【七不思議(生物室)】
ウチの学校に、七不思議ってあるじゃない。トイレの鏡とか、飼育小屋とかさぁ
あれね、ウソだよ。
だってあたし、行ってみたもん、ここ。そう、生物室に。夜中に。
他のトコは行ってないからわかんないけど、少なくとも、生物室の歌うガイコツ、あれは違うよ。全然動かない。
ううん、あたしがきいたのは、歌う話だった。正確に言えば、あんたがきいたのも間違ってないけどね・・・
真夜中に、生物室のガイコツの模型が、アゴをカタカタ鳴らすの。
それでね、そのカタカタいう音がだんだんリズムを取るようになっていって、生物室のほかの標本とかも、音につられて口を動かしてくの。
もしホントだったら・・・怖いって言うかさ、キモイよね。
ホルマリン漬けの蛙とか、標本のバッタとか、人体模型とかが、口だけぱくぱく動かすんだよ・・・
それで、そのうち口だけじゃなくて、目とかも動き出してね・・・いくつもの目がいっせいにこっちをギロッて見るの・・・
- あ、だから大丈夫だって。ガイコツも人体模型も歌わなかったってば。
ちょっと前にね、友達と肝試ししたの。夜中に七不思議スポットへ行ってみようってね。
それで、あたしは生物室に行ったわけ。
- 正直言うと、やっぱ半分くらいは怖かったかな・・・後の半分は、期待してね。
- もしホントにガイコツとかが歌ってたら、テレビ局に高く売れないかな、とか考えながら、一人で行ったの・・・
紫ヶ沼高校に着くまでは、月がでててまだ明るかったけど、校舎に忍び込んだ辺りから、雲が出てきてね、
もう、まっくら。電気つけたら、宿直にばれちゃうから、懐中電灯だけ持って
途中まではみんな一緒だったけど、一人で七不思議見にいかなくちゃいけないから、途中でひとりづつ抜けていくの。
あたしも、3人目か、そこらへんで、残ったメンバーから抜けて、生物室へ行ったよ。
生物室の中も、当然まっくらでね、懐中電灯が無いと何も見えなかった。
光をちょっと横にそらしたら、机とか、黒板とか、教壇とか・・・
試しに窓の外を照らしてみたけど、月も出てないし、外側に黒いカーテンでも垂らしたみたいに何も見えなかった。
生物室の中に光をもどしてみたら、今度は薬品棚とか、標本の蛙とか、人体模型とか、いろいろ光の輪のなかにはいってくるのよ。
そのたびにドキッとしてね・・・あれは心臓に悪いよ、ホント。
でね、やっと問題のガイコツが見つかったの。最初に肋骨が見えて、手を上に上げたら、すぐに顔がみえた。
目玉の無い顔が見えた瞬間、ビクッとしてね、そのままちょっとの間、固まっちゃった。
懐中電灯でドクロが照らされたまま、じっとしてた・・・
あたしは何にも言えなかったし、ドクロも何も歌わない。
あたりはしんとしてて・・聞こえるのは、自分の呼吸とか、心臓の音だけだった。
どれくらいそうしてたか判らない。
ふと気がついたら、窓の外にはまた、月がでてた。
青白い月明かりに照らされて、ガイコツも光と同じ色に染まってた。
あれは綺麗だった・・・
そこら辺の観光名所なんかよりも、感動したなぁ・・あんな綺麗なのは、めったに見られないよ。
でもね・・・どんだけ綺麗でも、やっぱり模型は模型、歌なんて、歌えないよ。
それに気づいたらね、なんかこう、がっかりしちゃってさ、急に冷めちゃった。
時計見たら、もう30分以上たっててね、とっとと帰ることにしたのよ。おなかもすいてたしね。
帰ろうと思って、横を向いたらね・・・
いつの間にか、人体模型がすぐそこまでいたの。ちょうど、いまのあたしとあんた位の距離。
- え?じゃあ歌う人体模型は本当だったじゃないかって?自分が正解だって?
