える。
――ただしそれは、表面上のことでしかない。

「チッ……!」
立体起動装置で水の引いた街中を飛び回りながら、ジャンが舌を打つ。

(やべぇな……こっちの攻撃は効かねえのに、あっちの一撃をもらえば四肢をもがれるか胴体をぶち抜かれかねねえ……!)
彼らの一撃はキュアハートへの有効打ではないが――キュアハートの一撃は、彼等を絶命させて余りある一撃なのだ。
デビルヒグマと碇シンジの使う防御カードと、球磨川禊の“大嘘憑き”による復活で、その致命打の被害を0に抑えているに過ぎない。
その0を割ってしまえば――待っているのは、無惨な壊滅のみだ。

(おまけになんだ?
 あいつ、人間かと思ったが首輪を嵌めてねえぞ!?)
ジャンの視界に映るキュアハートの首元には、参加者ならば誰もが着けられているはずの首輪が嵌っていない。

(人型のヒグマって奴か……?
 それとも、飛んでるってことは外から飛んできた部外者だったりするのか!?)
混乱しながらも、キュアハートから死角になるビルの隙間へと着地。
次の移動先を探そうとして、ジャンは球磨川がいたことに気づいた。

「……どうした、クマガワ?」
『いや……そろそろ反撃の算段を付けようと思ってね』
そう言いながら球磨川がジャンに差し出した紙には、“作戦がある 他の皆には全員伝えた”と書きこまれていた。



「ハートブレイクっ!」
「にゃっ、ぁ……!」
「ATフィールド、全開!」
凛を狙って放たれたキュアハートの貫手が、エヴァのATフィールドに阻まれた。

「くらいやがれ!」
すかさず空中から撃ち下ろされたジャンのブラスターガンは、しかし埒外の速度のステップにかわされる。

クマー!」
続けての球磨の地面スレスレの砲撃も回避。14cm砲弾が地面に直撃し爆風が巻き上がる。

「《岩石の巨兵》で攻撃!」
シンジの召喚したモンスター――岩石の巨兵の巨大な石剣も空を切った。
地面に直撃した石剣は砂埃を上げてコンクリートを砕き、動けない巨兵はキュアハートのストレートに破壊される。

「ぬぅんっ!」
その隙を突いて、デビルが突撃した。
キュアハートの身体を後ろから掴み、思い切り放り投げる。

「これで、どうだッ!」
空中でくるりと身体を回しながら体勢を整えるキュアハートに、鮮血疾風体勢の流子が切り掛かる。
かわせない、と判断したキュアハートは両手をクロスさせて片太刀ハサミをガードした。

『よっ……と!』
そこにビルの壁を螺子で駆け上った球磨川が、上空から巨大な螺子を構えてキュアハート目掛けて急降下した。
キュアハートは流子を蹴りつけ、その反動で螺子をかわす。
かわされた螺子は楔のように地面に突き立ち、皹を入れながら埋め込まれた。

「ハァーッ……ハァーッ……ねばるね……そんなに愛を受け入れたくないの?」
再び上空に舞い上がったキュアハートが、同じ位置へと集まったジャンや球磨川、流子に語りかける。
その瞳に映るのは、確かに無上にして無限の愛だったが――同時にそれは、底知れぬ狂気でもあった。

「何もかもを食っちまうのが愛だと……?
 そんなわけねえだろうが!」
ジャンの否定の言葉にも、その瞳の狂気は揺らがず――マナはその、必殺の構えを取る。

「わからないかな……。
 愛とは他者を受け入れること。愛とは他者に受け入れられること。
 食べてしまえば、この二つを同時に満たせる――。永遠に、そう、分かたれることもなく一緒に、同一であれる。
 あなた達は私の肉として、血として、熱となって、私はそれの奴隷となる。
 それを考えるだけで、私は絶頂しそうになるの。身体の中から熱いものが込みあげて、何もかもを食べてあげなくちゃって叫ぶの。
 これこそが人間の感情の極み。希望よりも熱く、絶望よりも深いもの。愛なんだよ」
狂気に満ちた言葉が、空間を支配する。
拳に込められた圧力が高まり、引き絞った弦のような緊張が満ちる。

そして――爆発。

ジコチューの浄化の為ではない、ただ殺戮の為だけに練られたキュアハートの古代パルテノンカラテ。
その全力が解き放たれ、解放された力が荒れ狂い、デビル達へと叩き付けられ――

