未来の前の日――あるいはその明日。
 何処とも知れぬ島の、外界からは切り離された研究施設の、しかし最も重要な一角。

 5つの人影が、15の棺――中身が入っているのは、10。残りの5つは空である――の前で、話し合っていた。

「ダメだ、わからねえ。……っていうかオレはメカが専門であって、プログラムはプログラマーの仕事だっての。
 なあ、オマエ、ほら、アレだったんだろ? なんかわかったりしないのかよ?」

「そうは言ってもな……調べてみた感じだと、どこか外と通信した履歴があるのは確かなんだけど」

「ですがこの島は、外の施設とは隔離されていると聞いていたのですが……」

「つーかよぉ、こいつ起きないままの方がいいんじゃねぇのか? あの事件とかあの事件とか半分ぐらいこいつのせいじゃねぇかよ」

「……気持ちはわかるけどよ、そういうわけにもいかねぇだろ……それにこいつ一人だけエラーなんて、こいつの才能を考えたら不気味すぎだぜ」

 5人の話題の対象となっているのは、彼らのいる部屋に備えられた15の棺の内の一つ。
 正確には、その中でいつ終わるかも知れない眠りについた一人の青年。
 彼の身に、いま、不測の事態が起こっていた。

「……データ上は意識が戻っているはずなのに、目覚めない……狛枝……いったい、何がお前に起こっているんだ?」


 ◆


 昭和55年の冬木市。
 何処かにある、そして何処にあっても気にしないような貸し倉庫。

 斜陽が差し込む中で、2つの人影が相に対していた。
 片方は、赤のラインの入った白いシャツの上に緑のパーカーを着た青年。
 もう片方は、中世ヨーロッパ風の洒落た衣装を身に纏い、口髭と顎鬚を整えた伊達男。

 緑のパーカーの青年が、左腕を確かめるように閉じ開きする。
 その甲には、3画の紅い刻印が刻まれていた。
 礼呪。サーヴァントを律するための絶対命令権。
 これを持つということは、つまり、彼もまた聖杯戦争の参加者だということだ。

「聖杯……ね。本当にそんなモノがあるとしたら、ボクなんかが持つには勿体無いかもしれないけれど」
「いえいえマスター、あなたがその礼呪に選ばれた以上、確かに聖杯を手に入れる資格はあなたにもあります。
 ま、そこで吾輩などという何の役にも立たぬサーヴァントを引いてしまったのは、なんというか、平易に言えば死亡フラグという奴ですかもしれませんが」

 サーヴァント――聖杯戦争における、マスターの最大最強の武器が、自らを役に立たぬと笑う。
 まともなマスターであるならば、怒るか、あるいは脱力し失望を表す場面であっただろう。
 だが彼のマスターである青年は、そのどちらでもなく笑う。奇しくも彼のサーヴァントと同じように。
 その状況を面白がるような笑みを、作家であるならばこう評する。
 トリックスターと。

「あはっ……不運なら不運で、ソレもいいけどね。この"不運"も、いつかは"幸運"になってボクの味方になるって信じてるから。
 ボクのはちっぽけなくだらない才能だけど、それだけは真実なんだ」
 O Fortune, Fortune, all men call thee fickle
「"おお運命よ、幸運よ、みなが汝を浮気者だという"……幸運とは気まぐれな女神であるもの。
 それを味方に付けることができると豪語するならば、成る程確かにマスターには王となる資格があるでしょうな!
 それがマクベスであるか、あるいはヘンリー四世であるかは別として!」
「流石に王様になんてなるつもりはないかな。ボクなんかにはそんな偉そうな役、烏滸がましいよ」
「ほう? ではマスター、あなたは聖杯に何を願うのですかな?」

 伊達男――キャスターのサーヴァント、シェイクスピアは問う。
 対してマスター――狛枝凪斗は答える。

「……希望、かな」
「ほう?」
「この聖杯戦争で、希望と希望がぶつかり合って、より強い希望が残っていく……。
 いや、残った希望が、正しくて強いんだ。そうして、最後まで残った"最も強い希望"を……ボクは見てみたい。
 そしてできるなら、その希望の助けになりたい。ボクはその為なら、命なんて惜しくはないんだ」
「これはこれは、差配としては中々にジョークが効いておりますな。かく言う吾輩も、面白い物語を目撃するためならば命も惜しくありません。
 無論、この目で見たいのでそれまで死ぬのはご遠慮したいですが」

 二人のトリックスターが笑う。
 この先の展望、舞台に立った役者たちの『物語』と『希望』を思い描いて。
 だが、その片方は、その内に違う色を滲ませて。

「あはっ。
 ただ……ここに希望がないのなら。ボクが希望になってしまっても、いいかもしれないね」

 その台詞は。
 彼を――狛枝凪斗を知る者が聞いたならば、驚きに値するモノだ。
 自らを常に『ボクなんか』と自嘲し、幸運の才能を『つまらないモノ』と卑下し、幸運の踏み台になりたいと言っていた彼が。
 『自分が希望になりたい』と宣言したのだから。

