道化師のように滑稽なペイントを顔に施した、日本人離れした長身の持ち主が居た。
 いや、人間離れした――といってもいいだろう。
 何せ彼の背丈は、二メートルなど当に越して、三メートル近いものだ。
 これだけあれば話は人目を引くどころか、一度見たら忘れない、くらいの次元になってくる。

 安物の煙草に火を灯し、誰もいない屋上で紫煙を燻らせる。
 やはり庶民向けの安物だからか、味は不味い。
 だが喫煙者にとって、多くの場合煙は味わうものではないという。
 火を点け、口に運び、煙を吸って吐き出す。
 この一連の動作が心を落ち着け、気分を楽にしてくれる。

「随分吸うんだな……緊張してるのか?」

 大人びた口調と落ち着いた声色からは想像もできないほど、男の傍らに立つ少年は幼かった。
 小学校にも上がっていないような小さな体に、清潔な白いマントを羽織っている。
 髪の毛はきめ細やかな銀髪で、その眼に宿る光は紫電のように強くぎらついていた。

「あァ、そうだよ。情けねェ話だが、おれは今緊張してる……というより、恐れてる。
 なんてったって命懸けの大勝負だ。一度乗ったら、中途半端じゃ降りられねェ。
 海賊やってりゃ修羅場なんて山程経験するけどよ……此処までの綱渡りなんて、あのファミリーに居た頃にだってそうはなかったぜ」
「では、分が悪い戦いだと思うか?」
「……どうだかな。サーヴァントのお前がいくら強くたって、おれが狙われりゃおしまいだ」

 男は、場合によってはサーヴァントすら欺ける隠密の手段を持っている。
 この世の七割ほどの世界から嫌われる代わりに身に付けた、悪魔の力がある。
 彼の食した『ナギナギの実』は、その名の通り『凪』を操る力だ。
 音を遮断し、聴覚による探知を無効化する。
 戦闘向きではないが、実に便利な能力だ。
 しかし彼の持ち味は、このサーヴァントと共に戦う限り半減される。

 その理由は、彼が右手に抱えている白色の本にあった。
 これは、白い少年……アーチャーの宝具であり、心臓とも呼ぶべき代物だ。

 曰く、魔本。魔界の魔物を人間界に繋ぎ止める道具。
 この本が燃え尽きた時、アーチャーは消滅する。
 かと言ってこの本を手にしていなければ、アーチャーは両手落ちの格闘家に等しい。
 要はこれは、動力源付きのコントローラーなのだ。
 操作しなければ、本体であるアーチャーは全力で戦えない。
 破壊されれば、動力源を失ったアーチャーは存在を維持できなくなる。
 そんな、弱点の塊のような宝具。これは魔物の王を決める為の戦いの逸話を元に召喚されたゼオン・ベルという英霊の枷であり、誇りでもある。

 人間界に魔界の巨兵を進撃させようとした、破壊の雷帝ゼオン。
 激戦の末に過ちを自覚し、後に魔界の王となる少年によって浄化された魔物の子。
 今の彼は、そういう存在だ。
 もしマスターがもっと優秀な魔術師だったなら、きっと彼は魔界に帰った後の雷帝として、本のない状態で召喚されたことだろう。

「だが、それでも勝たなきゃならねェ。おれには……聖杯が必要なんだ」

 楽勝だ、などと虚勢を張ることすら出来ない。
 彼自身がそう語ったように、これは一世一代の大勝負だ。
 勝てば栄光、負ければ破滅。
 これほど分かりやすい趣向も、そうない。
 それだけのリスクを正しく理解した上で、それでもこのドンキホーテ・ロシナンテという男は踵を返さない。
 その眼にあるのは、覚悟を決めた者の光だ。


 ロシナンテは、やんごとなき身分の生まれである。
 天竜人。世界を平定する大政府を作ったとされる王の末裔。
 下々の者と同じ空気を吸わせることすら死罪に値する、特権階級の最上位。
 彼はそこに生まれ、贅沢の限りを尽くしながら暮らしてきた。
 両親と、兄と共に。しかしその暮らしは、決して長くは続かなかった。

 ロシナンテの父は、異端の男だった。
 彼は天竜人に生まれながら、人として生きるべきだと考えた。
 自分だけでなく、家族皆で。
 そうして一家は聖地を出、下界に降りた。
 ……それがいけなかった。
 それが終わりの始まりだった。

