その日も雲ひとつない晴天だった。
昨日や一昨日や一週間前や一ヶ月前と同じ様に。
そしておそらく、明日や明後日や来週や来月と同じ様に。
焼け付くような太陽の下、砂塵の舞う砂と岩石で覆われたこの町はとても静かで寂びしげだった。

  『パーフェクション』

 町の入り口にあるボロい朽ちかけた看板を見ながら、その土地とは不釣合いな都会的ファッションに身を包んだ若い娘は自嘲的に笑った。
その看板には住人の人口も書かれているのだが、その人数は14人から6人へ、そして今は3人へと雑に書き直されていた。
「まだわたしは、住人の数に入っているのね」

 その3人のうちの一人であるミンディは数ヶ月ぶりに自分の故郷で、ママのナンシーの元を訪れていた。
三方を山と断崖絶壁に囲まれた、言わば陸の孤島に現在残っているのは陶芸を生業としているナンシーと、
今ではモンスターハンターとして全米中に名を上げた自家製要塞の主であるバツイチの男だけ。
そのまもなく初老を迎えようとするハンターはいまだに血気盛んに自らの天職を全うしていた。
依頼をうけるたびに世界中を飛び回り、喜々として多少過剰ともいえる量の弾丸をバラ撒き、火薬を爆破させ、異形の生物達の臓物を撒き散らす。
噂によると今回はテムズ河に泳ぐ巨大人食いミミズが出現したとか。

つまり今現在実際にこの土地に住んでいるのは、ママのナンシー一人だけになっていた。



 こんな極端に寂れた土地でもかつて、全米中の注目を浴びたことがあった。
それは看板の人口が14人と書かれていた十年以上も前のこと。

 何の前触れになく4匹の巨大な古代生物がこの街を狩場とし、住人を捕食し始めたのだ。
当初は何に襲われているのかも理解できなかった住人達は、その当時に居ついていた便利屋の男二人組を中心に結束し、
犠牲を出しながらもその人食い生物らを見事撃退したのだった。



 田舎町でのこの攻防は当然大きなニュースとなり、それ以来その当時の住人達と古代生物"グラボイズ"との関係は切っても切れないものとなった。
その事件をきっかけに成り上がった人間もいれば、別の土地で再び怪物騒動に巻き込まれた人間もいる。
そして二年前にはこの街自身も二度目の怪物の襲撃を受けた。
一回目の地中からの襲撃とは違い、今度は空からの襲撃だったのだが。
確かその時の新種の生物にも名前がつけられたはずだが、下品だとか言う理由でナンシーは決してミンディにその名を教えようとはしなかった。


 ミンディはその二度目の襲撃の後、早くに都会にでていた兄のつてを頼り、建設会社に勤めていた。
学歴はなかったが本来の頭の回転のはやさと、思春期には一時期 つっぱてもいたが、
本来の田舎者独特の素朴な人柄をいかして仕事はそれなりに順調だった。

 そして今日はママのナンシーにこの僻地を出て一緒に暮らすことを提案しにきたのだった。
多少天然のはいったのんびり者のナンシーだが、頑固なところもあり陶芸に適した土の産地であるこの地を離れようともしなかった。
車を四時間独りで運転し、こわばった全身を伸ばしながらどうママを説得しようか考えながら歩く。
自宅まであと徒歩五分の距離で頑丈なフェンスに作られたゲートを開ける。


 「よくいつまでもこんなところに住もうと思うわね」

もとから寂れていたが、今では完全にゴーストタウンとなった街を砂埃にむせながら独りつぶやく。

  「ママー、いないのー?」

かつての怪物襲来以来頑丈に改装された家をのぞく。
どうやら土を取りに出かけているようだ。

  「まったく、大丈夫かしら‥‥‥」

普段は離れて暮らしているくせに、いざ居るべき場所にいないと、もう若くもないママを心配になっていた。

  と言うのもこの土地にはかつてはミンディも襲われた怪物"グラボイズ"が一匹だけ退治されずに生き残っていたからだ。
その怪物は他のグラボイズと差別化され"白い悪魔"と呼ばれていた。
通常のグラボイズは全長約9メートルの手足のない芋虫状の地中生物なのだが、
環境により大地を二本脚で疾走する小型な怪物"シュリーカー"、そして卵を産み、
体内の化学物質の燃焼によって空を飛ぶ"下品でママの教えてくれない名前の怪物"へと進化する。

