廃ビルの、吹き抜けとなった階層の空間を貫いて、細い光が差し入っている。
水面に対峙する二人の男を照らすスポットライトのように、日差しが彼らを戦いの舞台に上げる。
――ソードベント。
二人の男の元から、同時にそんな電子音が鳴った。
直後、彼らの立っていた位置から、爆発のように激しい水煙が弾ける。
「――ハァッ!!」
「――ガアッ!!」
蝙蝠の羽を模した剣・ダークブレードと、羆の爪を模した剣・ベアサーベルが、その中間地点で火花を上げた。
身を捻り合って二合、三合。
左右に分かれては唸りを上げて食い合う、獣の牙の如き刃の閃き。
足元を掬う冷え冷えとした海水は、その二頭の獣の足さばきにただ風に舞う吹雪となって潮を散らすのみであった。
「轟ッ!!」
「応ッ!!」
彼らは吠えた。
互いに刻まれた傷が痛みを思い出し、息を踵から肩に上げてしまうよりも速く、己の気道から炎を巻き上げることで体を駆動させる。
男の一人は、
駆紋戒斗という名だった。
蝙蝠を意匠とした紺色のスーツが、強くあらんとする彼の信念に駆られて奔る。
夜の深さのようにその剣技の先を覆い隠し、虚実の色を惑わせる玄妙な装束――仮面ライダーナイト。
面の端から歯冠の息を吹きながら、対手に向けて振り下ろす剣先の疾さは眼にも止まらない。
打ち躱して切り戻す閃きの鋭さは氷雨にして、死角を狙うは日照雨(そばえ)の拍子。
気合は颶風。
技巧は驟雨。
猛烈な炎天から篠竹を突き降ろすように、彼は留まることなく刃を揮っていた。
――厳しい。
だが、その苛烈にも過ぎる攻勢の危うさを最も認識しているのは、他ならぬ駆紋戒斗自身だった。
その勢いは相手を押しているように見えてその実、彼は徐々に徐々に追い込まれている。
ダークブレードを操る戒斗が諸手なのに対して、相手は右手一本しか使っていない。
千切れた左腕の先を虚空に遊ばせながら、相手の顔にはシラと狂喜を伴って犬歯さえ覗いている。
「ああ――、楽しいなぁあ、おい」
男の一人は、
浅倉威という名だった。
衣服の隙より熊のような体毛をびっしりと生やして、隆々とした筋骨がただ彼の欲に踊る。
仮面ライダー王熊もしくは王蛇と呼ばれていた彼がヒグマモンスターとされる様相になったのだとしても、彼を駆動させる原動力は当初より一貫していた。
食欲。
憤懣。
闘争心。
息もつかせぬ駆紋戒斗の連撃にただ興奮だけを覚え切り結ぶ思考はもはや赤熱して三昧に燃えている。
揮う膂力は裂脚にして、発する五蘊の鋭敏なるは随眠を翻して鬼神の域。
没入し躍動する六触身が彼の獣性を一太刀ごとに掉挙に高めて留まらない。
ひゅうるいいい。と、牙の隙に笑みが湧く。
自ずから浮かぶその表情は、己に対しての和顔悦色施であり、他者に対しての暴悪大忿怒である。
その爪の延長たるベアサーベルは彼の歓喜を受けて、煩悩の泥の中でいや燃えに燃えた。
「なああああ、楽しいだろうがよぉお!!」
「――っく」
戦いを支配していたのは、絶頂するように声を上げる浅倉威であった。
彼の振り抜く一筋一筋は、その実、真っ向から受ければ駆紋戒斗をダークブレードごと、戛然と断ち割っておかしくない。
戒斗は、浅倉の生み出すその数多の死の線をずらし、防ぐために、嵐の如く剣戟を巻くことを強いられているのだった。
――厳しい。
今一度、戒斗は戦闘処理にヒートする脳髄の片隅で現状を噛み締める。
浅倉威の力と強さは、駆紋戒斗のそれらを遥かに上回っている。
それは先程の一戦で既に解り切っていたことではあるが、新しいライダースーツの力を以てしてもその差は埋まってはいなかった。
手数にて死の絶対数を減らし、受け流す刹那の技巧で死の往く手を逸らす。
駆紋戒斗が先天より所持し、後天にて磨き続けてきたその繊細なる才覚がなければ、彼の命はとっくの昔に鵜の毛の如く吹き飛んでいただろう。
そして、一突きごとに神経を擦り減らすその剣閃は、駆紋戒斗の肉体に残っていた僅かな体力を急速に貪食している。
あと数分も持たず、もしかすると数秒後にも、彼の細胞は全身の血糖を燃やし尽くして止まるだろう。
勝ち目はない――。
その厳然たる事実を認識した瞬間、戒斗の肉体は加速していた。
ベアサーベルの剣戟からダークブレードを引ッ外し、海水を巻き上げて仮面ライダーナイトのマントが翻る。
――上!?
