作者:◆gRbg2o77yEさん
鬱蒼とした樹海の奥深く、緑の洪水を繰り抜いた草原の中央に、歪な石仏を祭る祠が建てられていた。自
殺の名所として知られ、年間を通じて行方不明者が後を絶たない呪われた地である。
地図に埋もれた地名に過ぎなかったこの場所が、オカルトスポットとしてインターネットに名を轟かせるよう
になった現在、失踪者の数は警察をして異常事態と呼ばせるまでに膨れていた。
しかし、誰が想像したであろう。この場所に吸い寄せられた人々が、この時代の科学では存在が否定されて
いる、魔物と呼ばれる存在の餌食にされている等と。
……………………
……
代々続く退魔の巫女、剣崎静香は愛刀を手に、魔物を狩るべく呪われた地に立った。
流れる漆黒の髪を一つに束ね、澄んだ瞳は夜を映す水晶のよう。すれ違う異性が揃って振り返る端麗な容
姿に、成長の過ぎる乳房を無理に押さえ、雪色の衣と朱袴を纏った美しい姿。カチャリと乾いた音を立てたの
は、清水で濯がれた日本刀である。
彼女こそ、古代より魔物を屠り人々を守ってきた一族の、末裔の一人。
荒唐無稽な真実そこが、彼女が生きるリアル。神が見る世界が人と異なるように、魔物の見る世界が昆虫
と異なるように、巫女の見る世界もまた人と異なる。彼女が見てきたのは、人間を食べる魔物と人間を殺す魔
物ばかりだ。幼少の頃より本能的に魔物の恐ろしさを理解し、魔物に殺される人々や食われる人々を目に焼
き付けてきた。
成長した静香は魔物を倒す戦士の道を選んだ。目の前で殺されていく人を見たくはないから。そして、それ
よりも、目の前で食べられていく人を見たくはなかったからである。
「強欲な獣よ、隠れてないで姿を見せよ。退魔の巫女、剣崎静香に恐れをなしたか!」
静香が凛とした声で得物を構えると、刀身から白い稲妻が弾けて消えた。自身の霊能力を刀に宿して対魔
物用の武器に変え、敵を刻むのが彼女の戦闘スタイルである。
幾多の魔物を滅ぼしてきた聖なる雷は、彼女が長い修行の末に会得した退魔の技。
退魔の技を支えるのは、さらに長く幼少より修行してきた剣術の腕。
「同じく退魔の巫女、神代御幸! 天に代わりお前を誅す!」
静香より一回り幼い別の巫女が、弓矢を構えながら凛として叫んだ。ショートカットの黒髪、そして健康的に
日焼けした顔は美少女でありながら美男子にも見える。雪色と朱色の巫女装束にも、弓矢で戦うための黒い
胸当てが施されていた。
彼女、神代御幸もまた、静香と同様に魔物を退治する巫女である。弓矢で長距離攻撃を担当する御幸と、
敵の懐に切り込んでいく静香でコンビを組んでおり、幾多の魔物を倒していた。
多くの巫女は霊能力を宿した塩や札を用いる。または、鈴や鐘に霊能力を宿し、音を媒体に攻撃するスタイ
ルをとる。しかし、それが通用するのは下級の魔物だけだ。
今回の場所にいるような上級の魔物と戦うには、静香のように刀等に霊力を宿して戦う巫女の力が必要
だった。全国でも少数の戦闘に特化した巫女たちである。
(殺された人の無念を晴らすためにも、残された人のためにも、絶対に負けられない!)
