眼前で繰り広げられた死闘をオスカー・フォン・ロイエンタールの左右で色の異なる瞳は無感動に見やった。
凡そ人間の形をしたモノとは思えない速度と威力で鎬を削った剣の英霊同士の死闘だが、ロイエンタールの心を動かすことは叶わない。

─────死んだ後でこんな事をやらされることになるか。

生前の癖だった冷笑癖を自分に向ける。
そもそもロイエンタールが生きた時代に無念を抱いて死んだ者などいくらでも居るだろうに、何故自分が選ばれたのかが解らない。

─────そんなにも俺が不平不満を溜め込んでるように見えたのか。

益々もって馬鹿らしくなってきた。こんなことに巻き込まれたのは不愉快極まりないが、負けるのは更に不愉快だ。だからといってこんな石器時代の戦いには気が乗らない。
オフレッサーでも呼べば良いだろうに、何の因果で俺を呼ぶ?
ロイエンタールの冷笑が更に深くなる。
星の大海を行き、宇宙を征したこの俺が、地上の片隅で二万年ばかり時計の針を逆行させた戦いをやらされるとは。

「これも主君に背いた報いか。逆賊は地べたを這いずり回ってせせこましく殺しあうのが似合いという訳か」

雄敵と戦って死ぬのはむしろ望むところだったが、こんな戦いで負けて死ぬのは嫌だった。ロイエンタールにとっての戦いとは艦隊を率いて宇宙を征き、戦略と戦術の限りを尽くして雌雄を決するものだ。
こんな地上で石器時代の人間よろしく白兵戦の技術を競うものでは断じて無い。
だからといって勝ちにいく気にもならない。堂々巡りに陥ったロイエンタールの思考を、角の付いた兜で顔を隠した鎧姿の騎士が遮った。

「お前がオレのマスターか」

「そうらしいな」

素っ気なく返された挨拶に、騎士は気を悪くしたらしかった。

「オレを読んでおいてなんだその態度は」

「人に態度について問うなら素顔を晒せ、鼠族(そぞく)の様に顔を隠すとは、余程後ろ暗いことの有る奴らしいな」

「チ…人を賊呼ばわりか……今外す」

面を覆っている部分が割れ、鎧へと兜が収納されていく様を見たロイエンタールは、装甲擲弾兵の装甲服を連想した。

「こんな娘が英雄として名を残すとは、余程人の居ない国だったらしいな」

兜の下から現れたのは強い意志を瞳に宿した少女の顔。化粧をして、華美な装束で身を飾れば、男女を問わず人目を引くだろう容貌だったが、鋭い眼光が有象無象を寄せ付けまい。
その眼光に真性の殺意を込めて、少女はロイエンタールに告げる。

「一度は抑える…だが、次に女呼ばわりすれば、オレは自分を制御できん」

随分な跳ねっ返りだとロイエンタールは思ったが、それはそれ。その人物の地位や容姿や性別では無く、実績や才幹を以って評価するのがローエングラム王朝の在り方。ロイエンタールも当然評価する対象に容姿や性別は含まない。