 名前の通り体色が他の物よりも白いそれは長い間進化することもなくいまだにこの大地の下で巨躯を自由に泳がせていた。
と言っても生粋も武装主義者であるハンターによってこの街の防備は完璧だった。過剰なまでに完璧で、そして過激に。
怪物の地中の移動を察知するレーダー代わりの地震計、それぞれの土地の周りのぐるりと囲む地中に埋められたコンクリートの防壁、
そして電流をながしてある鋼鉄のフェンス。さすがに地雷の設置はあきらめたようだが。

 実はその一匹の残った怪物のおかげでパーフェクションの街はいつまでも開発されることもなく、実質人口一人のまま現在に至っていたのだ。
 ある意味で街と"白い悪魔"は共存していた。


それ故ミンディはママを心配しつつも自身は警戒もせず家の周りを散歩していた。
都会では極力避けていた紫外線もここでは気にならない。
ひょっとして自分はまだこの砂だらけの故郷が好きなのかもしれない。



 ミンディは知らなかった。"白い悪魔"はその身体を進化させる代わりに知能を進化させていたことを。
 そして住人が外出する時はフェンスの電流を切り、地上だけだが街へ入る入口が出来ることを。
 例えレーダーに掛かったとしてもその場に2,3日じっとしていれば獲物たちが警戒を解くことを怪物が理解していることを。
 待つことはその生物にとってなによりも得意なことを。

 そして最後の住人ともいえるナンシーはグラボイズとあまりにも身近すぎて油断していたことを。
 同時刻、ジープに乗り街の外れにある三つのゲートのうちのひとつに近づいたナンシーはリモコンを使い
電流を切り、ゲートを開ける。ここ三日間怪物接近を告げるアラームは鳴っていないのでレーダーは見ていない。
入り口であり出口であるゲートが完全に開き、またナンシーが車に戻ろうとしたその瞬間、大地が揺れた。

 埋められた防壁のすぐ外の土が盛り上がり、外骨格の巨大な嘴が飛び出した。
その頭部に土に塗れた巨大な白い胴体が続く。
三日間そこで動かず待っていた怪物は全長9メートルの巨体を躍らせ、
激流に逆らう魚に如く、盛大に砂煙を撒きあげながらゲートに飛び込んだ。
大量の土を浴びパニックになりながらもナンシーは必死にジープに乗り込むと、半身を彼女の土地に乗り上げた"白い悪魔"の巨体の横をすり抜け
アクセルを思いっきり踏み込み飛び出す。

 「#$%&'%=¥!!!!!下品で失礼!!!!」

訳のわからないことを喚きながら彼女は街から一目散に離れていった。
たった今怪物が進入したこの土地に、自分の娘が戻っていることを知ることもなく。



ゲート上でしばらく無様にのたくっていた怪物はその巨大な頭部を振り上げると轟音と供にそれを大地に突き立てた。
そして潜った、自らの支配領域へと。
人が歩くように、魚が泳ぐように、鳥が飛ぶように、それは潜る。
その怪物は肉体に刻み込まれた本能のままに、大地を掻き分け突き進む。
轟音と地震を後に従えて。

眼も耳も鼻もないそれは地中を伝わる振動にのみ反応していた。
いつもの様にようにそれだけで十分だった。
獲物を捕食するためには。

 ガション、ガション、ガション、ガション‥‥‥‥

静かな通りに鈍い金属音が響いていた。
ミンディは何の気なしに開いた自宅の庭の小屋の中で懐かしい玩具を見つけていた。ブリキとプラスチックとばねで出来たホッピング。
幼いころには飽きもせず一日中それにのり跳びまわっていたものだ。
確か最高記録600回以上はいっていた。
なぜいい年をしてそれで遊ぼうなどと思いたったのかは自分でも解らないが、いつの間にか夢中で跳んでいた。
幼い頃に戻ったかのように。

暑さと、ここに帰ってきて急に感じ始めた窮屈さに耐え切れず、都会用の服は家の中に全部脱ぎ捨ててあった。
靴もブラもパンティさえも脱ぎ捨て、身に着けているものは白いTシャツと古いデニムのパンツのみ。


  ガション、ガション、ガション、ガション‥‥‥‥


童心に帰り一心不乱に跳ねる。
首筋から足先まで下着のない素肌を一気に流れ落ちる汗が心地良かった。
多少膝を曲げブリキ製の棒を太ももで挟みこむようにし、くり返し上下に跳ねていると、ふと子供の時には感じなかった不思議な熱が
振動とともに下半身に溜まっていくのを無意識に感じていた。
疲労とは違う熱い息の乱れが生じる。


