十分に(高度に)発達した科学は魔術と見分けがつかない
 Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.



                            ――――アーサー・C・クラーク




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 人は見た目が九割だ。人相が悪くても優しい男だとか、顔は醜いが天使のような人格者、だなんて人物は、殆ど創作の世界だけにしかその存在を許されていない。
 強面の男は大概が人相通りの性格をしているし、虐げられ続けた醜人もまた、成長の中で人格を複雑怪奇に捻くれさせているものである。
 無論これは言ってしまえばただの決め付けで、決して全ての人間に対し当て嵌まるようなことではないが、ある程度的を射ているのは確かだろう。
 その点で、この男は例外だった。
 改造された学ランを誰に憚ることもなく堂々と着こなし、頭のリーゼントは整髪料できっちり固められ、今日も見事に天へと伸びている。
 もし見た目だけで彼の人となりを分析しろと命じたなら、百人の中の百人が“不良”と答えるに違いない。

 だがその実、彼は不良や破落戸といった人種とは全く縁の遠い人間だ。ただ見てくれが人と変わっているだけで、彼自身は驚くほど普通の良識的な人物である。
 カツアゲや性犯罪のような許されざる行いに手を染めたことは誓ってないし、親や家族、友人のことは人一倍大事に思って尊重している。
 特別天才じみた頭の良さを持っているわけではないが、かと言って学力が特別低いわけでもない。そういう点でも、彼は見た目以外はやはりごく普通の学生だった。

 いや。正確にはもう一つ、彼には普通ではない特徴がある。しかしそれを認識できる人間は、彼と同じように普通ではない者だけだ。
 スタンド能力という不可視の力が、この世には存在する。常人には認識することも出来ない、選ばれし者だけが知覚することのできる力が。
 少年は、その“選ばれし者”だった。彼がスタンドを発現せず、平和に生きるという未来は、きっと最初から存在しなかったに違いない。
 百年前から続き、既に両者が死んでいるにも関わらず、途切れることなく複雑に絡み合ったとある男との“血筋の因縁”――邪悪と戦うという宿命がある限り。

 東方仗助は、心優しい少年だ。そしてその優しさは、彼の能力にも現れている。この世のどんなことよりも優しいスタンド能力を、彼は持っている。
 クレイジー・ダイヤモンド。その能力は、他人の傷を癒やすというものだ。死んでさえいなければどんな外傷だって立ち所に治してしまえる、彼だけに許された力。
 もちろん、ただ優しいだけではない。仗助は悪や卑劣な行いを決して許さないし、誰彼構わず見境なく助けるようなお人好しでは決してなかった。
 要するに、仗助は正義の人なのだ。黄金の精神を若い脳髄に宿し、正義のために戦う心優しい人間賛歌……『ジョースター』の血を引く不朽の輝き(ダイヤモンド)だ。

 仗助にはたくさんの仲間がいた。自分の日常が本格的に変化していくきっかけとなった空条承太郎に、最初は敵だった馬鹿で憎めない虹村億泰。
 性格こそ控えめだが、ここぞという時の勇気は目を見張るもののある広瀬康一、偏屈でどうしようもない人間だが、そこが良さでもある人気漫画家・岸辺露伴。
 その他にも、名前を挙げきれないほど、仗助には仲間がいる。……しかし、今はいない。今、この見知らぬ世界で、仗助を助けてくれる顔見知りはどこにもいなかった。

 ――聖杯戦争。それが、東方仗助の巻き込まれた戦いの名前だ。

 マスターと呼ばれる人間が一体のサーヴァントなる存在を使役し、互いに戦い合わせる。
 最後の一組まで生き残った主従のみが賞品の“聖杯”を手に入れることができ、聖杯を手に入れた者は、その力で自らの願いを何でも叶えることができるという。
 まるで子供の妄想のような話。仗助も最初は、とてもじゃないが信じられなかった。これまでに巻き込まれたどの騒動と比べても、あまりにスケールの桁が違いすぎる。
 ……正直なところを言わせてもらうと、今でも半信半疑だ。誰かが自分を驚かせるために盛大なドッキリを仕組んでいるんじゃないかと時折疑ってしまう。

「ワケの分からねー事態だが……願いが叶うなんつー都合のいい話に尻尾振ったりすんのは、ちぃとグレートじゃあねえな」

 仗助は、聖杯戦争に乗るつもりなど欠片もなかった。むしろその逆。どうにかしてこの妙な昔じみた世界から抜け出そうと考えている。

「願いを叶えてやるって言えば聞こえはいいけどよ……要は俺達に殺し合いをしろってことだろ。そういう趣味の悪いゲームは、生憎お断りだぜ」

 誰かを殺してまで叶えたい願いなど、仗助にはない。精々が「こうなったらいいなあ」という希望程度のもので、躍起になって叶えようとする程のものとは言えなかった。
 聖杯を使えば死んだ人間を生き返らせることもできるだとか、そういうことを言われても、仗助は考えを変えるつもりはない。
 確かに、失われてしまった命は数多くある。祖父の良平。億泰の兄・形兆。重ちーに、吉良吉影という殺人鬼に殺された山ほどの命。
 取り戻したいとは当然思う。だがそのために聖杯に頼り、あまつさえ更なる死を誰かにもたらそうなどとは、仗助にはとても思えなかった。それは、“悪”の考えだ。