巫女たち肢体から溢れ出る霊能力が緩やかに渦を巻き、硬く握り締められた武器に集約されていく。
巫女たちの言葉に呼応するように、魔物は雄叫びを上げて活動を開始した。
木々がけたたましく揺れて野鳥が一斉に空に飛び立ち、地の底から轟轟と巨体を上昇させる人喰らい。祠
が音を立てて吹き飛び、石仏がゴロゴロと転がって静香の足元で止まる。
地面が割れて茶色い土が噴き出した。長い年月をかけて動物の死骸や樹木の根が蓄積し、雨水が染み渡
り、肥えた土の臭気が巫女たちの鼻をつく。湿った音を立てて土塊の雨が降った。
しかし、巫女は微動だにしない。見据えるのは土の中に潜む凶暴な魔物だけである。
湧いた泥に白い骨が混ざり、いっしょに地面から飛び出してきた。肋骨と思しき湾曲した棒状の骨、頭蓋の
一部と思しき皿状の骨、関節と思しき歪な形の骨塊。さらに指輪やネックレス等の装飾品や心臓のペース
メーカー、金歯や眼鏡のフレームなども付いてくる。
それは行方不明になった人々の成れの果てだった。噛み砕かれたり潰されたりしてバラバラにされた数十
人分の人骨が、消化されていない金属製品といっしょに再び日の光を見たのである。
「これほど大勢の人を食べていたとは……」
人々の亡骸を前に、静香が怒気を露にして日本刀を構えた。
地面からは、鮮やかなピンク色の触手が次々と生えて、太陽に向けて伸び上がる。触手は先端が裂けて口
に変わり、歪な肉瘤から鋭い牙を伸ばし、涎を垂らしながら真紅の舌をちゅるりと出した。
外見は生皮を剥がれたヘビのような印象を受けるが、全く別の生物である。太さは数十センチ、長さは見え
ているだけで数メートルはある巨躯の触手が数本、それが本体ではなく端末なのだ。
「静香姉様! こいつ、こんなにいっぱい人間を……絶対許せない! 攻撃します! 」
「まだ待ちなさい。こいつの本体を叩けないと意味が無いの。下手にダメージを与えて逃がしたらとても厄介な
ことになる。気持ちは理解るけれど、今は駄目」
静香は御幸を制しながら、本体が現れるのをじっと待った。手負いのまま逃がした魔物は凶暴化して危険
だと静香は理解っていたが、御幸はまだ経験が無いので実感できていない。
「本体が……来る!」
触手の動きが止まり、一瞬の静寂、そして、これまでにない大きな音が轟いた。
触手畑と化した大地が風船のように膨れ上がり、鮮やかなピンクの肉塊が浮き上がる。
そいつの外見は、理科の教科書に載っている心臓の模型のようだった。左心室、左心房、右心室、右心房
からなる肉塊が、あらゆる部分から触手を生やし、表面を蔦のような細い触手で包み、十メートルはある巨躯
を小刻みに震わせて、吼えた。
「――――――――――――――――――っ!」
可愛らしい猫の鳴き声に聞こえた轟音。普通の猫の鳴き声を数十倍にした「音」。
みゅああああああ。みゅああああああ。触手だらけの肉食の心臓が、猫の声を発しながらズルズルと移動
を開始した。目的は勿論、美味しい二人の巫女。触手がまさにヘビのように敵を威嚇する。
魔物は頂上に排泄穴が付いているのか、ぱらぱらと人骨を落としてきた。落ちてきた骨は老人と思しき曲が
り気味の背骨もあれば、幼児と思しき小さな腕の骨もある。食べた以外に考えられない。
「静香姉様! こいつ、ぶっ殺してもいいですか!」
怒声が樹海に響き渡る。静香は御幸の顔も見ず、刀を持ち直し、怪物に向けて走っていた。
「もうっ! 攻撃開始します!」
心臓から伸びた触手たちが、接近する静香を迎撃しようと殺到する。同時に。背後から御幸が放った五本
の矢が、静香の背中を猛速で追いかけた。
「斬怪!」
静香の日本刀が斜めに斬り伏せるや、最初の触手は霊力で焼かれて灰に変化し、風に流されていく。別の
触手たちが一斉攻撃を仕掛けようとするも、飛翔中に進む方向を変えた御幸の矢に貫かれ、爆発するように
飛び散った。
斬り捨てた魔物を焼いて灰にしてしまう静香の剣と、飛ぶ方向を変幻自在に変え、味方をサポートしながら
敵の隙を狙う御幸の矢。触手の先陣は彼女たちの連携によって、瞬く間に全滅させられる。
心臓は巫女たちの予想外の攻撃力に怯んだように、少しずつ後退し始めた。米軍の火炎放射器で火傷も
負わない肉が、巫女の細い日本刀によってあっさり炭化させられ、動揺したように見える。
