深夜の廃工場に響き渡る爆音に、少女――相良 蓮(さがら れん)は脳を揺さぶられるような嘔吐感を覚え、目を瞬かせた。

「その、音を……とめろぉ……」
「へぇ、あんたはこういうのが好きかと思ったけどな」

 首を持ち上げようとすると、全身を拘束する鎖がギシリと軋む。
 工場の設備として遺されていた鎖で縛り上げられた彼女の姿は、さながら磔を待つ罪人のようだった。
 長い茶髪は汗ばんだ額に張り付き、猫のような碧眼はぎらぎらと闇の奥に潜む物を睨みつける。
 美しく整った顔は憔悴しながらも覇気を失わず、男なら必ず振り返るだろう肢体は怒りに震える。
 へそ出しのTシャツはその豊満な乳房にぴたりと張り付いて強調し、切り込みの深いホットパンツからは白い足が伸びている。
 彼女は間違いなく美少女と言われる容貌を持っている――その身にまとった剣呑な雰囲気を除けば、だが。

「ハードロックバンド『ツェペッシュ』のベストヒットだぜ? まだギタリストも現役だし」

 答えたのは、ニヤニヤと嗤う軽薄そうな男の声だった。
 闇の奥から現れる、すらりと背の高い男――ライダーへ、蓮は罵声を飛ばした。

「うる、っさい! こんなのは、やかましい、だけだ! お前のような……低俗な奴にはふさわしいがな!」
「ろれつが回ってないっての」

 ライダーはつまらなさそうにそう答えた。全身を拘束着のような革の衣装で覆った男だ。
 しかし蓮の頬を撫でる手は氷のように冷たく、腕が動く度、その拘束着は内側から弾けんばかりに悲鳴をあげる。
 筋肉が肉体の限界を越えて膨張しているのだ――ライダーは得意気に蓮へと語ったものだが。
 そのライダーの爪先が彼女の首筋に走り、「んぅっ」と意図せず甘い声があがる。
 さっと羞恥に頬を染めてライダーを睨みつける蓮の首には、キスマークか何かのように、赤い傷跡が二つ。

「き、さまが、そうしたんだろう……!」
「俺じゃないって。蓮ちゃんが俺に噛まれた後、勝手に薬を飲んだんだろ?」

 ライダーは穴が開いてスプリングが飛び出たソファにどかっと腰をおろし、放り捨てられた処方箋を拾い上げた。

「吸血病治療薬、この薬には催淫効果の副作用があります。モノスゴク発情します。発散しないと狂いますゥ?」

 まるで嘲るように処方箋を読み上げたライダーは、ニタニタと笑いながら紙を握りつぶして放り捨てた。

「ホント、人間ってのは時々意味わかんねェ事するよな」
「う、くひぃっ……!? う、うりゅひゃい……ッ! お前のような、薄汚い、吸血鬼がァ……ッ!」

 身体の火照りは、熱病のように今もなお蓮の理性を蝕み続けている。
 思考は霞み、集中力は途切れ、ふと気づけば切なげに太腿をすり合わせてしまう――ほら、今も。

「れ、令呪、しゃえ、れ、呪さえ、ちゅかえ、れば、んぁあぁああぁっ!? ひゃめぇっ!?」
「使わせねえよ」

 バーサーカーがひと睨みしただけにも関わらず、蓮はびくびくと陸に打ち上げられた魚のように身体をのたうち回らせた。
 ただでさえ汗でぴったりと豊かな胸に張り付いていた黒のへそ出しTシャツが、まるで握り潰されたかのように自ずから乳房へ沈み、形を歪めさせている。

「むね、胸ぇっ! やめ、らえてぇっ!? ちぎれ、ちぎれりゅぅうぅっ!?」
「もっとも、こんな有様で英霊を従わせられるだけの集中力が残ってるかは疑問だけどなぁ」

 念動力――ライダーが持つ、強力な技能の一つだった。
 彼の夜魔の森の女王も、よもや自分の恋人へ与えた権能が、このように他の女を嬲ることに用いられているとは思うまい。
 まるで宙吊りの人形が弄ばれるように、蓮はその全身を好き放題に見えざる手でもって振り回されてしまう。

「ひ、きょお、ものぉっ! こんな、こにゃ、念動、力、なんかあうぅっ!!」
「少なくとも召喚した英霊が吸血鬼だと知った途端、令呪振りかざして殺そうとした奴が言うセリフじゃねえよ、と」
「んひゃぁうい、ぐうぅぅっ!?」

 捩じ切れんばかりに乳房を捻り潰された蓮が、とうとう何度目かもわからぬ絶頂を迎え、意識を白熱させた。 

.