「だから俺ぁ、聖杯戦争ってヤツからとっとと帰りますよ。もし同じこと考えてる奴がいればそいつらとも一緒に、ね」

 これまでに、仗助は様々なスタンド能力の使い手と戦ってきた。死ぬかと思ったことは数えきれないし、事実、死んでいてもおかしくなかった場面は山ほどある。
 それでも攻略法のないスタンド能力というのは存在しなかった。仗助達はいつも苦戦しながら、翻弄されながらも、最後にはそれを乗り越えてきたのだ。
 だから今回も、きっと諦めなければどうにかできる。根拠は何もなかったが、仗助は一切疑うこと無くそう信じていた。
 聖杯が欲しくてたまらないというのなら、勝手に戦っていればいい。仗助は聖杯戦争を快くは思っていないが、願いのために戦うということ自体は否定しない。
 正攻法じゃどうにもできない願いというのは、ある。それをどうしても叶えたいなら、戦うのはそいつの勝手だ。聖杯戦争を続けて、願いを叶えればいいと思う。
 だがその戦いに、戦いたくない者を巻き込むのは気に入らない。自分のように、ただ巻き込まれただけという人間も少なからず存在する筈だと、仗助は睨んでいた。

 聖杯戦争を抜け出し、元の世界に帰る。
 戦い自体を拒んで、脱出するという方針。
 それは、普通のサーヴァントであれば御すことのできない考えだ。
 サーヴァントは普通、満たされない願いや未練を抱いている。それを叶えるために、彼らも聖杯を欲する……サーヴァントとマスターは、Win-Winの関係にある。
 事実、仗助の召喚したそのサーヴァントにも……大いなる願いが、夢があった。

 その夢こそが、サーヴァント・キャスターの姿形を形作る機関の鎧。見果てぬ夢が生み出した重機関装甲――固有結界。最小規模の、心象世界具現化。
 彼は夢追い人だ。恐れ、嫌悪、憎しみ、嘆き。彼の装甲は、妄念と夢想の具現である。

「――我に武勇なく、覇業なく、栄光も有り得ず」
「……はい?」
「我が空想はありえた未来。我がディファレンス・エンジンに満ちた、争いなき空想世界。発展と繁栄のみがある、夢の機械に囲まれた理想の郷である」

 黒灰色のボディに人間的な要素など欠片もなく、頭部に備えられた外界認識用のレンズが真っ赤な光を灯してマスターの少年を見据える。
 仗助は彼の真名を聞いても心当たりは微塵もなかったが、知識の深い人物……例えば岸辺露伴や空条承太郎であったなら、彼の名前に驚きを見せたかもしれない。
 彼こそは、コンピューターの父。現代、未来に至るまでの発展を約束した天才碩学。
 しかし彼の死は、志半ばのものだった。階差機関は完成しなかった。解析機関も完成しなかった。全ては時代の狭間に消えてしまった。
 ありえた未来の夢だけを世界に残し、彼は死んだ。

「――それでも」

 彼には聴こえるものがある。その聴覚機関を誤魔化すことは、誰にもできない。
 この世界に響く、数多の助けを求める声が。無念のままに消えゆく者の声が。
 そして蝿声(さばえ)のようにざわめく、悪の笑い声が。

「私は君と共に在ろう、我がマスター、東方仗助。心優しき少年。蒸気の勇者(スチームブレイブ)よ」
「そいつは……協力してくれる、っつーことっスか? アンタ自身の願いを投げ捨ててでも」
「然り」

 蒸気の吹き出す音。それは人間で言うところの、頷く動作の代わりなのか。

「我は従おう。この戦いにおいて、貴様をマスターとして。
 ――我が名は蒸気王。ひとたび死して、空想世界と共にある者。我が大いなる使命を、君と共に実行しよう、選ばれし者よ。私を目覚めさせた希望の勇者よ。
 私の機関が作動し続ける限り、この世界には如何なる悪も存在してはならぬ」

 蒸気王。その真名は、チャールズ・バベッジ。
 黒灰色のボディ、この世のどんな装甲とも、どんな機械とも異なった異形の原理で動く鋼鉄。
 決して砕け散るということのないダイヤモンドのような意志を持つ少年が、このサーヴァントを呼び出したのはともすれば必然だったのかもしれない。
 何故ならそのボディもまた、不壊のものであるからだ。彼の夢がある限り、機関の鎧は砕けない。夢見る心がある限り、チャールズ・バベッジは挫けない。

