「こんばんは、この辺初めて?」

ディーヴァが振り向くと、人の良さそうな笑みを浮かべる顔が視界に入った。
年齢は20代前半からせいぜい30といったところ。艶のある黒髪を左右に流し、その隣に右手を緩く掲げている。

昭和五十五年。
日本はイラン革命に端を発する第2次オイルショックの混乱真っ只中にあり、政財界は第1次の教訓を生かして、影響を最小限に押し留めていた。
来日していたディーヴァは人間社会の喧騒を意に介することなく、冬木市内を散策。
深山町を歩き回っている内に日が落ち、夜中の海浜公園から冬木大橋を眺めていた時、彼が声を掛けてきた。

「いやー、ガイドブック持ってるから声掛けちゃったんですけど」

「……」

如何にも親切そうな調子で続ける。
気のない様子で男の顔を眺めていたディーヴァの姿が一瞬、消えた。
次の瞬間、雪の様に白い顔と、泉のような青い眼が視界に大写しになり、男は僅かに身を引いた。

「…まずそう」

小麦色に焼けた顔を覗き込み、眉を寄せてディーヴァは短く言う。
口調には嫌悪もあったが、それ以上に憐みが込められていた。
大粒の藍玉が歪む様を見て、男は首を傾げる。

「キャスター!いるー!?」

頭だけもたげて背後にめぐらし、何者かを呼んだ。
給仕を呼んでいるみたいだ、と戸惑う男の両腕がだらりと下がる。
表情が抜け、ゆっくりと向きを変える。まもなく陽炎のような足取りでディーヴァの傍を離れていった。

彼は現在の自分に一切の疑問を感じていない。
その精神は既に活動を止めており、彼方から差すエメラルドの視線によって人形のように操られているだけだ。

男の姿が消えた園内で、入れ替わる様に女が一人、ディーヴァに近づいてきた。
胸元が大胆に開かれた衣装を纏う女だったが、俗っぽさは微塵も感じさせない。ワインレッドのドレスは優美な線を描き、背景が現代の街並みであることだけが惜しい。
美しい顔には今、冷たい色が宿っている。
先ほど名前を呼ばれたキャスター…ワインレッドの女は腰に手を当てている少女の前に立つと、呆れたように大きく息を吐いた。

対するディーヴァも純白のドレスに身を包んでいる。上半身は同色のケープで覆われ、胸元を飾る青い薔薇がワンポイントを添える。
血塗れたような真紅に負けず劣らずの派手な衣装だが、彼女は違和感なく着こなしている。

「大声でサーヴァントを呼ぶな。…用があるなら念話を飛ばせ」

キャスターはディーヴァがナンパされた時点で実体化。呼ばれた時点でミトコンドリアのコントロールを奪い、男を催眠状態に陥れたのだ。
放埓なマスターの振舞いに対して、彼女は終始気を揉まされっぱなしだった故に。
従属させるべくミトコンドリアに干渉を試みたことがあったが、ディーヴァの細胞核は尋常の生物とは異なり、キャスターのコントロールを容易く弾いてしまう。
マスター替えも考えてはいるが、依代として考えた場合、翼手の女王を手放すのは惜しい。せめて彼女と同等の魔力供給を見込めるはぐれのマスターが現れる事を今は祈る。

「だって、つまんないんだもん」

自儘な振舞いを窘められたディーヴァは口を尖らせる。溜息をつくと、小石を蹴る様な動きをする。

「せっかく面白そうなお祭りに参加してるのに、誰とも遭わないし」

「キャスターだって早く同衾相手を見つけたいでしょう?」

ディーヴァの子供の酷薄さを湛えた微笑に、キャスターは忌々しげに鼻を鳴らして応じる。

彼女が保有する『完全生命体』は核遺伝子を持たない完全なミトコンドリア生物を産み出そうとした逸話が、宝具に昇華されたものだ。
生前―マンハッタン封鎖事件以降、ミトコンドリアが覚醒した事例は確認されていない―なら、分身と適合した女性に完全体を生ませる事が出来た。
しかしサーヴァントとなって枷が嵌められたEve――キャスターは「メリッサ・ピアス」の殻を得た結果、分身による寄生が制限され、完全体の出産には魔力で構成された肉体で受精する必要がある。
もっとも精子を入手できればいいのであって、発動に性行為は必要としないのだが、その事を伝えても、ディーヴァは愉快気に笑うだけだろう。

――これが翼手か。

人間の側には立ち得ないが、Eveに組する事もない。味方とするにはこちらと協調する気が無さすぎる。
稚気に富んだ女王は勿論、彼女に好き放題させている騎士達も期待はできない。
首尾よく聖杯が手に入ったなら、ミトコンドリアの反乱を抑え込める連中への対処も考えよう。



海浜公園の敷地から出ていこうとしたディーヴァが声を掛けようと顔を向けたとき、栗色の髪が宙に溶けていた。
眉を顰めたディーヴァが念話を飛ばしても、応じる気配がない。頬を膨らませて叫んでも、公園が鈴の鳴るような声を吸い込むきりで甲斐が無い。

