『怪奇! 吸血狼男、夜の町に現る』
 『切り裂き魔の正体見たり・この顔にピンときたら110番!』
 『狼男の恐るべき正体! 遂にその根城を撮った!』
 書店に並ぶ週刊誌も、電機屋から流れてくるニュースも。
 連日連夜、この冬木市では、得体の知れないオカルティックな噂が、人々の不安を煽っている。
 目へ耳へ次々と飛び込んでくる、怪事件のキャッチコピーは、どれもこれもが馬鹿馬鹿しく陳腐だ。

(別に、詳しいわけではないけれど)

 記憶の中に僅か残る、おぼろげな平成の町並みを思う。
 その頃の報道というものは、今に比べてどうだったのか。
 今目と耳で捉えているものを、下らないと思うのは、それが昭和のセンスだからか。
 馬鹿馬鹿しい言い回しで飾られたこれらを、当の仕掛け人が目の当たりにしたなら、風情がないと嘆くのだろうか。

(……いや)

 そもそもあの男にとって、重要なのは事実と効果だ。
 それを得るための過程が、いかなる飾られ方をされていようと、望むものが得られるのなら、その在り方には頓着しない。
 敷島魅零の知る男は、そういう寛容な人間であったと、彼女は思い出して、思考を止めた。
 あるいは、心が広いというよりは、何も意に介さないような、ドライさに基づいていると言う方が近いのだろうが。

「相変わらず、待ち合わせには正確だ」

 何よりなことだよという声が、魅零の右側から聞こえる。
 腕を組み、背を電柱に預けた姿勢のまま、魅零は視線だけを向けて応じる。
 現れたのは、青年だ。少なくとも傍目にはそう見える男だ。
 白いスーツに帽子を被り、手には悪趣味な金色の杖。
 その手のものには関心はないが、コブラを象った杖の有様は、そんな魅零の目から見ても、明らかに異様なものとして映った。
 オールバックにした髪の下では、金の瞳をぎらつかせながら、男が微笑を浮かべている。
 顔立ちは悪くなかったのだが、その蛇のような目つきも、正直不快に思っている。

「キャスターの脱落を確認した」

 口をつく言葉が短くなるのは、やはり嫌悪感の表れなのだろうか。
 もとより不器用で無愛想な身だ。口数はそれほど多くない。
 それでも魅零はいつもよりも、より一層淡白な様子で、男に対して報告した。
 先ほど追想した仕掛け人というのが、他でないこの白スーツ男だ。
 多忙な身の上である彼には、電話もろくに通じない。故にこうして場所を決め、魅零が掴んだ情報を、男へと伝えに出向いている。
 長身、金髪、肌は褐色。異様な出で立ちの敷島魅零は、巨大広告代理店の顧問――里見義昭の隣には不釣り合いなのだ。
 何のコネクションもないままに、この町へ呼び寄せられて早々、それこそ何でもないことのように、そのポストを拾ってきたのには、正直驚かされたものだったが。

「それは重畳。我が宝具は順調に、力を示しているらしい」

 君の様子を見る限り、という言葉を言外に含ませながら、里見はくつくつと笑って言う。
 見透かされたような物言いは、やはりどうしても好きにはなれない。
 たとえそれが、聖杯戦争とやらを、戦うパートナーのものであったとしてもだ。
 先ほど目にした記事にあった、吸血狼男というのは、ライバルの召喚したサーヴァントであった。
 自然信仰の部族に由来し、獣の生霊を操るシャーマン――それこそが里見がマスコミを動かし、世に知らしめたキャスターだ。
 戦いを魅零によって盗み見られ、情報を持ち逃げされたキャスターは、まんまと里見の術中に嵌まり、夜の闇に消え失せたのである。

「ともあれこれなら、本戦の方でも、勝ちの目を期待することはできるだろう」

 恐るべきは対民宝具。人の心こそを操る力。
 奇跡をゴシップへ書き直し、あるところにある噂へと貶め、神秘を根こそぎ奪い去る業。
 対象の情報を公開し、NPCに流布させることによって、サーヴァントを弱体化させるという、掟破りのユニークスキル。
 それが敷島魅零の手にした力だ。
 里見義昭という器を得て、遠き追憶の地へはびこった力だ。

「期待じゃない、勝つんだ」

 ああ――何とも反吐が出る。
 自ら矢面に立つことなく、陰口をばら撒き不幸を押し付け、泥沼の潰し合いを誘う陰険な力も。
 それ故に暗闇のフィクサーを気取り、高みから見下すようなその口ぶりで、全てをせせら笑うこの男自身も。
 全くもって性に合わない。何故に聖杯とやらは、こんな男を、己へと押し付けたのだろうかと。