 天竜人は下民の敵だ。
 権力に物を言わせて奴隷扱いし、気まぐれで人を撃ち殺す。
 普段はその後ろ盾を恐れて反撃してこないだけで、誰もが皆、彼らに殺意を抱いていた。
 そしてドンキホーテの子供達は、あらゆる援助を断った上で、地上に降り立ったのだ。
 ……どうなったかなど、語るまでもない。
 父の浅慮で母は死んだ。
 その父も、兄に殺された。
 兄は、生き地獄のような境遇の中で、目覚めてしまった。

「おれの兄……ドンキホーテ・ドフラミンゴは、化け物だ」

 兄に対して思うところがないわけでは決してない。
 袂を分かった今でもドフラミンゴは血を分けた兄弟であり、同じ母から生まれた家族である。
 だからこそ、ロシナンテには義務がある。
 天の竜から夜叉に墜ち、世界の破滅を望む――あの破戒の申し子に対して、果たさなければならない責任がある。

「おれはあいつを止める。その為に、聖杯を手に入れなくちゃならねェ」
「お前が死ねば、その怪物を止められる者は居なくなるんだろう。それでも、やるのか?」
「やるさ」

 ドフラミンゴが海の王になれば、世界はひっくり返るどころでは済まないだろう。
 弟として、彼のファミリーとして、ずっとその姿を傍で見てきたロシナンテにはよく分かる。
 あの男は、本当に世界を滅ぼすつもりなのだ。
 そしてそれが可能なだけの力、可能性、才能、手札……全てを彼は持っている。

「それに、何もどうにかしたいのはあいつのことだけじゃない。
 ……もう一人、助けたい奴が居るんだ。お前より少し大きいくらいのガキなんだけどよ、たちの悪い病気に冒されちまっててな。あんまり長くねェんだよ。
 聖杯がどんなものかは見たこともねェし、何も知らねェ。
 ただあの海の何処を探しても、これだけ都合のいい『奇跡』はきっとない。手前の命一個でそんな大秘宝に手を伸ばせると考えりゃ、安いモンだ」

 ロシナンテは海軍の人間だ。
 ドンキホーテ・ファミリーに潜入はしているものの、正規の海賊ではない。
 それでも海賊と共に海を渡り歩いていれば、そういう考えは自ずと身に付いてくる。
 博打に挑む度胸なんてもの、嵐の航海者達にとっては標準装備だ。

「……オレは、願いなんて持っちゃいない。オレの願いは生前に果たされた、だからこそオレの生涯は幸福だった。
 聖杯など、オレには無用の長物だ。お前が自由に使えばいい」

 アーチャーのサーヴァント、ゼオン・ベル。
 彼はエクストラクラス・アヴェンジャーの特性も持つサーヴァントだ。
 彼はその昔、復讐者だった。
 憎悪で心を焦がし、悪の道を突き進んでいた。
 もしも彼の言うところの『怪物』がゼオンを召喚したなら、呼び出されたのはきっと、復讐に燃える非情の雷帝だったに違いない。
 しかしロシナンテは、復讐心も憎悪も抱いちゃいない。
 彼は世界を憎んでいない。だから、『救われた』後の雷帝が呼び出された。

「デュフォーの奴に比べれば見劣りするが、その覚悟は及第点だ。
 ……いいだろう。この身に宿る雷の力を、オレも貴様の世界とやらの為に使ってやる」

 ゼオンもそれを理解している。
 魔界という世界をより良くしたいと願う少年の手で救われた彼は、心優しいピエロに同調した。
 彼ならば、きっと聖杯を正しく使い、世界を正しく導くだろう。
 そんな男の為になら……英霊に召し上げられたこの身、この力を振るってやるのも吝かではない。

(それにしても―――弟、か)

 因果なものだと、ゼオンは思う。
 ロシナンテがそうであるように、ゼオンにも兄弟がいる。
 ただし生まれの前後は逆だ。ロシナンテは弟だが、ゼオンは兄として生を受けた。
 ロシナンテは、兄を止めようとしている。
 暴走する兄を止め、何かを守ろうとしている。

 ……ゼオンは昔、止められる側の存在だった。
 この男のように優しい心を持ち、皆を守ろうとする弟に彼は敗北し、正しい意味で救われたのだ。
 要は自分と彼は、全くの真逆。
 怪物を止めようとする弟(かれ)が呼んだのが、かつて怪物だった兄(じぶん)とは。

 聖杯も、なかなか皮肉じみた真似をする。
 ゼオンは一人、コンクリートジャングルの町並みを見下ろしながら、心の中で呟いた。


【クラス】
 アーチャー

【真名】
 ゼオン・ベル@金色のガッシュ!!

