よくあるファンタジー世界に似た世界。だがここは私達が知るファンタジー世界とは少し違う。
この世界には『魔物使い』がいると言う事だ。
『魔物使い』は『魔物』『魔法』『アイテム』と言った物をカードにして貯めており、
それを必要に応じて戦いに使い分けていた。
が、『魔法』は基本的に術者の体力を消耗させ、『アイテム』は大半が使い捨ての為、
もっぱら使われるのは『魔物』と言う事になる。ゆえに彼等は『魔物使い』と呼ばれるのである。
森の中を一人の少年が歩いていた。年の頃は16、鋭い目つきで足跡を残さないように歩きながら、
すばやく、確実に………。しばらくしてカードを抜き取る。
「召喚されよ!『ミリオンセンス!』」
言葉に応じて、カードが光り輝き、数百の影が現れる。
それは小さな目が数百の尖った耳の形をした翼と鼻の形をした嘴を持つ魔物達であった。
「探せ」
その言葉に応じて、魔物達はばらばらに飛んでいく。
すぐさま反応が見つかった。木の上に魔物がいる。
「何者だ」
「あらあら見つかったにゃあ?」
そう言って現れたのは茶色の毛をした猫人であった。
耳はぴくぴく動いており、ほどよい大きさの胸にはそれにあった毛が生えている。
尻尾は垂れ下がっており、まるっきり警戒していない。
「魔物が一体何用だ」
少年はそう言ってカードを構える。魔物に普通の武器は効きにくい。
超常現象だのそういった以前に強いのだ。つまり魔物と戦うには自分も魔物使いか、準備と言う物が必要になる。
「ちょっと、『お願い』にきたにゃあ」
そう言って猫人は少年の目をまじまじと見る。
「『お願い』か?」
「そうにゃあ」
猫人の目が赤く輝きだす。魔眼発動―――誘惑の魔眼。
「『ちょっと、話を聞いてくれにゃあ』」
いくら魔眼と言っても限界がある。だが話を聞かせる程度ならばどんな相手でも可能のはずだ。
「断る」
そう言って少年が1枚のカードを表にする『魔法耐久』のカード。
魔法や魔力によった攻撃をある程度軽減する呪文だ。
「……後ろに誰もいなければ話を聞いても良かったが……残念だな!」
言った瞬間に二人、否一人と二匹は動いていた。
少年はカードを抜き取ると二匹目の『魔物』を召喚していた。
猫人は爪を抜くと少年に切りかかっていた。後ろから現れた『魔物』は四足の俊敏な狼で、少年に噛み付こうとした。
その両方をぎりぎりで回避すると少年の足元から新たな『魔物』が現れた。
「いけ『マギガ・ストマ』!」
『マギガ・ストマ』と呼ばれたその魔物は、巨大な黄色い芋虫の姿をした魔物で巨大な口のまわりには四本の触手が存在した。
オオオオッと唸ると『マギガ・ストマ』はその触手を伸ばして狼を捕まえそしてそのまま口の中に押し込んだ。
「にゃあああああああああああ!私なんか食べても美味しくないにゃああああ!」
慌てて逃げ出す猫娘。マスターは既に逃げている。なら逃げても良いだろう。
触手の範囲圏から命からがら逃げ出ようとする。必死に走る走る走る。
「『能力付加:伸縮』」
逃げ出せると思った瞬間、少年は魔法を唱えた。『マギガ・ストマ』の触手が伸びる伸びる伸びる。
「反則にゃああああああああ!」
足を触手に捕まれて暴れまわるが次々と触手が絡みつき、その弱い体を口元へと持ってくる。
「あうあうあうあうっ」
股間から小便を垂らし逃れようとする猫人。が『マギガ・ストマ』は絡める触手を弱めず口元へと持っていく。
少年はもはや猫娘を見ていない。マスターを探しているのだろう。
ボトリと猫娘の体が口の中に落ちた。
『マギガ・ストマ』の体内は異様だった。
肌色のすべすべとした所で、なんら体内と感じさせない。
「なんにゃん?」
助かったと言う感想の前にこの異常事態が気になった。が、ぐずぐずしている暇は無い。
ここは敵の『魔物』の体内なのだ。消化液が出ないのは異常だが気にしていられない。
「……肉は柔らかそうだにゃン。」
だからといって食べる気にはなれない。とりあえず切り裂いてと思って爪を伸ばす。
「にゃん?」
気配を感じて後ろを振り向く。無数の『魔物』の影。
ようやく理解した『マギガ・ストマ』は『巣』であると。無数の『魔物』を体内に宿す『魔物』。
がわかったからと言ってどうにかなるわけではない。ましていわんや逃げるなど。
「にゃああああああああっ」
数体の『魔物』が猫人に粘液をかけ始める。逃げることができずたちまちのうちに粘液まみれになる。
「にゃ……」
『魔物』がのた打ち回る猫人をそのまま運び始めた。ネトネトの粘液に包まれた猫人は暴れまわったが、
粘液に包まれている以上、爪も牙も意味を成さない。
やがて、猫人は緑色の液体に投げ込まれた。一緒に他の魔物も飛び込んだがどうでも良い。
この中に入ると言う事は只巣と一体になるだけだからだ。
猫人は、緑色の液体から逃れようとするが、粘液が邪魔してそれを許さない。
「にゃあああああああああああああ!助けてご主人様ぁああああああああああっ」
それが末期の叫びであった。猫人は謎の液体の中に沈み、そして浮き上がらなかった。
終章
『ご主人様』は逃げていた。
モンスターを2体使ったのに少年を殺せず、しかも少年が無表情にこちらを追いかけている。
何故こんな事になってしまったのだろう。こっちが圧倒的に有利だったはずなのに。
奇襲をすれば絶対勝てるはずなのに。
逃げる少女の前に大きな『魔物』の影が現れた……。
最終更新:2008年05月18日 15:30