「これは失敬した。君には是が非にでも聖杯を獲り、力を得る理由があるのだったな」

 肩を竦めながら、里見が言う。
 そんな風にして人の望みに、触れられたくはなかったのだが、それでも魅零の事情を思えば、開示せずにはいられないものではあった。

「……抑制剤の方は」
「何しろキャスターではないからな。全く未知のテクノロジーを、無から生み出すのは不可能だ。
 故に私の持ちうる知識で、代用品に使えるものを、用意できはしないかと考えている」

 だからもうしばらく待てと、里見は魅零へと言った。
 今の魅零は独りきりだ。それは里見を頼れないだとか、そんな単純な意味合いではない。
 彼女の感染した忌まわしき暴力――A-ウイルスの力を発揮するには、定められたパートナーが必要になる。
 そうした存在がいない以上、彼女がこの場で戦うためには、少々無理をする必要がある。
 闇の精鋭(ソルジャー)となるために、強引に押し付けられた負の力を、十全に使いこなさねばならなくなる。
 体にかかる甚大な負荷に、振り回されることなく戦うためには、里見の「大量生産」スキルによって、抑制剤を獲得する必要があるのだ。

「人体を武器化するA-ウイルス……興味をそそられるものではあるが、今の私にはその力を、詳らかにする手立てがない。
 案ずるな、マスター。君らを呪うその鎖は、私が消し去ると約束しよう」

 A-ウイルスの根絶によって、感染者(アーム)達を解放すること。
 そのために与えられた力こそが、謀殺の魔人(アサシン)・里見義昭。
 無理なドライヴでドジを踏み、目覚めてたどり着いたこの場所は、宝の島か、はたまた地獄か。
 見るからの禁忌に手を染めた、この行いの代償が、どれほどのものになるかは分からない。
 今も抵抗を覚えている、人の命を奪うことすらも、あるいは強いられることになるのかもしれない。

(それでも、やる)

 だとしても、前に進むと誓った。
 可能性があるのだとしたら、どれほどの汚泥にまみれたとしても、願いをその手に掴むと決めた。
 ここに彼女がいなかったことは、間違いなく幸運だったと思う。
 それでも、まもるべきあの人の顔が見られなかった時、魅零の胸に去来したのは、ほんの一欠片の寂しさだった。
 それほどにあの人に対して、心を許し、寄せていたのだ。それは驚くべきことではあったが、歩き出す十分な理由にもなった。
 何ゆえに想うのかなど知らない。それでも想いの強さだけは、確実に本物だと言い切れる。

(だからこそ、やれる)

 敷島魅零は戦える。
 あの人に顔向けできなくてもいい。同じ場所に立てなくてもいい。
 今度こそ血に染まった己が、今度ばかりはと否定されても、それでも彼女が救われるのなら、自分はそれで構わない。
 聖杯を掴む。悲しみを拭う。
 全てのA-ウイルスを痕跡すらなく、悲劇と共に消し去ってみせる。
 同じ痛みを胸に抱え、孤独と悲嘆に震えている、監獄島の人々のためにも。
 何よりも、愛おしいと、まもりたいと、そう思ったただ一人を、家族のもとへと還すためにも。



(A-ウイルスは消してみせるさ)

 次の定時連絡の日時を、短いやり取りによって取り決め。
 雑踏へ消える金髪の背中を、遠目で消えるまで眺めながら、里見義昭は一人思う。
 喜ぶがいい、仮初の主人よ。貴殿の願いは見事に叶う。
 どれほど嫌悪し蔑もうとも、この里見と同じ道を行く限りは、目指すゴールは必ずや交わる。

(もっともその後の世界で、君達がどうなるのかまでは、私の知ったところではないがね)

 たとえ敷島魅零がそのゴールテープを、切ることなく目前で果てたとしてもだ。
 マスターとサーヴァントの主従など、強制命令権を与えられた、令呪三画のみで成り立つ脆い絆だ。
 であるならば、この里見も、わざわざ義理立てをしてやる理由などない。
 聖杯を手に入れるのは己だ。魅零は自ら願いを叶えず、己の願いのおこぼれで、偶然救われるに過ぎないのだ。

(知っているか、人吉爾朗。この町が辿りゆく末路を)

