「このあたりで、いいかな」
大和の遺体をおぶったまま街を抜け、温泉の近くまでたどり着いた
ヒグマ提督は腐ってもヒグマそのものである強大な腕力で地面に穴を掘る。
これ以上誰にも遺体を損壊させないように。彼女が安らかに眠れるように。
やがて出来上がったやや大き目な穴の中に四肢の無い大和の遺体を降ろし、
再び土を掛けその姿は完全に見えなくなった。
本来は火葬するべきなんだろうか。土に埋めてもやがて微生物に分解されるだけだ。
艦載機型深海棲艦に捕食されるのと最終的には同じ結果になる。
「いや、いいんだこれで。これ以上大和の体を傷付けるなんてできない」
艦これの提督にとって艦むすを轟沈させることは最大の罪だ。一隻でも沈めれば無能呼ばわりされる。
大破したまま進軍すれば機体をロストする危険を負い、轟沈すれば育てた娘は二度と帰ってこない。
たとえラストダンス目前でもダメコンを積み忘れていたら帰還させるのが提督の仕事だ。
そもそも、艦体これくしょんというゲームの目的は作戦を完遂して深海棲艦を駆逐することなどではない。
危険な海域に艦むすを送り込むのはあくまで新しい艦むすをドロップするためである。
味方を一隻も沈めずに全ての艦むすをコレクションすること。それがあのゲームの究極目的といえる。
そして、もし沈めてしまった場合はどうするか。またその艦むすが出るまで海域をぐるぐる回り続けるか
ひたすら建造を繰り返すだけだ。沈めた娘に再び会えるまで。それは長く苦しい道のりである。
「まあ、あくまでゲームの話だけどね。現実なら、どうすればいいのかな?」
五匹の羆嵐一一型がヒグマ提督をせかすように周囲をパタパタと羽ばたいている。
現実は更に厳しい。轟沈したら二度と建造もドロップもできないのだから。
死んだ者は生き返らない。生きてる者に出来ることは、その事実を後悔し、反省し
教訓として生きる糧に変えていくことのみである。
そう、過去は変えられなくとも、未来は変えられるのだから。
「島風、天龍殿、
天津風、
ビスマルク、那珂ちゃん、龍田さん、球磨ちゃん……。
いまこの島に居る艦むす達、連れてこられた娘も、私が造ってしまった娘たちも、
もう轟沈させない。鎮重府へ帰還させる。それがこのゲームのクリア条件だ。」
「ギィ!ギギィ!!」
「え?なに?」
突然、羆嵐の一匹がけたたましい奇声を上げながら提督の体毛を引っ張りだした。
他の羆嵐は街の方へと飛んでいく。まるで提督に早く来いと言わんばかりに。
「わ、わかった!なにか不味い事が起こったんだね!そっちへ行くよ!」
羆嵐に誘導された提督は大急ぎで街の方へ戻り、建物の陰に隠れる。
そしてしばらくした後、温泉地帯に数体の飛行物体が出現し、提督たちが
居たあたりに着陸した。その姿をみて提督は思わず目を見開く。
「あれは……二式大艇!?なぜここに!?」
二式飛行艇一二型、二式大艇。。当時の日本の技術の粋を集めて開発された、世界屈指の性能を誇った傑作飛行艇である。
戦艦を破壊する為に造られたとされるその機体は大量の魚雷を搭載できるスペースと強固な装甲を合わせ持った
空の怪物だが、目標の敵戦艦が真珠湾攻撃で既に壊滅していたため使いどころを失い主に空輸任務で活躍したとされる。
「そういえば覚えてないけど龍田ちゃんや天津風ちゃん以外も作ってたような……
まさか、秋津州ちゃんを造ってたのか?……いや、でもなんか変だぞ?」
二式大艇の数が多すぎる。秋津州の最大搭載数は一機。スロットをすべて埋めても
三機しか乗せることは出来ない。どうみても10機は要るようにみえるのだが。
やがて、二式大艇の中からうつろな目をした小さな小さなヒグマが数匹降りてきて、
手に持った小さなシャベルでヒグマ提督が大和を埋めたあたりの土を掘り始めた。
「な、何をするんだ!?やめろ!」
五匹の羆嵐が飛び出そうとするヒグマ提督を止める。
そして、掘り起こした地面から露出した大和の白い眠り顔を
見下ろすコロポックルヒグマから、何やら聞いたことのある声が聞こえてきた。
『……死んでいる?嘘!?あのバケモノを誰が沈めたのよ?
