第五章…「鏡童のふたり」
「おいてっちゃおうかぁ?」
「いや、六人揃わないと流派は興せないから駄目だろう」
アウスラのヘマに対してシェリルの反応は相変わらずだ。それを否すようにフェルが答えている。
広霊鎮に向けて旅立った僕らは建木の林のそばで立ち往生していた。
五人の真ん中にはアウスラが屍のように延びている。
「さすがにこの辺りの敵は一筋縄ではいかないな…」
広霊に向かうにはこの道を通らねばならない。しかし妖魔の追撃に僕らの進路はかたく阻まれていた。医者として蘇生術を覚えずに来たのは少し無謀だったのかも知れない。
前衛で武術家のほたると剣客のフェルが妖魔を食い止め、後方支援である道士のメイと踊り子のシェリルが火力になってくれるおかげで僕は回復術に専念する事ができる。バランスは良いのだが先に進むほど敵の攻撃が激しくなり回復もままならない状態だ。あの俊敏なアウスラでさえこの有り様だし…。
「どうする?長陽城に戻る?」
ほたるとメイが心配そうにこちらを見ている。
広霊までは、あと一息なのだが皆の疲労もかなりのものだし全滅してしまってはなんの意味もない。ここはリーダーとして撤退を告げるしかないだろう。僕は身を起こし皆に戻ることを促した。
動けないアウスラを抱きかかえようと、腕を取ったその時、背後から声が聞こえた。
「大丈夫かい?」
後ろを振り返ってみても誰もいない。
「気のせいかな?」
「ここだよ此処」
足元に目をやると小さな子供が二人、こっちを見ている。ちいさすぎて傍にいた事すら判らなかった。
「きゃあ!鏡童よ!!かぁわいぃ~ヽ(´▽`)/」
シェリルが突然駆け寄ってきて金髪の鏡童に抱きつき頬をすりよせている。彼女はよほどのショタ好きなのか?
「ちょっ!助けて兄ちゃ~ん」
「おいおい、いきなりのご挨拶だな~(笑)」
兄と呼ばれた青い髪の鏡童は、子供の格好なのにどこか大人っぽい。腰にぶら下げてる壺からは、ほのかに酒の香りが漂っている。彼はその壺の中身をぐいと呑み、こちらに差し出してきた。
「これでも俺って未成年じゃないんでね。あんたも呑むかい?」
僕が両手をかざして遠慮するとフェルが身を乗り出してきた。
「いい酒だな。ひとつご馳走になろうか」
どうやらフェルも酒には目が無いらしい。
「お、いい呑みっぷりだね。旦那」
「兄ちゃん助けてよ~。むぎゅ…」
シェリルは相変わらず抱擁を続けている。兄はというとお構いなしに座り込んでフェルと酒盛りを始めだした。
「アンタ達、此処に来て間もないな?その成りでこんな遠くまでよく来れたなぁ(笑)」
「実は仲間がひとり延びてしまってな。広霊に行く途中で立ち往生していたところなんだ」
「旅団組んでもその装備で此処まで来るのは大変だったんじゃ?おっと、まだ名乗ってなかったな。俺の名前はらん丸ってんだ。となりのちっこいのが弟の
ひまにゃ。よろしくな」
二人とも差して身長は変わらないと思うのは僕だけだろうか…。いや、此処はあえて突っ込まないでおこう。
「見たかぎり何か困っているようだが助けがいるかい?」
「助かるよ。医者はいるんだが、まだ蘇生術は覚えてないんだ」
「まかせときな。伊達に傭兵はやってないんでね。おい!ひまにゃ、蘇生してやってくれ」
「その前に、このお姉ちゃんなんとかして~。むぎゅぎゅ…」
「しょうがないな~」
ひまにゃと呼ばれた金髪の鏡童の傍にいくと、
らん丸の手がシェリルを子猫のようにつまみ上げた。ちいさな体からは想像つなかいほどの怪力に驚かされる。
「きゃあ!なにすんのよ~もう!!」
「お前の袋の中に薬があっただろ?そいつをこの朱髪の兄ちゃんに煎じてやりな」
シェリルを片手で持ち上げたまま、らん丸はアウスラを指さした。
「ありがと~兄ちゃん。任せといて」
ひまにゃが袋から薬を取出し霊術を加えると、それをアウスラの口に運んだ。見るかぎり彼は踊り子のようだが何か他の術式も心得ているようだ。この兄弟は二人ともかなりの熟練者らしい。
薬を飲まされたアウスラは霊力を帯びた光に包まれ、血の気がみるみる甦っていく。
「あれ?僕はいったい…助かったのか?…うぁ!ちびっこが二人もいる!!どうなってんの?」
状況を説明するのも面倒だ…。
「ありがとう。君たちのお陰で助かったよ」
ほたるから軽く事の成り行きを聞いたアウスラは彼らの前に手を差し出し握手を求めている。もう完全に大丈夫なようだな…。
「そっか~君たちも流派に加わってくれるのかぁ。なんとも心強い仲間が増えて嬉しいよ。これからもよろしくね!」
「ぇ?!」
ほたるの説明をどう理解したんだ?アウスラは…。当然の言葉に二人はキョトンとしている。そんなことはお構いなしに僕らの紹介まで始めだしだ。
「あっ!アウ~>w<;まだ二人とは会ったばかりでそんな話ひとつもしてないわよ~(滝汗)」
ほたるが慌ててアウスラを止めに入る。
「え?そなの?」
「まあ、流派を興すために広霊に向かってるのは確かなんですけど…^ ^;」
メイがすかさずフォローを入れた。
「あはは!面白い連中だな~」
らん丸は事態を理解したのか高笑いをあげている。やがて壺の中身を呑み終えると胡坐をかいた膝の手をぽんと叩き言葉を発した。
「よし!流派にも属さず傭兵稼業を続けるのも退屈してきたところだし、俺らもそこに加えてもらおうか」
「うん!兄ちゃん。これから賑やかになるね。じゃあ広霊までウチらで案内しよ~よ。」
弟のひまにゃもその決断を待っていたかのようにはしゃぎだした。僕らもそうして貰えたら非常に心強い。
「君たちがその気なら僕らは大歓迎だよ。これからもよろしく!」
俄かに活気付いてきて皆も喜んでいるようだし誰も異論はないだろう。
「さぁ広霊鎮に向けて出発だ~ヽ(´▽`)/」
アウスラの掛け声で僕らは一路、流派先生のもとへ歩みだした。
最終更新:2008年10月17日 01:47