- ちがうよ。歌うガイコツも、人体模型も間違い。
だって、生きた人体模型だったから。
まず、あしゅら男爵みたいな顔が見えた。左半分の、筋肉や血管むき出しの方、あれも、間近で見えた。
昼間見ても、ただのグロい絵だった血管がね、浮き上がってて、どくっどくっって、脈打ってたの。
それでね、視線を下に下ろしていったらね、胴体も見えたの。
ほら、人体模型の胴体って、血管どころか骨や内臓まで丸見えじゃない。
あれもね、やっぱり脈打ってて、妙にてらてら光ってて、生々しくて・・・
肋骨の下の心臓なんか、めちゃくちゃ動いてて・・・
音も、あきらかに自分のじゃない音がしてて・・・
そしたらね、そいつの腕が上げられてることに気づいたの。
ちょうど、こんな感じで、手を前にだして・・・・
ガッッて、あたしの両肩をつかんで、押し倒してきたの。
犯される、って思ったよ。やっぱり。
でも、見てみたら、模型だからチンポついてなかった。
- なに赤くなってんのよ。そんな可愛らしいお歳頃じゃないでしょ。
- それとも、こんな風に男に押し倒されたことないの?
でね、犯されるわけでもないみたいだし、でも押し倒されて動けないし、痛いし・・・
この後どうなるんだろって思ってたらね・・・
おなかに、何かがぽたぽた落ちてくるのよ。
見てみたらね、あいつの内臓がね・・・ほら、人体模型の内臓って、パズルみたいになってるじゃない・・・それが、こぼれてきてたのよ。
- ほら・・・こんな感じでね・・・ぼとぼと、ぼとぼとってね・・・
後に残された胴体はね、もう、空っぽ、って感じでね・・・
- 見えるでしょ?こんな風に、なんにもない空洞だった・・・
しかもね・・・ばらけた胃やら腸やらの、繋がってたトコにね・・・ちっさな口がついてたの。
その、口がついた内臓がね、こう、うねうねしながらね、服を食い破ってたの。
びりびりってね、今みたいに、服が歯で穴が空いて、引きちぎられて、噛み切られて・・
もうね、なにも考えられなくってね、ただ、服がなくなってくのを見てたの・・・
- ふふっ・・・あんたの肌・・・綺麗ね・・・昔のあたしみたい・・・
- 今じゃお腹の外側がなくなってるけど、昔は、そりゃあスゴかったんだから・・
- ねぇ、痛かった?・・・痛かったよね?・・・あたしもそうだったから・・・
だって、おなかを食い破られたんだから・・そりゃあ痛かったよ・・・
痛いし、血だの何だのの臭いがするし、臭いし、怖いし、痛いし・・・
ワケわかんなかったよ・・・
ただ、自分の内臓が、外側に出て行くのを見てた・・・痛がってないで、あんたも見なさい・・・
外に出てるのが、自分のなのか、あいつのなのか、それももうわかんなくてね・・・
赤黒い内臓のところどころに歯が付いててね、そこから、びちゃびちゃって、音を立てながら他の内臓が飲み込まれていくの
- ほら、いま、あんたの肝臓齧ってるのが、あたしの胃袋。小腸食いちぎってるのが、胆のう。
- ボーっとしてきた?・・・血がなくなっていくからね・・・
それで、最後にね、心臓が引きずりだされたの・・・
あれが、初めてだったな・・・自分の心臓が動いてるのをみたとこ・・・
心臓に繋がった血管が、ぶちっ、て、切られていくの。血がぴゅーぴゅー吹き出てた。
ちょっと残った服も、胸の肉も、足元も、床も、全部あたしの血で濡れてた。
- あはは、あんたの胸も顔も、もう真っ赤ね・・・
- ねぇ・・あんたのお腹の中、なかなかおいしかったよ・・・
- って、もう聞いちゃいないか・・・
- つまんないの・・・まだ脳みそいただいてないのに・・・
- ま・・・これでもまだ長くもってた方か・・・
- あんたも、あたしみたいに、バケモノに生まれ変わらないでね・・・
- あの人体模型みたいに、食べたやつに食べられたくないから・・・
- ああ・・・それにしても・・・毎度のだけど・・・
- 食べた後は・・・おなかを元に戻すのが大変だ・・・
最終更新:2008年08月07日 20:08