そして、地面が崩壊した。



球磨川の練った作戦。
それは島の地表を崩し、地下――ヒグマ帝国に逃げ込むことだった。

そのために、他の仲間がキュアハートの目を引いている内に戦場に円を描くように螺子を打ち込み崩落の準備を整える。
準備が完了したら、キュアハートを脆くなった地表の中心まで誘導し――その一撃を地面に打ち込ませ、地表を崩落させる。

荒唐無稽な上に、その後にも問題を抱える作戦だが――球磨川にとって、今後の展望に一番都合のいい手段がこれだったのだ。
キュアハートと流子の戦いを目撃する前に球磨川が伝えていた、『唐突に首輪からの通信が途切れても不自然ではなく、他の参加者と出会ってもマミやほむらの情報がバレない場所』。
――そこは、地下だ。
急激に通信が途切れたとしても、首輪が爆破されたと錯覚させられるし、そこにいる者が盗聴器のついた首輪を付けていることもない。
キュアハートから離れつつ、マミとほむらの問題も解決できる――球磨川にとっては、二つの問題を解決できる策だった。

穴から見える青い空が急速に遠ざかり、首輪から異音が鳴り響く。
首輪の爆破か、墜落死か――このままならばどちらが早いかはわからないが、とにかく死ぬことは確かだろう。
だから――

『あ』 『それではみなさんご唱和ください――』 『It's All Fiction!!』

「トラップカードを発動! 《重力解除》!」

二人の宣言が、響き渡る。



――。

不意に、目が覚めた。
この表現が正しいかは定かではない。が、他に表現のしようがないのでこれは仕方がないことだろう。
先程までは失われていた眼に、光が入って来る。
身体を失った状態とはいえ、ソウルジェムの状態でもテレパシーの応用で周囲の状況を把握するくらいはできていたが――落下を始めてから、こうして目を覚ますまでの記憶はなかった。
ヒグマに食われた身体が再構成したのならば、ソウルジェムから身体に意識が戻るのにタイムラグがあったのだろうか。

「アケミ! おい、目が覚めたか!」
――どうやら、現在私はジャン・キルシュタインに背負われていたらしい。
微妙に腹立たしいことだが、球磨や凛に背負わせていないだけ良しとしよう。
まだ微妙にぼやけた視界には、ジャン・キルシュタインの背中と、その首に嵌められた首輪が見えた。

「……首輪は大丈夫なの」
「あのクマガワって奴が『大嘘憑き』とやらで――通信機の部分をなかったことにした、んだってよ。
 人数分の首輪と、アケミとトモエって奴の身体に能力を使ったから、随分とへたばっちまってるみたいだけどな」
首を軽く横に向ける。
白いシャツの男――確か、名前は碇シンジだったか――と、紫の機械の巨人に肩を借りて、引きずられるように歩いている、学ランの男の姿が見えた。
確かにあれでは、まともに戦うこともできそうにはない。

「……さっきまで戦っていた相手は?」
「わからねえ。あいつも飛べるから、追ってくるかもしれないし――何時までも瓦礫の山にいたんじゃ、様子を見に来た奴等に見つかるかもしれねぇから歩いてるが。
 今のところ、姿を見ねえ」
「……そう」
つまり――切り抜けたのだ。あの、ヒグマさえも凌駕しかねない敵を。
そして、信頼できるかはともかく、有力な味方を得て、敵の本拠に入り込んだ。
結果だけ見れば、大成功――と言って、いいのだろう。

「……一度だけ言うわ。ジャン・キルシュタイン」
「……な、なんだよ」
「指揮を、ありがとう」
「っ!?」
感謝するわ、ジャン・キルシュタイン。
あなたは見事にやってのけた。
私の託した希望を、確かに繋いだのだから。

『……少しいいかい?』
いつの間にか、肩を貸されている学ランの男が隣まで来ていた。
私になにか――いや、なんの話かはわかっている。
そして、それが私がやらなければならないであろうことも。

「……なにかしら?」
『君が マミちゃんの友達――いや 知り合いだと言うのなら』
巴マミ
誇り高く、他の誰よりも『魔法少女』であろうとした私の先輩。
彼女に、私は。

「……っ、ぁ」
「……マミ!? 気がついたのか!?」
折もよく、デビルヒグマの背に乗っていたらしい巴マミの口から声が漏れた。
覚醒に至る意識は、その目を開かせ――そして、私を見つけた瞳が驚愕に見開く。