陽光に舞い上がるひとひらの夜に、浅倉威の眼は吸い込まれた。
数十合も続いた平面上の動きに突如加わるZ軸。
肺腑の奥底から残る息を絞って、駆紋戒斗の体が躍動する。
たとえば一匹の小さな蛾が、夜の森で蝙蝠の牙を舞い躱すように、剣と剣の渦の中で、踊るように身を翻した戒斗の切っ先は、捕食者の視線を潜り、玉ほとばしらせて水面の縁まで沈んでいる。
舞うに音なく、打つにも声なく、ストリートダンサーの体はひひるの動きを以てさッと一太刀、浅倉威の片脚へ走り抜けざまに切り付けた。
「ごォッ!?」
――浅い!
勢いのままに海水を走り、浅倉から距離を置いて戒斗は振り返る。
霞む視界の中で仁王立つ浅倉の左脚には、確かに一筋の傷が血を吹いている。
しかし、それは戒斗の全体力を絞った成果としては余りにも微々たるものだった。
心臓が早鐘のように鳴っている。
こめかみから目にかけての血流が痛む。
エネルギーの燃焼を求めて肩口に登ってくる細胞の声を押し殺し、戒斗はギリと歯を噛んだ。
対する浅倉は、自身に初めて刻まれた獲物からの攻撃に、いよいよ笑みを深くしている。
「ふぁははははっ、面白いなぁ! イライラするが、愉快でたまんねぇ!!
ほら踊れ! 終わりかよ、俺が喰っちまう前にもっと踊れよ、羽虫ぃ!!」
「ちぃっ――」
膝をつく戒斗の元へ、捕食者が悠然と歩み寄ってくる。
実戦経験も、膂力も、体力も、どれをとっても戒斗は浅倉に及ばない。
圧倒的な実力差を体感しながらもしかし、駆紋戒斗の眼光は弱まらなかった。
その彼が握り締めたのは、自身が磨いてきた戦術の一つであった。
「……力技だけで勝てると思うなッ!!」
~~~~~~~~~~
引いてきた海水の流れの緩い場所を選んで、浅い波を漕ぐヒグマが一頭。
そしてそのヒグマの頭上に、微かに身を震わせながら佇む小動物が一匹。
彼らは
デデンネと、仲良くなったヒグマである。
『ほら、フェルナンデス、俺ならばどこへでも行けるぞ?