  ガション、ガション、ガション、ガション‥‥‥‥


わたしなにやってるんだろ‥‥‥‥

もうやめる事は出来なかった。




"白い悪魔"はすこしだけ迷っていた。
先程から地中に伝わる振動を獲物かどうか決めかねていたからだ。
規則的に一定のリズムで大地を叩くそれは生物のものとは思えなかった。
他のグラボイズなら躊躇なく突進していただろうが。白い体色のそれは少し警戒していた。人間の罠かもしれないと。


「‥‥っ、‥‥くぅ、‥‥はぁっ‥‥‥うっ」


  ガション、ガガシャン、‥‥ギョン、グション‥‥‥。


規則正しかった金属音が少しずつ乱れていた。ミンディの荒い息づかいと供に。



土の下ではまた少しだけ怪物が近づく。



 「う、‥‥ん、‥‥‥ああ‥‥‥いい」

もう今ではミンディも認めていた。自分は子供用の玩具の振動によって性的快楽を得ていることを。
官能の波が暑くて熱い。
じんじんと、跳びはねるごとにふとももの付け根がこすれ、
無機質なブリキの刺激がデニムの生地を通し、下着を着けていない局部を圧迫する。

直接性器に何かが触れているわけではないのに異常に身体が昂ぶり、敏感になっていた。
そう言えばこののんびりとした故郷とは違い、何事もペースが速く忙しかった都会では
ミンディは異性と触れ合う機会もまだなかった。
最近は自らを慰めることすらもほとんどしなかった。

無意識に押さえ込んでいた成熟した肉体の欲求が、思わぬ形で噴出し、
本能のままにあふれ出していた。



少しはなれた地中の生き物ももはやあふれ出る本能を抑えることができなかった。
 捕食という名の本能を。


 「ああ、うわ、んぁああああ」

肉体が歓喜の声をあげ、力なく跳ね続ける足にも自らの意思とは違う震えが奔る。
しかし局部への直接の刺激なしでは最後の一線を越えることはない。

直接イジりたい、乱れたい、イキたい、もっと感じたい、あそこをかき回して自分を開放させたい。
狂おしくも悩ましい、終わらない快感の疼きの中で、それでもその無機質な玩具を動かす手を止めることが出来ない。


 ガシュ、ガシュ、ガシュ、ガシュ、


「う、‥‥‥が、ひゅん‥‥うあ、あひい!!」
‥‥‥‥い、いっちゃう!!?

ミンディは玩具と快感の震えのために、足元の振動には気づかない。

思考までも無残に崩れ落ちてゆくなかで、ピン、と金属の弾ける音がどこかで聞こえた気がした。
次の瞬間十年ぶりの酷使に耐え切れなくなったその玩具は空中でバラバラに分解した。
「きゃん」
地面に倒れこみ、痛みと衝撃に一瞬息が止まり、身体の感覚がなくなる。
「いや、だめ」

刹那、身体の中心を貫く様な、強烈なオーガズムへの飢餓感が痛みと入れ替わりに湧き上がる。
欲情した肉体が何を望んでいるかは自分が一番良くわかっていた。
砂で汚れた服を掃うこともなく、裸になるわけでもなく、乱暴とも言える動きでジーンズの中に手を突っ込み、
肉欲の疼きの中心であるその場所に乾いた指を挿し入れ、欲望の限りに自らを貫き、
そして犯した。

貪るように。

道の真ん中で。




 「っぁぁぁぁぁ‥‥‥‥‥‥!!!!」


汗と砂に汚れたミンディは眼を見開き、身体を仰け反らせ言葉にならない絶叫を上げていた。
頭の中で白い閃光が次々と瞬く。
意外にもはじめは乾いていたその秘部は二本の指でかき回した途端ダムが決壊したかのように肉の喜びを表す生暖かい液体をあふれさせた。
同時にミンディの理性も決壊していた


 「っぁぉぉぇぉぉぅぉぉぉ!!!!」


 だめ。
 壊れる。
 痛い。
 でも気持ちいい。
 やめないと。
 いや、もっと。
 もれる。
 なんかでちゃう。

視界が激しく揺れ動く。
ついに人の体が性的快感に耐えうる限界に達しようとした時、自慰にふけるその肉体を巨大な力が地面から突き上げた。


 「ひぎゅぅあああああああ!!!」


感じたこともない、意識をもっていかれそうな絶頂の中ミンディの身体は宙を舞っていた。
体中から液体を滴らせ、撒き散らしながら。

「ぐひゃあ!!」
大地に転がり落ちた時、全身を覆う痛みと、それ以上の快感の波が再びミンディを襲う。

舞い落ちる土を全身に浴び、絶頂の余波で痙攣しながらもミンディは視界の中に、
天に向かって雄叫びをあげながらそそり立つ巨大な肉槐を確認した。




 "グラボイズ"!!