【ステータス】
 筋力B 耐久C 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

 (ラウザルク発動時)
 筋力A 耐久B 敏捷A 魔力A+ 幸運D 宝具A+

【属性】
 中立・善

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

単独行動:B
 マスターからの魔力供給を断ってもしばらくは自立できる能力。
 ランクBならば、マスターを失っても二日間現界可能。

【保有スキル】
魔物の子:A
 人間界とは異なる世界、『魔界』で生まれ育った魔物の子供。
 アーチャーは比較的人間に近い見た目をしているが、頭によく見ると角がある。
 普通の英霊よりも多くの魔力を保有し、アーチャーの場合それが特に顕著。

怪力:A
 一時的に筋力を増幅させる。魔物、魔獣のみが持つ攻撃特性。
 使用する事で筋力をワンランク向上させる。持続時間は“怪力”のランクによる。

瞬間移動:B
 テレポーテーション。任意の場所に瞬間移動を行い、場を離脱することが出来る。
 だがこれを行う場合の魔力消費は大きいため、聖杯戦争ではあまり使わないのが無難だろう。

記憶干渉:C
 相手の記憶に対して干渉を行い、それを操作することが出来る。
 マスター相手には有効なスキルだが、サーヴァントにはほとんど意味を成さない。

【宝具】
『雷鳴の絆(白き魔本)』
ランク:B+ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:-  
 アーチャーが自らの術を使う為に必要となる、白い魔本。
 サーヴァントを従えるマスターにのみ読むことが出来、魔力の代わりに心の力という特殊なエネルギーを消費して術の行使を行う。
 魔界では本の有無に関係なく術を行使出来るにも関わらず彼がこの宝具を持っている理由は、人間界での戦いの逸話が元となって召喚されているためである。
 この宝具はアーチャーにとって制限でしかない。
 戦闘がマスター依存になる上、宝具の破壊は即アーチャーの消滅に繋がり、魔本は一切の耐久力を持たないのでただのマッチの火などでも焼却できてしまう。
 ―――だが、それでもこの宝具はアーチャーにとって、誇るべき絆の象徴なのだ。

『破壊の雷神(ジガディラス・ウル・ザケルガ)』
ランク:A+ 種別:対城宝具 レンジ:1~100 最大補足:1~800
 アーチャーの最大攻撃術で、そのあまりの威力から彼の術の中では唯一個別の宝具とされている。
 下半身が砲口となった二本の巨大な翼と角を持つ雷神を出現させ、砲口を囲む様にある五つの太鼓が点灯するのを合図に超巨大なビーム状の電撃を放つ。
 魔界最強の術と恐れられたバオウ・ザケルガの本来の力と真っ向ぶつかり合い、一度は打ち破ったほどの脅威的な威力を誇る。

【weapon】
 マント

【人物背景】
 魔界の王子にして、ガッシュ・ベルの双子の兄。壮絶な英才教育と鉄拳制裁を受けて育てられ、その才能は王宮騎士の中でも恐れられるほどの域に達している。
 初級呪文で他の魔物が持つ中~上級呪文を打ち破る程度は何のその、身体能力も並の魔物では狂戦士化の禁術を使っても相手にならないほど。
 かつては弟への憎悪を原動力に行動していたが、今は和解し、弟へ兄としての愛情を向けている。

【サーヴァントとしての願い】
願いは持たない


【マスター】
 ドンキホーテ・ロシナンテ@ONE PIECE

【マスターとしての願い】
 兄を止める。

【weapon】
 手榴弾や銃などの小道具

【能力】
 悪魔の実『ナギナギの実』
 『無音人間』。
 音を完全に遮断する能力を持ち、自分の発する音を消す、周りの音を自分に対し聞こえなくするなど応用の幅が相当に広い。
 ただし、戦闘向きの力ではない。隠密向けの悪魔の実。

【人物背景】
 『コラソン』のコードネームを持つ。
 ドンキホーテ・ドフラミンゴの弟であり、元『天竜人』。
 父親譲りの善の心を持ち、それゆえに暴走する兄ドフラミンゴを止めたいと願っている。

【方針】
 聖杯を手に入れる。


【把握媒体】
アーチャー(ゼオン・ベル):
 原作コミック。巻数は三十巻以上あるが、彼を把握する上では『ファウード編』のみで概ね可。

ドンキホーテ・ロシナンテ:
 原作コミックの『ドレスローザ編』。ロシナンテの出番はその中の過去編にしかないので、把握は比較的容易。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2016年07月02日 20:19