何がしたい? まずその首輪を外せるところを探そうか?』
「デデンネ……」
森で行き倒れていた人物に、このヒグマは回復薬をこっそりと置いてきている。
自分は危険なヒグマではないと、彼を想うだけの善良な者なのだと、ヒグマはデデンネに対してアピールしたのだった。
しかし、怯えるようなデデンネの挙動は、一向に変化しない。
むしろその態度はいっそう硬化したようにさえ見える。
ヒグマは焦っていた。
『よし、わかった、参加者だな。フェルナンデスも、俺以外に話の分かる者がいた方がいいのか』
「デネ……」
デデンネは恐怖していた。
自分を蹴り殺しかけた足下のヒグマに。
誰とも判らない人間に貴重な物資を勝手に浪費した足下のヒグマに。
安全地帯を確保するでもなく、わざわざ危険な環境の中をうろつきまわる足下のヒグマに。
『何とかやってみよう、首輪の外し方を探しながら、協力できる参加者を見つける……』
「デデ……」
互いの言葉を理解しないまま、会話のフリをした自己暗示が通り過ぎてゆく。
ただデデンネのことのみを考えて遮二無二動くヒグマの耳にその時、近隣の廃墟の中から激しい剣戟の音が響いてきた。
道の先の廃ビルの中で、誰かが戦闘を行なっているらしい。
見やれば、近くの建物にも砲撃を受けたような傷跡が残っている。
ヒグマはにわかに色めき立った。
『あそこだ! あそこに参加者がいるぞフェルナンデス! 安心しろ、お前のために助け出してやるからな!!』
「デデンネ!? デネデネデネンネデンデデデンネーッ!!」
『ありがとう、心配してくれているのか。だが俺は負けないよ。お前の声があれば百人力だ』
ヒグマは、弾けるように泣き叫ぶデデンネを、優しくその爪で撫でる。
デデンネは、全身の毛を逆立てて、身を竦めてその爪に耐えた。
デデンネが叫んだ内容は、人語に訳すと、「やめてよ!? わざわざ危険なとこに行くなよーッ!!」に当る言葉である。
『さあ待っていろ、今、助けてやるぞ!!』
「デデネーッ!!」
同じ場所ですれ違う心を載せて、ヒグマは街角を走った。
~~~~~~~~~~
駆紋戒斗の指先に、一つの錠前が踊る。
梨の印章を記した南京錠が、その時、浅倉威に向かって開錠されていた。
「ヒャッハー!!」
「!?」
突如、浅倉の前の空間に亀裂が走り、ジッパーのようにこじ開けられたその向こう側から一体の生物が飛び出してくる。
全身を漫然とした薄黄色い果皮に包んだその怪人は、焦点も輪郭も定まらない落書きのような眼差しで、目の前のヒグマモンスターに指を突き付けた。
「
ふなっしー待望の再登場なっしー!! 食べられたまんまじゃ終われないなっしー!!」
「……梨か?」
「そうなっしー! ふなっしーは千葉県船橋市のゆるキャラで梨の妖精なっしー! お兄さんは船橋……」
「フンッ!!」
「うギャー!?」
梨の妖精と自称する怪人が突き出していた腕は、浅倉威の右手で即座に捩じ切られていた。
水面に悶える怪人を他所に、浅倉はもぎ立ての腕をボリボリと齧って息をつく。
「なるほど。こんな旨い果物は初めて喰った」
「お、お兄さん、梨は船橋で買うなっしー……! ふなっしーは食べるものじゃ……」
「お前は贈り物だろうが。イラつくから黙れ」
「やめるなっしー!! 再登場したさっきの今で、プシャーッ!? 梨汁、プッシャーッ!?」
瞬く間に食い尽くされてゆく梨のインベスを囮にして、駆紋戒斗は呼吸を整えながら、必死に腰元のカードデッキを手繰っていた。
自分の知るものとは全く異なるアーマードライダーの変身システム。
その全容を把握するには余りに時間が足りない。
カードの絵柄から内容を判読していきながら、戒斗はその中のある一枚を引き当てて、ふと仮面のうちに笑みを零した。
半ばを喰われた梨のインベスがホログラムのように霧散するのに合わせ、戒斗は剣の柄にそのカードを差し入れる。
「……っち、食いかけで消えるのかよ――」
――トリックベント。
響き渡る電子音で、ようやく浅倉は先程まで戦っていた半死の羽虫の存在を思い出す。
顔を上げた彼が仮面ライダーナイトの姿を認めた時、廃ビルの水面には、信じ難い光景が広がっていた。
「押すだけが力じゃないんだよ……、化け物」
浅倉威を取り囲むように、辺りには8人の仮面ライダーナイトが出現している。