「気に障ったのなら謝罪する。それに、元より重要なのは能力であって、お前の容姿や性別など枝葉にも値しない」

「それなら良い。それとさっき言っていた事だが、優れた騎士は大勢いたぞ。ただ単に俺が最も優れていたというだけだ」

臆面も無く言い放つ様は、傲慢さよりも外見に相応しい幼さを感じさせて、不快感を抱かせない。
ロイエンタールは宇宙で唯一、彼が膝を着いた彼の主を連想した。

「何が可笑しい………」

気がつけば笑っていたらしい。サーヴァントが怒りの篭った眼でロイエンタールを睨んでいた。

「…何、俺が仕えていた方も、若い時にはお前の様な感じだったのかと思ってな」

「どんな奴だったんだよ」

「俺が仕えるに値する方だった。大艦隊を率いる将としても、帝国を統べる君主としても、比するに足る者が思いつかん程にな」

何処か遠くを見ながら語ったロイエンタールは、肝心な事を聞いていないことに気付いた。

「お前の名は?お前がどんなサーヴァントか知らなければ、方針の立てようが無い」

「ああ…オレの名は……む…人に名を聞くなら自分から名乗れ」

先刻の意趣返しのつもりなのだろう。ドヤ顔で胸を反らすが、頭の位置がロイエンタールより遥かに低いので、子供が気を張っている様にしか見えなかった。

「失礼した。俺の名はオスカー・フォン・ロイエンタール。お前のマスターという奴らしい」

「オレの名はモードレッド。セイバーのクラスとして推参した」

モードレッドという名を聞いて、ロイエンタールは記憶を探ったが、何も思い当たる節が無かった。

「悪いが記憶に無い。メックリンガーなら知っているのかも知れんが」

「オレの名を知らない……じゃあブリテンのアーサー王の名は?」

「名の響きからすると、自由惑星同盟(フリー・プラネッツ)の人間なら知っていようが。生憎と俺は銀河帝国の出でな」

ロイエンタールの答えを聞いたモードレッドは不本意さと驚きに顔を歪めた。

「銀河帝国?なんだそれは」

モードレッドの問いに、ロイエンタールは皮肉げな笑みを浮かべた。モードレッドでは無く、自分へと向けた笑いだった。

「知らぬのも当然だろう。今からざっと一千年後、この地球が人類の歴史から忘れられた時代に、銀河を支配する国家だからな」

「この星が人類の歴史から忘れ去られた!?ブリテン島はどうなった!?」

「さてな、十三日戦争の熱核兵器の応酬か、シリウス戦役の際に滅んだのだろうよ」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

翌日、ロイエンタールは宿泊しているホテルの一室で書物に目を通していた。彼の役割(ロール)は此の地に旅行で訪れた、独逸の下級貴族の家系の資産家というもの。豊富な活動資金を活かして、此の地の地図と、己がサーヴァントの素性について記された書物を買ってきたのだ。

─────運命という奴も随分と小賢しい真似をする。

モードレッド。己がサーヴァントの素性を知ったロイエンタールは、自分の運命を冷笑した。
逆賊のマスターに逆賊のサーヴァント。これを皮肉と言わずして何と言う?

【何を笑っている。マスター】

怪訝に思ったのだろう。霊体化したモードレッドが念話で問いかけてくる。

「いやなに、俺のところへお前が来た理由が解ってな」

【何の話だ?】

「逆徒には逆徒ということだ」

【お前もか!?】

「ああ…」

モードレッドの驚愕に対しロイエンタールの反応は短い。

【仕えるに値する相手じゃ無かったのか!?】

「だからこそだ」

ロイエンタールの返事は明らかに矛盾していたが、声に含まれたものがモードレッドに何も言わせなかった。

「俺は皇帝(カイザー)の前に膝を着くことに異存は無い。反逆者として皇帝(カイザー)の前に立つのは本懐だ。だが、反逆者にされて皇帝(カイザー)の前に引き据えられるのは耐えられなかった」

【……つまり逆賊にされそうになったから、逆賊になったと】

「そうだ。笑いたければ笑え」

【イヤ…笑わない。敬するが故に無様を晒したく無い。当然の事だ】

「そう言うお前はどう何だ」

【オレか…オレは認めて欲しかった。息子として、ただ父に認められたかった】

「父親に認めて欲しい……か」


─────お前など産まれてこなければ良かった。

ロイエンタールの耳朶に響く父の言葉。父母は不幸な結婚の果てに、母は夫以外の男と関係を持った。
そして父母が共に青い瞳であるのに、産まれた我が子の瞳が左右で色の異なる金銀妖瞳(ヘテロクロミア)だった為に、
愛人と同じ色の瞳である息子の右眼を抉ろうとした。
そして母は精神を病み。自殺。ロイエンタールは不幸を齎した子として、父親から「産まれてこなければ良かった」と言われて育った。


─────何処まで似ているのか。本当に運命と言う奴は小賢しい。此奴の願いを叶えてやりたくなったじゃないか。

この孺子(小僧))がこんな事を言われたかは知らぬが、少なくとも父親に拒絶された事は確かだ。
全く、父親に拒絶された反逆者どうし、似合いの組み合わせと言うべきじゃ無いか。

「お前は聖杯に願いは有るのか?」

【選定の剣への挑戦だ。必ず引き抜く、そうすれば……】

「出来るのか」

【オレに抜けない筈が無い!!だから勝利するぞマスター!!】

「俺には願いなど無いが、お前の願いを叶えてやろう。それとな、王足らんとするならもう少し覇気を持て、こういう時はこう言うのだ。勝利か、より完璧な勝利を得るのだ……とな」




