日本式トリウム溶融塩原子炉
概要
日本式トリウム溶融塩原子炉は、主に日本連合帝國やアジア赤道ベルト圏に於いて主流とされている原子炉形式。燃料に原則としてトリウム溶融塩を用いる黒鉛減速型熱中性子炉であり、正式には日本式黒鉛減速溶融塩炉と云う。火力並みの高い熱効率、幅広い種類の物質を核燃料として用いることが可能な悪食っぷりと放射性廃棄物排出量の低さ、高い核不拡散性が特徴である。その構造・原理と燃料サイクル上強いγ線を発し、また炉心が比較的大型で複雑であるため、米国発で主流となった軽水炉(沸騰水型/加圧水型原子炉)に比べると商業炉としての成立は後発組に属する。しかし高い熱効率と受動的安全性を重視した設計に定評があり、小型化と熱効率の面で成功しているとは言い難い核融合炉に対し、冷戦で大量生産された核兵器や、他形式の原子炉によって生産された大量の高レベル放射性廃棄物(含む濃縮ウラン及びプルトニウム)を処理するため、高い熱効率を発揮する次世代型が主流となっている。
構造
日本式トリウム溶融塩原子炉は科学的に中性な塩(≠塩化ナトリウム)に主たる核燃料であるトリウム等を溶かし込んで液体燃料として用いる、熱中性子炉である。幾つかの点でソ連の開発した黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉と類似性を持っており(大凡冷却材に圧力が掛けられているとは言い難いが)、黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉の炉心を貫く圧力管の中の燃料棒と冷却材を、燃料溶融塩に置き換えた上で、それを大圧力にも対応可能な圧力容器(単に炉心からの放射線を遮る都合上、大圧力にも耐えられる仕様になっただけ)で覆ったものと考えて概ね差し支えない。
原子炉本体の容器は多重構造になっている。これは開発当初、溶融塩が黒鉛材に存在する微細孔構造に浸透する現象を防止するために必要な、良質な超小開口径微細孔構造の黒鉛材の製造が出来なかったため、黒鉛材の減耗を嫌って黒鉛材と溶融塩の間に仕切りとなる配管を設けることを必要としたからである。
原子炉圧力容器は容器と蓋で構成されている。容器には内張りの如く黒鉛中性子反射材が積み上げられ、その中に炉心容器が入れられており、圧力容器の外から炉心容器へ主配管が接続される。炉心容器下部には炉心の溶融塩流量配分を平均化するための下部の溜りが形成されており、炉心の中性子減速材が大半を占める領域とは仕切り板によって完全に分離されている。この仕切り板の上に溶融塩が流れる溶融塩燃料管が挿入された黒鉛減速材が積み上げられる。その上に再度仕切り板が積み上げられ、黒鉛減速材を炉心容器内に密封する。この仕切り板と、その上に被せられる炉心容器の蓋との間に出来る空間が炉心から出てきた溶融塩の流量を均一化する上部の溜りとなる。炉心容器蓋には圧力容器の外から挿入された主配管が接続される。その上に黒鉛中性子反射材が積み上げられ、原子炉圧力容器蓋で蓋をされる構造となっている。この構造により、黒鉛は完全に密封されており、黒鉛の存在する空間には不活性ガスが満たされている。
また原子炉圧力容器蓋と中性子反射材、炉心容器蓋、上部仕切り板を貫通する緊急停止用の制御棒案内管が設けられている他、同様に原子炉圧力容器と中性子反射材、炉心容器を貫く燃料排出管が設けられており、この配管は通常、凝固弁によって施栓されており、冷却機能喪失等により燃料溶融塩が加熱すると自動的に凝固弁が溶融し燃料溶融塩は炉心から重力に従って抜き出される。
制御棒は炉心の上から挿入される。駆動には水圧・油圧・ガス圧・磁力等があるが、何れも緊急時(動作電源を失った時)には制御棒を支える力を失い、自動的に炉心へ落下した後、動作電源が復旧しない限りは抜けないよう固定される機構が組み込まれている。