実体ある分身を操作して幻惑しながら対象を殺滅する、仮面ライダーナイトのトリックベント。
インベスゲームにて初めて多数のインベスを同時召喚し操作する戦術を確立させた駆紋戒斗が最大限に使いこなせる、確かな術と知恵がこのカードであった。
分身は自分自身よりも多少の実力低下はあるかもしれないが、それでも8対1の圧倒的な差の前には些末な事柄である。
8人の蝙蝠はめいめいダークブレードを構え、中央に捉えたヒグマモンスターを一刺しにせんと狙いをつけていた。
「フフフ……」
だが、その絶望的にも見える状況の中で、浅倉威の笑みはより一層深まる。
「ハハハッ……、ハーッハッハッハッ!!」
「何が可笑しい!!」
予想外の事態に詰問する駆紋戒斗へ向け、浅倉はひとしきり高笑いした後、今までに無いほど穏やかな表情を見せていた。
毛深い顔の中で、白い牙がきらりと光る。
「……ありがてぇなぁ。北岡とかは毎年こんな具合なんだろうな。嬉しくて堪らねぇぜ」
「どういう意味だッ!!」
「歳暮か中元かホワイトデーか。俺には縁遠いと思ってたが、まんざらでもねぇ。
梨の次は蝙蝠の詰め合わせセットとくらぁ。しめて29800円ってかぁ!?」
――アドベント。
「祭りの場所はここだ! てめぇらも、鱈腹喰いやがれぇ!!」
浅倉が取り出したカードに噛みつくや、その瞬間、水面から沸き立つように彼の周りに何体もの怪物が出現し始める。
ヒグマプレデター、エビルダイバー、メタルゲラス、
回転怪獣ギロス。
巨大な怪物の群れはめいめい咆哮を上げ、周囲の仮面ライダーナイトの群れに襲い掛かる。
「――なあっ」
ヒグマプレデターの吐く強酸が一人を溶かし、滑空するエビルダイバーのヒレが一人を切り裂き、メタルゲラスの高速突進が一人を砕き、全身から刃を出して高速回転するギロスが一人を微塵にした。
声を失う駆紋戒斗の前に、浅倉威の笑みが寄る。
「で、お前が本物だろ――?」
狼狽の様子にて、一発で本体を特定したらしい浅倉から、陣風のように死の線が振り下ろされる。
「うおおぁあああああ!?」
退いたところへ息もつかせず二の太刀が閃いた。浅倉の剛剣を受けるに、戒斗の腕に先程までの力はない。
たちまち斬り立てられて、心も乱れ、体も限界近い彼は、浅倉がベアサーベルの間隙に混ぜた前蹴りを見切ることができなかった。
「おぐぅ――!?」
呻きを絞り出された駆紋戒斗の体は、その一発で廃ビルの壁に叩き付けられる。
胸骨を割り、肺腑を叩く浅倉の蹴りは、痛みを通り越して戒斗を悶絶させた。
意識が霞む。
蓄積したダメージで仮面ライダーナイトの変身は溶け、一挙に押し寄せた疲労と脱力で立つこともままならない。
「……有り難く頂かせてもらうぜ、お前もな」
分身を食い散らす怪物たちを背景にして、浅倉威の凄絶な笑みが水面に照った。
~~~~~~~~~~
『ぬう……あの蝙蝠のような格好の男が、ヒグマと怪物に襲われているわけか』
「デデンネ……」
デデンネとヒグマが浅倉と戒斗の戦闘現場に辿り着いたのは、ちょうど浅倉がアドベントにより4体の怪物を召喚した直後だった。
捕食される仮面ライダーナイトの分身と、斬り立てられてゆく本体の姿が、生々しくデデンネを怯えさせる。
ヒグマは頭上の恐怖心に気付くことなく、如何にしてその男を助け出すかという方策に頭を悩ませた。
『俺単独ではどうしたって数で不利……。彼らの一体は初期ナンバーの穴持たずにも見えるし……っと』
その時、ヒグマの体に、ふと一体の生物が這い登ってきた。
それはヒグマの肩口から、頭上のデデンネに向けて襲い掛かろうとする。
ヒグマはそれに気づいて慌ててその生物を抱えて止める。見知った者だった。
『あんたか……。なんで地上にいるんだ? いや、それはどうでもいい。
フェルナンデスを襲うのはやめてくれ。こいつは俺の大切な友なんだ。
喰えればなんでもいい? そうか……じゃあ、あそこの怪物たちは、どうだ?』
両腕に抱えた生物に何事か問いかけて、ヒグマは深く頷く。
再び見上げた眼は、目の前に開けた勝算に強く輝いていた。
~~~~~~~~~~
メタルゲラスの体が炸裂した。
廃ビルの中央で、打ち上げ花火じみた爆音が大きく響く。
異常事態に振り向いた浅倉の眼に、そこから溢れて飛び出す、大量の黒い虫の姿が映った。