「慈悲などかけぬ! 貴様に喰らわれた人間の恨み、存分に味わい苦しんで死ね!」
魔物の本体を前にして、静香の持つ刀が激しい輝きを放つ。生命力の異常に高い魔物との戦いは、力同士
の押し合いでしかない。全力で相手の攻撃を押し切り、叩き潰すのみだ。
「斬怪!」
本体を守ろうと静香の前に現れる触手が、両断されて灰に変わった。心臓本体にも触手をかいくぐった御幸
の矢がブスブスと突き刺さり、あちらこちらが破裂して血と肉が飛び散っている。
魔物は悲鳴を上げて後退するも、巫女たちの攻撃にみるみる触手を失い、肉を削られていった。
樹海の中、静香と美幸が魔物と交戦を開始したのと、ほぼ同時間――。
主戦場の祠からしばらく離れた場所で、数人の巫女が簡易な陣を設けて戦いの行方を見守っていた。彼女
たちの役割は戦闘要員への物資的支援や現地の調査、作戦時間の調整や伝達事項の仲介等で、今回の討
伐作戦において、戦闘以外の全ての仕事を担当していた。
「戦況は良好の模様。後、数分で決着が付きそうです」
長い髪を優しく手で払い、丸い眼鏡をかけた巫女が緊張をやや崩して他の巫女に解説した。
彼女の名前は姫宮恵。
戦場でも落ち着いた空気を纏い、手には戦闘用の刀が握られている。戦闘の影響の無い安全圏から気配
だけで戦況の分析を行うのは容易ではないが、彼女にはそれを任される実績があった。
「不測の事態が起こらないと良いのだけれど」
こくこくと頷きながら報告を聞いているのは、まだ若い二人の見習い巫女。
恵の弟子としてここにいる少女たちは、初めての戦場での雑務に追われていた。
双子らしく、髪をおかっぱに切りそろえた愛らしい顔々。もしも外見相応の年齢ならば、二次性徴を過ぎてい
ないかもしれない。学校に通って仲の良い友達と遊んでいるのがよく似合う。
しかし、両親が魔物の犠牲になり、恵の養子として弟子入りし、魔物との戦いに身を投じた彼女たちの顔に
浮かぶのは、あくまで巫女としての覚悟と決意。
今はまだ何もできない。しかし、将来は自分たちが魔物と戦って人々を守る。
その使命は、まだ幼い少女たちにも確かに宿っていた。
しかし、戦闘が無事に終わりそうだと聞かされて、やや緊張が緩んだのかもしれない。
「お師匠様。すっ、済みません……あの……ちょっと……お、お花を摘みに行きたいのですが……」
片方の少女が顔を真っ赤にしながら、消え去りそうな声で恵に許可を求めた。あいにく、携帯トイレを用意す
るのを忘れてしまい、不本意ながら草むらで済ます以外に選択肢は無かった。
(魔物の住処が山奥なのは仕方が無いけど、これはちょっと……)
下ろした赤袴が汚れないよう手で抱え、茂みに身体が隠れるよう屈みこんだ双子の姉、姫宮真央は、お世
辞にも快適とは言えない場所で尿意を解消していた。
顔を赤くして黙り込み、行為が終わるのを待つ。しかし、ちょろちょろと音を立てて地面に飲ませている尿が
途切れるには、もう少しだけ時間がかかりそうだった。戦場での緊張のせいか、いつもより量が多く、色もや
や濁り気味である。
真央は自分の足袋が尿で汚れていないか、そっと足元を確認した。
地面の凹んだ部分に出しているので大丈夫だと思うが、尿が予想外の向きに流れて白足袋が濡れてしまう
のは避けたい。神聖な巫女装束を排泄物で汚す以前に、衣類に尿が付いて喜ぶ者は少数派だろう。
(この装束も、ちょっと森には不向きだし……)
霊能力の循環を最も良くする構造と材質の巫女装束だが、とてもアウトドアに向くとは言えない。
伝統的に下着類は禁止で、唯一認められているのは乳房を押さえるサラシのみだ。
実際、命のやりとりをする戦場でトイレがどうだこうだと思うことが、既に重度の平和呆けなのだろう。まだ自
分は魔物と戦う戦士ではなく、常識的な生活を求めている女の子なのだと自覚する。
(パパとママを殺した魔物を倒すために、普通の女の子の幸せは捨てるって決めたのに……)
修行が厳しさを増していくほど、精神が疲弊していくほど、普通の女の子としての幸せという、どろりと甘い誘
惑の声が大きくなってくる。霊能力が最も成長する今の時期に修行をしなければ、魔物に対抗する巫女として
はとても使い物にはならないが、修行を放棄してしまえと自分の弱さが囁きかける。
(ううん、私たち姉妹で、絶対にパパとママの仇をとるって決めたんだから! もう悩まない!)