やっぱり私の他にも艦むすが?それとも深海棲艦同士で潰しあってるの?』
「……んん?あのCV、野水伊織?秋津州じゃない……ひょっとして瑞鶴?」
『あら?こんな所にもヒグマが?せっかくだからついでに資材に変えてやろうかしら?』
「うおおっ!?」
振り向くと、いつの間にか一機の二式大艇が至近距離まで近づいていた。
『あれ?その帽子……ひょっとしてアンタが噂のヒグマ提督ってヤツかしら?』
「瑞鶴?瑞鶴なのか?この機体を操作してるのは?なんで二式大艇を搭載してるの?
いや、それよりも―――」
『その周りに飛んでるの、アタシがあの化け物と遣り合ったときに使ってたヤツだよね。
新型のタコ焼き?まあいいわ、0.99%は味方なんじゃないかって期待してたんだけどなぁ』
数機の二式大艇がヒグマ提督の周囲を取り囲む。
『議論の余地はないわね!くたばれ深海棲艦!』
二式大艇の機体下部に設置された7.7mm機銃が火を噴きヒグマ提督に襲い掛かった。
慌ててしゃがんで回避し、五匹の羆嵐が旋回し、二式大艇を蹴りで吹き飛ばして
ふらついた隙にコックピットハッチを破壊して中の操縦ヒグマを捕食し
正面に居た一機の機能を停止させる。
「あ、ありがとうみんな!」
『うーん、やっぱ厄介ねあのタコヤキ。まあ、もう敵じゃないんだけどね』
羆嵐がパイロットを捕食している場所目掛けて、急降下してきた二式大艇が機体を衝突させた。
機体に挟まれて潰される一匹の羆嵐。さらに他の二式大艇が7.7mm機銃をその場所に集中砲火させ、
二体の二式大艇が潰れた羆嵐を巻き込んで爆発炎上する。
「み、味方ごと!?」
『まず一匹!どうよ!航続距離が無駄に長いだけの産廃でもこれくらいできるのよ!』
「……だ……」
ヒグマ提督は激昂し叫んだ。
「ダメじゃないかそんな戦い方!捨て艦戦法とか一番やっちゃいけないだろ!」
『は?神風とか末期の帝国海軍の基本戦術じゃん?日本軍人は国の為に命を捨てて戦うものよ』
あえて大破させて突撃させる捨て艦戦法というものはある。
だがそのプレイングはユーザー間で激しく忌み嫌われている物だ。
特攻兵器に北上さんやゴーヤが嫌悪感を示す等、味方に犠牲を出しながの
作戦遂行はゲームコンセプトから逸脱している。
『『『万歳!万歳!瑞鶴万歳!!!』』』
瑞鶴のボイスで喋る二式大艇以外の機体が一斉に声を上げる。
レイテ海域で瑞鶴が沈んだ時、脱出時に乗組員たちが叫んだ言葉だ。
やはりこの機体群を操作しているのは瑞鶴で間違いないのだろう。
『おー、可愛い奴らめ。やれやれ、もうこの島で信用できるのはコイツらだけか』
「そんなに慕われてるなら、なんで特攻なんかさせるんだ」
『決まってるじゃない、戦争に勝つためよ。くたばれ提督もどき深海棲艦!』
再び二式大艇の機銃がヒグマ提督に向けられ、火を放つ。
「うおおお!!」
咄嗟に、ヒグマ提督は羆嵐を掴んで背を向いた。まるで艦載機を庇うように。
(戦争?帝国海軍?いったい何のゲームをしているんだ瑞鶴?狂ってしまったのか?)