 ちかちかと明滅する意識の中、蓮は春気に朦朧として霞がかった脳を働かせ、まどろむように後悔する。

(い、さみぃ…………)

 義弟の名を呼ぶ彼女は、クルースニクと呼ばれる吸血鬼ハンターだ。いや、だった。
 魑魅魍魎に恐るべき力を与える"供犠の血統"に連なる義弟を守るため、数多の吸血鬼を屠り続けた恐るべくも美しき狩人の面影は、もう無いのだから。
 今この場に鏡があれば、彼女は羞恥に耐えかねて割ってしまったに違いない。
 それほどまでに蕩けきり、だらしなく舌を出して「はひ、はひ」と喘ぐ彼女の顔は、雌そのものだ。
 長髪を翻し、活動的なれど扇情的な装束で肢体を誇示しながら怪物どもを踏み躙ってきた女狩人が、今やこのざまだ。
 長らく一族の手にあった霊刀"青江"すら、目の前の吸血鬼に奪われ手も足も出ない。

(青江、さえ、あればぁ……ッ)

 如何なる吸血鬼であろうと、その治癒能力を封じる傷を与える青江。
 それは蓮の手にあれば無類の力を発揮し、多くの化物どもをこの世から消し去ってきた。
 目の前の吸血鬼、ライダーとても敵ではない――そのはずだったのに。

「ふふん、悔しい悔しいって、思ってるんだろ。涙目だからな、良くわかるぜ」

 にたりと笑ったその男は、ベルトに挟み込んでいた異様なナイフを抜き放った。
 禍々しく捻くれた刃を持つそのナイフは、明らかに人間が振るう武器ではない。
 吸血鬼が、吸血鬼のために作り上げた、異様な代物だ。

「残念だけど、ナイフの扱いはちょっとしたもんでね。人間に負ける気はしないんだ」

 サド侯爵の愉悦。
 そう銘打たれたナイフは由来通りの残虐性を発揮して、蓮を切り刻んだ。
 ただの苦痛だけで膝を屈するほど、蓮は弱くはない。肉体的にも、精神的にも。
 けれど腕を斬られ、乳房を斬られ、頬を斬られ、足を斬られ、ずたずたに切り刻まれて。
 とうとう足の筋を切り裂かれ、己の血溜まりへ膝を突かざるを得なくなったその時。
 そして震えながら唇を噛み締め、「いっそ殺せ」と吐き捨てたその時。
 蓮は諦めた――そうと知らずに諦め、全てを踏み躙られたのだ。

「う、う、ぐ……ひっく……う、ぇ…………」

 どうしてこうなったのだろう。
 啜り泣く声を漏らさぬよう、吸血鬼の聴覚を前に儚い努力を繰り返しながら蓮は考える。
 義弟を宿命から解放してやりたかった。
 聖杯戦争に参加すれば、それが叶うとわかった。
 だから挑んだ。挑むために英霊を呼んだ。
 その結果が――これだ。
 蓮が呼ぼうとしたのは、都市伝説に語られる"髑髏男(スカルマン)"だった。
 深夜の街をオートバイで走り抜け、人狼や屍喰鬼と戦い、人々を守る仮面の男。
 十年ほど前から急速に広まりつつあるこの噂の怪人、最近は空を飛ぶとまで嘯かれるそれを、蓮は召喚しようとした。
 己と同じ生業だから、と。それであれば共闘も用意だろうし、従える事もできようと。
 全ては浅はかだったと言わざるを得ない。
 現れた男は仮面を被り、オートバイを駆り、吸血鬼を滅ぼす存在ではあった。
 吸血鬼を殺す吸血鬼。
 吸血殲鬼(ヴァンピルズィーシャ)だったのだ。

.