上部主配管を経由して炉心から燃料系ポンプによって抜き出された燃料溶融塩は、中間熱交換器へ送られ、一次冷却材の溶融塩に熱を奪われ、下部主配管から炉心に戻る。この時、燃料溶融塩の一部は核分裂生成物除去系に送られ、核分裂の効率を低下させる要因となる一部核分裂生成物を除去した後、再び燃料として炉心へ戻され燃焼する。
一次冷却材の溶融塩は中間熱交換器で燃料溶融塩から熱を奪った後、蒸気発生器に送られ水を沸騰させ過熱蒸気を作り、一次冷却系ポンプによって蒸気発生器から抜き出され中間熱交換器に戻される。蒸気発生器で発生した過熱蒸気は蒸気タービンを回し、復水器で冷却されて蒸気発生器に戻される。
緊急停止時の余熱除去系として、二系統の非常用冷却系が設けられている他、それらを作動させずともプラント全体で自然循環が行われ余熱・崩壊熱が除去されるよう、高低差が設けられており、最悪でも3日間は制御棒の挿入さえ成功していれば、自然循環により大気中に余熱が放散され操作不要という受動的安全性が確保されている(例え制御棒の挿入に成功していなくとも、冷却が不可能になった時点で冷却材の沸騰温度になる前に燃料の過熱によって凝固弁が溶融し、燃料は炉心外へ重力によって排出され反応は停止する)。
本形式は、炉システムの寿命に比して黒鉛材の減耗速度が早いことを嫌ったため、敢えて黒鉛材の中に配管を通した結果、黒鉛材のみの炉心構成の場合と比べ中性子経済に於いて劣り、また構造が複雑化し製造費を押し上げる要因になったが、開発当時の技術レベルで製造可能な黒鉛材の減耗速度は炉システム全体の寿命にほぼ等しくなり、最終的には放射性廃棄物を低減させることに成功した。
特徴
- 熱効率40~44.4%(送電端)
- トリウムからプルトニウムまで、他形式では使用不可能だったり、高レベル放射性廃棄物として処理されたりする物質をも燃料として用いることの出来る高い汎用性(悪食とも云う)。
- 簡易な科学処理により核燃料を精製することが出来(濃縮処理を行わずとも、最悪天然ウランを溶かし込んだ弗化ウランを装荷して起動出来る)、且つ面倒な処理を大規模に行わなければならない再処理施設を不要のものとすることが可能。
- 万年単位の管理を必要とする高レベル放射性廃棄物を数十年レベルまで燃焼によりある程度減却することが可能。
- 水を炉心まで導入しないことに拠る、原子炉そのものの水蒸気爆発や水素爆発の発生可能性の極減。
- 冷却材・燃料共に常圧であることによる配管機器・熱交換器・蒸気発生器の破損可能性の低減。
- 不測の事態が発生し操作不能に陥った場合でも、溶融塩燃料の温度上昇により凝固弁が自動的に作動し、人の手なしに原子炉から自動で抜き出し、燃料排出槽へ重力落下により自動排出させることが可能。
- 燃料排出槽内では、溶融塩燃料は凝固温度以下に自然冷却されるよう設計されており、槽内に減速材となるものも存在しないため再臨界も起こり得ず、また溶融塩燃料の凝固により放射性物質はガラス状に固められ放射性物質の拡散は起こり難い。
- 運転中や、運転後に生成された核分裂生成物に強いγ線を放出する核種を大量に含むため利用には分厚い遮蔽壁を要し、小型化も核分裂生成物の利用も難しいため、核拡散抵抗性が非常に高い(軍事用途としては動力炉としても核兵器の原料製造炉としても向かない)。
欠点
日本式トリウム溶融塩原子炉では以下のような欠点を持つ。
- 溶融塩の運用温度が500℃以上と高く、保温に要するエネルギーが大きい(≒保守費用が高い)。
