のぼれ、のぼれ
死ぬには足りない
もっと高いところへ、高いところへ、のぼれ!
高槻泉/『黒山羊の卵』より――
◆
キャスターはオレのサーヴァントだ。
魔術師(キャスター)と言っても、彼女が杖を使って魔法を行使することはない。
カボチャの馬車も出さなければ、箒で空を飛ぶこともないのだ。
だが、それでも彼女は十分に人の理を超えた、魔法のような異能を持つ存在である。
何故なら、キャスターはその小柄な肉体から手やら口やらが生えた不気味な触手を出し、自由自在に操るのだ。
さながら、魔獣を使役する魔術師のように。
それに、全身を包帯で巻き、フードを被った彼女の姿は、なんだか童話に出てくる怪しい魔女みたいであり、それだけでキャスターだという不気味な説得力を放っていた。
高槻泉は小説家だ。
小説家と聞いて、オレは一瞬かつての渡辺を思い出す。
しかし、泉さんはマジでプロの小説家らしい。
中途半端な渡辺とは大違いだ。
物書きという肩書きに相応しく、言葉の端々から語彙力の高さが漂う彼女にオレはただただ感心するばかりである。
今度サインを頼んでみるのも良いかもしれない。知り合いへの自慢のネタになるだろう。
いや、彼女が小説家として活躍していたのはオレが居る世界とは別の世界だから、貰っても自慢のネタにはならないか……。
そもそも、オレは小説家を名乗る彼女の著作を全く知らないのだ。
ただ、生前は物書きをやっていたという彼女の自己紹介を鵜呑みにしているだけである。
だが、ボサボサの髪を手入れしていない泉さんの姿は、だらしないように見えても、どこか大物小説家の雰囲気を帯びているように思われた。
芳村愛支は人喰いの化物だ。
何故人を喰うのかと言うと、そういう生物だからだ。
そう言われると納得するしかあるまい。
愛支さんの他にもそーゆー奴らはチラホラ居るらしく、彼らは喰種(グール)と呼ばれるらしい。やけに格好良い名前だ。
既にオレは彼女の食事風景を目にしたことがあるが、その時はビビった。
かなりビビった。
ライオンのような獣が人を喰うならまだしも、姿形は人間と全く変わらない生物が人を喰っているというのはかなり生々しく、ショッキングな光景である。
食事を終えた愛支さんにそのような感想を告げると、彼女は
「何ならライオン以上の――いかにも化物って感じの姿に変身することも出来るけど、見たい? まあ、その分魔力をかなり消費するがね」
と言った。当然オレは遠慮しておく。
化物の姿なんて進んで見るものじゃない。
それに、そう言って悪戯っぽい笑みを浮かべながら、右目が赤く染まっている愛支さんの姿は既に十分化物じみていた。
✳︎
キャスター。高槻泉。芳村愛支。
この三人は同一人物である。
彼女は時にフードを被って包帯に身を包んだ怪人になれば、時に見た目が三十路くらいの物書きにもなり、時に人喰いの恐ろしい怪物と化すのだ。
流石に魔術師(キャスター)という名前こそ持っていなかったこそすれ、愛支さんは生前からそれくらい多くの顔を持っていたらしい。
隻眼の梟とかいう名前で呼ばれていた事もあったとか。
そんなに複数の顔を持ち、名前を騙っていて、疲れなかったのだろうか。
だが、オレがそう言うと、愛支さんは呆れたようにして次のように答える。
「わたしはただ疲れる為に複数の名前を騙っていたわけじゃない。そんな苦労を費やすのに相応しい目的がちゃんとあった。それだけさ」
日々、目的なく生きているオレにとっては耳が痛い話だ。
愛支さんは続けて語る。
「目的で思い出したんだが少年。きみはこの聖杯戦争に何の目的を持って参加したのかな?」
「えっ? お、オレの目的ですか?」
「ああ。ここは戦いの場、それに勝てばどんな願いでも叶える奇跡の聖杯とやらが手に入るらしいじゃないか。それに参加しているきみに何らかの目的――願いがなきゃ、おかしいだろう?」
成る程。確かにその通りだ。
だが、先ほども述べたようにオレは日々を目的なく生きている、無気力な若者だ。
わざわざ戦争に身を投じ、命を懸けてまでして叶えたい願い。
そんなものがオレにあるわけが――
「……いや、ある」
「ん?」
この世界――つまり、昭和五十五年の冬木市に来る前、オレは雪崎絵理という少女と共にとある怪人と戦っていた。
その名もチェーンソー男。名前の通りチェーンソーを持った男である。
諸悪の根源である彼は不死身の怪物だった。
どれくらい不死身なのかと言うと、切っても突ついても死なないくらいである。
唯一有効だと思われるのは心臓への攻撃だが、たとえそれが当たっても、チェーンソー男はすぐさま何処かへと飛んで行き、また後日別所に現れるのだ。
そんな怪物を完全に倒す事など、それこそ奇跡でも起きない限り不可能だろう。
だが、オレには今その奇跡には向かって手を伸ばす権利が与えられている。
もしそれを掴み、「チェーンソー男が居なくなってほしい」と願えば、どうなるか。
当然、チェーンソー男は綺麗さっぱり消えて無くなるに違いない。
そして絵理ちゃんも、もうあんな危険な戦いを無理にせずに済むだろう。
彼女は平凡で普通な、それでも幸せな日常へと戻ることが出来るのだ。
それは、とても素晴らしいことじゃないだろうか?