―嫌われちゃったか。

何が可笑しかったのか青薔薇の少女は笑みをこぼすと、さながら獲物を待ちわびる狩猟者のように、アトラクションを待ちかねる童女のような足取りで未だ眠らぬ新都を目指す。


【クラス】キャスター

【真名】Eve

【出典作品】パラサイト・イヴ

【性別】女

【ステータス】筋力C 耐久C 敏捷E 魔力B+ 幸運D 宝具A++

【属性】
混沌・悪


【クラススキル】
陣地作成:D+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
 出産に相応しい「分娩室」を形成できるほか、大量の魔力を用意すれば、より安全度が高い「肉のドーム」を形成することが可能。

道具作成:EX
魔力を帯びた器具を作成できる。
 後述の宝具以外は何も作成できない。

【保有スキル】
怪力:A
一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

飛行:B
 後述スキルにより、空中を自在に飛ぶ。
 飛行中の敏捷値はスキルランクで計算する。

ネオ・ミトコンドリア:A+
細胞核を支配する能力を得たミトコンドリアを保有している事を示す。生産したエネルギーを使って多彩な効果を発揮できる。
 キャスターは他者に宿るミトコンドリアに干渉することで、対象のゲル化や人体発火を引き起こす。
 対魔力スキルによって干渉を無効化されることに加え、標的が魔獣や魔物など通常の生物でない場合、効果を軽減されてしまう。

 姿を変えることが出来るが、クラス補正によって、ゲーム版でいう第1形態と第2形態を行き来する事しかできない。


【宝具】
『古き世を喰らう新生児達(ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー)』
ランク:D~C 種別:対生物宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:30人
 レンジ内に生息する生物を"NMC"に変化させる。
 NMCに変化した生物は、いずれも奇怪な外見に変貌を遂げ、体格や殺傷能力が向上。なかには特殊能力を発現する個体もある。
 基本的に優れた生物ほど強力なNMCになる。

 ネオ・ミトコンドリアスキルと同様、標的が魔獣や魔物など通常の生物でない場合、効果を軽減されてしまう。


『完全生命体(アルティメット・ビーイング)』
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 受精することで宝具が発動。完全体のサーヴァントを妊娠、陣地内部で出産する。
 この時に生まれる生物は通常のNMCと違い、肉体の全てがネオミトコンドリアで構成されている。
 最初は赤ん坊のような姿をしているが、人間一人分のエネルギーで戦艦一隻を沈める爆発を起こすなど、規格外の能力を持つ。
 完全体は時間経過やエネルギー補給によって4段階まで成長。その度にステータスが変化していく。

完全体・第一形態のステータスは以下の通り。

【ステータス 筋力D 耐久D 敏捷E 魔力A+ 幸運E  スキル 飛行:D  天性の肉体:A  単独行動:A+  ネオ・ミトコンドリア:EX】


【weapon】
  • 変形させた自分の肉体。主に巨大化させた両腕と鋭い爪。


  • 「NMC」
ネオ・ミトコンドリア・クリーチャー。
進化したミトコンドリアに肉体の主導権を奪われたことで異常進化、奇怪な外見・能力を得た生物。
キャスターの死後に一部がNYを離れ、アメリカ全域に散っていった。


【人物背景】
およそ10億年を生き延びた結果、宿主の身体を奪うまでに至ったミトコンドリアDNA。
生化学者・永島利明の手によって培養され、Eve1と名付けられた彼女は細胞核に反乱を起こし、人類の支配を目論む。
日本において完全生物を誕生させる事を試みるが、最期は永島の手によって殺害された。

数年後、聖夜を迎えたアメリカ・マンハッタンにて復活を遂げる。
人類に対し再び宣戦布告したEve――ミトコンドリアの女王は、同時期に超能力に目覚めた女性警官・アヤ・ブレアの手によって討伐された。


【聖杯にかける願い】
受肉。


【マスター名】ディーヴァ

【出典】BLOOD+

【性別】女

【Weapon】
なし。

【能力・技能】
「始祖翼手」
人間の血を啜る類人猿。体長5メートル程度の鬼や悪魔に似た生物だが、平時は人間に擬態している。
翼手は体内に備わる第5の塩基によって、驚異的な身体能力や再生能力を発揮する。

蜂でいう「女王」と、働き蜂にあたる「シュヴァリエ」が存在しており、ディーヴァは5人のシュヴァリエを従える双子の女王の一人。
生まれついての翼手。


【人物背景】
19世紀に発見された謎の生物のミイラ「SAYA」から生まれた双子の片割れ。
初代ジョエルによって人間として育てられた姉・小夜とは異なり、実験動物として扱われていた為、人間の価値観について理解が薄い。

些細な偶然から姉・小夜と邂逅。彼女の歌声を褒め称えた小夜によって、ディーヴァと名付けられる。
初代ジョエルの誕生日に小夜の手で塔から解放されたディーヴァは初代ジョエルの関係者を皆殺しにした後、世界中に翼手禍を振り撒いている。
好き嫌いが激しく、無闇に一般人を襲う事はない。

32話にて宮城リクを強姦する前から参戦。

【聖杯にかける願い】
手に入れてから考える。


【把握媒体】
キャスター(Eve):
 スクウェア(現スクウェア・エニックス)から発売されたシネマティックRPG。その一作目。
 Eveのキャラについては瀬名秀明氏の原作小説も参照。

ディーヴァ:
 テレビシリーズ全50話。本格的な登場は23話から。
 DVD、およびバンダイチャンネルでの視聴が可能。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年06月30日 23:36