- 運転中や、運転後に生成された核分裂生成物に強いγ線を放出する核種を大量に含むため利用には分厚い遮蔽壁を要し、小型化も核分裂生成物の利用も難しい(軍事用途としては動力炉としても核兵器の原料製造炉としても向かない)。
- 燃料塩に蓄積された核分裂生成物の内、核反応を阻害する成分の除去のためのプラントを設けるには、上述した2つの理由により、厳重な遮蔽能力を持った輸送手段及び高温の保温能力も併せ持った専用プラントを必要とする(≒保守費用が高い)。
日本式改トリウム溶融塩原子炉
平成19年(2007年)能登半島沖地震により、首都圏への電力供給の主力である珠洲・志賀・七尾の各原子力発電所は激しい揺れに見舞われ自動停止。外部電源が一時途絶したものの、非常用電源が作動し無事安全状態に落ち着いた。しかしながら、施設にも大きな損傷は無かったものの、余震を警戒し長期間停止状態に置かれたため、同年夏、首都圏では電力危機に陥り、予てから災害派遣時の大出力電源として整備されていた海原海上移動原子力発電所1~4号船を各地に派遣し全力稼働させる事態に発展した。
地震大国日本では陸上に建設すると揺れの影響を受け易く、万が一の大事故も在り得なくはないと考えられたため、連合帝國政府は全盛期を過ぎ縮小傾向を迎えつつあった浮体構造物産業を用い、発電所の海上移転を決意した。これは大凡、考え得る最大の大津波に対応した防波堤の中に浮体構造物を浮かべ、その上に原子力発電所を築き、地震の揺れから守ろうとするものである。
それに合わせて、発電機を回す際に起きる抵抗を減らす新たな技術が開発されたこと、燃料溶融塩の黒鉛材への浸透現象を起こさず、また燃料溶融塩との摩擦による減耗腐食が極めて少ない、良質な超小開口径微細孔構造の黒鉛材の製造に成功したことで、炉心から炉心容器や配管を排除し単純化し、中性子経済を向上させ燃料の増殖率を改善したことから、従来から比較的高い熱効率を誇っていた日本式トリウム溶融塩原子炉の発電出力を簡単に向上・製造費用を低減する目処がついたため、日本連合帝國はその最新鋭出力向上措置を施した浮体構造型トリウム溶融塩原子炉を『日本式改トリウム溶融塩原子炉』として採用した。
先ず既存原子力発電所の代替となる浮体構造式の原子力発電所の建設が始められ、その完成・操業開始後に既存原子力発電所の内、旧式化した原子炉は廃炉とし、比較的新しい時期のものは設備を流用して炉心を交換し、浮体構造式に設備を改める『移築』という前代未聞の型式での更新が行われた。
固有の特徴
- 熱効率48%(送電端)
- 水というクッションの上に立地するため地震そのものの揺れに対して強い。スロッシングの危険はあるものの係留装置の緩衝で十分防げ、また津波に対してはこれまでにも比して高い防波堤(20mと定められた)と浮体構造物自体の甲板高(喫水線から20mある)が盾となる。
- 炉心容器構造を廃し、その分中性子が配管や容器に吸収される確率が減り中性子経済が向上したため、燃料の増殖率が向上した。
- 全体として陸上に建設するのとほぼ等しい費用で建造可能であり、結果的に安全度が向上した分、費用対効果が向上した。
欠点
- 浮体構造物を浮かべられない場所には建設不可能。
- 津波が襲来した場合、引き波による海底の露出に弱く(浮体構造物が露出した海底に接触し、施設全体に多大な衝撃が加わる)、設置にあたっては底面の十分な緩衝装置の設置乃至は最低浮体構造物浮揚水位を確保するための護岸・水門等の設置を必要とする。
改良型日本式トリウム溶融塩原子炉
新素材の採用により炉の寿命と安全性・堅牢性が向上し、熱効率に於いても更なる高効率化を果たした新型日本式トリウム溶融塩原子炉。旧来の特徴はそのままに、熱効率は54%にも達している。
構造