否定しようとしつつも生粋のパーフェクションの住人であるミンディは、それがこの地に住み着いている怪物だとすぐに悟った。
そしてそれが彼女を捕食しようとしている事も。

 "逃げなければ!!"



「‥‥‥‥ひゅわああああ!!」

立ち上がろうとした瞬間、電撃にでも打たれたかの様にミンディの体がビクビクとのたうつ。
まだジーンズの中ではミンディのなかに指が2本とも挿し込まれたままだった。
そして自分の意思とは関係なく両の太ももは強い力で手を挟み、ぬめった陰部は二本の指を強く挟んだまま離さなかった。

 『‥‥‥だ、だめうんんんっ!!に、にげなきゅわあああああ!!
たたた食べられちややぅううううう!!』

 ホッピングの振動を狙ったため、狙いが外れた地中生物の上下四つに割れた顎が宙でブリキの破片を掴み、がっきりと閉じる。

命の危機にさらされながらも、一度火のついたミンディの身体は更なる快感を求めていた。
指を引き抜こうと必死に動かす度に、皮肉にもさらに強烈な快感の波が発生する。


 「ふわあああ!!」


白いグラボイズはその悲鳴と喘ぎの混じった甲高い声をあげる獲物に
表情のない無機質な顔を向けると、玩具であった破片を吐き出し、うなり声と共に口から三本の触手を吐き出した。
人間の太ももほどの太さのそれらは、よだれを垂らし無様な姿のミンディに一斉に襲い掛かる。


 「いやぁああああ!!」


今度の声には喘ぎよりも悲鳴の割合が多かった。
それ自体別の生き物の様に快感の余韻で震えている足に、先端に蛇に似た口を持つ触手が左右に一本ずつ巻きつく。
残りの一本は膝部分に喰らいついた。
幸い厚いデニム生地を触手の小さな牙が貫くことはなかったが、それでもその触手は十分に役目をはたし、
ミンディの身体をグロテスクな口に引きずり込もうとする。


 「ひぃいい!!いやだぁ!!」


喰われるという全ての生き物にとって最も原始的な恐怖に襲われ快感が下半身からつかの間吹き飛び、
それに取って代わってパニックが猛烈な勢いで押し寄せる。ようやく引き抜いた指はてらてらとエロチックに光り濡れていたが、
そんなことを気付く余裕もない。
あわてて身体を起こし、足に巻きついた触手を剥がそうとするのだがミンディの力ではビクともしなかった。


 『もうだめ‥‥‥。ママごめん‥‥』



 "ズボンを脱げ!!"


どこかで聞いたことのある様なセリフが頭の中で響いた。
怪物の口に引き込まれながらもあわててズボンを脱ごうと再び自らの下半身と格闘する。
窮屈さにベルトを外していたのが幸いして存外すばやく脱ぐことができた。
両足をふるって触手の巻きついたズボンを蹴りはがす。

なにもつけていない下半身が太陽の下にあらわになる。うっすらと生えた淡い色の茂みは、
染み出した愛液によってすっかり濡れそぼっており、蹴り飛ばしたズボンの内側に淫靡な糸を引いていた。
上は汗ですっかり張り付いたTシャツ一枚、下は何もない裸。
無防備を通り越して哀れな姿のミンディは走り出そうとするも、
乱暴なまでの絶頂のあとでは脚に思うように力が入らず、フラフラと苛立たしいほどにスピードが出ない。


生き物の、そしてメスの匂いの染み付いたジーンズをしばらく咀嚼
していたグラボイズは、それを不満げに吐き出すと再び地に戻った。

匂いではなく肉を欲して。
轟音と土煙と供に再び潜る。



獲物は静かに立ち尽くしていた。
力のぬけたこの脚ではもはや走ってあの怪物から逃げ切ることは不可能だった。
地に着いた足からグラボイズがミンディを求めて走り回る振動が微かに感じられる。
あとに残された手段は振動を起さず、即ち一切歩くことなくただ無心に捕食者をやり過ごすだけだった。
下半身裸のままで。
振動を起さなければグラボイズにとっては何も見えないも当然だった。


