『……これで被害者は……」
テレビの音が煩い。
『……警察の調べに……」
音が煩い。
『……犯行の……」
煩い。
『……目撃者の証言によると……」
煩い。煩い。うるさい。うるサイ。
『……そうです。まるで
化け物のような
バ ケ モ ノ
悲鳴がする。女が逃げている。若い女だ。顔は…よく分からないな。
ああ、大丈夫。捕まえたから。顔が見れた。
とても怖い顔をしている。怯えているのか?
…まぁいいや。まずは、胸がとても旨そうだったからそこから食べることにしよう。
服は邪魔だから爪で切った。一緒に肉も少し切れたけど、別に構わないだろう。
2つの膨らみの片方に齧りつく。口が小さいから一度じゃ食べきれないのが悲しい。
それに齧るごとに女の体がビクビクと動くから食べにくい。うるさいのも鬱陶しいな。
でもそれはしょうがない、いつものことだから我慢しないと。
何度も何度も齧って食べた。おっと、ちゃんと噛まないと。
柔らかそうな肉だと思ってたけど本当に柔らかい。そして、おいしい。
夢中で食べているうちに片方が無くなっちゃった。
すぐにもう片方に齧りつく。一瞬女の体がビクりと跳ねた。
けど気にせずに食い千切る。もちろんこっちもおいしい。
気のせいか女の動きが少なくなってきた気がする。食べやすくなってうれしいな。
胸の肉を食べきった。これでおしまいかと思うとちょっと残念だ。
女の顔を見るとなみだとよだれでベチョベチョだった。汚いなぁ。
べろりとなめてあげるとまたうるさい声がでてちょっとこうかいした。
そこからは思い思いに食べることにした
足のお肉に手のお肉、おなかのお肉に、おなかの中のお肉
おなかの中のお肉はちの味がこいけど時々とってもおいしいところがあるからきちんとたべる
たべもののおなかのなかをたべたらびくびくうごくのがとまってうれしかったな
それからおなかのなかもぜんぶたべてのこってるのはくびだけになって
くびが…首がゴロリとこちらを向くように転がって、血の気の引いた唇がわずかに開いたかと思うと
バ ケ モ ノ
破壊音。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
荒く息をついて、男はその場に膝をついた。
目の前には元はテレビだった物体が無残に横倒しになっている。
液晶部分が完全に砕けており、もはやテレビとしての役目を果たさないことは明白だった。
だが、男はテレビの惨状に目を向けることもなく、頭を抱えて、何かを恐れるようにしゃがみ込んだ。
「俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…」
小刻みに体を震わせながら、狂ったオルゴールのように同じ言葉を呟き続けた。
「俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…」
歯をカタカタ鳴らし、何かに怯えるように延々と、延々と。
「俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃない…」
ふと、男は右腕を見る。
「俺は化け物じゃない…俺は化け物じゃ…ッ!?」
そこには毛深い獣の腕が―
「ウッ…アッッアアアアアアァァァアアアア!!」
男は絶叫した。
そして左手に手近にあったCDコンポを手に取ると、思い切り右腕に振り下ろした。
ベキャッ、と鈍い音が鳴る。腕が砕ける感触がする。
それでも構わずに何度も振るう。
ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ
ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ
ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ、ベキャッ
…………
何回振り下ろしただろうか。
疲れたのか、男は使い物にならなくなったCDコンポを降ろし、荒く息をついて床に手を付く。
そして気付いた。右腕が見慣れた人間の腕であることを。
しばらくの間、荒く息をついていたが、すぐにそれは笑い声に変わった。
「…ハハ…ハハハハハ…そうだ、俺は人間だ、化け物じゃない。化け物なんかじゃ…」
笑っている男は気付かない。右腕が砕けているどころか傷一つないことに。
笑っている男は気付かない。自分はすでに化け物の領域にいるということに。
笑っている男は気付かない。もはや自分が狂っているということに。
そう、気付かない、気づけない。
だから―この次の言葉も違和感なく受け入れた。
「俺は化け物じゃない…化け物じゃないんだから
―また、人間を喰べに行こう―
最終更新:2008年08月07日 20:12