朝霧と潮騒のデュエルが始まってからすでに69ターン。時間にして三時間強。
放課後の教室に残り7時過ぎまで部活と称した遊戯を行っていようとほうっておいてくれるようになった生徒会長の心遣いには感謝しているが、何時間も変わらず「封魔一閃」と「ストレートフラッシュ」をぶっぱなしてやったらどんなに気持ちの良いことかと思うようなフィールドと、まるでメトロノームのように一定感覚で耳に刻みつけられる「ドロー」「ターン終了」の声を聞き続けていると、さすがに先月に廃止された全校生徒帰宅のチャイムと放送が恋しく思えてくるのだった。
「ドロー」
朝霧の平淡な声が誰もしゃべらない教室の中ではひびいた。
デッキからカードをドローし、しばらく見つめてから手札に加える。さらに「カード・トレーダー」の効果で手札1枚をデッキに戻し、シャッフルしてからドローする。
リクルーターなどの効果の発動後にデッキを必ず三回カットするという朝霧のクセを見抜いたのは一体何ターン前のことだろうか。
自分の手札とフィールドを見比べ、朝霧はターン終了を宣言した。
一拍置いてから潮騒のはドローを行い、朝霧と同じようにしばらくドローカードを見つめてから手札に加えた。
「なぁ」
先程から俺の横で唸り続けていた蓮部部長が潮騒に向かって言う。
「もうそろそろやめにしないか?」
しばらくの間手札をシャッフルしながら場のカードの確認を行っていた潮騒はその動きをピタリと止め、朝霧のフィールドを注意深く探っていた視線を部長に向けた。
しばらくの沈黙の後、部長の額から顎を伝って脂汗が落ちるのを確認して潮騒は口を開いた。
「このデュエルは部長の命令でやっているものだと思いましたが?それにこのデュエルが終わらないかぎり家に帰さないと言い出したのも部長でしたよね?」
そう言ってデュエルに戻ろうとする潮騒を部長は必死で説得しようと言葉を返した。
「そ、そうだがなぁ、もう外も暗いし、染乃も帰らなくちゃならん時間だr」
「ウチは親がいないので時間の心配はありません。もう五分経ってしまいますので顔をどけて下さい。はっきり言って邪魔です。」
部長の言葉を遮りつつ言い放つ。
あんぐりと口を開け引きつった顔のまま硬直する部長をしり目に視線をフィールドに戻した。
「ターン終了」
「ドロー」
そしてまた朝霧がドローを行う。
ズーンと黒いオーラを背中に背負って空いている椅子に腰掛けた部長を視線の端で見ていた鹿波副部長が手を顔に当てて嘆息した。
俺と同じ一年である山神と芝草は机に突っ伏し、顧問である優風院先生に至っては寝息まで立てている。かくいう俺も机に腕を組み、須古氏だけ体を起こして見ているだけなのだが・・・。
「リバースカードオープン。「転生の予言」。自分の墓地の「闇の仮面」と「貪欲な壺」をデッキに戻す。」
朝霧がのデッキがまたも十枚を越える。50ターンを回ったころから全くデッキが減らないのは「貪欲な壺」と「転生の予言」、「闇の仮面」でループさせているからである。
「手札から「闇の量産工場」を発動し、墓地の「封印されし者の右足」と「封印されし者の左足」を手札に加える。」
もうすでに「封印されしエクゾディア」本体はD.D.クロウによって除外されているのだが、一向にエクゾディアパーツを手札に加えるのをやめない。そして手札があふれたらパーツを捨てる。わけのわからない循環とともにターンは経過し、一人、また一人と眠りに落ちていく。
「量産工場にカウンター。「ヒーローズルール2」。墓地を対象にする魔法・罠・モンスターの効果を無効にする。」
今度は潮騒のフィールドに空きができる。
「カードを1枚伏せてターン終了。」
「ドロー」
単調な言葉のキャッチボールに最後まで立っていた副部長が椅子に座った。
「ふぅ・・・。どっちが勝つと思う、篠山くん?」
隣でぼーっと試合を眺めていた俺に声をかけた副部長の目は「もう帰りたい」という文字を映し出していた。
「あー・・・。」
気の利いた言葉も思いつかず、思った通りのことを言ってみる。
「どっちが勝つ以前に、決着付かないんじゃないスかね。」
キーパーツの落ちたウィジャ盤と頭の除外されたエクゾディア。どこの素人が見ても決着がつかないのは一目でわかる。
副部長はハハハ・・・と苦笑し、遂に机に崩れ落ちた。
何故こんなくだらないデュエルが始まったのか。それは数時間前、部長が部員全員に告げた言葉から始まったのだった。
最終更新:2008年01月20日 11:28