 かつて己を殺した男。
 手を下したわけではないにせよ、確実に滅びへと導いた男。
 嗤う己を悪だと断じ、その在り方を認められないと、否定し打倒した男へと、里見は内心で語りかける。
 あるべき昭和の時代には、一つの事件が存在した。
 今より未来へ向かうこと6年――昭和61年の世界で、理想は人類を裏切ったのだ。
 人吉爾朗のいない世界に、もたらされた神の炎。しかし金の盃は、厳重な管理を整えてなお、滴る毒を下界へと落とした。
 結局のところチェルノブイリで、人間はまたしても間違えたのだ。
 超人がいなくなったとしても、いいや最初からいなかったとしても、彼らは理想世界を取りこぼすのだ。

「はは……!」

 嗤いながら、踵を返す。
 もはや敷島魅零ではなく、追憶の存在へと矛先を向けて、蛇は人の愚かさを嗤う。

(やはりあるべき平穏な世界を、創造せしめる人間は)

 この里見義昭だけが、世界を正しく修正できる。
 はびこった超人幻想を、歪と認識することができた、この里見にこそそれが実現できる。
 何故ならあるべき自然な世界を、正しく認識できるものもまた、里見だけということになるからだ。
 その願いを成就するためなら、聖杯などという神秘も、今は甘んじて利用しよう。
 やがてその聖杯ですらも、この世から跡形もなく消し去るためにも。
 幻想なるもの、神秘なるものを、全て取り除いた静かな世界を、あるべき形へと導くためにも。


【クラス】アサシン
【真名】里見義昭
【出典】コンクリート・レボルティオ~超人幻想~
【性別】男性
【属性】秩序・悪

【パラメーター】
筋力:D 耐久:C 敏捷:C 魔力:A 幸運:A 宝具:EX

【クラススキル】
気配遮断:D
 サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
 ただし、自らが攻撃態勢に移ると気配遮断は解ける。
 里見の殺人者としての適性は、暗殺ではなく謀殺に特化しているため、このスキルのランクは低い。

【保有スキル】
真名秘匿:A
 自らの正体を隠し、暗躍するためのスキル。
 Aランクともなると、自身がサーヴァントであることすらも、正体を明かすまでは気づかれなくなる。
 里見は老境の域に達するまで、自らの超人としての力をひた隠しにし、力を失った人間のふりをして活動してきた。
 こうした逸話から、里見は高いランクでこのスキルを獲得しており、顔と名前を見せびらかしながら、堂々と活動することができる。

大量生産:A
 魔術的・非魔術的を問わず、様々なアイテムを開発し、大量に生産することに特化したスキル。
 生前の超人騒動に関するアイテムであれば、ほぼ全てを生産ラインに乗せ、量産することが可能である。
 ただし、エクウスやレッドジャガーのような、自身の知り得ない時代の技術が用いられたアイテムは、生産することができない。
 また、人が搭乗することで動かす奇Χ(ロボット兵器)は、別個に搭乗員を調達する必要がある。
 科学者でもあり企業人でもある、里見ならではのスキル。

扇動:B
 数多の大衆・市民を導く言葉や身振りの習得。広告屋の顧問を務める里見は、高いスキルランクを有している。

【宝具】
『割れる幻想(にほんだいよげん)』
ランク:EX 種別:対民宝具 レンジ:1~99 最大補足:-
 超人幻想の破壊を目指した、里見の広告手腕が宝具化したもの。
 宝具名は、彼の起こした最大のプロジェクトである、映画「日本大予言」に由来する。
 自身に敵対するサーヴァントの真実を暴き、都合の悪くなる情報を流布することで、
 そのサーヴァントの有する神秘性を、著しく低下させることができる。
 もっとも、この宝具は、「敵の存在を確認する」「その情報を獲得する」「情報通りの真実を大衆に流布する」という、
 3つのプロセスを経て初めて効力を発揮するため、自身が知り得ない敵には、影響を及ぼすことができない。
 また、どれだけ婉曲的に表現されたとしても、ある程度の事実が伴っていなければ、効力を発揮することができないため、
 ありもしないデタラメをばら撒いても、サーヴァントの弱体化にまでは至らない。

『楽園を嗤う毒蛇の牙(バイオデストロイヤー)』
ランク:D 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人
 あらゆる生命体の分子結合を分解する化学薬剤。
 ランクこそ低いものの、通りさえすれば、サーヴァントにすらも大きなダメージを与えられる。
 またこの宝具は、自らの「大量生産スキル」によって、更に増産させることも可能。
 この項目にあるレンジと捕捉人数は、あくまでも、彼が持つ杖に仕込まれたものを示す数値である。

