「そらそらそらそらそらぁ!」
そう言って盗賊の少女は手に持ったデッキから次の『魔物』を召喚した。
何名かの『魔物使い』が暴れている『魔物』を倒すために奮闘しているが、
少女はまさに神速のごとく弱い『魔物』を召喚しては捨て駒的に突撃させるため、
そこはまさに、戦場と化していた。
少女の手には大きめのティアラが握られていた。
とある『魔物使い』達の宝具と言われるそれは、単純な装飾品の価値としても高いが、
それに込められている力も考えると、好事家や他の『魔物使い』に売れば今までの散財など
あっさり返却できる。それほどの価値を秘めている。自分で使って飽きれば売り捨てれば良い。
バラ色の未来を夢見ながら盗賊少女はそれを握った。

出口近くの回廊、少女が前の方に一体の『魔物』が現れた。
巨大な蟻のようなその『魔物』はまるで少女を威嚇するように口から謎の霧を発生させる。
「しつこいわねっ!」
そう言ってカードホルダーを取り出して次の魔物を召喚する。
魔物と一緒に突撃をする。そのまま敵の魔物にぶつけて自分は逃げる算段だ。
全速力で駆け抜けようとする。こちらの魔物はすでに蟻を捕まえている。
霧を大したことがないとたかをくくり、そのまま霧の中を駆け抜けようとする。
体が急にもつれた。突如として棒になったように動かなくなった。
「くっ!」
横を見ると、蟻と戦っている魔物が白く変色を始めている。
テカテカとした感触が盗賊の少女にそれが蝋だということを理解させた。
よく見ると自分の足も蝋になり始めていた。
この蟻に似た魔物が出す唾液には生物を蝋に変える力を持っており、
蝋に変えた生物をゆっくりと食べるのだ。
しゃり、と蟻の魔物が盗賊の魔物の蝋になった部分を食べ始める。
魔物のうめき声があがり、盗賊の娘は我先へと逃げ出した。
表面が蝋と化した足を気にしながら盗賊娘は出口まであとすこしの所まできていた。
罠は来た時に無いことを確認しているので注意するのは魔物だけだ。
足の速い魔物を先攻させて、かく乱するように命じている。
そう、栄光まであと少し、あと少しなのだ。
高鳴る心臓を押さえて走る。
唐突に熱い感触が足に感じる。そのまま無理に走ろうとして、前のめりに倒れる。
少女はそれが蝋だと理解したのはお尻を突き上げる形のまま無様に倒れた自分を理解した後である。
「何でこんな罠が……」
シュウー。怪しい音が近づき始める。
盗賊少女は理解した。これはあの魔物の罠だと。そしてこれは、先攻させた魔物の成れの果てだということを理解した。
お尻が嫌々するように
蟻は盗賊少女に近づくと、霧をかけ始め、たちまちのうちにお尻の動きが止まる。
服の上からは確認できないが、体が腰からお尻にかけて蝋に変化してしまったからだ。
「いやーーーーーーーーーーーーっ」
力の限り少女が叫ぶ。だが、少女には仲間がおらず、回りの敵も少女を許すつもりは無い。
お尻を覆ってる服を蟻が引きちぎり、蝋化した部分を嬉しそうに暗いついた。
シャリッシャリッシャリッと軽快な音と共に、たちまちのうちにお尻が食された。
「むぎっがっ」
蝋まみれの腕でなんとか逃げようとする盗賊少女だがいかんせん蝋が固まり始めたのが問題であった。
しかもこの蟻は止まってる餌(蝋化した足)よりも動いてる餌(盗賊少女)を喰らう事を優先した為、
盗賊少女にむかって噛み付くと、直接蝋化の霧を塗り始めた。
全身蝋化した少女だった物を容赦なく噛み砕き、蟻の魔物は少女が持っていたティアラと服を吐き出した。
残った足と蝋を食べつくすと、魔物はティアラを持ってマスターの元へと向かっていった。
只、少女の服と道具だけが少女の生きていた証としてそこに残されていた……。

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最終更新:2008年05月18日 15:32