それに、女の子の為に命を懸けて戦争に臨むオレの姿は、何だか格好良いじゃないか。
これは妙案だと考えたオレは、すぐさまそれを愛支さんに話す。
「……ふむ。勝つ為にまず優勝するとは一見順序が逆転しているように聞こえる願いだが……まあ、良いんじゃないか?」
「ですよね!」
「そう興奮しなさんな……こうして少年の目的がはっきりと分かって、こっちも方針が立てられそうで何よりだよ」
オレの決意をそう受け止めてくれた愛支さんに、オレは安心した。
✳︎
(諸悪の根源を倒して女の子を救う、ねぇ)
(ハハハ、中々に素敵な願いじゃないのさ)
(だがね)
(マスター、きみの願いは本当にそれだけなのかな?)
【クラス】
キャスター
【真名】
高槻泉/芳村愛支@東京喰種:re
【属性】
混沌・悪
【ステータス】
筋力D 耐久A 敏捷B+ 魔力E 幸運E 宝具C+
【クラススキル】
道具作成:D
魔力を帯びた器具を作成できる。
彼女の場合、「赫子」と呼ばれる物質を体内の赫胞から生成する。
陣地作成:E
魔術師として自分に有利な陣地を作り上げる。
彼女の場合、魔術師ではなく作家なので、作り出されるのは工房ではなく小規模な、何の特殊効果もない書斎である。
【保有スキル】
喰種:A+
人喰いの怪物。
人肉を食すことで魔力を回復し、パラメーターが一時的に上昇する。
人肉とコーヒー、水以外を食べる事が出来ない。
キャスターは喰種と人の混血――隻眼の喰種に属する。
隻眼の喰種は通常の喰種よりも高い力を有しており、彼女はSSSレートの『隻眼の梟』である為、このスキルのランクは著しく高い。
正体秘匿:A
他のマスターやサーヴァントから自身がサーヴァントであることを悟られなくなるスキル。
契約者以外からはステータスやスキルも視認されない。
しかし、『高槻泉の正体がサーヴァントであることを知った者』に対しては、このスキルは効果を発しない。
生前、彼女が喰種であるにも関わらず作家として大成し、世間的に有名な人物になったエピソードに由来する。
人間観察:B+
人々を観察し、理解する技術。
B+ランクはちょっとした仕草から相手の心理を見抜き、非常に優れた洞察眼で本人すら気付かない本性を見透かす。
仕切り直し:C
戦闘から離脱する能力。
幾度もCCGや喰種捜査官に戦いを挑み、その度に多大な被害を残して去っていった逸話によるもの。
【宝具】
『隻眼の梟(ビレイグ・オウル)』
ランク:C+ 種別:対人宝具 レンジ:1〜3 最大補足:1〜10
共喰いを繰り返した末に赫子が進化した喰種――赫者。
その力は通常の喰種のそれを遥かに上回る。
この宝具は彼女が持つ赫者の力を解放するもの。
全身を赫子で覆って四足歩行の化物のような形態に変貌し、ステータスを筋力A+++ 耐久A+ 敏捷Aまで上昇させる。
数多の喰種捜査官を屠ってきたという逸話が転じ、この状態の彼女は怪物や化物に対する特攻/特防スキルをBランクまで無効化し、逆にそのスキルを持つサーヴァントに対して与えるダメージが増加する。
このように、非常に強力な宝具だが、その分魔力消費の量も著しい。
『名も無き王の為の物語(ビレイグ・キング)』
ランク:B 種別:対界宝具 レンジ:? 最大補足:?
生前、キャスターが文字通り命を削って執筆した作品――『王のビレイグ』。
この宝具は聖杯戦争参加者の殆どにスキル『正体秘匿』が効果を発さなくなった際に、発動が可能となる。
発動された際、フィールド全域の、怪物や化物に対する特攻/特防スキルを持つサーヴァントのステータス全てにマイナス補正がかかる。なおこの効果は永続する。
また、この宝具が発動した後で彼女が死亡した時、『隻眼の王』(筋力A+ 耐久A+++ 敏捷B+ 魔力E 幸運E)が召喚される。
『隻眼の王』は魔力供給無しで半永久的に現界出来る程の単独行動スキルと、Dランクのカリスマスキルを有す。
【マスター】
山本陽介@ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ(小説版)
【weapon】
カメラの一脚
【能力・技能】
なし
【マスターとしての願い】
チェーンソー男を倒す
???
【把握方法】
原作では無印の一巻から名前だけ出ています。
実際に登場するのはエトとしてだと六巻、高槻泉としてだと十一巻からです。
二人が同一人物であり、隻眼の梟だと判明するのは十四巻です。
勿論、その続きにあたるreでも活躍しています。
原作小説で十分です。
最終更新:2016年08月17日 23:52