 仗助には、彼の言い回しは分かりにくく、ただただ難解なものにしか聞こえなかった。
 だが伝わってきたことは確かにある。このサーヴァントは堅苦しいし、なまじ知識があるから難しいことしか喋らない。
 それでも、その心には確かな正義がある。それだけで仗助は、このサーヴァントと一緒に戦うには十分な理由になると判断した。
 黄金の精神と、鋼鉄の精神。二つの堅固が入り混じって――人間賛歌は奏でられる。


【クラス】
 キャスター

【真名】
 チャールズ・バベッジ@Fate/Grand Order

【ステータス】
 筋力B++ 耐久B++ 敏捷D++ 魔力A 幸運E 宝具A+

【属性】
 混沌・中立

【クラススキル】

 道具作成(偽):A
 キャスターは魔術師ではなく、かの発明王のように優れた発明家でもない。
 しかし彼は、自己の夢想によって体を覆い、そこから様々な蒸気機関機械を生み出すことが可能。
 曰く、高度に発展した科学は魔術と見分けが付かない。

【保有スキル】

 一意専心:C
 他に心を動かされず、ひたすら一つのことに心を集中する。
 彼の心は常に一つ。鎧の内に抱いた広大な夢のみで染め上げられている。
 同ランクまでの精神干渉を無効化し、執念の高まりで魔力をチャージする。

 機関の鎧:EX
 蒸気機関製の全身機械鎧を常に身に纏う。
 筋力と耐久力をランクアップさせると同時に、異形の蒸気機関がもたらすブースト機能によって三つの能力値に「++」の補正が与えられる。

 オーバーロード:D
 自身の体に過重負担を掛けることで、自身の攻撃力を増強する。
 ただしこのスキルは言わずもがな、キャスター自身に多大な負担がかかる。

【宝具】

『絢爛なりし灰燼世界(ディメンジョン・オブ・スチーム)』
 ランク:A++ 種別:対軍宝具
 彼を構成する固有結界であり、彼が纏う機関鎧であり、彼が抱く心そのもの。
 『Grand Order』では、蒸気を噴出しながら飛び上がり上空から一撃を下し、敵全体にダメージを与えつつ防御力をダウンさせる。
 彼の台詞から考えると単純な攻撃宝具ではなく、固有結界である自分自身からさまざまな機械を取り出すことが可能な宝具であると思われる。
 ストーリー上ではこの能力を利用して、ヘルタースケルターと呼ばれる機械兵士、と言うか彼自身の量産型を大量に生産・制御して、カルデア陣営の行動を阻んでくる。
 また、巨大蒸気機関「アングルボダ」を作り出し、聖杯を動力としてロンドン中を覆う「魔霧」を発生させている。

【weapon】
 機関の鎧

【人物背景】
 蒸気機関を用いた世界初となるコンピューター「階差機関」「解析機関」を考案した天才碩学。
 現代では「コンピュータの父」とも呼ばれている。
 蒸気機関によって変革された世界を夢見ていたが、結局階差機関も解析機関も生前には完成せず、夢見た未来は果たされないまま世を去った。
 その「夢見た未来」そのものが固有結界として具現化・英霊化したのが彼である。

【サーヴァントとしての願い】
 蒸気文明世界の到来


【マスター】
 東方仗助@ジョジョの奇妙な冒険

【マスターとしての願い】
 聖杯戦争からの脱出。誰も殺したくはない。

【weapon】
 特になし

【能力・技能】
 スタンド能力 “クレイジー・ダイヤモンド”。
 近距離パワー型で射程距離は短いが、パワーとスピードはかのスタープラチナに匹敵する。
 スピードや精密動作性に関しては、仗助本人は「スタープラチナに劣る」と評しているが、それと同様に至近距離で発射された弾丸を指でつまんで止めることができるレベル。
 また、仗助がキレた時はパワー・スピードともに瞬間的にスタープラチナを凌ぐ性能を発揮する。
 特殊能力として、手で触れることで壊れた物体や負傷した生物、果てはスタンドまで元通りに修復する能力を持っている。
 ただしあくまでも「壊れたり変化した物を元の形に戻す」能力であるため、内科的な病気の治療や、負傷して流れ出た血液を元の治療した人物へ戻すことはできず、破損した部位が完全に消滅してしまった物体の復元はできない。

【人物背景】
 杜王町に住まう学生で、ジョジョの奇妙な冒険第四部の主人公。
 特徴的なリーゼントヘアに改造学ランを身に着けており、彼をよく知らない人間からは不良やヤンキー等と誤解されるが、普段は至って普通に学生生活を送っている。
 態度は温厚だが、一度激怒すると手が付けられなお。特に髪型をけなされると無条件に、そして周りが見えなくなるほど逆上し、誰であろうと見境なく攻撃する。

【把握媒体】

チャールズ・バベッジ:Fate/Grand Order第四章。またマイルーム会話、戦闘ボイスは攻略wikiでも確認できる。

東方仗助:ジョジョの奇妙な冒険第四部。大まかな性格を把握するだけなら全巻読む必要はないが、吉良吉影関連のエピソードは全て読んでおくことを推奨。

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最終更新:2016年07月13日 18:09