「1・2・3・4・5・6・7・8!準備体操おわりっと!」
さんさんと照付ける日差しが強いこの季節、人々は生命の源・青い海に引き寄せられる。
「危ないから深いところへは行くなよ」
「ハーイ!」
ここにも一組、その恩恵に預からんとやって来た一行がいた。
「さ、行こう!」
水着をまとい、砂浜を駆ける少女の名はアリカ。
彼女は小学校の同級生の少年イッキと、彼の父親に連れられ、海水浴へとやってきていた。

「ははははは。わーい!」
「あはっ、冷たいっ。やああん、うふふ♪」
海に入ると、アリカとイッキはその場所がもたらす心地の良さに心弾ませ、
無邪気に戯れるのだった…。
後に二人の運命を大きく揺るがす出来事が、この楽園で起こるとも知らずに…。

水遊びも一段落付いたころ、イッキは浜を散歩していた。
そんな彼を見つけた地元の子供たちが、この海岸には危険が潜んでいるので帰るべきだと助言してきた。
何でもこにには"かいぶつ"が現れるとのことだ。

その後、海の家にてアリカと共に昼食をとっているとき、イッキはそれを話した。
「かいぶつですって?」
「さっき、地元のやつらが言ってた。」
眉をひそめるアリカ。
「…これは放っておけないわねぇ。」
「でも今時かいぶつなんか」
ただの噂だろうと笑うイッキ。しかし、
「火の無いところに煙は立たず。この世には未知の生物がまだまだいるのよ。」
「いい!?」
ここでアリカのいつもの癖が出る。
彼女の溢れんばかりの好奇心が刺激され、かいぶつの正体を暴こうというのだ。
「例えば、あの岩場の辺りなんか絶好の隠れ家よね。」
そうしてアリカは、乗り気でないイッキを半ば強引に引き連れ、
かいぶつ探索に乗り出したのだった。

それから数時間後、暑さに耐えかねたイッキはいったんアリカの手を逃れ
冷たい水に咽喉を鳴らしていた。
「うめぇ~。」
そのとき、不意に悲鳴がイッキの耳を打った。
「キャ~~~!!」
イッキは悲鳴のしたほうへ視線を向ける。
「あっちの岩場だ!」
アリカに何かあったのかも知れない。急いでそちらへ向かった。

蹲り震える少女の姿を見つけ、イッキは駆け寄る。
「どうした!アリカ!」
「かっ、か、かいぶつよ!」
「えっ?」
そのとき、二人の頭上に大きな影が差した。
岩の後ろから姿を現した、"それ"によって。
「ぐおおお…」
2メートルはあろうかという巨体、
鈍い光を放つ金色の瞳、
人も収められる様な大きな口をした、
それはこの世のものとは思えない、まさに"かいぶつ"だった…。

かいぶつの視線がぎょろっと二人に注がれる。
「あっ・・・あた、あた、あたしは、おいしくないわよっ!」
「そうだっ!アリカなんか食っても、お腹こわすだけだぞ~!」
「なによ~っ!」
「…ほう。お前たち、その娘のことを食べたことがあるのか?」
くぐもった声で、かいぶつから二人に質問が投げかけられた。
「はぁ?…な、なに言ってんだよ。」
「そうよ。そんなことあるわけ無いじゃない。」
「なら、なぜそんなことが言える?味も知らないくせに。」
「食わなくたって解るさ!アリカの身体なんか、ひっでえ味してるに決まってる!」
「ちょっと、あんたねえ…」
「きっとどんな食べ物より不味くって、どこを食ったって、泡噴いてひっくり返っちゃうぜ」
「ぐぬぬ…」
「こんなガサツで強情っ張りなヤツの肉なんて、味もガサツで強情で、美味いわけ無いっ!」
ブチン!
そのときアリカの中で何かの切れる音がした。

「あんったねえ!!黙って聞いてりゃ調子に乗ってぇずいぶん好き勝手言ってくれるじゃない!」
アリカは鬼のような剣幕でイッキへ講義を切り出した。
「…へ?」
「こんっなに清楚で可憐で可愛いあたしが、不味いはずないじゃない!!」
「誰が清楚で可憐だ…って言うかアリカ、これはかいぶつからお前を守るために…」
「あったまきた。そこまで言われちゃ黙ってらんないわ。
イッキ、あんたあたしのこと食べてみなさいよ!」
「…はああぁ!?」
キレてとんでもないことを言い出す友人に、口が開ききりになるイッキ。
そんなイッキをよそに、アリカは水着を脱ぎだし、生まれたままの姿へとなっていく。
そして顔を赤らめながらイッキに向けて言う。
「ほ、ほらっ。どこでも好きなトコ、食べなさいっ。」