真央が決意を新たにしたときには、尿はすでに途切れていた。
ポケットティッシュで性器の周りを軽く拭いつつ、緩んでしまった精神の緊張を張り詰め直そうとする。
「痛っ!?」
そのとき、火で焼かれるような激痛を感じて、真央はティッシュを取り落とした。
気付けなかったが、魔物は彼女のすぐ近くに潜んでいたのだ。無防備に排尿している最中、茂みの背後か
らゆっくりと、あのおぞましい魔物の、皮を剥がれたヘビのような触手が近づいていたのである。
そして今――鋭い牙を剥き出しにし、ぷるりと丸い真央の桃尻に齧り付いていた。
「きゃああああっ!? まっ、魔物がっ! どうしてっ!?」
今回、討伐する魔物は静香と御幸が戦っている一匹だけの想定であり、複数存在するなら状況は大きく変
わる。しかし、真央の冷静な思考は激痛の嵐に吹き飛ばされてしまった。
お花を摘む最中にお尻を食べられる間の抜けた構図だが、傷は予想以上に深い。
真央の尻は血で真紅に染まり、触手の動きに合わせて肉がゴムのように伸びていく。牙同士が擦れるゴリ
ゴリという音。魔物が筋を牙で擦り潰し、そのまま噛み千切ろうとしているのだ。
触手の口には、果実の断面に並んだ種子のように、鋭利な牙が規則正しく生えていた。敵の肉を噛み千切
るため、そして噛み付いた敵を逃がさないため、釣り針のように湾曲した牙。それが尻に深く食い込み、内側
から掘り起こすように肉を奪おうとしている。
牙の結合部から流れる血液が下腹部を赤黒く染め上げ、朱色の袴に黒い染みが広がった。反射的に前方
に逃げようとすると、牙で縫われた尻の肉はベリベリと腰から離れていく。
「ぎゃ――――っ!」
尻肉を剥がれるあまりの激痛に、真央の意識が一瞬だけ飛んだ。痛みに耐える訓練はもちろん受けている
が、現実に喰われた経験などあるわけがなく、とても耐えられない。
触手は返り血で汚れながらぐねぐね動くも、決して尻を離そうとはしなかった。
指先が地面を掻き毟り、短い爪が次々と剥がれて血が滲み出してくる。
激痛に号泣してしまい、くしゃくしゃの顔から涎と涙がぼろぼろと零れてきた。
「助けてっ! 助けてええええっ! 魔物がっ! こっちにぃっ!」
離れた場所にいる妹の理央と恵に、喉が張り裂けんばかりの声で助けを求めた。もう恥も何も関係なく、救
援が呼ばなければ状況は酷くなるばかり。尻が魔物に食べられてしまう。
しかし、見習いといえ、真央も退魔の巫女としての修行を積んでいる身。持ち歩いていた護身用の魔除けの
鈴を取り出して、決死の反撃を試みる。
威力は弱いが魔物を混乱させる効果がある鈴は、全力で霊能力を込めた武器。
古来より鐘の類に魔除けの効果があるのは和洋共通である。
「わたしは、退魔の巫女、姫宮真央! おっ、お前なんか、わたし一人でも……っ!」
シャリン、シャリン、と清浄な音が響くたびに、魔物は混乱して尻を噛む力を緩めていった。
しかし、あくまで緩むだけで、牙を抜いたり離そうとはしない。見習いの巫女が必死に鈴を鳴らしても、魔物
を撃退するには、力量が決定的に足りない。そもそも下級の魔物にしか有効ではない手段だ。
そのとき、茂みがガサゴソと動き始めた。恵が救援に来てくれたのだと、真央の顔は一瞬輝く。しかし、現れ
たそいつらを見て、氷のように固まってしまった。
「……う……ああ……そんな……」
森から現れたのは救援ではなく、何十匹という肉食の心臓たち。
まるでピンクの森が蠢くように触手を踊らせ、次から次へと湧いて出てくる。右の茂みから、左の雑木林か