【weapon】

 魔術の杖ではなく、歩行の補助とするための短い杖。
 悪趣味なコブラの口からは、『楽園を嗤う毒蛇の牙(バイオデストロイヤー)』 が噴射される。

【人物背景】
あるべき世界の歴史において、大破壊をもたらすはずだった隕石が変化し、人の姿を取った特異点。
有り余る宇宙の威力を宿し、超人として生まれた里見だったが、彼は超人が跋扈する世界を、不自然なものだと感じ嫌悪するようになった。
故に自らは超人の力を秘し、世界から超人を根絶することで、平穏な世界を取り戻そうとした男である。

莫大なエネルギーを蓄えた体は、老境の年齢にさしかかりながらも、代謝コントロールにより若い容姿を維持している。
身体能力も非常に高いが、それ以上の力は持たず、あくまでも謀略によって世を動かすことを常としていた。

やがて世界の在り方を嗤い、世界を壊そうとした男は、一人の超人と戦って敗れた。
その身は幽閉され、世界のバランスを保つための養分となり――そして惨めな有様のまま死んだ。
全てのエネルギーを使い果たし、寿命を迎えた里見の魂は、反英霊として世に記録され、サーヴァントを生み出すに至っている。
もはや自分が生きられぬ現世に、それでもなお平穏を求める意志こそ、超人が求めた幻想であることに、里見は未だ気づいていない。

【聖杯にかける願い】
真なる理想的な世界・真なる自然な世界の創造を

【運用】
直接戦う必要が全くない。むしろステータスはそれほど高くないため、直接戦いに行ってはいけない。
情報宝具によってライバルを弱らせ、自らの軍団に始末させたり、あるいはライバル同士の共倒れを狙う。
戦術単位の戦いではなく、戦略単位の戦いこそが、里見の戦い方であると言えるだろう。
余談だが、今回のマスターである魅零は、この運用法を死ぬほど嫌悪している。


【マスター】
敷島魅零@VALKYRIE DRIVE -MERMAID-

【マスターとしての願い】
A-ウイルスの根絶

【weapon】
なし

【能力・技能】
リブレイター
 女性のみが感染するウイルス・「A(アームド)-ウイルス」の感染者である。
 魅零はリブレイターと呼ばれる特性を有しており、もう一つの感染者の形・エクスターが変化(ドライヴ)した武器を、自在に操ることができる。
 しかしこの聖杯戦争の舞台には、彼女がまもるべき少女はいない。
 それ故に絆の証たる、このスキルは意味を持たず、後述するスキルの後付として――冷徹な殺戮技能の原動力としてのみ機能する。

ソルジャー
 A-ウイルス感染者にエンハンス手術を施し、軍事利用する目的で生み出された改造人間。
 一流のエージェントとして戦場に送り出すために、優れた身体能力・戦闘技術を与えられている。
 更に最大の特徴として、通常の感染者と異なり、自らの意志で肉体を武装化し、異形の戦士へ変貌することができる。
 ただし、このドライヴは肉体に多大な負荷をかけるため、事前の抑制剤服用が必須であるとされている。

【人物背景】
世界政府の走狗として、戦闘技術と異形の体を与えられた元ソルジャー。
しかし心までは堕ちることが叶わず、人を殺すに足る冷徹さを身につけられなかったため、存在価値なしと見なされ廃棄処分されてしまう。
研究者の手引きにより、九死に一生を得た魅零だったが、生きていくことに理由を見出だせず、結局人工島・マーメイドへ送られることになった。

その本質はリブレイター能力を駆使した武器戦闘にあるが、徒手空拳での戦闘能力も非常に高い。
また、作戦実行のためのサバイバル知識を有しており、未知の環境でも生き抜くことができる。

普通の体を持てなかったが故に、普通に生きることを諦め、命の理由を見出だせなかった少女。
しかし見知らぬ島で出会った少女に、過去の幻影を見た魅零は、少女をまもるために戦いへと望む。
最初の動機などどうでもよかった。そもそも認識すらしていなかった。
初めて見つけた戦う理由――生きる理由が眩しかった。それ故に魅零は、理由をくれたことそのものを理由に、少女をまもり戦い続ける。


【把握媒体】
アサシン(里見義昭):
 テレビアニメ全24話。

敷島魅零:
 テレビアニメ全12話。第8話「ヴァルキリー・エフェクト」終了直後からの参戦

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最終更新:2016年09月04日 01:51