【クラス】
セイバー

【真名】
モードレッド@Fate/Apocrypha』
【ステータス】
筋力:B+ 耐久:A 敏捷:B 幸運:B 魔力:D 宝具:A

【属性】
混沌・中庸

【クラススキル】
対魔力:B
魔術発動における詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術、儀礼呪法等を以ってしても、傷つけるのは難しい。

騎乗:B
幻獣・神獣ランクを除く全ての獣、乗り物を自由に操れる。


【保有スキル】

直感:B

戦闘時に常に自身にとって最適な展開を"感じ取る"能力。視覚・聴覚に干渉する妨害を半減させる。

魔力放出:A
武器ないし自身の肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することによって能力を向上させる。いわば魔力によるジェット噴射。かの騎士王と互角に打ち合うほどの力量を持つ。
彼女の場合は、赤い雷を瞬間的に放出することも出来る。

戦闘続行:B
往生際が悪い。聖槍で貫かれてもなお諦めず、騎士王に致命傷を与えた。

カリスマ:C-
軍団を指揮する天性の才能。団体戦闘において自軍の能力を向上させる。希有な才能。モードレッドのカリスマは、体制に反抗するときにその真価を発揮する。

【宝具】
不貞隠しの兜(シークレット・オブ・ペディグリー)

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:0 最大補足:自分自身

モードレッドの顔を隠している兜。
ステータスやクラス別スキルといった汎用的な情報は隠せないが、真名はもちろん宝具や固有スキルといった重要な情報を隠蔽する効果があり、たとえマスターであっても兜をかぶっている間は見ることができない。また、戦闘終了後も使用していた能力、手にした剣の意匠を敵が想起するのを阻害する効果もあり、聖杯戦争において非常に有用な宝具。ただしこの宝具を使用していると、彼女の持つ最強の宝具を使用することが出来ない。
兜は鎧とセットの状態で『脱いだ』時、初めてステータス情報が開示される。つまり鎧を外して現世の衣装を着ていても、武器を手にしていなければ、兜が無くても隠蔽効果は継続する。「ルーラー」のクラス別スキル「真名看破」の効果でも見破ることは不可能。
令呪でブーストされた黒のバーサーカーの攻撃を防ぐなど強度自体も高く、魔術や毒などに対してもある程度の防御力を発揮できる。


燦然と輝く王剣(クラレント)

ランク:C 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1人

アーサー王の武器庫に保管されていた、王位継承権を示す剣。

「如何なる銀より眩い」と称えられる白銀の剣。モードレッドの主武装であり、通常はこの状態で戦闘を行う。
アーサー王の『勝利すべき黄金の剣』に勝るとも劣らぬ価値を持つ宝剣で、王の威光を増幅する機能、具体的には身体ステータスの1ランク上昇やカリスマ付与などの効果を持つ。
しかし、モードレッドはこの剣を強奪しただけで、王として認められているわけではないため、ランクは本来のBからCへと低下し、各種ボーナスも機能していない。
元は王の戴冠式のため武器庫に保管されていた剣だが、叛乱を起こした際に奪い取り、カムランの戦いで使用した。


我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)

ランク:A+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~50 最大捕捉:800人

伝承にはモードレッドが武器庫から盗み出し父殺しに使ったという逸話以外の逸話は殆どない。

「燦然と輝く王剣」の全力解放形態。剣の切っ先から直線状の赤雷を放つ。
「燦然と輝く王剣」はモードレッドが手にしても本来の性能を発揮しないが、その「増幅」という機能は生きている。これを利用し、父への憎悪を魔力という形で剣に叩きこみ、増幅させて赤雷として撃ち放つのがこの宝具である。
真名解放時にはクラレントを構えた彼女を中心にした一帯が血に染まり、白銀の剣も邪剣へと変貌する。
英霊の必殺の武器であると同時に、絶大な誇りそのものと言える宝具だが、彼女にとって父の名を冠したこの宝具は誇りを超え、ある種の怨念と化している。
またアーサー王を害したエピソードゆえに、モードレッドの手で発動時にあるこの剣は「聖剣」ではなく、「魔剣」と化している。
アーサー王に特攻の効果を持つ。