ら、泥を噴き上げて次々と現れる異形の魔物。潜伏していた魔物の数は優に百匹を超えていた。
百匹を超える魔物の大群となれば、退魔の歴史に残るほどの巨大勢力。巫女たちは敵の戦力を大きく読
み違えていたのである。戦闘要員も、武器も、他の物資も、まるで話にならない。
静香や御幸、それに恵がどれほど優れた巫女であろうと、武器を手に肉弾戦を行っている以上、限界はす
ぐに訪れる。体力も霊能力も無限ではない。
敵が数十倍の時点で敗北はもう確定的であり、後は逃げ切れるか否かの話になる。
「いやああっ! そんなっ! そんなああっ! 」
半狂乱で鈴を振り回す真央を、ピンク色の心臓の大群が取り囲んでいく。
じたばたと暴れる足首がそれぞれ噛み付かれて持ち上げられ、尻の肉が噛み切られて血が溢れ出した。
厚く綿を詰めた白足袋が牙に貫かれ、圧迫された関節が音を立てて壊れていく。
足先を持ち上げられ、代わりに顔が地面に押し付けられる。落ち葉や小石が散らばる上を、真央の顔がざ
りざりと擦られながら引き回された。鈴は地面を叩きながら鳴り続け、別の手は地面を思い切り掻き、恐怖と
激痛による狂乱めいた悲鳴が連続した。
「助けてええっ! 助けてええっ! 助け、げほっ、ごほっ、えほっ!」
食べてしまった土を吐き出し、泥に塗れた顔で泣き叫ぶ真央。鈴は弱々しく音を鳴らし続けるが、触手たち
は早くも攻撃に慣れて動揺さえせず、吊り上げられた獲物の肢体に近づいていく。
引き裂かれた装束は布切れと貸し、肩からずり落ちて衣服の役割を失った。足首は砕かれて歪な方向にね
じ曲がり、朱袴は股から破れて腰に虚しく垂れ下がり、泥で汚れた小ぶりな乳房が震えている。
手に力が入らなくなり、鈴が音を立てて地面に転がった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
激痛により麻痺していく身体の自由と、霧がかかるようにぼやける思考。そして、薄れていく意識にはっきり
響いてくるのは、絶対的な「死」の到来。
(お師匠様! 理央!)
その心の叫びに応えるかのように、魔物たちは洪水の如く真央に向けて殺到した。
絶叫が迸る中、両腕が途中から無くなり、乳房が繰り抜かれ、腹と背中からモツが溢れた。
真央の肢体は両足を吊り上げられたまま、触手の洪水に流されて、振り子のようにぶらぶらと振れる。あち
らこちらに振れる毎に、生肉が牙に剥かれて血と臓物を垂れ流し、赤く濡れた骨が見えてきた。
触手たちは肌肉を顎でぐいぐいと引き伸ばし、ちょっとした肉塊を乱暴に切断して貪っていく。巫女の甘い血
で口を満たすのは、獰猛な食欲と征服欲。巫女への配慮など何も無い。
両足が限界まで広げられ、真央の股間は赤い洪水を起こして裂け始めた。
赤黒く濡れた肉断面が露になるや、無数の触手が少女の陰部に殺到し、我先へと子宮や腸を奪い合う。
(お師匠様……理央……パパ……ママ……。わたしは……)
触手たちはパンに群がる魚群のように真央の肢体に喰らいつき、鍛えられた健康的な肢体を骨と肉の断片
に変えていく。レバーや腸の破片がどろどろと触手の隙間から流れ落ちた。血化粧を施された愛らしい顔は
前後左右から髪を引き抜かれ、耳を噛み千切られた。鼻を噛み砕かれ、頬を剥がされた。
(もう……戦えません……楽に……なりた……)
真央は自分の命が尽きるのを待ち望みながら、魔物たちの牙に削られていく。
地面に転がる魔除けの鈴が、血に塗れながら、ちりん、と虚しく鳴った。
もう悲鳴は聞こえなかった。
(続)
最終更新:2008年08月07日 20:11