もちろんそれであきらめる生物ではない。
有り余る食欲と忍耐力のままに獲物が再び振動を起こすのを待つ。


 「ううう‥‥‥‥、ゃ、やばい」

暑さだけのせいではない汗をかきながら太陽の下、ミンディは下半身に新たに発生した問題に身悶えしていた。
自然と内股になり、腰が引け、足が再び震えだす。


 「‥‥‥‥も、もれちゃう」


いじくりまわし、かつてないほどに刺激を与えたことをきっかけに、ミンディの排泄器官はすさまじい程の尿意を催していた。
恐怖と快感、相反する活動と極限状態によって異常に敏感になった下半身は尿意すらもズキズキと激しく増幅させていた。


 「ぅうん‥‥‥あ、ああ‥‥‥も、もう出っ!‥‥‥だだだだめぇ!!」


内股で地面に倒れんばかりに屈みこみ、両手で必死に股間をおさえる。
無駄なあがきと知りつつも。


 「うぁ!!」

小さな悲鳴と供に許容量をこえた液体が少しだけ、
快感の果ての潮吹きの如く、ビュッ、と閉じた指の間から噴き出す。
愛液混じりのそれは震える両足の間の大地を叩く。

当然ミンディの立っているその位置で。


 もはやその怪物に警戒心なかった。
 大事なのは獲物の位置だけだった。
 触手ももう必要なかった。



快楽と絶望と尿意と恐怖の狭間で目の前の地面が土煙を発し、再び割れていくのをミンディは見た。
土煙が彼女の身体を包む。
反射的に立ち上がり宙に逃れようとする。
次の瞬間、彼女の身体は真下から怪物の巨大な口に咥えられていた。
四つの顎で包み込まれるように。


 「いやあああああああああああああああ」


肌の露出している両脚が、直に飲み込まれる感触を感じていた。
その乾いた表皮とは違う粘着質な唾液で濡れた肉が蠕動し、
裸の下半身を飲み込もうとする。身体全体に異臭の発する液体がべっとりと纏わりつく。
幸か不幸か、歯のついてないその顎はすぐにミンディの身体を傷つけることはせず、
意識をしっかりと保たせたまま彼女を捕食していく。



 「うひいいああ、うおああああ!!」


高くもちあげられたまま、唯一自由な両手を振り回し、喚きながらミンディは暴れまわる。
感じられるのは死へと向かう苦痛のみ。
声帯を含む肉体は反射的に抵抗しながらも、その心の奥底ではもはや獲物としてあきらめかけていた。
この世で人間だけが失くしかけた、自分よりも遥かに強いモノに搾取される絶望感。


 『飲み込まれちゃう‥‥‥』


うねうねと活発に活動する肉が身体中をはげしく揉みしだく。
怪物はミンディを咥えたまま潜ろうとする。


 「ぐへぇ!!」


顎を閉じられ、全身を包む圧迫感が一層強くなる。
崩れ行く意識のなかで死を意識する。

押し潰されてゆく脚を触手がなで回す。
その時喰われ掛けている彼女の脳が最後の足掻きともいえる行動を起こした。
これから起こるであろう、生き物にとっての最大の苦痛を少しでも軽減するために、
脳は身体の痛みの神経をシャットダウンしていた。
そして少しでも生きる手段を探そうと体中の機能と記憶を引っ掻き回す。

痛みが消え、人の死の瞬間に流れるという走馬灯を見せられて、ミンディは半ば恍惚としていた。


 『もうすぐわたしは死んじゃうんだ‥‥‥』


全てがスローモーションに見え、色彩が失われてゆく。
その視界は余りにもゆっくりと、しかし確実に沈んでゆく。
巨大な顎にだけでなく、パーフェクションの大地にも飲み込まれていく。
怪物は再び地に潜ろうとしていた。


ミンディは死をを覚悟した



グラボイズはほとんど丸呑みに近い獲物を完全に飲み込もうと、体の内側で触手を再びミンディの脚に撒きつけようとした。


 「ふわぁ」


意識を失いかけたミンディは微かに声をあげた。
触手の先端が彼女の両脚の付け根の勃起した肉芽にほんの一瞬だけ触れたからだ。
快感とも呼べない程の小さな、命の活動のきらめき。