「ここ、どこ……ッ、暁美、さん……!?」
「……巴マミ。貴女に、言わなくてはならないことがあるわ」
『……マミちゃん。彼女の話を、ちゃんと聞いてあげて欲しい』


【地下・ヒグマ帝国の隅っこ 昼】

【ジャン・キルシュタイン@進撃の巨人】
状態:右第5,6肋骨骨折、疲労
装備:ブラスターガン@スターウォーズ(80/100)、ほむらの立体機動装置(替え刃:3/4,3/4)
道具:基本支給品、超高輝度ウルトラサイリウム×27本、省電力トランシーバーの片割れ、永沢君男の首輪
基本思考:生きる
0:許さねぇ。人間を襲うヤツは許さねぇ。
1:アケミが戻って来た以上、二度と失わせねえ。
2:ヒグマ、絶対に駆逐してやる。今度は削ぎ殺す。アケミみたいに脳を抉ってでも。
3:しかしどうなってんだ? ヒグマ同士で仲間割れでもしてるのか?
4:リンもクマも、すごい奴らだよ。こいつらとなら、やれる。
[備考]
※ほむらの魔法を見て、殺し合いに乗るのは馬鹿の所業だろうと思いました。
※凛のことを男だと勘違いしています。
※残りのランダム支給品は、『進撃の巨人』内には存在しない物品です。
※首輪の通信機能が消滅しました。

【星空凛@ラブライブ!】
状態:全身に擦り傷、発情?
装備:メーヴェ@風の谷のナウシカ
道具:基本支給品、なんず省電力トランシーバー(アイセットマイク付)、手ぶら拡声器
基本思考:この試練から、高く飛び立つ
0:しっかり状況を見極めて、ジャンさんをサポートするにゃ。
1:ほむほむが戻って来たにゃ!
2:自分がこの試練においてできることを見つける。
3:ジャンさんに、凛が女の子なんだって認めてもらえるよう頑張るにゃ!
4:クマっちが言ってくれた伝令なら……、凛にもできるかにゃ?
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。

【球磨@艦隊これくしょん】
状態:疲労
装備:14cm単装砲(弾薬残り極少)、61cm四連装酸素魚雷(弾薬残り少)、13号対空電探(備品)、双眼鏡(備品)、マンハッタン・トランスファーのDISC@ジョジョの奇妙な冒険
道具:基本支給品、ほむらのゴルフクラブ@魔法少女まどか☆マギカ、超高輝度ウルトラサイリウム×28本
基本思考:ほむらと一緒に会場から脱出する
0:ほむらの願いを、絶対に叶えてあげるクマ。
1:ほむらは戻って来たけれど、まだやることが残ってるみたいクマ……。
2:ジャンくんも凛ちゃんも、本当に優秀な僚艦クマ。
3:これ以上仲間に、球磨やほむらのような辛い決断をさせはしないクマ。
4:もう二度と、接近するヒグマを見落とすなんて油断はしないクマ。
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。

暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:肉体は健康。魔力消費:大
装備:ソウルジェム(濁り:極大)
道具:89式5.56mm小銃(30/30、バイポッド付き)、MkII手榴弾×10
基本思考:他者を利用して速やかに会場からの脱出
0:巴マミ。貴女と私の関係も、変わるべきなのかしら。
1:まどか……今度こそあなたを
2:脱出に向けて、統制の取れた軍隊を編成する。
3:もう身体再生に回せる魔力はない。回復できるまで、球磨たちに、託す。
4:私とあなたたちが作り上げた道よ。私が目を閉じても、歩きぬけると、信じているわ。
5:グリーフシードなどに頼らずとも、魔力を得られる手段は、あるんじゃないかしら。
6:地下までやって来てしまったけれど……どう脱出するべきかしら。ヒグマも一枚岩ではないかもしれないし。
[備考]
※ほぼ、時間遡行を行なった直後の日時からの参戦です。
※まだ砂時計の砂が落ちきる日時ではないため、時間遡行魔法は使用できません。
※時間停止にして連続30秒、分割して10秒×5回程度の魔力しか残っておらず、使い切ると魔女化します。


【巴マミ@魔法少女まどか☆マギカ】
状態:健康
装備:ソウルジェム(魔力消費)
道具:基本支給品(食料半分消費)、ランダム支給品0~1(治療に使える類の支給品はなし)
基本思考:「生きること」
0:私は、本当に人間なの……?
1:???
2:誰かと繋がっていたい
3:ヒグマのお母さん……って、どうなのかしら?
※支給品の【キュウべえ@魔法少女まどか☆マギカ】はヒグマンに食われました。
※デビルヒグマを保護したことによって、一時的にソウルジェムの精神的な濁りは止まっています。

