リン
リンは原子番号15、元素記号Pの元素である。 
性質
リンは周期表において、15族3周期に分類される元素である。
リンは、固体の非金属である。
沸点は44℃(白リン)、融点は277℃(白リン)である。
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融点 |
44.1℃ |
|
沸点 |
277℃ |
|
密度 |
1823kg/m3 |
|
原子量 |
30.973762 |
|
電気陰性度 |
2.19 |
|
酸化数 |
-3,-2,+1,+2 +3,+5 |
リンは窒素族元素に属する非金属である。
リンはまず、その同素体の多さで知られており、白リン、紫リン、赤リン、
紅リン、黒リン(金属リン)、二リンなどが知られる。性質は同素体によって
異なるが、白リン以外は常温常圧下で安定である。
白リンは白色の蝋のような物質で、P4であらわされる分子である。
発火点が60℃と低く、かつ毒性が強い。空気中では容易に自然発火し、
五酸化二リン(P2O5)をあたえる。また、発火していなくても、酸化は徐々に
進み、熱と青白い光(燐光)を発するため、水中に保存される。
それに対して、紫リンは空気中で安定かつ、ほぼ無害の同素体である。
紫リンはα金属リンとも呼ばれ、黄リンを密閉容器中で鉛と加熱すると
得られる。
黄リンは白リンの表面を赤リンが薄く覆ったものである。
赤リンは白リンと紫リンの混合物であり、黄リンを密閉容器中で250℃に
加熱すると得られる。発火点が高く、安全なために、マッチの外箱に
用いられている。
紅リンは赤リンの微粒子状のものだと考えられている。
黒リンは紫リンに対し、β金属リンと呼ばれ、リンの同素体の中ではもっとも
安定なものである。黒リンは、黄リンを約12000気圧下で200℃に加熱して
得られる。金属光沢を持ち、半導体である。黒リンは熱を加えても、酸化する
ことは難しく、化学的に比較的不活性であり、毒性も弱い。
二リンは白リンを約830℃に熱することで生成され、二つのリン原子の間に
三重結合を含む、反応性の非常に高い、P2で表される分子である。
反応
リンが空気中で燃焼すると、五酸化二リン(P2O5)ができる。
4P+5O2→2P2O5
リンに塩素を加熱して化合させれば、液体の三塩化リン(PCl3)が生じる。
2P+6Cl2→2PCl3
白リンを強塩基の水溶液に入れるとホスフィン(PH3)を生じる。
P4+4OH-+2H2O→2HPO32-+2PH3
製法
自然界に多く見られる、燐鉱石から生成する。
リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)を二酸化ケイ素(SiO2)とともに強熱すると、
五酸化二リン(P2O5)が得られる。
2Ca3(PO4)2+6SiO2→6CaSiO2+2P2O5
ここで得た五酸化二リンを炭素で還元することで黄リンを得る。
2P2O5+5C→P4+5CO
また自然界では自然リンとして産出されることもある。
化合物
リンは反応性に富む元素であり、有機、無機化合物が多く知られる。
ここでは無機化合物の一部のみを示す。
ハロゲン化物
ホスフィン(PH3)
三フッ化リン(PF3)
五フッ化リン(PF5)
三塩化リン(PCl3)
五塩化リン(PCl5)
三臭化リン(PBr3)
五臭化リン(PBr5)
リン化物
リン化ホウ素(BP)
リン化アルミニウム(AlP)
二リン化三カルシウム(Ca3P2)
リン化亜鉛(Zn3P2)
酸化物系
五酸化二リン(P2O5)(十酸化四リンとされる場合も多く、そのときはP4O10)
五硫化二リン(P2S5)
三硫化四リン(P4S3)
リンのオキソ酸塩
(オルト)リン酸(H3PO4)
リン酸ナトリウム(Na3PO4)
リン酸水素ナトリウム(Na2HPO4)
リン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4)
リン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)
同位体
|
同位体 |
中性子数 |
半減期 |
崩壊モード |
天然存在比(%) |
|
24P |
9 |
不明
|
β+,pe |
0 |
|
25P |
10 |
3.0×10-8秒
|
pe |
0 |
|
26P |
11 |
0.0437秒 |
β+,pe |
0 |
|
27P |
12 |
0.260秒 |
β+,pe |
0 |
|
28P |
13 |
0.2703秒 |
α,β+,pe |
0 |
|
29P |
14 |
4.142秒 |
β+ |
0 |
|
30P |
15 |
2.498分 |
β+ |
0 |
|
31P |
16 |
安定 |
なし |
100 |
|
32P |
17 |
14.263日 |
β- |
0 |
|
33P |
18 |
25.34日 |
β- |
0 |
|
34P |
19 |
12.43秒 |
β- |
0 |
|
35P |
20 |
47.3秒 |
β- |
0 |
|
36P |
21 |
5.6秒 |
β- |
0 |
|
37P |
22 |
2.31秒 |
β- |
0 |
|
38P |
23 |
0.64秒 |
β-,ne |
0 |
|
39P |
24 |
0.190秒 |
β-,ne |
0 |
|
40P |
25 |
0.153秒 |
β-,ne |
0 |
|
41P |
26 |
0.100秒 |
β-,ne |
0 |
|
42P |
27 |
0.0485秒 |
β-,ne |
0 |
|
43P |
28 |
0.0365秒 |
β-,ne |
0 |
|
44P |
29 |
0.0185秒 |
β- |
0 |
|
45P |
30 |
0.008秒 |
β- |
0 |
|
46P |
31 |
0.004秒 |
β- |
0 |
リンには安定同位体が31Pしかなく、モノアイソトピック元素となって
いる。
30Pは人類が初めて得た人工放射性核種であり、32Pはハーシーと
チェイスの実験で、DNAをラベルするのに用いられたなど、リンの
同位体は人類の研究と多くかかわりを持つ。
現在でも、32Pや33Pは分子生物学において、多く使われている。
歴史
リンは英語で、phosphorusと書くが、古くは、暗闇で光るものすべてを
phosphoros(光を運ぶもの)と呼んでいた。
それは日本や中国でも同様のことで、暗闇に燃える鬼火を燐と呼んでいた。
1669年、ドイツのブラントは、錬金術の最中に、人間の尿を蒸発させ、
空気を遮断して熱することにより、白リンを得た。
これは、空気中で酸化されることにより、暗闇のなかで、光るため、光を
運ぶものとして、そのままphosphorusの名が与えられた。
1678年にはドイツのクンケルによってよりよいリンの製法が考案され、
1771年シェーレは骨灰からリンを取り出すことに成功した。
18世紀末になって、ラボアジェにより、リンは元素であると提案された。
存在
自然界においてリンは単体では産出しない。
リンは土中にリン酸塩の形で存在し、また、リン酸塩をその組成の中心と
する、リン鉱石としても多く存在する。
リン鉱床はアメリカやヨルダン、モロッコに大きなものが存在し、また、
リン鉱床の中にはグアノと呼ばれる、生物の糞や死骸が化石化してできた
ものもある。
リンは生体内においても、糖をリン酸化した形でDNAやRNAなどに普遍的に
見られる。このことから生体にリンは不可欠であるが、リンは地殻中には
0.08%の存在量であり、ときに局地的に土壌中のリンが不足することがある。
リンク
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