「…△×※◎*~~!!」
状況に困惑し、イッキの意識はバーサークする。
「何よその顔は?……わかった!胸ね、胸が小さいのが、気に入らないんでしょう?!
もおお~これだから男ってヤツは…。」
もはや放心状態のイッキヘ彼女の声は届いていない…。
「それなら、コレはどお?!なかなか柔らかくって、もちもちしてて美味しそうなんじゃないっ?!!」
腰に手を当てて、イッキヘお尻を突き出してみせるアリカ。
と、そのとき「ほおお。見事なものだな。」
かいぶつが身を乗り出し、アリカの腰に実る丸く艶やかな桃を、食い入るように見つめてきた。

「…ちょっと、邪魔しないでくれる?今このバカにあたしの美味しさを教えてやるところなんだから。」
「しかし小僧はお前を食べる気なんぞ無さそうだぞ?」
イッキはどこか遠くを見つめ、呆けている。
「ムッカ~あたしがこんっなにはずかしい思いをしてるってのにぃコイツったらああぁ!」
怒りでアリカの頭にはどんどん血が上っていく。
「もおぉ!そういうつもりならっ…ちょっとかいぶつ!あなた…」
ぎょろりとした大きな目玉を、少女の瞳がキリリと睨む。
「なんだ?」
「このバカの代わりにあたしを食べて、その美味しさを証明しなさいっ!」
眉を吊り上げた少女の言葉に目を丸くするかいぶつ、だがその間も刹那…。
「くくく。良いだろう、こちらこそ願ってもない。
ではまずその柔らかくて、もちもちしているというお尻を頂こうか。」

かいぶつはアリカの体をくの字にたたむと、
お尻側を自分の口に向けハンバーガーをつかむように持ち上げた。
「あ、ねえ、食べるからにはちゃんと感想を言うのよ?」
「ああ、思う存分聞かせてやるとも。それでは、いただきまーす。」
おもむろに、その白桃のような少女の臀部を口にほうばる。
はむり。
「ひ!ねえ、やっぱりまだ心の準備が・・・」
そんな声などお構い無しに、鋭い牙はゆっくりと少女の腰へ沈んでいく。
「ヴっ!!ぎいいいいっ!!!」
アリカの肉を奪おうと、容赦なく身を切断しにかかる。
ぐしゃり。
「あ゛っえ゛ぇ…」
激痛のあまりアリカから声にならない声が発せられる。
同時にかいぶつの口から辺りに放たれる鮮血。それは傍らにいた少年の頬にもかかった。

「うーん…」
顔に触れた飛沫によって意識を取り戻すイッキ。顔をぬぐい、手に付いたそれを目視する。
「なんだこれ…なんか鉄くさい…。」
吹き付けて来たであろう元を確認しようと、上を見た…。
「んな・・・!!」
そのときイッキの目に映ったものは、二つ。
一つはとても美味しそうになにかを租借する巨大な生物。
そしてもう一つはその生物の手に収まり、腰を失っている友人の姿だった。
「ア…リカ?……ヴッ!」
直後、強烈な吐き気に襲われる。

「あ、イッキ…ねえ…聞いたでしょ?…今の…かいぶつの言葉…」
嘔吐する少年へ弱々しい声でささやくアリカ。
「あたしのお尻…とっても美味しいって…」
その口回りは、自らの吐血により点された紅が艶やかに滴る。
「ああ♪こんな美味しいものは今だかつて食べたことが無い。」
少女の身体が地獄を味っている一方で、かいぶつの口内には天国が広がってた。

一顆の少女の果実によって、最高の空間が作りだされているのだ。
果実の皮はもちもちとしていて、噛むごとに程良い弾力で心地の良さを与えてくれる。
中に詰まった果肉はとても柔らかくジューシーで、
とろとろな蜜がジュクジュクと惜しげもなく溢れだし、
甘美なハーモニーを口いっぱいに広げる。
さらに中央には、汚れを知らない青い果実ながらの絶妙な酸味が利き、
食した者をその味に魅了していく。

がぶがぶ!!むしゃむしゃ!!くちゃくちゃ!!ごっくん!!
「うまい!美味過ぎるぞ娘ぇ、食欲が抑えられない!!」
かいぶつはアリカの味を求め、ガツガツと彼女の肉を貪っっていく。
「うふふ…そう♪…どおイッキ、これであたしが美味しいってこと…分ったで…しょ?」
「アリカぁ、ぐす。そんな…アリカがぁ…死んじゃ…」
「何泣いてんのよ。…あたしは別に…あんたを…泣かせたかったわけ…じゃ…」
「ぐすん、アリカぁ、アリ…」
(え?…何イッキ、聞こえないよう。あたしはただ、あんたの鼻をあかしたかっただけ。
なのに…あれ?あたし、何してんだろ?なんか、凄く眠…)
ぐちゃりっ!

背中にものすごい重圧を感じたのを最後に、アリカの意識は飛んだ。
…そして少女は、その身から美味のみを主張する、一つの食べ物となった…。

―完―

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最終更新:2010年05月06日 03:43