そのきらめきはとても小さなものだったが、わずかな火花が一瞬で大量の火薬を爆発させるように、
一旦は死を受け入れた脳が瞬時に覚醒し、スパークする。


 「ぐきゃああああああああああああああああああ!!」


死から逃れようとする彼女の脳は、微かに感じた下半身の刺激を生きている証として全神系を局部に集中した。
喰われかけている、という究極ともいえる生命の危機にアドレナリンが大量に分泌され、
全感覚神経を極限なまでに高め、敏感になる。
気を失うことも許されぬまま、ミンディの身体を、想像を絶する快感が駆け回る。
文字通り、死んでしまいそうなほどに強烈な快感が。


 「おごぉぉあああああ――――――!!」





‥‥‥‥コワレル。

致死量の電流が流れ続けているようなものだった。
ミンディの身体は秒単位でイキ続けた。
怪物も驚くほどの力でミンディの身体が跳ね回る。


 「が、あ、あ、あ、あ、あ、」


そしてその電流が下半身に集中する。
激しい尿意にさらされていた下半身に。



 「でででででででる――――!!!」.


ぷしゅあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ



 すさまじい勢いで失禁、放出する。
 怪物の口の中に。

それの勢いはもはや、放尿というレベルではなかった。
愛液と尿の混じった刺激臭のするそれは、ミンディの脚を押し開き、怪物の体内へと直接噴き出す。
ミンディの体液をすべて搾り出すかのように。


 「あ、がぎ、ご、ら、あ、だ、や、あ」


半身を喰われかけた極限状態での放尿による禁断の快楽に、ミンディは正気を失った。



 大地に潜りかけたグラボイズは生涯で始めてのパニックに陥っていた。
 そして、苦しんでいた。
 体内に刺激臭のする液体が大量に、それも急激に叩き込まれたのだ。
 本来砂漠に生息し、水をほとんど必要としないその怪物にとって口内で暴れまわる液体は完全なる異物だった。


グラボイズは甲高い悲鳴に似た雄叫びを上げ、頭を再び大地から持ち上げ、振り回す。
そして、悲鳴と尿と愛液を流し続けるミンディを空中に勢いよく吐き出した。


 「ああああ」


 尿と怪物の唾液を撒き散らしながら再びミンディは宙を飛んでいた。

 一種爽快な開放感に包まれながら。





キモチイイ‥‥‥‥




再び大地に激突する寸前に気を失った。





ミンディが目を覚ましたのはもう日の暮れかけた、夕刻過ぎだった。


 わたしまだ生きてる?


軋む身体を無理やり動かし、周りを見渡すとそこは自分の家だった。
どうやら宙を飛ばされ、そのまま自分の家の玄関に飛び込んでしまった様だ。
人口一人のこの村では玄関の鍵などあっても意味などなく、そのおかげで彼女は命拾いした。

かつてのグラボイズ襲撃以来、床板は必要以上に頑丈に改装されており、
家にさえ入っていればもう安全のはずだった。


 「わたし、たすかったの‥‥‥?」


自分でも信じられなかったが、汗と尿と異臭を放つ怪物の唾液に汚れた裸の下半身が身に降りかかった悲劇を示していた。
同時に全身にはしる激痛が、自分がまだ生きているということを。
そして助かったという奇跡を。
ほっ、とようやく安堵のため息をついたとき、突然


 「え、あ、ちょ、だめぇ‥‥‥」


 ちょろろろろろろろろろろろろろろろろろ‥‥‥‥‥



この日二度目の失禁。
それに先程のような勢いはなく、ごく自然なおもらし。
命の危機から脱し、全身の力が一気に弛緩する。
ぺたんと床に座り込む。


 「はあ‥‥‥‥‥‥」

とにかく、本当助かったらしい。
今はなにもする気がおこらず、自分の小便に濡れるのもかまわず床に倒れこんだ。
激しすぎる刺激にさらされズキズキと痛みを伴う股間を無意識にさすりながら。


家の外ではまだパニック状態の白い悪魔ゲートからあわてて逃げていった。


 「#$%&'%=¥!!!!!下品で失礼!!!!」

日が完全に暮れた頃、ようやく家に戻ったナンシーが悪臭を放つ汚れた床で自慰に没頭し、
のたうち回る自分の娘を発見、再びパニックに陥るのはまた別の話。




テムズ河にて大量の手製機雷で、無事巨大ミミズを粉砕したハンターが、
その後のナンシーの依頼で "白い悪魔"を壮絶な死闘の果てにパーフェクションの土地ごと粉々に吹っ飛ばすのも別の話。











そして、粉々になったグラボイズの肉片から新種の人喰い生物が大量に発生した。
それもまた、別の話



FIN

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最終更新:2008年08月07日 20:09