若い娘が一人、花嫁衣装をまとい山の中の祠で佇んでいた。
娘の名はみつといい、彼女が暮らしていた村では、年の終わりに若い娘を一人、
山の神に嫁として差し出すという掟があり、みつは今年の嫁に選ばれた。
嫁を出さねば村は山の神の怒りにより滅ぼされるが、嫁に選ばれるというのは
村の者にとって名誉なことであり、みつ自身もそう思っていた。
(私が、山神様の嫁になれるなんて…)
ちょっとした優越感すら感じつつ、みつは山神が来るのを待つ。

これから起こる惨劇に、微塵も気がつかずに。

どれほど時が経ったか。

ガタガタガタ!

ついウトウトと船をこいでいたみつは、不意に響いた物音に目を覚ました。
ひょっとして山神様がいらしたのかしら。
そう思ったみつは居住まいを正し、祠の真ん中で正座をし入り口をみつめた。
すると、そんなみつの耳に何かが聞こえてきた。
『……は……じゃ…』
それは老人のような、若者のような、
まるで何人かが声を合わせているかのような不思議な声だった。
「…山神様?」
みつがそう呼びかけた刹那、ちり、と背筋に何かが走る。
ここにいては駄目だ。頭の片隅でそんな思いがよぎるが、しかしみつはそこから動かなかった。
否、動けなかった。

月明かりに照らされ、祠の入り口の【山の神】の影は―

明らかに、異形の物のそれだったから。

「ひ…ひいっ」
みつが小さな悲鳴をあげた瞬間、まるでそれが合図であったかのように、
【山の神】が入り口の障子を突き破り、その姿をみつの前に現した。
下半身は巨大な蛇であり、上半身は人だが、九つの顔が頭から腹にかけて張り付いている。
そして、そのどの顔もみつを見て不気味な笑みを浮かべていた。
『うれしや うれしや ことしも にえじゃ』
『わかいむすめじゃ やわいにくじゃ』
『うれしや うれしや ここのつ うれしや』
「あ…あ…」
【山の神】―いや、【ここのつ】の顔の一つが伸び、恐怖で固まったみつの眼前で止まる。
『むすめ きさまは わしらの にえじゃ』
その口が大きく開き、中から長い舌がみつの首に巻きつく。
なおも恐怖で体を硬直させるみつを見て、顔の一つはにやにやと笑い、その舌で、みつの花嫁衣装を引き裂いた。

「いやぁぁぁ!」
そこで初めて、みつは弾かれたように逃げ出した。
が、元々狭い祠の中、あっという間に壁際に追い込まれた。
「やだ…いや…」
懇願するように首を振るが、ここのつはさらに四つの首を伸ばし、みつの
両腕と両足に食らいついた。
「ぎっ、ああああああああ!」
両腕と両足を締め付ける凄まじい力に、みつはたまらず悲鳴をあげる。
その悲鳴を楽しげに聞いたここのつは更に力を込め、

ぼき、ぶちり。

まるで枯れ木を折るように骨をへし折り、腕を、足をもぎ取った。
「ひぎっ…」
一瞬、なにが起きたか理解できなかったみつは、ここのつの顔がくわえている自らの腕と足を見て―
「うあああああああ!
あ、足、腕、わた、私の、
ひぎあああああああ!」
今までにない激痛がみつの全身を駆け抜ける。
が、腕も足もないその体では、芋虫のように身をよじることしかできない。
みつが身をよじるたび、腕と足の付け根からあふれる血が辺りを赤く染めていった。

『うまそうな あしをとろ』
『うまそうな うでをとろ』
奪った腕と足にかぶりつく。ごりごりと骨ごと食らい、
あっという間に食い尽くした。
「ああ…あ…」
もはや痛みと恐怖で動くことすらできないみつに、さらに顔の一つが迫る。
べろりと伸ばした舌は、みつの身長をゆうに超えていた。
『うまそうな わたをとろ』
伸びた舌が、みつの股間へと触れる。
「う…」
みつが一瞬びくりと体を震わせた、その直後。
ぶつっ…メリメリメリ…ッ!
「がっ、ぎ、いいいいいいいい!」
ここのつの舌が、みつの膣内へ強引に入ってくる。
今までとはまた違う痛みが稲妻のように全身を駆け巡り、
みつは背筋を思い切り仰け反らせた。
舌は膣内を蠢いていたが、やがてその先にたどり着いた。
その先の―子宮に。
ぐぐっ…ボコッ!
「うぎゃああああああああ!」
子宮口から舌をねじ込まれ、暴れられる。
普通であれば気を失うような激痛だが、不幸にもみつは気絶できなかった。
『うまそうな わたをとろ』
さらに別の顔から伸びた舌が、今度は尻をなでた。
「やだっ、そんなのムリ!しんぢゃぁぁぁぁ!」
肛門から、やはり強引にここのつの舌が入ってくる。
そのまま奥の奥、小腸にまで舌を伸ばす。

「うぎいいいいいいいい!」
直接腹をかき回されるおぞましい感覚に、みつは白目を剥き口からは泡を吹く。
「げええええ」
胃を押され、中のものが逆流し嘔吐する。
だがそれでも、ここのつの蹂躙は止まらない。
やがて―ブチブチと嫌な音が響いた。
「がは…!」
ここのつの舌が小腸を引きちぎり、肛門から引きずり出す。
「あ…あ…」
子宮に入っていた舌も、子宮を突き破り、内臓をからめ取り膣口から引きずり出した。
『うまそうな わたをとろ』
顔はみつの体から引きずり出された内臓をぺちゃぺちゃとすする。
「ぁ…」
もはやみつは何も反応がない。
その今にも光が消える瞳に映ったのは大口を開けたここのつの顔。
その耳に最後に聞こえてきたのは―

『うまそうな みそをとろ』


また村では一人、嫁という名の生け贄が決まる。

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最終更新:2010年05月05日 22:29