従来の日本式トリウム溶融塩原子炉では、燃料溶融塩を炉心外へと導き出していたため、遅発中性子の損失があった他、燃料系のポンプや配管、中間熱交換器が遅発中性子により放射化されるなどの問題があった。これに対し、燃料溶融塩の炉心外への導出を極力抑えることを目指して設計されたのが、本形式の改良型日本式トリウム溶融塩原子炉であり、正式には本形式の炉を、日本式黒鉛及溶融塩併用減速溶融塩燃料溶融塩冷却型原子炉と云う。
構造としては、単純化が進んだ日本式改トリウム溶融塩原子炉より、寧ろある意味先祖返りを起こし日本式トリウム溶融塩原子炉のものに近い構造に複雑化している。見た目には、日本式改トリウム溶融塩原子炉で用いられている形状の黒鉛減速材に、日本式トリウム溶融塩原子炉の燃料系配管を通し、黒鉛減速材と燃料系配管の間に、一次冷却材の溶融塩を代わりの減速材兼冷却材として流し込んでいる、と言って良い構造になっている。燃料系配管は下部こそ急速な燃料装荷量増減のため大口径を維持しているが、上部は核分裂生成物除去系と熱密度の均等化のための緩い循環以上の能力を持たない程度の小口径配管に改められている。一時冷却材は下部主配管から炉心下部の下部冷却材溜りへ流れ込み、炉心下部から炉心上部へと燃料溶融塩の熱を奪いながら、上部冷却材溜りから上部主配管を伝って一次冷却系ポンプによって抜き出され、中間熱交換器へ送り込まれる。中間熱交換器で二次冷却系の中性子吸収材が添加された溶融塩に熱を奪われた後、再び一次冷却材は下部主配管より炉心下部へ流れ込む。
二次冷却系の溶融塩は中間熱交換器で一次冷却材から熱を奪った後、蒸気発生器に送られ水を沸騰させ過熱蒸気を作り、ニ次冷却系ポンプによって蒸気発生器から抜き出され中間熱交換器に戻される。蒸気発生器で発生した過熱蒸気は蒸気タービンを回し、復水器で冷却されて蒸気発生器に戻される。
固有の特徴
- 熱効率54%(送電端)
- 一次冷却材が減速材を兼ねるため、冷却材喪失事故が起き炉心から一次冷却材が急速に失われると、核分裂反応は制御棒の有無に拘わらず否応無しに確実に停止する。
- 燃料溶融塩が十分な熱容量を備えるため、冷却材喪失事故が起きても燃料溶融塩が急速に温度上昇を起こすことはなく、またその間に十分な対処時間が確保出来、その上温度上昇が続けば凝固弁が作動し勝手に炉心から燃料が抜き出され冷却される。
- 圧力容器や配管に使用する素材の放射線遮蔽能力及び耐放射化能力、耐熱能力・強度・靭性が大幅に向上したため、逆に炉の熱損失・体積が減少し、逆に安全性は格段に向上した(安全使用温度~1783℃、融点2190℃)。
- 黒鉛に代わる熱容量が大きく極めて燃え難い減速材(Nグラファイトと呼ばれる)の開発に成功したため、より安全係数の高い炉心を構成することが可能となった(安全使用温度~1892℃、融点5312℃)。
- 溶融塩をリチウムを消費するフリーベから、リチウムを必要とせず、より融点が低く沸点が高い代替フリーべとなる物質(N-Flibeと呼ばれる融点241℃、沸点2931℃の不活性化合物)の精製に成功し転換した事に拠って、運転温度の範囲が広くなり保守(保温)費用が格段に低くなった。
非固有の特徴
- 発電機の更なる抵抗削減によって、電気出力の向上に成功した。
- 蒸気温度が更に向上し、熱効率の向上に成功した。
- 熱交換器の材質に新素材を採用することで、熱伝導率と耐久性の双方の向上に成功した。
- 使用機器や建材の性能向上に拠り、配管長を短縮しプラントそのものの体積が小型化され、省エネルギー化が進み、熱損失が減少し全体の熱効率も向上した。
欠点
- 謂わば日本式トリウム溶融塩原子炉と日本式改トリウム溶融塩原子炉を組み合わせた合成獣的存在であり、炉構造が複雑化した分の製造費用・保守費用が増加している。
最終更新:2011年12月11日 15:19