夏休みも半ばに差し掛かったある日の夜。私は友人の洋子ちゃん、晶ちゃん、由梨絵ちゃんの3人と肝試しを行うことになった。
「みんなおまたせー」
元気のいい声とともに洋子ちゃんがこっちに走ってくる。
「おそいわよ。言いだしっぺは洋子ちゃんでしょ」
「ごめんごめん」
そういう洋子ちゃんの手にはカンテラ型の懐中電灯が握られている。
「まあ、おしゃべりもそのくらいにしてそろそろ行きましょうか」
「そうだね、それじゃ夜中の藤川中旧校舎探検にしゅっぱーつ!」
由梨絵ちゃんの言葉に促されるように私たちは旧校舎の中へ入っていった。
目的地は旧校舎の第2理科室、通称開かずの教室と呼ばれる部屋である。
開かずの教室といっても昔は鍵がかかっていたが、今は老朽化して鍵が壊れているので入ることが出来ないわけではない。
怪談の内容も深夜にその部屋に入ると二度と帰って来られないという、学校の怪談としては至極ありふれたものだ。
そうこうしているうちに特に何事もなく私たちはその開かずの教室の前まで来た。
「結局ここまで何もなかったね」
「当然でしょ。まだ問題の部屋に入ってもいないんだから」
「お~い、扉開けると手伝ってよ。錆びてて動かないんだ」
晶ちゃんの声に私たち4人はその古い扉に手をかけた。
鍵が壊れているとはいえ古い扉は立て付けが極めて悪く4人がかりでようやく開くことができた。
部屋の中には何もなく、しいて言えば理科室らしい流し台のついた大きな机があるだけである。
「なんだ、なにもないじゃない」
「まあ、肝試しというのは雰囲気を楽しむものですから」
「ねぇ、なんか変な匂いしない?甘ったるいの」
洋子ちゃんの言うとおり、まるで果物を腐らせたような甘ったるい匂いが部屋全体に立ち込めている。
そして、異変は突然訪れた。あれほど立て付けの悪かった扉がひとりでに閉じたのだ。
「え!何で?ドアが……」
「やだ!開かないよ」
さらに私は私たちの背後に懐中電灯の光に照らされた異様なものを目にした。
「え?!ひっ、あ……う、後ろ……」
搾り出すような私の声に3人とも一斉に後ろを振り向く。
そこにいたのはまるでヒルやミミズのような姿の怪物だった。6~7mはある巨躯に目と思われる器官が全身の各所に規則的に並んでいる。
その姿を見た全員がその場に硬直し、洋子ちゃんは手に持っていたライトを落としてしまう。
「やれやれ、ここに来ればどうなるか風評は聞いているだろうに、それでもここに来たということはこれからどうなるのかわかっているのだろうな」
知性を感じさせない外見の怪物からは想像もできないような流暢で威厳のある言葉が響き、それに合わせて全身の目が紅く輝く。
「あっうあぁぁぁぁ……」
恐怖と驚愕で私は思わず腰を抜かしてその場にへたり込んでしまう。それとほぼ同時に私は信じられない光景を目にした。
友人たち3人が私の目の前で着ている服を脱ぎだしたのだ。
彼女たちはどこか焦点の合わない瞳で頬を紅潮させながらその瑞々しい肢体を惜しげもなく晒している。
「はい……私たちはこれからあなたにこの身体を召し上がっていただきます」
由梨絵ちゃんの発した言葉に私は自分の耳を疑った。
「早く食べて。ボク、もう待ちきれないよ」
「あたしもおいしく食べてね」
さらに晶ちゃんも洋子ちゃんもみな口々に同じ意図の言葉を述べる。
部屋の中に突如怪物が現れ、みんなが服を脱ぎだしてその怪物に向かって自らの捕食を懇願する。
そのあまりに異常な光景に私はただ座り込んだまま呆然とするしかなかった。
「そうだな、ではまずそこの髪を2つに結んだ娘からにしようか」
「やったぁ、それじゃお先に~」
最初の『餌食』に選ばれた洋子ちゃんは嬉々として怪物の前に歩いていく。
「では、お前はどこから喰われたいかな?」
「え?う~んと……じゃあ、足からがいいかなぁ」
「なら、こちらに足を向けてくれないか」
「うん。よいしょっと。ほら、食べて食べて~」
洋子ちゃんが怪物に足を向けて寝転ぶと、怪物は洋子ちゃんの足をくわえてそのまま少しずつ呑み込み始めた。
「ひゃあ!く、くすぐったい!ひゃう、あっあうっ、あぁ……食べられてる。あたし、食べられてるよぉ……」
洋子ちゃんの表情に恐怖はまったくなく、ときおりピクピクと痙攣しながら恍惚とした笑顔を浮かべている。
怪物は洋子ちゃんをゆっくり呑み進めていき、ついに胸の辺りまで呑み込んだ。