呆然とするヒグマ提督。今度こそ終わりなのか。
―――その時だった。
―――大和を埋めた地面から何かが飛び出し、そのままの勢いでヒグマ提督を蹴り飛ばしたのは。
「いてっ!」
地面に倒れ込んだことで機銃の雨を回避したヒグマ提督。
突然乱入してきた謎の存在は再び飛び上がり蹴りで二式大艇の装甲を貫き、
振り向きざまに胴体に付いた砲台でもう一機を撃墜した。
『な、なんてパワー!?新手の深海棲艦ね!』
「え?何?マジで何が起きたの!?」
乱入者は、基地の固定砲台に人間の足がついたような容姿をしていた。
マヌケな風貌でありながらその実力は戦艦水姫に匹敵する恐るべき耐久力を持つ悪魔。
「ほ、砲台子鬼!?」
『地上型かぁ、機銃じゃどうしようもないわね。これならどうかしら!?』
二式大艇の一機のハッチが開き、数機の魚雷が突然出てきた砲台子鬼目掛けて発射される。
日本海軍自慢の酸素魚雷だ。まともに当たれば一溜まりもない。
だが、砲台子鬼は避けようともせず、
『シュゥゥゥーーーー!!!!』
足を大きく回転し魚雷の側面を蹴り飛ばし、残りの魚雷を誘爆させ攻撃を防いだ。
そのまま発射直後で膠着した二式大艇に砲弾を発射し、そのまま撃墜する。
「え?今のCV……!?」
『馬鹿な!今のは金剛型の榴弾弾き!?それに、さっきの飛び蹴りは32文人間噴進砲!?』
なにやら聞いたことがある格闘術の名を呼びながら残った二式大艇は動揺する。
『ありえない!なんで深海棲艦が艦むすの技を使えるのよ!?』
『そうですかネ、深海棲艦と艦隊娘は表裏一体。あり得る話かもね』
「この声、金剛ちゃん!?」
『やあ提督、ほんのちょっとはしっかりしてきたみたいネ』
まる連装砲ちゃんを深海棲艦化したかのような容姿の砲台子鬼は
イギリス帰りのハスキーボイスで返事をした。
「な、なんで?」
『さあ?大和の置き土産とでも思っておいてほしいネ。
もっとも、あまり時間はなさそうだけど』
『ふざけるな!金剛のボイスで喋るな深海棲艦風情が!』
砲台子鬼は仁王立ちして二式大艇に話しかける。
『落ち着くネ瑞鶴!今仲間割れなんかしてる場合じゃないね!』
『落ち着いてられるか!くそ、もういいわよ!』
二式大艇は空へ離脱し、何かを大量に詰めた残りの機体と共に何処かへと向かっていった。
『次は輸送部隊じゃなくて本隊を派遣してあげるわ!覚えてなさい!』
何かを集めていたらしい二式大艇の群れは見えなくなった。
「た、助けてくれてありがとう、キミは一体?本当に金剛なのかい?」
『ぜかましの連装砲ちゃん、金剛の肉体に宿った魂。大和が捕食した様々な
ものがハイブリッドした深海棲艦。……うーん、でもやっぱキツイね』
砲台子鬼はふらついて倒れそうになる。あわてて抱き留めるヒグマ提督。
『脳が喰われてたのが割と致命的ネ。もうあまり喋れないかも』
「金剛ちゃん!」
表情のない砲台子鬼に、確かに金剛の笑顔を見た気がした。
(―――大丈夫、私達は、いつでも提督の傍にいて、守ってあげるネ―――)
頭の中に聞こえたその声を最後に、砲台子鬼は奇声を上げるのみになった。
いつの間にか整列していた羆嵐と共に、ヒグマ提督は涙を流しながら敬礼をした。
「ありがとう、金剛ちゃん、大和ちゃん。瑞鶴が何やってるか分からないけど、
きっと彼女も私が止めてみせるよ。私は提督なんだから」
****
「ありえない、あれが金剛?そんな馬鹿な」
コロポックルヒグマが次々と運んでくるPFD製戦闘糧食と新作の羆の大和煮の缶詰を
ほおばりながら、座り込んだ瑞鶴改二甲乙は頭を抱える。
深海棲艦を倒すと艦むすをドロップすることがある。
その理由は機密事項で明らかにされていない。
一説では深海棲艦は艦むすのなれの果てで、浄化することで救い出しているらしいのだが
だとすればいま自分が戦っているのは。
「ふん、どっちにしろ一回殺さないといけないんでしょ?なら迷う必要ないじゃない」
「「「「「万歳万歳!瑞鶴万歳!!!!」」」」」
やることがないコロポックルヒグマ達が瑞鶴の周りで騒いでいる。
マンセー要員というやつか。自我を消してる割に表情豊かな連中だ。
「お前たちももうすぐ出撃よ。準備なさい」
瑞鶴は立ち上がり、廃墟になっていた建物類が綺麗に整備され
今まさに大規模な飛行場として生まれ変わろうとしているのを目の当たりにする。
瑞鶴がふらつきながら辿りついた破壊され焼け焦げた遊園地。
