ドサドサッ

乱暴に投げ出されたあたしは暗い闇の向こうで閉じられる扉を見ていた
体は満足に動かない
と、いうか動いているほうがおかしいくらいだ
お腹は無残に切り裂かれて、内臓を食べられた空洞が口をあけている
そんなに大きくなかったけどあたしにとっては大事な胸もなくなっている
太腿はかじられて骨が見えているし、お尻の肉もない

あたし…これからどうなるんだろう…

「いつもながら乱暴よね。レディに対する扱いじゃないよね」
声が聞こえるほうにゆっくりと首を回した
残った部分は動くらしい。生命の神秘…といっていいのだろうか

そこにいたのは内臓をはみ出させた手足のない女の子がいた
あたしがこんな姿でなければ見た瞬間に吐いてしまってしまっていたかもしれない
いまのあたしも似た様な姿だし、第一吐くための胃もない。
「あなたは?」
半分わかっている答えを聞く
「あなたと同じよ。わかってるだろうけど。ちなみにあたしはれっきとした人間の女子高生だったの。
一週間ほど前まではね」

あたしも女子高生…


だったというべきなのだろう。この子の言葉に従うなら


昨日下校中に後ろから何者かに襲われて、攫われた
薄れ行く意識の中で、誘拐?それともレイプ?とかいろんな考えが頭に浮かんだけど
まさかそれらよりもっと酷い目に遭うなんて思わなかった。

意識を取り戻したあたしは全裸のまま皿の上で縛られていた
胸はピンク色のソースやクリームでデコレーションされて
お腹も股間にも綺麗な果物やクリームが塗りつけられていた
お尻がひんやりすると思ったら大きな野菜の上に寝かされていた
首を回すと、そこには巨大な嘴を持つ怪物があたしに嘴を向けて…

「で、あちこちついばまれてこうなったと…」
あたしの身の上を聞きながら内臓をブラブラさせている女の子は由子というらしい
同じ高校だったことは話の中で知った
「何でもあたしのとこの学校、定期的に生徒を怪物に売ってるんだって。
で、そのかわいそうな犠牲があたしたちってわけ」

そういえば、入学したときにいたのに思い出せない生徒がいたような…
「攫われるとともに周囲の記憶をいじっちゃうみたい。
多分、他のクラスメートからはあなたはそんな存在になっているはずよ」
そういわれると妙に悲しくなった
友達もお父さんもお母さんもあたしのことはなかったことになっているのか…

ふいに涙が出そうになる
「あー、泣かない泣かない。あたしたちみんな似たような生い立ちなんだし。
それにしてもあたしは同じように攫われたのになんで手足だけだったんだろ
お腹なんかちょっとついばまれただけで捨てられちゃったし」

「だから言ってるじゃない。あなたのお肉不味そうなんだもん」
下から声が聞こえる
首だけの女の子がしゃべっている構図にはもうなにも感じない
なれちゃうもんだなぁ
「あたしはプロポーションもよかったからこうやって全身食べられたのよ
しかも、おいしく料理してもらってたのもおいしく食べられるのも
じっくりみせてもらってさ」
自慢げに語るけど、首だけになっているからどこかユーモラスだった
「ちょっと、あたしの胸だっても少し待ってくれたら大きくなったのに
さっさと食べちゃうほうが悪いってだけよ。あいつら女を見る目ないんだから」
必死で主張する由子がおかしくてついふき出してしまった。
「あら?あなたも、けっこう食べられてるじゃない。
ほら、この子くらい綺麗だとおいしく食べてもらえるんだって」

「そ…そんなことないわよ。あたしのときはたまたま調子が悪かっただけかもしれないし…
第一、あたしってホラ、足も手もスラリとしてたからそこは綺麗に食べてもらったんだって」
「どうだか?ガリガリだから出汁にでもされたんでしょ?」
「ちょ…ムカツク!あなただってたまたま首を切り離して料理されただけで
胴体はその辺に転がってるんじゃないの?ほら、あのロクに食べられてないのとか」
あたしを無視して応酬を続ける二人

「ああ、またあの二人始めたのね」
そういってくる娘が近づいてくる
あたしと同様に胴体が空洞になっていたが、残った手足や胴体は
キツネ色に焼けていて、網目状の焦げ目があった
「あたしは見てのとおりバーベキューにされたの。
みんな料理されても食べられても残った部分は動くし死ぬことも出来ないから
こうやってお互いの味について語り合うしかないのよ」
彼女の顔に覚えがあった
「…やっぱり忘れたのね。麻理よ。中学から一緒だった」
その名前で消えていた記憶が蘇った

「麻理?あなたも…」
そういって再び内臓の消えた麻理の体を見て口ごもった
いつのまにか記憶から消えていたのに、こんな形で再会するなんて…

「あなたの姿を見た途端、懐かしくなったのよ。
あたしなんか気がついたときには全裸で縛られたところに
変な調味料を塗られてから首だけ出して大きな釜に入れられたの
ゴウゴウ焼ける釜と焼かれる体…あの時はこれで死ぬんだとか思ったけど
なかなか死なないのよね」
結局焼かれた体を食べられることになったのだそうだが
「食べ終わった後、こんな状態になった体がお皿の上に残るのって
寂しくて仕方ないのよ。どうせなら全部食べて欲しかったくらい」
それはあたしにも覚えがあった。ようやく食べられるのをやめてくれたと思う反面
残された自分がどうしようもなく惨めになった瞬間だった

「あたしたち、どうなるの?」
「とりあえずここにいる限りは死なないみたいね。
こうやって残っちゃうとなかなか死のうという気にもならないし…
ここにいる限りいつまでも若いしね。でも…」

そういったところで妙な感覚を覚えた
「あの…あたし…お腹食べられてるはずですよね?でも…」
そういうと麻理は何かに気づいたようだ
「お腹空いてるのね?由子、あそこへ連れて行ってあげて」

言われた由子は胴体を器用に操りながら隅っこへ行く
「恵…あの首だけの子もときどきは連れて行って上げるんだ
あの子は自分で動けないからね」
あれで結構仲はいいんだなあの二人と思っているとついたらしい
そこには古い皿とその上に横たわった少女の残骸があった
「あたしたち、このままいるだけだと死ぬことはないんだけど
いつまでもいると間が持たなくなるし、生きてることに飽きちゃうこともあるのよ
実際あたしなんか日にちの感覚なくなって久しいし」
どこか安堵した表情を浮かべたまま皿の上に乗る少女を見る
「そんな娘はここに来てあたしたちに跡形もなく食べてもらうのよ
体がなくなればさすがに生きることは出来ないでしょうから」
皿の上の少女が消え入りそうな声で言う
「あたしを食べて…」
その少女の顔を見て、消えかけた記憶が蘇った
「お姉ちゃん?」
随分前に高校へ行ったまま記憶から消えた姉の姿だった
「あたしの体…食べて…あなたなら…」
心の中の理性が必死で止めようとする
しかし、湧き上がる感情が止まらない
おなかすいた…

あたしは満足そうな表情を浮かべる姉の残骸をハイエナのようにむさぼっていた
見る影もない残骸をあさる内臓のない女の子

これを怪物というのかな…

どこかぼやけた頭であたしはそんなことを考えた

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最終更新:2010年05月06日 02:58