『感謝するぞミズクマぁ!!』
直後、廃ビルの窓ガラスを叩き割って、一頭のヒグマが唸りを上げて踊り込んでくる。
それは浅倉が今にも斬り殺さんとしていた駆紋戒斗の体を抱え上げて、反対側の窓から即座に脱出していた。
「待てッ……、このっ!!」
計算され尽くしたような一瞬の救出劇に、浅倉は反応できなかった。
彼と残るミラーモンスターたちの元には、メタルゲラスの死体を食い尽くしながら迫る、百匹あまりの船虫のようなものの群れが襲い掛かってくる。
1対8を5対8にし、5対1にしたと思った瞬間、戦況は4対100になっていた。
揺らいでいた物量差の天秤が、今振り切れる。
「――イライラする。本当、イラつくぜぇえええ!!」
飛び掛かってくる黒い虫をベアサーベルで斬りはふりながら、ヒグマモンスターが吠えていた。
~~~~~~~~~~
『やったっ! 上手くいったぞフェルナンデス! 彼を助け出せた!!』
「デ……?」
興奮冷めやらぬまま、駆紋戒斗の体を抱え、デデンネと仲良くなったヒグマが浅い水面を走っている。
ミズクマの娘の一体に出会ったヒグマは、あらかじめ水面下からミズクマにビル内へ潜行してもらい、メタルゲラスの体内で増殖してもらっていた。
そして彼女が宿主を食い破って外に溢れ、敵陣がそれに驚いて総崩れとなる瞬間を狙って、ヒグマは作戦を実行に移したのだった。
ミズクマは獲物を食べられて、助け出した参加者は命を繋げて、フェルナンデスは新たな仲間を得られて喜ぶ。
選り抜きの作戦は、誰もを幸せにする、会心の出来栄えだった。
「おい……、貴様ぁ……」
『おお、気づいたのか――』
ヒグマの腕の中で、駆紋戒斗が掠れた声を紡ぐ。
ぎりぎりと首を捻って空を仰いだ彼の顔にしかし、ヒグマは絶句していた。
「余計なことをッ……! 俺は、俺はっ、負けてはいないッ……!!」
駆紋戒斗の双眸は、ただ真っ白な怒りに燃えていた。
目の前の、自分を助けたらしい人物の姿さえ見えてはいない。
あの状況から、ヒグマモンスターの隙を突き、どうにか奴をねじ伏せて勝つ――。
戒斗の眼が見ていたのは、そんな妄想だけであった。
喉の奥から、血臭を漂わせながら怨嗟の言葉を吐き、彼はとっくに限界を超えていた体から意識を手放した。
それを聞いたヒグマは、ただただ水面に立ち尽くすだけだった。
『な、なぁ……、フェルナンデス。お前は、お前は、喜んでくれるよな――』
頭上のデデンネを震えながら見上げて、再び彼は衝撃に打たれる。
デデンネの表情に刻まれていたのは、冷たい隔絶と恐怖だった。
ヒグマは気づく。
ミズクマもヒグマ――それも、常のヒグマより大分グロテスクで凶悪なヒグマであることに。
それが、ヒグマ同士で策謀し、体内から肉を食い破って増えながら襲い掛かるなどという光景を見せられたらどうだ。
デデンネでなくとも、激しい恐れを感じるのは当然のことだっただろう。
『お、おぉ――』
ヒグマは、掠れた声で喚いた。
『俺は、どうすれば良かったんだよぉ!? おい、なぁ!? 教えてくれよぉ!!』
段取りはだんだんと消えてゆく。
デデンネは泣きわめくヒグマの姿を、鬼印か何かを見るような醒めた視線で見下ろしている。
手間暇かけて救い出した参加者は、呪いだけを吐いて沈んでいる。
ただ、仲良くしようと思っていただけなのに。
互いに言葉も思いも通じない3名の命は、一艘の運命のボートの上で、今ふらふらと漂っている。
【G-4:廃ビル街 昼】
【駆紋戒斗@仮面ライダー鎧武】
状態:重傷、疲労(極大)、胸骨骨折、気絶
装備:仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本
支給品一式。ナシ(ふなっしー)ロックシード
基本思考:
鷹取迅に復讐する。力なきものは退ける。
0:生きて勝つ
[備考]
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドの仮面ライダーナイトのカードデッキ@仮面ライダー龍騎により仮面ライダーナイトになりました。
※戦極ドライバーさえあれば再びバロンに変身することもできます。
【デデンネ@ポケットモンスター】
状態:健康、ヒグマに恐怖
装備:無し
道具:気合のタスキ、オボンの実
基本思考:デデンネ!!
