■行動内容
出来得る限り連戦し続ける。
ただし転校生は避ける。
初戦は、
の面々を優先して狙う。
連戦発生時は上記に追加で、
の面々も優先して狙う。
■■■
光差さぬ場所。
暗黒の中、響くものがある。
音。それはドラムが刻むリズム。
不意に、ドラムに合わせ低音を掻き鳴らすエレキベースがそれに加わった。
紛れも無くそれは、バンド・サウンドと呼ばれるものだ。
音はズンズンと下腹を震わし、狭い空間を幾度と無く反響した。
キーボードとギターが思い思いのメロディを奏でる空間のなか、
ひとり、静かに佇む人の気配がある。
緊張。
張り詰めた空気。
カツ、カツ、とヒールを鳴らして心臓の鼓動と同期する。
するとそこへ、新たな気配が駆け込んで来る。
横手のスライドドアが開き、暗黒の世界に一筋の光が呼び込まれた。
「準備できてるかい?!」
と、暗闇の気配へ向けて声が掛かる。
「応よ」
と、暗闇の中の誰かが答える。
「調整は完璧さ」
と、誰かが続く。
「俺まだ手が震えてるんだけど!」
幼い誰かが訴えると、
「途中でゲロ吐くんじゃねえぞ」
と、誰かが笑った。
「あと一分で到着するよ。ホトリ、あんたの調子は?」
逆光に顔を隠した最初の一人が、確認する。
そして最後まで静かだった一人が、一度高らかにヒールを鳴らし、
「じゃあ、まぁ一丁、お姉さん頑張ってみますか」
鴻畔(おおとり ほとり)は、そう宣言した。
■■■
テレビ局の前というものは、比較的人通りが多い場所である。
その上このTOKYOの街は今や、格闘家の祭典・世界格闘大会バトルシンデレラの巨大な会場でもあるのだ。
人々は熱狂し、その戦いを己の目でひとめ見ようと押し掛ける。
大通りに面したテレビ局前には、大会の様子を伝える特設モニタが設置され、その周囲ではヒートアップした観客たちがバトルの開始を今か今かと待ち望んでいた。
大会開催の知らせを受け人で賑わう大通りへ、場に似つかわしくない大型のウィングボディ・セミトレーラーが滑りこむ。
トレーラーの側面には、世界格闘大会バトルシンデレラのロゴと、魔人派遣会社ハンキレンの文字。
どよめく群衆。
トレーラーのサイドウィングが開く。
暗闇に鎖されていた世界に、真昼の陽光が差し込んだ。
そこにあるのは、なんと、バンドセットである。
ドラムス!
エレキベース!
キーボード!
ギターが二本!
アンプにスピーカー!
登場するのはチビにデブにハゲにアフロだ。
チビはキーボード。
デブはベース。
ハゲはドラム。
アフロはギターを手に取る。
そして、最後に現れたのは一際目立つ女だった。
金のショートヘア。
赤と紫が艶やかなミニスカ和装を纏っており、
腰には一振りの刀を佩いていた。
街の人々は、口々に騒ぎ出す。
――なんだこれは。
――なにが始まるんだ。
――あいつらどこかで見たことあるぞ。
これは、車上特設ステージなのだ。
女はスピーカを踏みつけ、マイクを手にとった。
『みんなーーー!! 元気してるぅーー??』
増幅され、大通りに響き渡る声。
女は数秒待って、人々の注目が自分に集まっていることを確認する。
『お姉さんが誰か、わっかるっかなー?』
再びざわつく群衆。
――誰?
――誰だ?
そのとき、鋭く貫くように、どこからか男の子の声が、
「ホトリお姉さぁあああああん」
と、確かに聞こえた。
『はい、せいかーい。よく出来ましたぁ』
魔人派遣会社ハンキレン。魔人懲罰部隊実働班、筆頭手芸者。
『兼、ギターボーカルの鴻畔お姉さんですよー』
――オオトリホトリ?
――参加者だ
――バトルシンデレラ参加者の鴻畔だ!
人々の間に理解が広まっていく。
そう、群衆が今か今かと待ち望む格闘家の祭典、その参加者が目の前に現れたのである。
『お姉さん、今回バンド組んじゃったりなんかしちゃったりして。なので今日は突然なんだけれど、ここで、まさに今から、ゲリラライブ開催しまーす』
――え? バンド?
――ライブ?
――バトルは?
人々の疑問を余所に、鴻畔は突き進んでいく。
『バンド名は"不忍不転(しのばず・ころばず)"。後ろのメンバーもあとで紹介しますからねぇ』
『それでは一曲目行きますよぉ。タイトルは、〜Battle Cinderella〜』
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鴻畔の参戦理由。
それは、バンドの宣伝である。
鴻畔の思いを余所に、戦いは始まろうとしていた。
最終更新:2013年10月23日 10:48