「あの……洋子さん、食べられるってどのような感じですか?」
期待を込めた由梨絵ちゃんの質問に
「ちょっと狭いけど、あったかくって……あっ、ぬるぬるしててとっても気持ちいいよ。すっごい幸せ……あぁっ、あん!もう頭も呑まれちゃう。あぁん、ひゃぁぁ……」
そういうと洋子ちゃんは伸ばした腕を残して呑み込まれてしまい、やがてその腕も怪物の喉の奥に消えていく。
うねうねと蠢く怪物の首に洋子ちゃんの体形が浮かぶと胃袋のある胴体へと送られていく。
「じゃあ、次はボクね」
洋子ちゃんが完全に呑み下されたのを見ると今度は晶ちゃんが怪物に歩み寄る。
「あ~、晶ちゃんずるいです」
「そう焦らずともお前も後でちゃんと喰ってやる。それで、お前はどこから喰われたい?」
「そんなのはどこからでもいいんだけどさ、キスをさせてよ」
「キス?」
「うん。やっぱり身体を捧げる相手だからね」
晶ちゃんはそういって怪物の口に手を当ててキスをするとそのまま貪るように舌と唇を這わせた。
「むっんちゅっ、れろっ、はむっ、ぁぷ、ぷはぁっ。いいよ……ボクを……食べて」
接吻を交わしたままの晶ちゃんの顔に怪物が喰らいつき、ゆっくりとその頭を下げて行く。晶ちゃんは息苦しそうな様子を見せるもののまったく抵抗せず、怪物の首をなでている。
「んんっ!うっ、んむっ、ううぅ……」
やがて、怪物は晶ちゃんの腰の辺りまで呑み込むと自分の頭を天井に向けた。両脚をだらりと下げた晶ちゃんの身体がだんだん奥へと沈んでいく。
「ひ……あ……う、うあぁぁ……」
完全に腰が抜けた私は逃げ出すことはおろか悲鳴を上げることすら出来ずにいた。
恐怖のあまり涙で顔はぐしゃぐしゃになり失禁もしていたがそんなことを気にしている余裕はない。
私は声にならない声を出しながら友人2人が目の前で怪物に
丸呑みにされるのをただ見ているしかなかった。
「あら、静香さん、どうしたんですか?そんなに震えて」
由梨絵ちゃんはまるで私が怯えているほうが異常であるかのように平然と話しかける。
「うぁ……ゆ、由梨絵ちゃんは怖くないの?食べられたら、し、死んじゃうんだよ……」
「いいえ、なぜなら私の手も足も顔も胸もお尻も全てあの方に召し上がってもらうためのものだもの」
由梨絵ちゃんは年齢以上に発達した胸を押さえながら恍惚とした表情で語る。
私は由梨絵ちゃんの言っていることが理解できず、ただ混乱するばかりだった。
「それに私、これからあの方に食べられると思うと身体が熱くなって、ここも……ほら」
そういう由梨絵ちゃんの脚は彼女の股から滴る液で濡れていた。だがそれは尿などではなくマスターベーションの際に出る液体と同じものだった。
「待たせたな」
その声に上を向くと晶ちゃんの身体を呑み終えた怪物が由梨絵ちゃんのすぐ後ろで鎌首を持ち上げていた。
「あら、やっと私の番ですね。それでは私はお尻から召し上がってください」
そういうと由梨絵ちゃんは手を床に付けてお尻を高く上げた姿勢をとった。
「私はかまわんが、それではお前が苦しくないかね?」
「平気です。私、バレエをやってますから」
「そうかそれではお望み通りに……」
怪物は首を伸ばして由梨絵ちゃんのお尻に吸い付くと少しずつ呑み込み始める。
「ひゃっ!あ……あっ、すご……あぁん!身体が温かいものに覆われて、あぁん!こんなの初めてです」
私と目と鼻の先の距離で由梨絵ちゃんは嬌声を上げながら怪物による捕食を受け入れている。
「あぁ、食べられるのがこんなに気持ちいいなんて。静香さんもきっと……きゃあ!あぅあぁぁ……」
怪物は晶ちゃんを飲み込んだときみたいに頭を上に上げて由梨絵ちゃんを喉の奥へと送る。
由梨絵ちゃんが身体を折り曲げているせいか呑み込みにかかる時間は前の2人に比べて短い。
怪物は由梨絵ちゃんまでも呑み込み、胃袋へと送ると今度は私の方を向いた。
「お前に私の力は通じていないようだが、さて、どうするかな」
「い、いや……た、助け……」
走馬灯と言うのだろう。私はこれまでの記憶を思い返していた。そして、それの最後に写ったのはこの上なく幸せそうに怪物の腹の中に消えた3人の友人たちの姿だった。
そのとき私の中で何かがぷつりと切れ、気がつくとさっきの友人たちみたいに自分から服を脱ぎ始めていた。
「わ、私も……食べて下さい……」
次の瞬間、私の視界は真っ暗になった。