【weapon】
燦然と輝く王剣(クラレント)

【人物背景】
元はモルガンが創り出したホムンクルスであり、アーサー王への刺客。
だが最初は王として完璧だったアーサーに敬服していたが、モルガンに出生の秘密を知らされた為、
アーサー王に自分を息子として認知し、跡継ぎとする様要求するも、王の器では無いと拒絶される。
だがモードレッドは己がアーサー王の敵であるモルガンの子だからと捉えて、アーサー王への憎悪を抱く。
やがてランスロットとグェネヴィアの不貞を暴き、円卓を崩壊させた上でカムランの丘で、アーサー王と相打ちになった。
アーサー王への感情は愛憎入り混じるもので、他者がアーサー王を侮辱する事を許さない。

【方針】
優勝狙い

【聖杯にかける願い】
選定の剣に挑む


【マスター】
オスカー・フォン・ロイエンタール@銀河英雄伝説

【能力・技能】
智勇の均衡が同時代に生きた全ての人物を凌ぐと評され、戦略戦術に優れる。
組織運営や実務にも優れ、官僚的な職務も帯びる旧自由惑星同盟領の総督を任される等、全方位に於いて穴の無い才能を発揮した。
白兵戦技にも優れ、生涯に何度も決闘を行い無傷。戦場で敵と直接刃を交えたこともあった。
「地位と権限が上がる程才能を発揮する」と評されたが、「革新の時代に産まれた守旧の人」とも評され、その才能と人格は「ローエングラム王朝の三代目の皇帝に相応しい」と評されるが、当人は乱世の雄となりたかったようである。

【weapon】
無し

【ロール】
旅行で冬木を訪れた独逸の下級貴族の血を引く資産家

【人物背景】
左右の瞳の色が異なる形で誕生したロイエンタールは、夫以外の男と密通を重ねていた母親にこれは黒い瞳の愛人との子であるという強迫観念を抱かせた。彼女は不貞の発覚を恐れてわが子の黒い右目をナイフで抉り出そうとしたものの失敗し、ほどなく自殺。以後ロイエンタールの父は事あるごとに「お前は生まれてくるべきではなかった」と息子を罵り、かくして彼の人格は歪な形で構成されていくに至った。

冷静沈着な理性と剛毅さを併せ持ちつが女性に対しては投げやりである。
母親の一件で強烈な女性不信を抱いているが、自分に言いよってくる女性を拒むことは無い。但し人妻は拒む。
言いよって来た女性とは一定期間誠実に付き合い、そしてロイエンタールの方から一方的に振るという事を延々と繰り返していた。人としてはともかく、法的には問題は無い。
唯一の例外はロイエンタールの息子の母親となったエルフリーデ・フォン・コールラウシュで、力づくで関係に及んでいる。要するに4巻と6巻の間である。

誇り高く、自身の才幹に強い自負を持っている為、身分や血統だけで高い地位に居る者を激しく嫌悪する。
民衆に戦禍を及ぼす事や危害を加える事を嫌い、部下が民衆に発砲した時には痛烈な皮肉を浴びせている。
欠点は包容力に欠けることと、冷笑癖を有している為に敵を作りやすい事。

智勇双全と評される才能と、誇り高い性格を有している為、
彼を知る者からは何時か叛旗を翻すのでは無いかと内心思われており、叛逆したときには皆驚きつつも納得した程。

ラインハルトに対する忠誠心は叛旗を翻しても生涯変わらず、事破れたロイエンタールの前でラインハルトを侮辱したトリューニヒトを、その場で殺害している。

【令呪の形・位置】
右手の甲に獅子の形をしたもの

【聖杯にかける願い】
無い

【方針】
モードレッドに聖杯を獲らせる

【参戦時期】
原作で死亡した後


【把握資料】
セイバー(モードレッド):Fate/Apocrypha原作小説全5巻。漫画連載は単行本が一冊分。
GrandOrderでもある程度は把握は可能です。


オスカー・フォン・ロイエンタール:原作の銀河英雄伝説2~9巻。OVAなら87話~97話まで見れば一応把握は可能。
漫画では道原かつみ版の5巻を読めば大体の設定や過去は把握可能。

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最終更新:2016年08月31日 21:30