「おいおい、蓮ちゃん。そうビビるなって。え? まだまだ楽しい玩具は一杯あるんだからさ」

 そうしてライダーが立ち上がった途端、蓮はびくりと震えた。
 ライダーが向かった先には、廃工場の一角に陳列されている彼自身の武装がある。
 鋭利な曲刀の翼を持つブーメラン。
 貫いた相手に苦痛を与える形状の槍。
 斧と一体化した、造り手の正気を疑うような散弾銃。
 銃剣を取り付けた異様なまでに巨大な拳銃。
 ライダーは玩具箱の底から懐かしいおもちゃを見つけた子供のように、その威力を蓮の身体でもって試したのだ。
 肉を斬られ、臓腑を貫かれ、骨を砕かれ、頭を吹き飛ばされ、死の淵でのたうち回りながら蓮は犯された。

「それとも、今日はとっておき行ってみるか?」

 そして、そして――そう、ああ、この吸血鬼が、ライダーの英霊であるならば……!

「あ、う、うあ……あ、ああ…………!」

 暗闇の中に浮かび上がるシルエットを前にして、蓮は喉を震わせた。
 それはさながら、鋼鉄でできた猛獣のようだった。刃の顎を持ち、刃の尾を持った獣。
 走る断頭台――触れたものを噛み砕き、挽肉へと変えてしまう、処刑道具。
 クルースニクとして、常人を遥かに上回る体力と耐久性を持つ自分でも、きっと。
 あんな――あんなものを、使われたら……!

「た……」
「んー……?」
「だ、だすけて、だずげでくだざい、そんなの、そんなの、されたらじんじゃうッ!
 じにたくない、じぬのやだぁっ! それじんじゃう! じんじゃうからぁ……ッ!!」

 その口から溢れるのは、みっともなく無様な命乞いの叫び。
 涙とよだれと鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き喚く彼女の足元には、ちょろちょろと失禁が水溜りを作っている。

「こりゃあ、あんたをリスペクトしなきゃだな」

 ライダーはにたりと笑い、その拘束着めいたブーツで床の水溜りを避けながら蓮へと歩み寄る。
 異様に逆だった髪、青白い肌。瞳は燃えるように赤く煌めき、蓮は自分の歯がカチカチと鳴るのを感じた。
 牙が。生臭い息が、首筋に、あ、ああ――……。

「ウピエル先輩……よ」
「んんんっ! う、ぁうああぁああぁあぁぁぁぁぁぁあぁ……ッ!?」

 自らの魂を啜り取られる快楽に法悦を極めながら、蓮は絶望に沈む歓喜の声を迸らせた。

.

【クラス】
 ライダー

【真名】
 伊藤惣太@吸血殲鬼ヴェドゴニア

【ステータス】
 筋力B 耐久C 敏捷A 魔力D 幸運E 宝具C

【属性】
 混沌・悪

【クラススキル】
対魔力:C
 第二節以下の詠唱による魔術を無効化する。
 大魔術、儀礼呪法など大掛かりな魔術は防げない。

騎乗:D+
 騎乗の能力。大抵の乗り物を人並みに乗りこなせる。
 バイクに関しては天賦の才を持つ。

【固有スキル】
吸血鬼:A+
 全パラメーターを2ランクアップさせるが、マスターの制御さえ不可能になる。
 最高の血統を持つ吸血鬼=死徒としての肉体と精神。人間からは狂っているとしかいえない。
 筋力、動体視力、治癒力その他、ありとあらゆる面で吸血鬼として最高峰の能力を持つ。
 同時に吸血鬼が保有する日光、銀などの弱点も全て保有している。

念動力:B
 ライダーが"親"から受け継いだ吸血鬼としての権能。
 精神を集中させることで、飛来するミサイルを破壊するなどの行為が可能。

心眼(真):B
 修行・鍛錬によって培った洞察力。
 窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す“戦闘論理”
 逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

【宝具】
『GSX-"Desmodus"』
ランク:C+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:100人
 スズキ・GSX-1300R隼がベースの殺人バイク。
 高速走行時の安定性を確保する為にホイルベースを延長した上で、2000ccの大排気エンジンに換装。
 更にナイトラス・オキサイドシステムを搭載、全カウル・フロントグラスは特製の防弾仕様。
 ボディ最後尾に1、前輪部上下に1基ずつ計3箇所にチタンブレードを装備。
 これはチタンをチタンを超高圧水でタッピングした「触っただけで切れる」ほどに営利。。
 吸血鬼の身体能力を前提としたカスタマイズが施され、常人に扱えるような代物ではない。
 ゼロ加速から7秒で時速300kmに達するモンスターマシンであり、端的に言えば走るギロチンである。