0:デデンネェ……
【デデンネと仲良くなったヒグマ@穴持たず】
状態:顔を重症(大)、悲しみ
装備:無し
道具:無し
基本思考:デデンネを保護する
0:どうすればいいんだ。どうすれば良いんだ俺は!!
※デデンネの仲間になりました。
※デデンネと仲良くなったヒグマは人造ヒグマでした。
~~~~~~~~~~
「蝙蝠さんは、金持ちだ――。お歳暮置いて逃げ出した――♪」
ビルに溜まった海水から一階層上がった、僅かに残る床の上に、浅倉威の姿があった。
彼の笑みは、焚火の赤い炎に照らされている。
ビルの中の廃材に電撃で火をつけたそこには、ベアサーベルで串刺しにした、体長30cmほどの赤いシャコのようなものが炙られている。
焼きあがったその生物を、浅倉は殻ごと齧りついて食べ始める。
「うん……。生の刺身で喰うのもいいが、塩焼きにするとなおのこと旨いな。
伊勢海老100匹とは、これは北岡でも喰ったことなかろう」
初めこそ慌てていたが、中途半端な数頼みは逆効果と即座に判断しミラーモンスターを引っ込めて挑んだ浅倉に、ミズクマの娘たちが再び子供を産みつける隙はなかった。
時間こそ多少かかったものの、たかが100匹ぽっちの小動物を相手取って浅倉が勝てないわけがない。
「梨と蝙蝠の男……。次に会った時は、お前もしっかり喰ってやるからな」
意図せぬ贈り物の山に、一人満足した男の笑いが、ビルの中に響きわたっていた。
【劉鳳から出てきたミズクマの幼生の子孫 断絶】
【G-4:廃ビル内 昼】
【浅倉威@仮面ライダー龍騎】
状態:仮面ライダー王熊に変身中、ダメージ(中)、左大腿に裂傷、ヒグマモンスター
装備:カードデッキ@仮面ライダー龍騎、ライアのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、ガイのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
道具:基本支給品×3
基本思考:本能を満たす
0:一つでも多くの獲物を食いまくる。
1:腹が減ってイライラするんだよ
2:北岡ぁ……
3:梨と蝙蝠の男を追って食う
[備考]
※ヒグマはミラーモンスターになりました。
※ヒグマは過酷な生存競争の中を生きてきたため、常にサバイブ体です。
※一度にヒグマを三匹も食べてしまったので、ヒグマモンスターになってしまいました。
※体内でヒグマ遺伝子が暴れ回っています。
※ストライカー・エウレカにも変身できるかもしれませんが、実際になれるかどうかは後続の書き手さんにお任せします。
※全種類のカードデッキを所持しています。
※ゾルダのカードデッキはディケイド版の龍騎の世界から持ち出されたデッキです。
※召喚器を食べてしまったので浅倉自体が召喚器になりました。カードを食べることで武器を召喚します。
※カードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドはデイパックに穴が空いたために流れてしまいました。
※G-4周辺にカードデッキのセット@仮面ライダー龍騎&仮面ライダーディケイドのナイトのカードデッキ以外が流れました。
無事に流れているかもしれないし、壊れているかもしれません。
最終更新:2014年07月10日 15:10