とあるお嬢の中指直立(とあるおじょうのファックですわよ)5ターン目『少年(であい)』


カツッ カツッ カツッ
トコ トコ トコ

……

カツッ カツッ カツッ カツッ
トコ トコ トコ トコ

~~っ!

カツッカツッカツッカツッカツッ!
トコトコトコトコトコ!

「~~っ! あーもう! 何で付いて来ますの?」

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~~とあるお嬢の中指直立(とあるおじょうのファックですわよ)~~

5ターン目『少年(であい)』

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何でこんな事になったんだっけ。
季節はもう冬。
吹き抜ける風は些か肌寒いが、身を貫くような冷風は頭をスッキリとさせてくれる。
考え事には向いているのかもしれない。
ひんやりとしたベンチの座り心地を感じながら、視線を宙に泳がせる。

確か……。
初戦はリオレイア希少種
竜の猛攻を耐え凌ぎ、蹴り倒した。
次いで、猛信寺うのみ
噂に名高い雪合戦部の実力者であったが、どうにか辛勝。
うん。ここまではOK。
分からないのは――――

「……?」

宙に泳がせていた視線を遮るように、隣に座る少年が、不思議そうに顔を覗き込んでくる。
その顔立ち。
その声。
その仕草。
一見、可愛らしい少女に見間違う程であるが、確かに男の子である。
年は自分と同じくらい、もしくは若干年下であろうか。
にこにこと絶やされない笑顔は、より幼い印象を与えてくる。
分からないのは――――
――――何で自分はこの少年に懐かれているんだろう、ということだ。



「はい、どうぞ。キミの分」
「ありがと……ですわ」

ビニール袋から取り出されたお茶とおにぎりを受け取りながら、緒子はある一つの事実に気づく。

……。

…………。

………………。

(このおにぎり、どうやって開けるのでしょう……)

コンビニのおにぎりを初めて食べる緒子にとって、
正しい開け方等知る由も無く。
見よう見まねで開けてみようとするが――――

「あっ……」

――――海苔が破けるだけであった。それはもうビリッビリに。

「さ、流石にその開け方は大胆すぎるんじゃないかな」
「う……、うるさいですわ! 初めてなんですもの。 仕方無いでしょう!」
「コンビニのおにぎりが初めてって……。どこまでお嬢様なの」

少年は笑う。
くっくっと。
緒子は怒る。
ぷんぷんと。

「――――いいよ。 ちょっとゴメンね?」

そういうと少年は、覆い被さるように緒子の背中に身を預け、背後から回した腕で真っ白な緒子の両手を掴んだ。

「ふぇっ!?」

「まず、ここのビニールを引っ張るでしょ?」
「……こ、こうですの?」

「うんうん、上手だよ。次に手を持ち替えて、こっち側の包装を引っ張る。力は入れなくていいからね」
「力は……入れずに……」

「凄いね。初めてとは思えないよ。最後は、また手を持ち替えて、反対側の包装を剥くだけ」
「手を持ち替えて……さっきと同じように……で、出来ましたわ!」

見よ!
このキレイなおにぎりを!

「うん。とってもキレイだよ」
「お、煽てても何も出ませんわよ!」

緒子は、久しぶりに笑った。
熾烈な戦闘を繰り広げてきた緒子が、久しぶりに見せた笑顔。
束の間の安息。束の間の休息。
この時ばかりは、戦いの事など忘れ、一人の少女へ戻ったのだろう。
―――近づいてきた彼女の存在に気づけなかったのだから。

「――――大会中に逢引とは。紫ノ宮嬢も隅に置けない」


「……お久しぶりですわ。生徒会長さん?」

天奈瑞
黒に身を包んだ男装の麗人。
妃芽薗学園生徒会長にして、大会随一のトリックスター。
そして、緒子にとって、苦い敗戦の味を教えた女性。

「ああ、久しぶりだね、紫ノ宮嬢。仲の宜しいことで、全く羨ましい限りだ」

背にもたれた少年の腕をゆっくりと払い。
緒子は静かに立ち上がる。

「……ちょっとだけ下がっていて欲しい。ですわ」

少年が黙って頷くのを確認し、緒子は構えを取る。
その姿は、鞘に収めた刀に手をかける動作に等しい。
いつでも抜ける。
張り詰められた緒子の緊張感を断ち切ったのは、意外すぎる一言。

「……いや、今日は止めておこう。 私は立ち去ることとするよ」
「……ふぇ?」

「聞こえなかったかな? 君とは戦わないと言ったんだ」
「……どういうつもりですの?」

「君は傷ついているからね。お互い万全な状態でぶつかりたいものだ。それに――」

黒の麗人は淡々と言葉を続ける。

「それに――――私は君の事が好きだからね。嫌われたくない」

真剣なのか、冗談なのか。
その声色からは感情を読み取らせない。

「それともう一つ。 昔から良く言うだろう? 人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んでしまうからね。最も――」
「――最も、蹴ってくるのは馬ではなく、君だろうけどね」

皮肉めいた冗談を残し、天奈瑞はその場を立ち去っていった。
いつかまた、彼女と決着を着ける時が来るのかもしれない。
否応にもそんな思いを胸に抱かせる。

「……ね、ねえ? 今の人は……?」
思いつめた顔の緒子を、心配そうに覗き込む少年。

「天奈瑞。喰えない女性、ですわ」
「……天奈瑞。そっか。 そう言えば、君の名前も教えてよ」

ああ、そうだ。
そう言えば、自己紹介をしていなかった。

「緒子。紫ノ宮 緒子ですわ」
「緒子。可愛い名前だね」

ああ、そうだ。
そう言えば、この少年の名前すら知らなかった。

「僕? 僕の名前はね――――」

ああ、そうだ。
これを機に――――。

これを機に――――
緒子の物語は大きく変わっていったんだ。



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最終更新:2013年12月20日 21:36