【Weapon】
『サド侯爵の愉悦』
 複数の指穴がついたナイフ。
 禍々しい形状をしており、接近戦で最も取り回しがしやすい。

『旋風の暴君(せんぷうのカリギュラ)』
 折りたたみ式のブーメラン。展開すると三枚の刃が円形に広がる。
 中心部を掴まないと腕がズタズタになるので人間の反射神経では扱えない代物になっている。
 吸血鬼の身体能力で操る事で下手な拳銃を凌駕する威力を持ち、中距離戦では最強の武器。

『レイジングブル・マキシカスタム』
 .454カスール弾を発射するリボルバー拳銃。先端に折りたたみ式の銃剣が装備されている。
 拳銃としての機能は変わらないので人間にも撃てるが、その反動で下手をすると骨を折る。

『聖者の絶叫(エリ=エリ=レマ=サバタクニ)』
 相手に苦痛を与える事を目的にした穂先を持つ長槍。
 サド侯爵の愉悦を振るう方が効率が良い為、趣味的な武器に留まる。。

『SPAS12改「挽肉屋」(ミンチ・メーカー)』
 散弾銃「SPAS12」のストックに斧を取り付けたもの。
 銃としても斧としても振り回せる頑丈な構造だが、やはり趣味的な武器。

『拘束着』
 全身を覆う革製のボンテージ風スーツ。
「膨張する筋肉によって肉体が自壊することを防ぐ」ための防具。
 手骨のようなマスクと一セット。

【人物背景】
 伊藤惣太は平凡な高校生だった。ある夜、夜魔の森の女王リァノーンによって吸血されるまでは。
 吸血鬼になりかけの存在ヴェドゴニアとなった惣太は、吸血鬼ハンター達と協力し、人間に戻るため戦う。 
 しかし戦いの中で徐々に吸血鬼化が進行していった結果、惣太は脳内に潜む吸血鬼としての自分との対決を強いられる。
 そしてその結果、彼は敗北した。

【サーヴァントとしての願い】
 自由気ままに現世を謳歌して殺し、暴れ、女を犯し、血を啜る。
 ――貪り尽くせ、夜明けまで。 

.

【マスター】
 相良 蓮@クルースニク〜催淫に悶える吸血鬼ハンター〜

【マスターとしての願い】
 弟を宿命から開放する

【weapon】
『霊刀・青江』
 吸血鬼の治癒力を阻害し、傷をつけることができる短刀。
 今まで1000体もの吸血鬼を葬ってきたとされる。

『吸血病治療薬』
 吸血鬼化の進行を防ぐ。
 この薬には催淫効果の副作用があります。
 モノスゴク発情します。
 発散しないと狂います。

【能力・技能】
 吸血鬼ハンターとしての経験と力量。
 クルースニクとしての常人離れした身体能力。

【人物背景】
 クルースニクと呼ばれる吸血鬼ハンターの一人。
"供犠の血統"を引くため怪物に狙われる義弟を守って戦い続けてきた。
 しかし事情を知らない弟が彼女を助けようとした為、それを庇って負傷。
 吸血鬼化の進行を防ぐために薬を服用し、発情した肉体を義弟に弄ばれる。
 弟に対しては暴力的な態度を取り、いうことを聞かないとすぐに殴りつける。
 が、ちょろい。



【行動方針】
昼は廃工場で蓮を調教して暇を潰し、夜は獲物を求めて徘徊、襲撃する。



【把握媒体】
ライダー(伊藤惣太):『吸血殲鬼ヴェドゴニア』本編およびノベライズ。
 Nitroplus発売のアダルトゲームだが、全年齢対象のノベライズが上下巻で発売されている。
 ライダーは本編後半で吸血鬼としての自分に敗北したIF展開なため、人格のみならノベライズ下巻で把握可能。

相良 蓮:『クルースニク~催淫に悶える吸血鬼ハンター~』
 LILITH発売のアダルトゲームのため、それ以外にノベライズなどは存在していない。
 公式ホームページ(これもR-18だが)にキャラクター紹介や描写はあるため、それである程度把握は可能。

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最終更新:2016年08月19日 18:36