「……これはこれは。差配としては、中々にジョークが効いておりますな」

 そうして。
 シェイクスピアは――主役になりたかった劇作家は、先程と同じ言葉を繰り返す。

 All the world's a stage, And all the men and women merely players.
「"この世は舞台、そして男も女も皆役者"。
 さて、であるならば、主役は誰なのか?
 できることならば、マスターと吾輩が務めたいものですなあ」



【クラス】
キャスター
【真名】
ウィリアム・シェイクスピア@Fate/Apocrypha
【パラメーター】
筋力E 耐久E 敏捷D 魔力C++ 幸運B 宝具C+
【属性】
中立・中庸
【クラススキル】
陣地作成:C
 魔術師として、自らに有利の陣地を作り上げる。
 だが彼は作るのは工房ではなく、物語を紡ぐ”書斎”である。
道具作成:-
 道具作成スキルは、固有スキル『エンチャント』によって失われている。
【保有スキル】
エンチャント:A
 固有スキル、武装に対する概念付与。
 本来は魔術的な概念付与行為を指すのだが、シェイクスピアの場合は文章を描くことで、その武装の限界以上の力を引き摺り出す。
 彼自身は観客として戦闘を見物したり、心境をいちいち聞いたりしてマスターを苛立たせる。
自己保存:B
 自身はまるで戦闘力がない代わりに、マスターが無事な限りは殆どの危機から逃れることができる。
 つまり、本人は全然戦わない。
国王一座:C
 宝具である『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』のミニチュア魔術。
 規模の小ささの代わり、魔力消費も軽い。
【宝具】
『開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を(ファースト・フォリオ)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1~30 最大捕捉:1人
 シェイクスピアが発動する究極劇。
 発動した状況によってその効果は異なる。
 対象の人生において、精神的に最も打撃を加えられる場面を再現し、 シェイクスピアの言葉によって絶望を加えられる。
 英霊たちの心を折るための演劇宝具。
 また、劇が開始すると閉幕するまでは対象には一切肉体的損害が与えられず、与えることもできない。
【weapon】
 なし。
【人物背景】
 ウィリアム・シェイクスピアは間違いなく、世界一高名な劇作家であり、俳優でもあった。
 英文学史上に燦然と輝くその名は、英国の偉人としての知名度は最高峰であろう。

 エリザベス朝時代のイギリスの劇作家、詩人(1564年-1616年)。
 西欧世界を代表する作家であり、現代のあらゆる文芸作品に影響を与える。
 代表作は多すぎて書ききれないが、強いて挙げるなら四大悲劇と呼ばれる『オセロー』、『マクベス』、
 『ハムレット』、『リア王』がある。
 父親はストラトフォードの有力者だが、シェイクスピアが高等教育を受けたかどうかは諸説ある。
 他にも経歴に7年の空白があるなど、謎が多い。
 劇作家として初期は喜劇を中心に創作し、後に史劇、壮大な悲劇へとスタイルを変えていった。
 当時は胡散臭い職業とされていた役者としても活動しており、権威ある人々からは中傷や冷笑を受けていたらしい。


【マスター】 狛枝凪斗@スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園
【マスターとしての願い】
 聖杯戦争を通じて強い希望を探す。
 ……あるいは、自らが超高校級の希望となる。
【weapon】
 なし。
 ただし、自らの幸運を自覚し、最大限に使うために動くため一種の武器ではある。
【能力・技能】
 『超高校級の幸運』
 希望ヶ峰学園に見出された才能。彼の場合は一種の因果律操作、あるいは呪いの域。
 不幸と幸運の天秤が極端に強い。そして大きな不幸は、必ずと言っていいほど周囲の他人を巻き込んで爆発する。
【人物背景】
 希望ヶ峰学園の生徒の一人。
 才能は『超高校級の幸運』。
 普段は猫を被っているが、その実態は希望と才能に執着する狂人。
 コロシアイ修学旅行においても事態を引っ掻き回し、事件の原因を作り出した。
 頭の回りも早く、学級裁判においても良くも悪くも活躍する一人。

 希望のためならば自らの命さえも投げ出すことを厭わない、危険な人物。

 その左手は現実世界では×××××のものになっているはずだが、この冬木市では自らのものに戻っている。

【把握媒体】
キャスター(シェイクスピア):
 原作1~5巻。
 最悪スマホゲーム『Fate/GrandOrder』でも最低限のキャラ把握は可能。

狛枝凪斗:
 原作ゲーム。クリアを推奨。

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最終更新:2016年08月30日 16:34