【穴持たず1】
状態:疲労大
装備:なし
道具:なし
基本思考:満足のいく戦いをしたい
0:マミは大丈夫なのか……?
1:至急地下で、現在どうなっているかを確かめたい。
2:私は……マミに一体何の感情を抱いているのだ?
3:私は、これから戦えるのか?
[備考]
※デビルヒグマの称号を手に入れました。
※キング・オブ・デュエリストの称号を手に入れました。
※武藤遊戯とのデュエルで使用したカード群は、体内のカードケースに入れて仕舞ってあります。
※脳裏の「おふくろ」を、マミと重ねています。

【球磨川禊@めだかボックス】
状態:疲労(極大)
装備:螺子
道具:基本支給品、ランダム支給品0~2
基本思考:???
0:『マミちゃんは大丈夫かな?』
1:『そうだね』『今はみんなについてこうかな』『マミちゃんも巨乳だしね』
2:『凪斗ちゃんとは必ず決着を付けるよ』
[備考]
※所持している過負荷は『劣化大嘘憑き』と『劣化却本作り』の二つです。どちらの使用にも疲労を伴う制限を受けています。
※また、『劣化大嘘憑き』で死亡をなかった事にはできません。
※『大嘘憑き』をあと数時間使用できません。
※首輪の通信機能が消滅しました。

【碇シンジ@新世紀エヴァンゲリオン】
状態:疲労大
装備:デュエルディスク、武藤遊戯のデッキ
道具:基本支給品、エヴァンゲリオン初号機
基本思考:生き残りたい
0:地下にまで来てしまったけれど、本当に大丈夫なんだろうか。
1:脱出の糸口を探す。
2:守るべきものを守る。絶対に。
3:……母さん……。
4:ところで誰もヒグマが喋ってるのに突っ込んでないんだけど
5:ところで誰もヒグマが刀操ってるのに突っ込んでないんだけど
[備考]
※新劇場版、あるいはそれに類する時系列からの出典です。
※エヴァ初号機は制限により2m強に縮んでいます。基本的にシンジの命令を聞いて自律行動しますが、多大なダメージを受けると暴走状態に陥るかもしれません。
※首輪の通信機能が消滅しました。

【纏流子@キルラキル】
[状態]:疲労大
[装備]:片太刀バサミ@キルラキル、鮮血@キルラキル
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いに対する抵抗
0:今のところ、こいつらは信用できそうだが……。
1:智子を探す
2:痴漢(鷹取迅)を警戒
[備考]
※首輪の通信機能が消滅しました。



時間を少し、巻き戻る。
球磨川達が仕掛けを施し、キュアハートが地表に空けた大穴。
キュアハートは、当然その中へと潜っていた。
首輪がない以上、エリア外であることは彼女を阻む理由とは成り得ない。

「ぐちゃぐちゃになっちゃったかもしれないけど、食べちゃえば全部同じだからね……♪」
鼻歌のようなものを口ずさみながら、キュアハートは高度を下げていく。
眼下には広がる地下に築かれたヒグマ帝国の街並みが近付く内、キュアハートのニンジャ嗅覚はある香りを捕らえた。

「これは……ヒグマさんの匂いだ! それも一杯……♪」
ヒグマ帝国に住まう、ヒグマ住民達の匂い。
地下に落ちたジャン達よりも先に、キュアハートはそれを嗅ぎ付けたのだ。

「あっちの方が、いっぱい食べられそうだね……楽しみ!」
そう呟くと、急激に速度を上げてキュアハートは瓦礫の山ではなく、ヒグマ帝国の都市へと落下していく。

そう。ヒグマ帝国に、捕食者が解き放たれたのだ。


【地下・ヒグマ帝国上空 昼】

【相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】
状態:ダメージ小、変身(キュアハートエンジェルモード)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合
装備:ラブリーコミューン
道具:不明
[思考・状況]
基本思考:食べて一つになるという愛を、みんなに教える
0:そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね!
1:ヒグマのみんなに愛を教えてあげなきゃ!
2:任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね?
3:次は『美琴サン』に、愛を教えてあげようかな?
[備考]
バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。
※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。
※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。
※山岡銀四郎を捕食しました

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最終更新:2014年06月21日 15:34