何気なく寄り付いたその建物の中にゴロゴロと転がっていたウェルダンのステーキと化した
大量のヒグマ達。搭乗員の補充の為、それらを全て捕食した後だった、
この味方が誰も居ない絶望的な戦場で戦い抜く新しい戦略を思いついたのは。
「常時高速建造材と高速修復を搭載?凄いじゃないあのヒグマ達。
建築関係の羆だったのかしら?まっさかねー!」
焼け焦げたヒグマ。穴持たずカーペンターズと呼ばれたヒグマ達から生まれた
コロポックルヒグマは恐るべき速度で遊園地を航空基地へとリニューアルしていた。
あちこちに飛ばしている二式大艇が集めた
モノクマの残骸などを資材にして
次々と建物が完成してく。既に飛行場には大量の富嶽編隊が駐留していた。
航空基地支援システム
いくら瑞鶴が強くなったとはいえ空母である以上一度に行使できる飛行機の数は
限られている。だが陸上基地を用いることでその限界は突破できるのだ。
「数百、数千の富嶽連隊。等身大ならアメ公も蹴散らせるのにな。
まあいいや、いずれ滅ぼしてやるわよ」
ああすればよかった、こうすればよかった。歴史の修正。
その思想はどちらかというと深海棲艦のものなのだが。
そもそも特攻兵器を全力で行使している時点ですでに
艦むすとはかけ離れた存在に成り果てていることに
当人は気付いていないんだろうな。
【B-5 街の東端/夕方】
【
穴持たず678(ヒグマ提督)】
状態:ダメージ(中)、全身にかすり傷、覚醒
装備:羆嵐一一型×4、砲台子鬼
道具:なし
基本思考:ゲームを終わらせる
0:責任を取るよ、大和、金剛……。
1:
艦これ勢を鎮圧し、この不毛な争いを終結させる。
2:島風、天龍殿、天津風、ビスマルク、那珂ちゃん、龍田さん、球磨ちゃん……。
3:私はみんなが、艦これが、大好きだから――。もう、終わりにしよう。
4:大和を弔う。彼女がきちんと、眠れるように。
※
戦艦ヒ級flagshipの体内に残っていた最後の航空部隊の指揮権を勝ち取りました。
※砲台子鬼は戦艦ヒ級flagshipが体内で製造していた最後の深海棲艦です。
【Bー8 航空基地/夕方】
【瑞鶴改ニ甲乙@艦隊これくしょん】
状態:疲労(大)、小破、左大腿に銃創、右耳を噛み千切られている、右眉に擦過射創、左耳に擦過創、幸運の空母、スカートと下着がびしょびしょ
装備:12cm30連装噴進砲 、試製甲板カタパルト、戦闘糧食(多数)
コロポックルヒグマ&艦載機(富嶽、震電改ニ、他多数)×100
道具:ヒグマ提督の写真、瑞鶴提督の写真、連絡用無線機
[思考・状況]
基本思考:艦これ勢が地上へ進出した時に危険な『多数の』深海棲艦を始末する
0:深海棲艦を殺す……。殺し尽くさなきゃ……。
1:危険な深海棲艦が多すぎる……、何なのよこの深海棲艦たちは……ッ!!
2:偵察機を放って島内を観測し、深海棲艦を殺す
3:ヒグマ提督とやらも帝国とやらも、みんな深海棲艦だったのね……!!
4:ヒグマとか知らないわよ。ただの深海棲艦の集まりじゃない!!
5:クロスレンジでも殴り合ってやるけど、できればアウトレンジで決めたい(願望)。
[備考]
※元第四かんこ連隊の瑞鶴提督と彼の仲間計20匹が色々あって転生した艦むすです。
※ヒグマ住民を10匹解体して造られた搭載機残り100体を装備しています。
矢を発射する時にコロポックルヒグマが乗る搭載機の種類を任意で変更出来ます。
※CFRPの摂取で艦載機がグレードアップしましたが装甲空母化の影響で最大搭載数が半減しました。
※艦載機の視界を共有できるようになりました。
※艦載機に搭乗するコロポックルヒグマの自我を押さえ込みました。
※モノクマから、『多数の』深海棲艦の『噂』を吹き込まれてしまっているようです。
※お台場ガンダムを捕食したことで本来の羆謹製艦むす仕様の改ニに変化したようです。
※穴持たずカーペンターズが転生した建築コロポックルヒグマ達によって
E-8のテーマパーク跡がリニューアルされ航空基地が建設されました
※航空基地支援システムにより本来使用できない艦種、陸上機、水上機
を思考リンクにより無数に行使できるようになりました
【戦闘糧食】
瑞鶴がお台場ガンダムの装甲(CFRP)を握り飯状に手で丸めて作った瑞鶴お手勢の携帯食料。
食べると戦意高騰と共に艦載機が補充される。美味しそうだが人間が食べると
歯が欠けたり人体に有害な成分を摂取して死に至るので注意しよう。
最終更新:2016年12月30日 15:38